いやまあ、合法サマナー、アレでも本田一家の『身内』なんだ。
基本的には死なない程度に配慮はされてるんだ。
ヤタガラスの方針にも『身内の子供死地に送るくらいならまず大人が命かけろや』ってあるんだ。
勝手に突っ込んでって死にかけるのは流石に保証外だけど。
なお、身内以外には大体自己責任ですって笑顔で言い切るのが本田一家である。
15歳とかでも普通に外様には厳しいのがヒルトリアクオリティ。
まあヤクザとメシアンのガキだし、報酬はちゃんと用意してるから……
『こちらニコ。校長室制圧したから天龍と龍田送るね……なんでデモニカ着たとはいえロートルが本職のアプリサマナーに勝てると思ったんだろう?』
『こちらクマ。エルを制圧した。ところで、なんかコイツ何でもするし情報話すから保護してくれっつってるんだがどうすりゃいい?』
『こちらポルノ。クソ雑魚ククバット撃破。正体は才羽ミドリ。成功報酬よかったからで雇われて、襲ってきた。楽勝だったから、エンヴィーおくる。アヤメの言うこと聞くよう言っておいたから』
『こちらはアクリス。フィーナを捕縛しました。合流します……フィーナさん。私は、マフィアとアメリカ人が共産主義と同じくらいには大嫌いです。旭川に戻ってくるなら覚えておいてくださいね?』
『こちらクラウディア。ツバキを制圧しました。斬撃のみでしたので、無傷です。合流します……事前情報通り、雷電真剣使われてたらもっと苦戦したとは思うのですが、少し残念ですね』
……本当に、この時が来たのね。
最初にアサヒカワの支配者、ホンダタロウの息子、ニコラウスから持ち掛けられた時には半信半疑だった計画が完遂されるときが来た。しかも予想より大分いい感じで。
私、レオナ・アマラールはここまでお膳立てをしてくれたニコラウスの言葉を、どこか温かく思いながら聞いていた。遠い日、赤い月の下で似たようなことがあった気がする。
『この戦いで、君らが負けると割と酷いことになるので、そのつもりで。相討ちなら別段、死んでもいいけど、アイツ逃がすのだけは辞めてね?』
その厳しい言葉すらも、心地よい。なにせ、合法都市で負けて茹った頭で性奴隷やってた頃と比べれば、冗談みたいにいい状況で『一族の悲願』を果たせるときが来たのだから。
もはや通いなれた道場。今のフランスでは考えられないほどの健康的な暮らしで体力は有り余っている。
アマラール家に代々伝わる、アロンダイト改もしっくり手に馴染む。鎧の方は、日々の食事と鍛錬で体重が増えた分だけちょっときついのはご愛敬だ。
道場の周りで、近づくものが無いように監視する、こちらについた人たち。合法都市での暮らしを忘れ、アサヒカワへの移住を望んだものたち。
かつては合法都市人だったものたちが、メシア教だったものたちが二ホンの普通の人間として、人間らしい暮らしが得られるという勧誘に希望を見出した者たち。
かくゆう私も、この戦いが終わってなお戦える状態で生き残っていたならば、アサヒカワの契約刑事として、生活安全局合法都市係『特別捜査班』への配属が決まっている。
次々と集まってくる、頼れる仲間たち。その中には、昼間打ち合ったあのノーラスと、ノーラス並みに強いという猫にしか見えないエンヴィーもいる。
ーーーああ、今日という日を迎えられたこと、主に感謝いたします。
思わず普段はやらない祈りを捧げて、宣言する。
「今回の戦いの指揮は私、レオナ・アマラールが取ります!全員、よろしくお願いします!」
歓声。そして、緊張。
「……では、始めさせていただきます」
じっと、正座で待っていたシズコが深々と頭を下げる。
白いキモノを着ている。なんでもこの国において、死んだ人間が着るキモノで……死を覚悟したものが纏う衣装だという。
「この度は、百夜堂の『在庫処分』にお集まりいただき、誠に感謝いたします」
その宣言をどこか不思議な気持ちで聞く。
そう、私が合法都市に赴いたのは、目の前の少女を殺すためだった。百年前、フランスに婿入りした曾祖父の悲願を果たすために。
ーーーいつか、アレを滅ぼすこと。それが退魔の剣を受け継ぎしの侍の末裔、
曾祖母のさらに父親は、それを福音と捉えた。アマラールになかった技術と知識が得られ、更に化物と揶揄されて隠れ住むしかなかった自分たちが、裏の世界とはいえ人の世に出られると。
アマラールは、元々は『竜の勇者』と言われる一族だった。魔に対抗するため、竜と契約し、竜の血を飲み、竜と人のあいの子となった一族だ。
はるか遠き古代の時代にはその剛力でもって悪魔退治の勇者として尊敬を集めていたアマラールは、長い長い歴史の中で洗練された剣術と銃に後れを取り、時代遅れとなり、迫害され、消えていった。
そして、技を持たぬがその人間よりはるかに強い力と肉体に、日本で長らく退魔の剣を磨いてきた雨龍一門は目をつけ、最後の隠れ里を見つけ出して契約を持ち掛けたのだ。
竜と人の混血児にしか使えないような、無双の剛剣を生み出してはみないか?人の身で扱える剣術では、あ奴は滅ぼせなかった。
北海道の深い闇に逃げ込まれ、見つけ出せぬ。魔をかぎ分ける竜の嗅覚を持ち、正面からあ奴ほどの闇を討てる無双の剛剣の使い手が必要なのだ。
そう語られた夢に、アマラールは魅せられたという。そして婚姻が結ばれ、異郷のサムライと竜の一族の子が産まれ、その子にしか扱えないような剣術が研究された。
曾祖父はアマラールの嫁に裏の退魔仕事の基礎を教え、剣術の開発と伝承の中で体中の腱と筋肉を壊して、剣士として死にながらも基礎を完成させたという。
そうして産まれたのが『アマラール流剛剣術』だ。人間が使えば身体の腱や筋肉が断裂するような無茶な動きをする剛剣。
常時少しずつ体力を、傷を回復することが出来る竜の再生力を持つアマラールの一族の者だけが真に扱える、竜と人の混血児専用の剣。
アマラール流剛剣術という武器を得たご先祖様が必死に尽力したお陰でアマラールは、かつてほどではないにせよ、欧州の裏の平和を守る一族として復権できた。
その力でもって、滅びかけていたアマラールは今、フランスの片田舎でシェルターまがいのことをして、人々を助ける役目を果たせるくらいには戻れたのだ。
そしてこの荒れ果てた今の時代にこそ、人々のために戦う竜の戦士の一族として善を為し、人の世に再び名を遺すのだと皆で世に繰り出した。
……欧州各地で行われた激しい戦いで何人ものアマラールの戦士が、世を去った。だが、それでも、確かに己が信じる正義のために戦ったのだと褒めたたえたい。
人々を守る盾となり、剣となり、悪魔と戦え。その刃は己が信じる正義を貫くために。
それは、百年前にかつての竜の勇者に戻る夢を見たアマラールの一族が望んできた生き方でもあるのだから。私もそうありたいと思う。
私は、そのアマラール流剛剣術を極めた天才と言われていた。一族の中では最強の証である『勇者』を名乗ることを認められたほどに。
アマラールとして、雨龍の悲願を果たす。それを為した時、アマラール流剛剣術は真の完成を見る。私が、アマラール
「……サルヴァーン!」
「ぎゃう!」
雨龍一門の流れを組むアマラール流剛剣術奥義の要。サルヴァーンをアロンダイト改に仕込まれた管から召喚する。小さいが、必要な技を覚えさせた、援護に特化した竜。
アマラールの剣は、竜との連携術でもある。アマラールの家では、7つになると竜の子供と契約させ、竹馬の友として育て、それとの連携を極めるのだ。
人竜一体。それこそがアマラールの奥義である。そう教えられ、私はサルヴァーンと寝食を共にして可愛がってきたのだ。
「準備、整いましたようなので、始めさせていただきます」
そう、河和の娘が宣言し、ゆっくりと、それを呼び出した。
「ちぇふぇい様、ちぇふぇい様、河和の娘が呼びました……おいでくださいませ」
河和の家が代々受け継いできた恐るべき『祟り神』が呼び出される。倒れ伏した河和の娘の膨大なマグネタイトを吸いながら、巨大な狐の幻影が現れる。
ーーー妖獣チェフェイ
二ホンを代表する大妖怪である狐の怪物によく似た大悪魔。それは『人の下劣な欲望を際限なく吸って無限に成長する貪欲の悪魔』であると言われる。
あらゆる物理攻撃を反射するため、倒すには強力な退魔の雷を剣に纏わせる『雷電真剣』と、その膨大な体力を削り切れるだけの『必殺の攻撃力』が求められるという大敵。
下劣な欲望が渦巻き続ける合法都市とあまりに相性が良すぎるがために『合法都市最強』となった祟り神。それを祀り、それを利用した呪詛を使うのが河和の家であった。
それは、合法都市で生きていくには必須のものであったが、アサヒカワで生きていくには不要なものであると目の前の、河和の若き当主は断じたという。
ーーーこんな、呪いしか振りまかないようなとんでもないお荷物抱えたまま、嫁ぐわけにもいきませんから。
そんな言葉と共に、今回の作戦が決まった。勇者による、悪魔討伐。負ければ少なくとも河和の娘は呪われ、魂が魔界に引きづりこまれて絶対に助からずに死ぬという。
そしておそらくはこの場にいる精鋭全員も道連れになる。それほどまでに危険な相手だ。絶対に負けられない戦いだ。
……人間との殺しあいと比べ、なんと心地よい任務か。それこそまるで、子供の頃に憧れた『勇者』そのものではないか!
「てなわけで、お嬢殺させんためにもきばりや!勇者様!……エンヴィー、マカラカーン頼むわ!」
河和の家に代々仕えてきたというネコマタの陰陽師が呪符を取り出しながら言う。
いつか来る、その日のために準備してきたという。
「私はレオナ。レオナ・アマラール……」
誇らしき気持ちと共に宣言する。遠い昔、どこかの、赤い月の下で行った宣言のように。
「……通りすがりの、ただの勇者よ!」
ーーーーKOOOOOOOOOOOOOOOOOOON!
私とチェフェイ。両方の吼え声と共に、戦いが始まった!
……そして、私は成し遂げた。勝ったことよりも、皆が私を信じて援護に徹してくれたこと。一人も犠牲者を出さなかったことがうれしかった。それでこそ、勇者だ。
「……ありがとうね。ノーラス」
激闘の果て、ひたすらに様々な援護し、最後は瀕死になった状態で『リカームドラ』の遠吠えと共に倒れて消失し、崩れかけた味方を救った今回のMVPを思う。
サルヴァーンともども思わず叫び、泣きそうになった。造魔だから、死んでも
……アサヒカワの勇者って飼ってる犬も勇者なんだなって思った。冗談みたいだけど。
「やっぱりノーラスが欲しいんですが、幾ら積んでも絶対譲ってもらえませんよね……とりあえず、サマナーになってドリー・カドモンを手に入れればいいんですかね!?」
「そうだとは思いますが、COMPはともかく、ドリー・カドモンは恐ろしく貴重らしいですよ……いっそクマ殿と結婚するとかでもいいのでは?重婚認められたら」
人が感動に浸ってるのに、いつの間にか色々アレなことになってたアクリスとクラウディアがなんか後ろでうるさかった。
まあ、あの奮闘ぶりを見たら
*
戦い終えた翌日は、全員アホみたいに疲れてたので、昼まで寝て、朝めし兼昼飯を終えてから、みんなで野バスに乗って移動することになった。
ちなみにこの野バス、かなりズタボロにされてたが、キラキラがディアラハン掛けたら一発で修復が終わった。
悪魔の車、ある意味すげえ便利だな。
「なんつうか、色々あったな……」
「つかれた……もっかい、ねる」
無事昨日からの疲れがどっと出て、オレとポルノは座席に深々と座ってだらけていた。
流石にやりはしなかったが、ポルノがオレの布団に潜り込んできて色々明かされたときにはマジでヤバかった。
お前、相変わらずお手軽に死にそうになるな?そう思った。
「そうだね……ま、ククバットがモモイ、もといミドリちゃんなのは驚いたけど、まあ、そんなに強くなかったみたいで、よかったわ」
元があんまり深く考えない質であるキラキラは、能天気にそんなことを言ってる。
……まあ、気づいてなさそうだからいいや。
流石にポルノ殺されてたらオレも容赦はしないが、なんだかんだ無事で済んだんだから、それでいい。
昨日の敵は今日の友。悪魔業界なんて、そんなもんだ。
そう思いながら、少し離れた座席を見る。
「やりましたねアクリス様。宗教法人の認可に加え、追加報酬まで得られるとは」
「ええ。言ってみるものですね。クラウディア。これで私もサマナーになれます」
『旭川東方正教協会の宗教法人認可』を報酬として今回の仕事を引き受けたアクメちゃんたちは、その手に『聖書型COMP』を手にして嬉しそうにしている。
確かファントムソサエティのダークサマナーの使うものとしては非常に古い型のCOMPでカポエラで戦いながら使っても壊れないくらい頑丈だとかジンが言ってた。
……まあ、死んだ死天の王(笑)が使ってたCOMPなわけだが、呪いとかはなかったみたいだし、中身ももう全部消してあるなら、ただの中古のCOMPということなんだろう。
死体からはぎ取った装備の再利用は、合法都市ではよくあることだった。
「うふふ……やりましたよ先生……シズコは真っ当に生きる道を切り開きました」
代々河和の家が仕えてた祟り神を無事倒して解放されたシズコはちょっと逝っちゃった目でなんかぶつぶつ呟いている。
「せやな。ようやったわ。やっぱ時代は脱法より合法やんな?普通にイベント企画と飲食店運営してた方が儲かるわ。
次は入有遁の視察やな……フィーナでも送り込んでみよか、ノリが絶対にあいそうやし」
酒飲まず、ちゃんと手綱取れるトップがいるなら有能なアヤメはもう次の仕事について色々考えていた。
『お祭り運営委員会を旭川市の優良指定業者に認可する』が報酬だったらしいシズコたちは、この仕事の成功を喜びつつ次の仕事に思いを馳せている。
どうも昨日と今日、それぞれに飯の時に話した『入有遁での出来事と思い出』に商売人としてなんか金のにおいを感じ取ったらしい。
春になったらバスツアーや!現地に支社設立や!交渉せな!とか言ってた。
「ふ、これでオレも正式に特捜班の班長だ……ふふふ、怖いか?」
「まあ、ぼちぼち頑張りましょう?勇者刑事なんてイロモノいる部署ですもの、絶対運営大変よ?」
『今度旭川市警に出来る特捜班の班長と副班長』という契約刑事としては異例の出世を報酬としたバカと龍田は、開けた未来に喜んでいた。
ニコ曰く、勇者さん以外の他のメンバーが洗脳が解けた百鬼夜行最強の侠客だったとかいうツバキと、土下座してこっちについた完全造魔エルらしいのは黙っておく。
……まあ、身内からこっそりリークされた情報、よそに漏らすのは、ね?
大変だと思うが、頑張って欲しい。
「……あとは、アイツらか」
今回の功績で無事に『卒業』が決まったザッパとコタローのことを思う。あいつらは、三日後に出獄、もとい卒業することになってる。
その関係で色々と旭川のことを聞きたがっていた。
ので、ミナミのジェイルハウスでなら仕事があることと、誰か一人は旭川東方正教協会に入会した方が良いことと、地底人の巣には出来るだけ近づくなとは言っておいた。
最初に地底人の巣に行くと、絶対あいつ等『3人』あそこに馴染んで住み着きそうだからな。もっと他にいい場所あるのを知っておいて欲しい。
「……クマ。後悔してない?追加報酬のこと」
ポルノに尋ねられ、苦笑する。
今回の頑張りで得られた追加報酬。なんでもいいって言われたので、オレたちはそれを選んだ。
才羽ミドリの無罪放免と、卒業許可。
まあ追加報酬なんてあぶく銭みたいなもんだ。それならパーッと、使っちまった方が良い。
それにナユタにも一人は必要になるはずだ。慎重で堅実な『合法サマナー』の仲間が。
(オレらはもう、一緒にはいられないからな)
本田一家とオレたちは関わりすぎた。昔みたいにつるむのは、難しい。
精々たまに会って、情報交換とかバカ話するくらいだろう。
生死を共にする仲間ではなく、困ったことがあったらいつでも助けるくらいの友人関係。それくらいの仲になる。
……出会いがあり、別れがあり、そしてまた出会う。世の中それの繰り返しだ。
過ぎたことを考える暇があったら、今をどうするか、未来にどうしたいか。それを考えて生きてた方が絶対に人生楽しいぞ?
オレのオヤジも、そう言っていた。
というわけで次のエンディングフェイズが終わったら最終シナリオに入ります。