地獄のトイフェル   作:産地直送の焼き鳥

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プロローグ:弄舞之祭 

 地球ではない世界である、魔法と剣が入り乱れる星。

 そこのある街の深夜帯の貴族街に、どデカい屋敷が置かれていた。悪趣味とも言えるほどの豪華さを持っている御屋敷。

 

 そこの屋敷の中。

 屋敷の中では静寂で包まれている。本来の時ではメイドや執事が本来の作業をしているはずであるが、今は異様なほどに静かだった。

 その屋敷の中で、唯一ダンスホールのみ音が響いていた。

 音はピアノによって奏でられながら、その部屋に響いている。

 

 煌びやかなダンスホールは美しいガラスが窓枠に嵌め込まれ、綺麗なシャンデリアが部屋の中を照らしている。

 芸術的な大理石の上には誰もいない。ピアノは響いているはずだが、弾いているはずの者がいない。

 

 唯一、ダンスホールの真ん中で二名の男女が社交ダンスを踊っていた。美しく、滑らかで、止めるべきところはしっかりと止める文句のいいどころなどない完璧なダンス。

 

 だが、よくみているとおかしいのだ。

 貴族と思われる腹が出ている中年男性は生気がなく、完全な無表情。その顔は真っ青であり、動いているのが不思議なほどだ。

 さらに女性はタキシードを改造した服を着ながら、にこやかに笑みを浮かべている。

 

 そして男性は女性パートを、女性は男性パートを踊っていた。

 女性が男性の腰を抱え、男性は身体を女性に預けている。靴の音が床に響きながら二人はゆっくりと踊っていく。

 

 ついにラストパートに入った。

 音楽は盛り上がり、ダンスも激しさを増していく。

 大理石の上を優雅に踊り、人が居ないダンスホールの中を踊り回る。そして音楽は終わり、二人も無事に踊りを終える。

 

 そして音楽が終わるとともに、ダンスホール唯一の大扉が音を立てて開かれた。

 

 現れたのは冒険者と思わしき服を着た四人組。しかし実力はそこらのものなど歯牙にもかけない。

 荘厳さと芸術性を併せ持つ大剣を持った男、勇者。

 女神の加護を一身に受けし麗しき女、聖女。

 影に隠れ闇を切り殺す少女、盗賊。

 この世界の数多なる魔法を習得せし女性、魔法使い。

 

 異世界から来たりし「勇者たち」。

 彼らは自信に溢れている。力を手に入れ、この世界の者たちに持て囃され、贅沢な暮らしを許されている。

 

 そんな彼らでも今の状況に驚いていた。

 

 当然だ。

 

 追い詰めた、と思った場所には一人の女性と貴族の男性がいるだけであり、取り巻きたちはいなかったからだ。

 

 そんな中、先程まで中央で踊っていた女性がその笑みを絶やさずに勇者たちに話しかける。

 

「勇者一行よ。今はパーティ中だ。アポ無しは少し困るのだが…。」

 

 勇者たちが驚いていた理由は他にもある。

 今目の前の女性は異形であるからだ。異世界に存在するヒューマン族である獣人族や魚人族のような者たちではない。

 

 黒く捻れる角。大きく広がる蝙蝠のような黒き翼。最強種たる竜の如き尾。相手を射殺さんとする紅蓮の瞳。

 魔法使いは思い出す。

 この世界にやってきたばかりの時、教えられた存在。

 

 この世とは違う次元に存在する異形。

 歴史上で何度も確認されている存在。

 こいつらが関わっていた個人、組織、そして国はことごとく良い結末を辿っていない。

 ソイツらの名はーーー悪魔。

 

 教会によって禁止されている禁忌の契約によってこの世界に現界する災害。

 

 そいつが目の前にいた。

 

 「まあ君たちが焦っている理由は手を取るようにわかるよ。悪事をなしていた貴族を逃すべくと、証拠を持って突入していたのだから。

 ただ、この貴族も悪知恵が働いたみたいでね。封印されていた悪魔召喚を行ったみたいだ。

 それで私が召喚されたわけだ。ただーーー」

 

 女性と一緒に踊っていた男性の目が、急に白目を向く。だらしなく舌を出し、猫背になる。

 

 「契約は不履行。供物が少なすぎた。よって召喚手である本人も供物になってしまったわけだ。」

 

 力なく垂れていた頭が、首の肉が腐り音をを立てて頭が床に落ちる。

 だがそれでも男の体は動いていた。震えながらなも、血を吹き出しながらも未だに動いていた。

 

 「悪魔め…!何がしたいのだ、君は!」

 

 勇者が大剣を正眼に構え悪魔に問うた。

 他の三名も勇者の姿を見て、両手を神へ祈る形にし、短剣を構え、杖を向けた。

 その姿を見ても一向に笑みを絶やさぬ悪魔は次の言葉を放つ。

 

 「決まっているじゃないか。私は悪魔だよ?だけど、それをなすには君らが邪魔みたいだ。」

 

 一向に笑みを絶やさぬその悪魔は、畳んでいた翼を大きく広げる。そして上に飛び上がった。

 シャンデリアを背後に、勇者たちへと話しかける。

 

 一人でにピアノが奏でだした。

 ラスボスが出てくるような音楽が奏でられ始めた。

 

 にこやかな笑みではなく、醜悪な笑みを浮かべた悪魔は大声で宣言した。

 

 「さあ!パーティを始めよう!主役は譲ってやるよ!」

 

 シャンデリアによってできていた悪魔の影が拡大する。

 その影から醜悪な見た目をする異形が溢れ出す。メイド服を着たゾンビ、骨となった執事。ブヨブヨとした肉を持つ巨大な芋虫、額にただ一つの目を持つ黒い犬。

 沢山の下級の悪魔が現界した。

 

 現界した下級の悪魔たちに勇者一行たちは構える。

 

 そして悪魔は屋敷中に響き渡るような声で、パーティの最初の一声を上げる。

 

 「笑おうじゃねえか!踊ろうじゃねえか!食おうじゃねえか!

 なぜなら僕らは欲望の権化だ!

 理性でわかっているのに、戦争をする塵どもだ!充分に飯があるのに奪い合う獣共だ!

 人間なんて悪魔よりも悪魔じゃねえか!

 だから戦るんだよ!欲望のままに!

 開演だ!」

 

 陰から這い出した悪魔たちが勇者たちへと襲いかかった。

 

 「みんな来るぞ!」

 「「「うん!」」」

 

 勇者の掛け声の元、他の者たちも獲物を構える。

 悪魔を視界の端に収めながら、油断なく技を繰り出そうとする。

 

 「レディース アンド ジェントルメンッ!ボーイズ アンド ガールズ!

 さあお楽しみくだされ!勇者たちよ!

 悪意を!大罪を!深淵を!そして…地獄を!

 お見せいたしましょう。

 …イヒ、イヒヒ、アヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

 醜悪な悪意で華麗な顔を歪ませながら、シャンデリアに乗っかる悪魔。

今、勇者の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 (いや、勇者怖あああああああああああああああ!なんじゃあれ!いやああああああああああああ!戦いたくねえでござるうううううううううう!!

 僕転生者だから殺したいわけじゃないんだけどおおおおおお?!)

 

 契約によって戦わなければいけない悪魔は悶絶しながら、心の中で絶叫していた。




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