思えばカラジョルジョに全員が揃うのは久方ぶりな気がする。
「同志クマ。話したいこととはなんだね?」
「貴方が急に緊急招集を掛けるほどの事態だから、きっと大変なことに違いないわね」
「うん。そこのところはボクも信頼している。君ほどの男が、ボクらに助けを求めたんだ。非常事態なんだろう?」
「ま、クマだもんね。自分で何とか出来るなら、何とかしてるようん」
「うん、合法サマナーは、無理はしない」
「それが出来るからこそのクマ大帝閣下、我が主君です」
なんかこう、思ったより信頼重いな?
そんなことを思いながら、オレは事情を説明した。
オレだけでは手に負えないので、本田一家の力を貸してほしいと。
「……同志トルバカインから見た僕って、こんな感じだったりしたのかな……?なんかこう、有能過ぎて怖いんだけど。
むしろあの頃の僕を完全に信頼して重用してた同志トルバカインのがよっぽど怪物だよ。どう考えてもあの人、覚醒はしてなかったはずなんだけど」
「……いや、アンタ。あの日、士官学校で倒れた時から大分これくらいにはその、アレな感じだったわよ?」
「そうなの!?その、上手いこと隠せてたと思ってたんだけど」
「違和感はみんなずっと感じてたわよ?みんな、最後の方は多分確信まで行ってたんじゃないかしら?アメリカで事情を聞かされてむしろ納得したもの。そりゃあそうだって」
ダードが何故か一人称が『僕』になり、カーナが慰めなんだか貶してんだか分からないことを言っていた。
「ちょっと待ってくれ……その、落ち着きたい。えっと、その『列強による経済侵略』を恐れた地底人の巣で暴動……?
いや、理屈は分かるんだけど……地底人の感性が全く理解できない!?」
ニコがとうとう頭を抱えた。
キラキラとポルノ?オレら集めた時点で仕事は終わりだとばかりにくつろいでいる。参加する気なさそうだ。
「いや、十分にあり得る話だな。考えてみればランドソルは日本よりむしろヒルトリアに近い」
「そうね。あの時の暴動と同じだわ」
知っているのかダード?
「父さん、あの時って?」
ニコが不思議そうに尋ねる。
「ああ、ヒルトリア時代にあった暴動だ。誰もが悪意を持ち、それ故に民族も主義主張も越えて利益というアメを求めて一つに結託していたものが設備の老朽化による偶然の事故で崩れ去った」
「酷い騒ぎになったわ。あの時、一人の偉大なる政治家と、同志ニコラオス=バラフを失ったのよ……」
……そうか。ようやく気付いた。ヒルトリアは崩壊した。そして、ダードも、カーナも、サーシャも、ニコの元ネタも、そしてジンもその崩壊寸前のヒルトリアにいた。
……そしてこの目の前の男が、その仲間たちとヒルトリアの崩壊を防ごうとしなかったはずがない。それでも失敗したんだろう、と。
「だが、今回は早期のうちに芽を摘むことが出来そうだ。しかも非常に穏便な方法で、だ」
ダードが宣言する。この誰よりも旭川を守ることに熱心で、そのために自らの恥を恐れない『最強の道化師』は。
ーーー知ってるか?みんなを笑わせる道化ってのは、滅茶苦茶頭いい奴じゃないとできないんだぜ?オレの親友は、最強の道化師だった。
いつだったか、ジンがそんなことを言っていた。そして分かる。その親友は、きっと目の前の男だろうと。
「……ふふふ。思い出すな。転がるような偶然からスロニアTOの反乱を未然に防いだあの時のことを、あの時は必死だった」
「ええ。あの時よね。ダードが一番気持ち悪かったの。まあ、アレのお陰で政治将校になれたんだから、文句はないけどね」
「え?」「え?」
またダードが固まった。なんかショックを受けてる。
「あーその、なんだ。同志、否、我ら本田一家の『仕事の時間』だ」
続いて、宣言。
「……各員、状況に応じ臨機応変に対応せよ。全員がやりたいようにやり給え。ランドソルの暴動が止められるなら、手段は選ばん。
この際、非合法でもいいぞ。なにせ、この旭川では『俺が法律』だ。限度はあるが、人死にの一つや二つ、多少の無茶はもみ消して見せる。そのための、旭川ヤタガラス支部長だからな。
ただし失敗したと思ったら連絡を寄越したまえ。この本田一家の家業*1の力、見せてやろう」
そして、話は終わりだとばかりに立ち上がった本田一家最強の
「ちょっと待ってくれ。具体的な指示は?」
「無論、無しだ。お前らが勝手に考えて動け。僕も、僕なりに勝手に動くとしよう」
無しなのかよ!?
……ならしゃあねえ。本田一家の統領直々のご命令だし、オレも好きにやらせてもらうとしよう。
ケツモチはダードがしてくれるってんなら、ちょっとくらい無茶してもどうとでもなる……ならば、恐れるものは、何もない。
「一つ教えておいてやろう。家族というものの強みはな」
そんなオレの顔を見て、ダードもまた、不敵に笑う。
「好きあうにせよ嫌いあうにせよ、お互いが、お互いの考えていることが大体分かるということだ」
そう、ここにいるのは家賊。全員が『利益と情で結ばれた最強の共犯者ども』なのだ。
*
そして、ついに動くときが来た。キラキラと共に南に向かったオレは……
「頼む!二人の力を貸してくれ!」
このミナミでも有数の組織二つの長に土下座した。
「もう、そう言うことならもっと早く言ってくださいよ♡」
このミナミのイベントの大半に関わる進行組織、お祭り運営委員会の長シズコは快諾してくれた。
まあ、恩もあるからだろう。恩ってのは売り買いするものだ。片方から与えるだけ、奪うだけだとあっという間に尽きるからな。
ここは普段から何度か恩を売っておいたお陰という奴だ。ちょろいな。
「あ、そうだ。せっかくなので、バレンタインに渡そうと思ってたプレゼント差し上げますね」
そう思ってると、シズコからすっとそれが差し出される。
いい香りが漂う、香り袋だ。
「旦那様にぴったりの香りをシズコが調香してみたんです。グッドステータスって程ではないですが、何かあっても冷静になりやすいはずです。
ずっと身につけててくださいね?香りが弱くなったら、会いに来てくれればまた新しい香に入れ替えます♡」
「あ、ああ悪いな。ありがたい。貰っておく……いい香りだ。オレは好きだ。本当にありがとうな」
すっと漂って来る、ミント系なのか、鋭くて爽やかな香り。オレにはかっこよすぎる気がするが、ありがたいのは確かだ。
「……んもう。すぐにそう言うこと言うんだから♡」
シズコも喜んでいるようだ。なんかアクメちゃんとキラキラは顔しかめてるけど。
「……クマさん。依頼をお受けするにあたって、お願いしたいことがあります」
このミナミで最も良心的なカルト教団という異名を持つ旭川東方正教協会の長。さほど親しくはないアクメちゃんは冷静に条件を出してきた。
「まずは、こちらをどうぞ。差し上げます」
そう言うとアクメちゃんはすっと懐から、ちょっと豪華な東方正教のロザリオを取り出した。
「東方正教に正式に入信してください。肌身離さずにこのロザリオを持ち歩いてください。私自身が全力で祝福を込めた逸品ですので。
色々触りもあるでしょうし、目立つところにつけろとは言いませんが、必ず、です」
「それでいいのか?」
「はい。その……く、クマさんが入信している。信者獲得にはその事実が大切なのです」
……なるほどな。確かに旭川東方正教としては、街の有力者、本田一家の一人が入信しているというのは強力な『ウリ』になるって理屈は分かる。
なんか最近、悪魔業界関係ねえ普通の人まで入信してたりするらしい。
普段はどこに行くにも例のキンキラな制服姿(日本ではどこに行っても問題ない最強のフォーマルな衣装らしい)のアクメちゃんが可愛いからとかで。
そういう人には悪魔業界特有の高すぎるアイテムを売らず、効果がガチで気休め程度だけど未覚醒の人間にも効く安いアイテムやロザリオを売ったり、日本語訳した東方正教の聖書売ってたりもするらしい。
そういう人向けに、年1回だけ蘇生の代わりに無料で悪魔祓いサービスもしてるとかいう……たまにそれで覚醒果たしちまう奴が出てくるせいで、最近は札幌にも信者がいるとは聞く。
わざわざ日曜日の朝に旭川に着てホムンクルスの抽選販売参加せずに説法だけ聞いてくガチ勢も沸いてるらしい。
まあ、あれだ。いわばオレは宣伝パンダって奴だな!せっかくだし、目立つところにかけておくか!
「ああ、分かった。オレは正直、東方正教の信者だなんて言えねえけど、アクメちゃんからの初めてのプレゼントだ。大事にする」
「……ええ。それだけあれば十分です」
ちょっと顔を赤くしながら、アクメちゃんが優しげに言う。なんかシズコとキラキラは顔をしかめてるけど。
「しかしそうするとダードに無理言って用意してもらったこのドリー・カドモンは「それはください。絶対に下さい!」
……あ、そこは普通に持ってかれるのね。
オレはドリー・カドモンをアクメちゃんに渡した。割とグロ目のデザインのそれにアクメちゃんは躊躇なく頬ずりしていて、ちょっとだけ、引いた。
いやーうまく行って良かったなイテテテテ!?
二人と別れたあと、キラキラはオレの尻を全力でつねって来た。なんでだ!?
「……4年後。アタシが大学出たら結婚式、旭川でめっちゃ盛大にやるから。関係者全部呼んで全力で見せつけるから、いいね?」
「ア、ハイ」
拒否したら明日にはオホーツクに沈められる勢いだったので、同意せざるを得なかった。
「よし、とりあえず今日は官庁街に戻って、婚約指輪を買おうか?もちろんお揃いだから。いいね?」
「ア、ハイ」
拒否したら明日にはオホーツクに沈められる勢いだったので、同意せざるを得なかった。
*
とりあえず手段選ばなくていいらしい。ならばわたしはこれをやる。
「と、いうわけだから、ナユタに本田一家からの依頼。ランドソルのやべー奴、片っ端からつぶす。まあ、できるだけぶっ殺さなければ何してもいいから。ここの
できるだけぶっ殺さないのは
「……つっても、オレらじゃランドソルの襲っていいターゲット分からねえぞ?」
「それについてはもんだいない。ビカラ」
わたしの呼びかけに、隠密モード入ったビカラがすっと姿を現す。
「「じょ、情報屋のチューさん!?*2」」
チューさん?
「おいおいおい。チューさんお前の知り合いかよ?」
「てか正体ビカラだったの!?」
「いえ、違いますよ?」
ザッパとコタローの言葉に首を振る。
「チューさんは、組織です。ランドソルでもう探索しないからってクソ宮廷どもから追い出されたニンジャが勝手に集まって作った諜報機関。この旭川の治安を守るために勝手に動いてます」
お、思ったよりやべー奴だった。
「こ、こえー」
「バラすと、死ぬな」
うん、多分そう。地底ニンジャ、基本ガチの奴しかいねーから。*3
「……で、それを私に聞かせてもよかったのか?」
ここまで黙ってた菊千代が冷静に問う。
「大丈夫じゃない?だって菊千代、もうナユタじゃん?」
それにダメそうなら隣のミドリが勝手に排除するよ?あいつ、私と同じくらいガチだよ?
「……ふふふ。いいな。いい。普段はただのデビルバスターチームであるナユタ。だが裏では街の治安を守る
なんか変な称号増やすなや。しかも明らかにパクリくせーの。
まあ、ノリノリならそれでよし。ノリは、大事だから。
「そう言うことなら、わたしにも考えがある。ちょうど家に京都の本家筋が保護してくれと土下座しながら貢いできた、呪力による認識阻害付きの狐の仮面がある。
ふふ、師匠とお揃いだ。素晴らしい……謎のヴィラン『キクチヨ』だ」
あ、なんかトリップしてる。そもそもお前の師匠って誰だよ?あと少しはひねれや。
まあ、どうせわざわざ名乗るほど馬鹿じゃねーだろうし、それはさておき。
「ミドリ、お前どーする?」
「やる」
即答だった。
「……なんで?もうからないよ?面倒かもだよ?わたしは、クマのためにやるけど」
「私の人殺しの……お母さんとお姉ちゃんから受け継いだ『殺戮の夜』の技。誰かを助けるために使えるならばさ、それってすごく格好いいと思わない?」
それは、確かに。
「じゃあ、ミドリは怪盗ネーム『殺戮の夜』で」
「だね」
ククバット仮面付けた、正義のククバット。気に入らない奴だけ殺さねえ程度に痛めつけるやべー奴。
多分、そんな感じ。
「ポルノは?」
「もう、考えてある」
普段は着ないようなゴスロリドレスに、最近もっぱら愛用してるガスマスクつける。黒猫エンヴィー抱いた、いかにもヤバくて怖そうな魔女。
「魔女アルクノア。それが、わたしの
さあつぎはザッパとコタローの怪盗ネーム決定。頑張ろう。
ちなみにザッパはヒーローっぽいヘルメットで『天体戦士サンレッド』、コタローはグロテスクマスクつけて自家製の火炎放射器使って『テッド・ブロイラー』名乗ることにしたらしい。わけわかんねえ。
*
結局のところ、ボクはどこまで行っても卑怯者らしい。
それは高校時代、嫌って程分かった。ヒルトリア人に育てられたのに日本人にしかなれなかったボクは、根が臆病者で人を利用することしか考えてない悪党だった。
愛と勇気が致命的に足りてないから、ただただ楽に勝つことばかり考えていたんだ。
あの日、聖華学園の退魔生徒会で後方支援担当だったウイさん以外が全滅して、副会長に就任しつつも泣いてた日に『使える』と思って偶然装って近づかなかったら、
今でもただの誰かを不幸にすることを何とも思わない卑怯者で、どっかで後ろから刺されて死んでたと思う。
ウイさんは、僕に愛と勇気を教えてくれた。たとえ戦う力なんてなくても、誰かの役に立てると教えてくれた。そして、誰かを守るためなら、どんな臆病者にも愛と勇気が宿ると教えてくれた。
そして、同じように悩んでいる女の子を助けることくらいは、卑怯者のボクでもできると、そして人の縁を駆使すれば学園の役に立つことが出来ると僕は学んだ。
それが実を結んで、ボクはついに合法都市の闇と呼ばれるほどの大悪魔を倒したのだ。ボク以外の手で。
……あの日、ボクが騙してきた女の子たちに逆レされながら、言われた。
臆病で、卑怯者で、それでも誰よりも優しいボクが好きだと。
ああ、ならばボクは卑怯者を貫こう。誰よりも人を騙し、利用することばかり考えるクズになろう。
許してくれ。代わりに悪いようにはしないから。
「ああ、ウイさん?ちょっと困ったことになったんだ」
ボクがいつものようにウイさんに電話すると、早速知恵を借りることが出来た。代わりにちょっとウイさんの一族全員、今度一度、旭川に呼ぶことになりそうだけど、まあしょうがない。
一度ご挨拶したいって。
「ああフブキ?ちょっと特捜の伝手を使いたいんだ」
フブキは快諾してくれた。ちょっとフブキの一族全員を一度、旭川に呼ぶことになりそうだけど、まあしょうがない。あと、特捜連中とは絶対に飲みに行くなって釘を刺された。
お持ち帰りされそうだから、と。いやまさかそんな、ねえ?
……それから、ルナールと秋雲にもちょっと一族全員を呼ぶことを条件に『愚弟』に対して力を貸してもらえることになった。
ああ、そういえばムムルちゃんとも話をしないと。あの時一緒に抱いたんだ。男としてけじめをつける。
そう思い、電話をする。
「に、ニコ様!?……はい。分かりましたのです。少しだけお色直しを待って欲しいのです」
「うん。わかった。じゃあ2時間後に」
そう約束をして、出かける準備をする。手土産は、何が良いだろうか?
……その時はまだ、あんなことになるなんて思ってもみなかったんです。悪魔人間、見た目子供でも力が強い。あと、腰が痛い。
さあ、オープンディールと行こうか!今回はどこまでもコメディだぞ。ラストバトル以外。