サタスペ的成長
クマ……恋愛が5にあがった。情報屋を獲得。
ポルノ……戦闘が4に上がった。殺し屋を獲得。
タナ……殺し屋を獲得。
ニコ……生活が4に上がった。用心棒を獲得。
えー、大体『前フリ』は終わりました。
ここからが『真のサタスペ』になります。
きっかけは、初仕事を終えて一週間が過ぎた頃の金曜日の朝のことだった。
「知ってはいると思うが今週末、明日からの土曜日曜の二日間、旭川公園で縁日が開かれる」
全員が揃った食卓で、ダードがそんな宣言をした。
「いや知らんが」「しらない」
オレとポルノがほぼ同時に突っ込む。
言われてみるとここんとこ毎日通ってるジェイルハウスにそんなポスターがあったようななかったようなという感じだ。
確か『縁日』ってのは『百鬼夜行』が定期的に開催してる『祭り』だった気がする。行ったことはない。
百鬼夜行は土着の『カミ』を祀る連中が多いから、その辺サボると『祟る』ってジンも言っていた。
ちなみに無名地区は毎日どっかで誰かが祭りやってた。生贄とか処刑とか普通にやるやつで大体死人が出る。
「……む?旭川タイムスには先週から毎日、縁日開催の広告を載せていたはずだが」
「あのね父さん、今の子、普通は新聞なんて読まないよ?」
不思議そうにするダードに、タナがツッコミを入れる。
……そういえばダード、毎日なんか新聞読んでたな。しかも複数。
ちなみにオレもポルノも読んでないというか、そもそも読もうと思ったことがない。
……無名地区にはどこが作ったのかも定かじゃないようなクソみたいなゴシップ紙しかなかったので、読むだけ時間の無駄だったし。
「……バカな。今どきの若いものは新聞も雑誌も読まないのか!?少なくとも四コマ漫画とTV欄だけは見るものではなかったのか!?」
え?それ驚くところなの!?
驚愕の表情をしたダードに、逆に驚いた。
「今は全部ネットだね。TVも録画か配信サイトかなあ。リアタイに拘る人はいるけどね」
ニコからもしれっとツッコミが入る。
「……ダード。ちょっと今の言い方はおじさん臭いわよ?」
見かねたらしいカーナからもツッコミが入った。
ダード、まさかの総ツッコミである。
「そうか……今はもうパソコン通信が主流なのか……そうか。俺も歳をとるわけだな」
ちょっと寂し気にダードが言う。なんかジンを思い出す表情だ。
「父さん。今はインターネットだよ。パソコン通信とか言わない」
ニコがにこやかに追い打ちをかける。
「え~っと、とりあえず話し戻そう!えっと、縁日だよね?今年も家賊みんなで『カラジョルジョ』名義で参加するんだよね!?ね!?」
いよいよ流れがおかしくなりそうだと感じたらしいタナが、強引に話を戻した。
「まあ、そうなるわね……で、クマとポルノにも手伝ってもらうわけ?」
それに乗るようにカーナが尋ねると、気を取り直したように咳をひとつして、ダードが言う。
「う、うむ。それについてだが、二人とタナに『依頼』の話がある」
依頼。その一言で、オレたちは居住まいを正した。
ダードからの依頼。それは信頼性が高いし報酬もよいが、難易度の高い依頼の可能性が高い。
真面目に聞かねば、危険だと判断した。
「分かっているとは思うが、縁日に関する依頼だ」
黙って聞く。ダードは依頼で騙しを入れるような奴じゃない。誠実な依頼人だ。
「今回の縁日。俺が無理やりねじ込んだテナントが一つある。それを手伝ってほしい」
……少しきな臭くなってきた。そもそも縁日で手伝いが『依頼』になる時点できな臭いんだが。
「……で、テナントってのはなんだ?何かを売るのか?」
「ドラッグ?人間の奴隷?それとも特殊な銃弾とか?」
とりあえずポルノが合法都市でありそうなものを上げてみた。多分違うと思う。
この旭川は合法都市より大分マシなのは、流石に理解していた。
「うむ。店の分類としては飲食店になる。主に甘味を売る店になるな」
なるほど、売るものは普通。つまり。
「……出店者は?」
そこが『厄ネタ』だろう。
正解だったらしく、ダードがニヤリと笑って言った。
「網走日本語学校『百鬼夜行組』の代表者だ」
それで大体わかった。旭川で情報収集地道にしてた甲斐があったというものだ。
網走日本語学校。それは合法都市の連中に日本語と『常識』を叩き込むための『収容所』の名前であり。
「聞いた話だが合法都市では『百夜堂』とかいう店を経営してた一族らしい」
百夜堂。それは合法都市でもそこそこ名の知れた百鬼夜行の穏健派である『名家』が経営する店だった。
……なるほど、それは確かに依頼に値する『厄介な仕事』であった。
*
結局、依頼は受けることにした。失敗しても『命の危険』はなさそうだったので。
(まあどうせなら成功させたいところだけどな)
それに思えば、合法都市の人間と会うのも久しぶりだ。
……いや、あの『ブラックアドレス』とウラーどもも恐らくは合法都市の人間だったんだろうが。
というわけでオレたちはその代表者が泊っているという旅館に向かっていた。
「ついでに顔つなぎしてこいとか言われたけど、体よく足替わりに使われた気がする」
ニコの運転するハイエースに乗って。
「まあ、コネと金はあるだけあった方がいいって言うしな」
「まあそれはそうだけど……実はもう何度か網走に行って顔合わせは済んでるし、なんなら『商品の相談』にも乗ったんだよね」
……もう知り合いなのか。
そういやニコはもう、ダードの手伝いを任されてるんだった。
……そうなると、マジで足替わりか?
ちょっと悩む。あの人、結構便利に身内使うし。
「なんでアタシまで今年はクマたちと組むことになったんだろ?」
「さあ?そういうのは、わかんない」
後ろでは、ポルノとタナがそんな話をしている。そういやタナはまだほとんど家の手伝いを任されていないな。
なんなら来年にはトーキョーに行くとか言ってたなそういえば。
トーキョーは知ってる。オレとポルノがガキの頃住んでたはずの街だ。
なんかこう、噂では『旭川とは比べ物にならんほどのクソヤバい場所』とは聞く。
人も悪魔もヤバさも桁が違うらしい。詳しくは旭川では分からなかった。ネットは未だによく分からん。
ジンもパソコンはあんまり得意じゃなったし。
「ねえ。百鬼夜行について、なんか知ってる?」
そんなことを考えているとタナがそんなことを尋ねてくる。
そういえばこの前、コンビナートについて聞かれたときに答えたから、そっち方面の情報を求められてる感じか。
そんなことを考えながら、オレは百鬼夜行について簡単に説明する。
「確か、土着のヤクザとカルトが集まって出来た、合法都市の古参……だったか?確か、明治や大正に北海道に逃げてきた連中の子孫が殆どだとかどうとかで、オンミョージとかいう連中がいる」
ジンも日本独特の連中なせいか、あんまり詳しくはなかった。オンミョージとかいうカルト系の連中がそこそこいるとは聞いた。
「ヤクザは剣術の使い手が多い。代わりに銃はいまいち素人。あとクスリキメて襲って来るバーサーカー多め。あと変な魔法とかバッステ使いが結構いる」
逆にポルノはすらすらと答える。ポルノもどっちかというと白兵戦のが得意だからか、アイツらや『中華街』の連中と斬りあった経験が多い。
ちなみにオレの担当はもっぱらコンビナートだった。アイツら一度もめるとしつこいのだ。
「それと悪魔人間というか、獣人が多い印象がある。それとネコマタとかイヌガミとかクダギツネとかテングとかいう悪魔の使い手が多いんだよな」
ジン曰く、『ヨーカイ』に分類される悪魔と仲がいいらしい。ヨーカイなんて分類は悪魔の分類にはないが、主に日本神話系列らしい。
そういえばポルノの愛用してるにゃん2クローはネコマタで作るんだったなと思い出すくらいだ。もう作ったのが数年前、ジンが生きてた頃だから曖昧だ。
「はえー。やっぱり合法都市には詳しいよねクマとポルノって。そっか。極道系と陰陽師と妖怪メインか……それで『百鬼夜行』なのね」
簡単な説明だったが、タナには納得してもらえたらしい。よかったよかった。
……日本人だとそれで百鬼夜行の意味が分かるんだな。
「命に係わる情報だからな。嫌でも詳しくなる」
「知らんと死ぬ。よくあることよくあること」
まあ、合法都市で生きてこうと思えば、これくらいは常識レベルだ。
ちなみにオレでもオレの住んでた無名地区については説明できない。系統多すぎるし正体が謎すぎる連中も多すぎる。
なんか最近では『ココロノカイトウダン』とかいう合法都市の連中が誰も知らない謎の『戦隊』が居たとかいう胡乱な噂もあったほどだ。
お返しとばかりに、前から気になっていたことを質問する。
「なあ、ヒルトリアって何だったか知ってるか?」
「あー、アタシはあんま知らない。父さんと母さんの故郷ってくらいしか」
あいにくとタナはあんまり詳しくなかった。まあ、謎は謎のままか。
「知ってるよ。調べたからね。日本にもあんまり資料残ってなくて結構大変だったけど」
そう思っていたらニコから答えが返ってきた。そういえばニコには聞いたことがなかった。
「そうか。教えてくれ」
オレの言葉に、ニコは頷いてヒルトリアについて教えてくれる。
「ヒルトリアは『ヒルトリア社会主義連邦共和国』が正式名称で、5つの共和国、4つの自治区、3つの独立行政都市、2つの連邦直轄都市、1つの独立首都行政区からなる共産主義国家。
『形式においては民族的、内実においては社会主義的』の理念によって統一された連邦国家『だった』ってさ」
……なるほど分からん。分からんがなんかこうアレな国だったのは分かった。多分、合法都市並にクソな国だったんだろうな。
……うん?
「だった?」「どういうこと?」
オレとポルノが同時に尋ねる。それに対し、ニコは笑みを崩さずに言った。
「うん。1990年くらいに民主主義に本格移行した結果、国家体制が崩壊してね。その後はずっと民族紛争やってる。もう30年くらい紛争地帯になってるらしいね」
なるほど……ヤバくね?
「じゃあヒルトリア人ってのは」
「父さんと母さん曰く『5つの民族全部の総称』だったってさ。なんか高級将校育成する仕官学校通ってたとか言ってたかな。それ以上は知らないって言うか、教えてくれないんだよね」
そうか。それでか……
オレはあの日、カーナから聞いた答えにたどり着くまで20年以上かかった、という意味を少し理解できた気がした。
「じゃあ、ニコとタナもヒルトリア人?」
ポルノの疑問に対し、二人は首を傾げた。
「ボクとタナは『ヒルトリア系日本人』ってことになるのかな。産まれも育ちも旭川の道産子だし」
「うん。ヒルトリアって言われてもなんかこうピンとこないもんね。そんな国があったとか、学校でも習わなかったし」
そうか。それで合法都市の連中と同じ感じがするんだな。
確かに言われてみればダードとカーナはちょっと違う気がする。もっとこう『コンビナート臭さ』があり……ジンと同じ類の人間な気がする。
(ってことはジンも士官学校の出だったのか……?)
士官学校。ブラックアドレス連中でも特に『ヤバい』のはそこに行ってた奴が多いとジンに聞いたことがある。
思えばジンがそういうのに詳しかったのも、ダードやカーナと同期の士官学校に行ってたからと考えれば分かる。
(じゃあなんでジンは日本でダークサマナーなんてやってたんだ……?)
一つ謎が解けると、次の謎が産まれる。
……ジンについて詳しく知った時、オレはオレが何者なのかにたどり着ける気がした。
*
それからたわいない話をしつつ、目的地に到着した。
「ここかあ」
「いかにも百鬼夜行風だな」
百鬼夜行風……すなわち和風の旅館。
そこに今回の手伝いの主がいる。
そう思い、一応身だしなみを整え、入る。
「こちらでございます」
話が通っているらしく、部屋まで案内される。
「よ、ようこそおいでくださいました!」
「本日はご足労戴き、ほんまにありがとうございます」
動きやすいよう改造された着物……いわゆる百鬼夜行服に身を包んだ女に出迎えられる。
「お初の方もいらっしゃるようなので、改めてご挨拶申し上げます!百夜堂の看板娘『河和シズコ』です!」
少し緊張した様子で、ちょっと特徴的な声で挨拶したのは片方はポルノと同じくらいのガキ……子供だった。
仕立てがいい百鬼夜行服に、傍らに置いた、よく手入れされたデコがすごいショットガン。
いかにも百鬼夜行の名家のお嬢さんって感じだ。
「そんでウチが大正の御世から河和家に仕えとる陰陽師で『アヤメ』言います。よろしゅうに」
その傍らには、百鬼夜行服着てて、二つに割れた尻尾とネコミミが生えた護衛らしき女。
名乗りからするとオンミョージらしい。
「あ、どうも。クマです」
「ポルノ」
「本田ターチヤナでございます」
その流れに乗って、オレたちも挨拶をする。
なんかこう、ギャグっぽくなったぞ?名前が悪いせいか。
「く、クマ……?ポルノ……?」
「ターチヤナお嬢様はともかく、なんやねんコイツら……」
うん。オレもそう思う。クマもポルノも日本人の名前じゃねえもんな。
大体おっさん、もといジンが悪い。それがわかってるだけに怒る気にもならなかった。
「まあまあ。彼らの身分はボクが保証するからさ。話を進めようか」
ニコの言葉で気を取り直し、話をすることになった。
「今回は、百夜堂に旭川の縁日を盛り上げることをお願いしたい。クマとポルノ、それからタナを貸すから、上手く使って」
「は、はい!今回は『卒業』のチャンス貰って、本当に、本当にありがとうございます!」
ニコの言葉に、シズコが何度も頭を下げる。
「卒業?」
「網走日本語学校から出獄……もとい卒業するためには『現代日本』でやっていけること証明せなあかんのです」
オレの疑問に、アヤメが答える。そうか、そういうシステムなのか。
てか合法都市の人間、大体そんな感じか?オレたちは……まあ普通に例外だよな。
ダード明らかに『旭川のえらい人』だし。
「ちなみに、何を売るの?」
「おかしとは聞いた。肉まん?あんまん?それともカレーまん?」
ポルノ。確かにこの時期は美味いやつだけど、そこから離れろ。
まあ百鬼夜行風なら普通に考えれば『饅頭』とか『団子』か『煎餅』あたりか。
そう思っていた時だった。爆弾が投下されたのは。
「は、はい!百夜堂名物『宇治金時のかき氷抹茶アイスクリーム添え』です!」
「お土産に『アイス最中』も用意させてもらいました。そちらも売れる思てます」
……なん、だと!?
オレは戦慄した。その恐るべき商品に。
「まじ?」
ポルノも、驚愕した表情を浮かべていた。同じ感想を抱いたらしい。
どうする?いうか?いやでも。
ポルノとお互い顔を見合わせていたところで、タナを意を決して言った。
「……あのう、縁日で貸し出されるテナントのテントって、普通に『ものすごく寒い』ですよ?」
冬の旭川なら当然と言えば当然だ。合法都市だって普通に寒かった。
ただし『暖房ふんだんに使えるような高級な場所は除く』が。
「え……」
「うっそやろ……」
二人の顔が驚愕に歪んだ。考えつきもしなかったらしい。
まあ百夜堂は、合法都市では高級店の部類だった。さぞかし空調も充実していたんだろう。
……季節選ばずにアイスをメインに出来るくらいには。
「てかニコ!?お前、相談に乗ったって!?」
その様子に思わずオレはニコに確認をした。
流石に、見過ごせなかったのだ。男として。
「うん。とても美味しいよ?『暖房効いた部屋の中で食べるなら』ね?」
クソ!?この野郎!?気づいてやがったな!?失敗するの!?
「で、でも今回の出店の仕入れのために『旭川商工ローン』で、しゃ、借金を……」
「お兄ちゃん!?ちょっとやり口えげつなさすぎない!?」
シズコの言葉に、思わずタナがニコを揺さぶる。
オレでも分かる。旭川商工ローン。間違いなく『本田一家の息がかかってる』って。
「いやあ上の意向でね?『穏便に首輪つけろ』って、言われてるんだよね。まあ、法定金利以上の利息はつけないから、ね?」
……オレは、少し舐めてたらしい。本田一家というものを。
「まあ
そう、オレたちは見落としていたのだ。
本田一家は『身内』には甘い……そして、百夜堂は『身内ではない』ということを。
というわけで、戦闘能力で何とかなる場面は終わった。
売り上げで負けると百夜堂が『借金』で縛られるぞ!オオサカではないので暴力では一切解決しないし出来ない!
実質、最初のサタスペシナリオなのでちょっと単純な筋書きです。