うっせえ!俺は死にたくねえよ! 作:二次創作用
東方プロジェクト、という物について話をしよう。これは原作者であるZUN氏が作ったシューティングゲーム、そしてその物語の舞台である幻想郷について描いた作品群の総称だ。細かく言うと上海アリス幻楽団やらなんやらが関わってくる。
当時のエヴァンゲリオン等の風潮もあり、その特殊で作り込まれた設定から多くのファンが生まれた。二十年もすれば日本の同人ゲームの最大手となる。その名も多く広まり、インターネットの幅が広がる度に成長を続けてきた。オタク達に寄り添い続けてきた作品と言える。
そんな創作物語の中の登場人物は基本的に女性だ。というか男性が出てくる方が珍しい。名前の出た男性キャラクターは基本的に容姿が判明しない。そんな中判明している数少ない内の一人がこの森近霖々助だった。
俺も2000年代の日本で東方を知った時はその面白さにハマった。だからこの人には憧れの人に近い印象を持っている。というか原作キャラクターのほとんどにはそういった感情を抱いている。
言ってしまえばファンに近いかもしれない。何分こんな歳だから顔には出ないが。
霊夢や魔理沙にはまだ会っていない。一応もう博麗霊夢の代ではあるんだ。実際紅霧異変はもう起こったしな。噂もよく流れてくる。
もう居ることは分かってるんだが率先して会いに行こうとは思わないな。憧れの人に近くはあるが態々会いに行く程じゃない。俺の原作キャラ達への印象はそんな感じだ。
唯一霖之助だけには会いに来てる。それは友人だから、というのもあるが安全だからというのが第一だ。
「む、これは」
「土産。折角だから」
「いつも悪いね。君には貰ってばかりだ。」
うん好感触。ま、霖之助には世話になってる。当たり前っちゃ当たり前だな。
「いやいや、昔世話になった礼だしね。気にしないでくれよ」
「………あの状況で助けない程僕も薄情じゃない」
やっぱり引きずってるらしいな。まああの状況は仕方なかった。霖之助さんは関係ないし、そこまで気にしなくても良いだろうに。この人も案外情があるらしいな。
「そう言って貰えるとありがたいねぇ」
「そうか。まあこれはありがたく貰うよ。そうだ、それよりも最近入った物なんだがねけどね。えーっと、どこにやったかな。………あった、これだ」
「!………へえ、こりゃ随分とまあ」
「これはどうやら扇風機というものらしくてね。形がしっかりと残っているから持ってきたんだ。何やら涼む為の物であることは分かっているんだがね。外の世界の物だとは思うんだけど使い方が分からないんだ」
出てきたのは文字通りの扇風機。日本において夏を乗り切る必須アイテムの扇風機だ。まさか幻想郷でお目にかかれるとは思わなかった。確かに何処か損傷してる様子はない。汚れや傷はあるがこれなら問題ないだろうな。まあ電気があればの話だが。
「森近さん、これは諦めた方がいい」
「ん?どういう意味だい?」
「この機械はまあ、確かに扇風機って名前だ。そして今この状況じゃこれは動かせない」
「やっぱり君は知っているのか。僕の見立てではこの凹凸が怪しいとおうんだ」
「それは概ね合ってるよ。けど一番重要なのはそこじゃない。この尻尾みたいな奴だ」
「この線がかい?確かに何やら不思議な素材で出来てるな。金属や紙じゃない。グニグニとしているな」
「ゴムって言ってな。伸びたり縮んだりする物体だ。そんなことよりこれだよこれ」
俺が指したのはゴムから突き出た二つの金属部分、コンセントに差すプラグだった。
「ああ、この金属部分かい?……外の物には時々こういうのが見かけられるけど、やはり外の世界の人間は違うね」
霖之助には俺が外の人間だとバレている。前に外の機械の知識をポロッと洩らしたせいで問い詰められてしまった。あまりにも飛躍した理論を話すもんたから口を挟んでしまったのは失敗だったな。
「まあね。この機械は電気を通さないと動かないんだよ」
「電気?なんだいそれは?」
「雷のことだ。正確には違うんだが感触としては同じだ。それを色々いじって微弱な物にしてここに当てる。そうするとこいつは動くようになるわけだ」
俺も電気の詳しい仕組みなど分からない。中学や高校で習った筈なんだがな。いかんせん前の話すぎる。そんな細かい知識は思い出せない。日本に居たのなんてもう五回くらい前の転生時だからなあ。仕方ないか。
「成る程。つまりこれは今動かせないと?」
「ああ、これを動かしたいなら幻想郷の幻想が無くなるのを覚悟しなきゃならない。外の世界と同じ環境を整えなきゃいけないからね」
「それはまずいね」
「ああ、限りなく最悪に近い」
何がまずいってあの賢者共が出張ってくる可能性がある。勿論俺達を始末しに。特にそれをやったのが俺ってのも問題だ。
「ま、触らぬ神に祟りなしってことで、今回は諦めてくれ」
「ああ、そうしよう。これも何処かで視られてる気がしてならない。二人そろってあの世行きは勘弁だ」
二人して最悪の光景を幻視しながら、冬でもないのに俺達は震えていた。
***
散らかった店の中で菓子をつまんで茶を飲み込む。別にやることがある訳じゃないから二人してやってることがバラバラだ。こうなるのはいつも通りだから俺もやることを持ってきている。……………魔法の書ってのは難解だな。
「それで……最近はどうなんだい?」
「ん?そりゃ何の?」
いまいち要領を得ない質問だな。何について聞きたいのやら。
「代理調停の話だ」
「ああ、それか。今のところは何にも。吸血鬼異変からは音沙汰無しだ」
代理調停。まあ聞き慣れない言葉だろう。本来の東方にはそんな言葉は存在しない。俺が居たからこそ起こったイレギュラーだったのか、それとも存在していたが本編と関わらなかったか。それ程までに暗い事情のある物なのは確かだ。
簡単に言えば博麗の巫女の代理だ。先々代の巫女が妖怪に負けて死んだ。今から30年程前の話だ。それはいきなりのことだった。妖怪は勢い付き、人間の立場は無くなっていく。誰も彼もが想定外。恐らくそれは八雲紫にとっても。
八雲紫は新しい巫女探しに躍起になっただろう。それは普段ならば迅速な対応と言えただろう。次期博麗の巫女を四年足らずで見つけて来たんだから。
しかしまあ、それは人間が死に絶えるのには充分な期間だった。そこで当時の人里の重鎮は考えた。どうにか安定させることはできないか。自分達が生き残れる道はないか、と。そこで白羽の矢が立ったのが俺。
平民の出でそれなりの武芸が出来る。何より普段から村の外にある施設を守っていた小僧だったから。俺は次期博麗の巫女が来るまでの生け贄にされた。
当時の俺はまだ歳が10にも満たないガキだった。何でそんなのが戦えたかって言えば今までの記憶が戻りつつあったから。まだ完全じゃなかった。まあだから色々酷い傷も負ったし、治らない傷も受けちまった。ギリギリで記憶が戻るのが間に合って、今は命を何とか食い繋いでいるって訳だな。
そうして何とか生き残った俺は、今で言うところの先代巫女がその座に就いたことで役目を終えた、筈だった。実際はそうはならず、八雲紫から罰を課された。勝手に代理として動いたこと。調停者を名乗ったこと。その何もかもを否定されて罪とされた。
罰は簡単。これから八雲紫によって課される博麗の代理としての仕事を無条件で引き受けること。まだ良かった方だろう。これで正真正銘生け贄にされていたら笑えない。
そんなこんなで俺は代理調停という役目を負った訳だ。そして今の奴らはそれを知らない。覚えている人達に八雲紫が箝口令を敷いたからだ。その詳細を知ってる人間は大体記憶を消された。
妖怪達は記憶が消されず、当時の恨みを覚えている。今の博麗が上手くいっているのには俺への恨みや恐れもある。強い妖怪程俺を恨み、同時に人間の強さを認めた。
弱い妖怪は人間の恐ろしさを知った。俺は必要なら人妖問わず、神さえも殺したから。そんな俺を彼らは恐れた。まあ俺が悪いよね。
付いたあだ名が試練の悪魔。それを見て生き残ったら強さの証明になるかららしい。確かに大体恨みを覚えているのって強い奴らなんだよね。原作に登場するしないに限らずにね。
まあそうして妖怪達は人間へある程度友好的になった訳だ。知恵のある奴らはこの幻想郷の仕組みを理解してるから友好的になるのは少なかったけど。
「ま、もう何年もその仕事もない。八雲の方々の顔も見ていないしね。なに、見せる気がないんだろう。何せ俺が居るときは紫様がお顔をお見せにならないだろう?」
「ああ、確かに。ん?何で君は僕とあの妖怪との関わりがあると知っているんだ?」
分かりやすいねえ。顔に何でこんなことにって書いてあるわ。こりゃ相当嫌われたなあの人。
「はは……諸事情って奴だぜ」
「良い歳して何を言ってるんだい」
「まあ、そういうこともある。こういうのは言わぬが吉だ。今日はここら辺でお暇させて貰うよ」
「ああ、分かった。じゃあまたいつか」
「また何か持ってくるよ。それじゃ」
霖之助に手を振られながら店を出る。それからしばらく後、店の方から少女達の声が聞こえてきた。静かだった森が少しだけうるさい。
「ははっ、あの人も大変だな」
今日も幻想郷の少女は平和だ。