新翻案・竹取物語   作:博羅

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引用部分がありますので、後書きにて参考文献を記載します。


3一人目の挑戦・仏の御石の鉢

 仏の御石の鉢を頼まれた石作の皇子は「天竺(てんじく)にあるというその鉢を、どうにかして持ってくることができないだろうか」と考えていた。

 ここでいう仏とは釈迦のことで、釈迦の出身である天竺、今でいえばインドのあたりに、その仏の御石の鉢があるというのである。しかしこの時代は海を渡るのすら命がけ。であるのに、そこからさらに遠くへ行かねばならないとなれば、到底無理な話である。

 

「そもそも天竺に行けたとして、そこにたった一つしかないという鉢を手に入れられるかもわからぬことだ」

 

 こんなお題は元より無理なものだ。はじめからわかっていたが、よくよく考えたことでようやくその事実を受け入れた。

 ただそこで諦めるような者なら、とっくに諦めている。

 

 石作の皇子はかぐや姫に「本日、天竺へ発って、仏の御石の鉢を取りに行ってまいります」との報せを出した。無論本当に行くわけではない。どうにかしてごまかすのだ。

 

 

 

 石作の皇子がやってきたのは、大和国(やまとのくに)十市郡(とおちのこおり)の山奥にある寺であった。

 その寺の賓頭盧(びんずる)の前に捨てるように置いてあった薄汚い鉢を拾った。賓頭盧というのは釈迦の弟子の一人であるから、なるほど確かに関係がないわけではない。

 

 しかしそのままではさすがにまずいと思ったのか、鉢についていた汚れを綺麗に拭って、錦の袋に入れた。

 この錦の袋というのが、つやつやと煌びやかでいかにも上質そうなものだから、この袋から取り出されたら、どんなに汚れた古着でも、ひび割れて使い物にならない食器でも、高級なものに見えるかもしれない。

 さらに駄目押しとばかりに造花を結び付けた。

 

 そうして外見だけは立派なものを、かぐや姫の家に持って行って渡した。

 かぐや姫は半信半疑で錦の袋を開けると、鉢の中には手紙が入っていた。広げてみると歌が書かれていた。

 

 

 

   海山(うみやま)の 道に心を つくしはて ないしのはちの 涙ながれき

(石の鉢を求めるために、筑紫(つくし)を出発してから天竺までの海路山路に、精魂をつくしはて、はてない旅をつづけ、ほんとうに泣きの涙、血の涙まで流れたことでしたよ)※1

 

 

 

 歌の中で、本当に天竺まで行って苦労して見つけた物なのだと主張しているのである。

 ところで本物の鉢であれば、輝かしく光るのだという。かぐや姫が鉢をじっと「光るものがあるだろうか」と見つめたが、蛍の淡い光ほどもなかった。

 

 

 

   置く(つゆ)の 光をだにも やどさまし 小倉(おぐら)の山にて 何もとめけむ

(本当の仏の石鉢なら紺青(こんじょう)の光があるということです。せめて、お流しになったという涙の露ほどの光でもあればよいのに。あなたは、光がなくて暗いという名前を持つ小倉山で、いったいなにを求めていらっしゃったのでしょうか)※2

 

 

 

 と歌を詠んで、かぐや姫は鉢を石作の皇子に返してしまった。辛辣なようだが、ガラクタを宝物だと偽装した物にかける慈悲はない。

 皇子は自分の偽装がばれたことが恥ずかしく、顔を真っ赤にしながら門のそばに鉢をたたきつけて、返歌をした。

 

 

 

   白山(しらやま)に あへば光の ()するかと はちを捨てても 頼まるるかな

(光っている鉢を持ってきたのですが、白山のように光り輝く美女に会ったので、おし消され光が失せているだけで、本当は光る鉢だったのではないかと、鉢を捨ててしまってからも、恥を捨ててあつかましく期待されるのですよ)※3

 

 

 

 かぐや姫はそれに対して返歌もしなくなってしまった。皇子はなにごとか言い訳をしながらすたすたと帰っていったが、姫はもはやそれを聞く耳すら持っていなかった。

 

 偽装したことがばれて、鉢を捨てたあとも、厚顔にもまだしつこく言い寄ろうとしていたことが由来となって、厚かましいことを「恥(鉢)を捨てる」というようになったという。




※1  短歌部分および括弧内、以下より引用。
片桐洋一ほか『新編 日本古典文学全集12・竹取物語/伊勢物語/大和物語/平中物語』小学館 1994年11月18日
※2 ※1に同じ
※3 ※1に同じ
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