僕はね?良い人間だったと自分でも思っているんだ。
困っている人がいたら助けるし、落ちているゴミがあったら拾う。電車でご年配の方がいたら、席を譲る。
まあ時々気分に乗ったら、だけど。
ともかく特段悪いこともせず、高校生活を楽しく過ごしていたんだ。成績はそこそこ良かったし、身体能力も武術を少し齧るくらいには及第点。友人も多くはないけどまあまあ居た。
十分楽しめていたんだ。
市外でなんか事件があって、ここらの警察が手伝いにほとんど出払っているある休日。
フラーっとコンビニに寄って、昼飯を作るのめんどくさいからカップラーメンでも買おうかな。機嫌がいいため鼻歌を歌いながらそう思っていたらさ。
『てめえら動くんじゃねえ!』
まあテンプレというか天麩羅というか。
三人組のコンビニ強盗。内二人は目がキマっているし、もう一人は拳銃を所持していた。
彼らは脅すために拳銃を店内で発砲した。ついでにレジにナイフを突き立てている。
店員さんはすでに怯え腰で、首筋にナイフが当てられながらレジからお金を出していた。
一人が店員さんの首筋にナイフを当てている間、残りの二人は店内を物色しながら店内を歩き回る。当然店内の人たちに睨みを効かせながら。
そうそう、このコンビニには店員一人の他に親子連れ、女子高校生がいたんだけど。
子供ってびっくりすると、泣き声を出すことが多々ある。それに今回は凶器を持った怖い男性たち。泣かないというのは無理というものだろう。
『ビ、ビェェェェェェ!』
つまりは子供が泣いちゃったわけだ。僕も泣きたかった。せっかくの休日だったもん。
そんでもってまたもやコンビニ強盗は大袈裟に反応して。
『あぁ?!黙れやガキィ!おい、ババアさっさと黙らせろ!』
子供の母親にその強盗犯の一人がさけぶ。だけどその子供に対しては逆効果で、もっと泣いてしまった。
母親も早く泣き止んでほしいけど、うまくいっていない。
女子高生も一緒に泣き止ませようと頑張っていたけど、うまくいってなかった。
そしてコンビニ強盗のうちの一人、目が決まっている方がついに切れた。
『う、うっせえんだよこの野郎!こ、殺す!』
ついに手に持っていたナイフを振り下ろした。相方の方求める気配がなかった。どっちもキマっていたのだろうか。まあ今となっては知る由もない。
女子高生はいきなりナイフを振り上げれると思っていなかったのか、固まってしまっていた。しかし母親は本能によるものなのか子供を庇った。近くにいた女子高生ごと。自分が盾になるように母親は動いていた。
僕はある程度動けていたし、ついでに見知らぬ人が殺されるのを見逃すほど耄碌してるつもりはなかった。
足を滑らすように動いて、ナイフを振る男の襟を掴む。男が驚いている間に相手の足を引っ掛けてすぐさま床に叩き落とした。
ただまあ耄碌はしていなかったけど、油断してたんだろう。背後からもう一人の奴に刺されてしまった。
すぐさま反撃して締め落としたけど、刺されたところは多分肝臓。しかもナイフが強引に抜かれてしまって、肺にも届いている気がした。
激痛が走りながらも、コンビニ店員を脅している強盗に向かう。
瞬時のことで気が抜けている強盗にナイフを弾く。少しだけ抵抗されて頬が切れてしまったけれど、一本背負を喰らわせることができた。
これで制圧は完了した。けれども。
『おにーさん!おにーさん!大丈夫?!元気出して!』
やっぱり重症。
たかがコンビニ強盗に重傷を負うとは情けなかったかもしれない。
まあファンタジー小説によくある、信号無視のトラックに跳ねられて死ぬよりはマシなのかもしれない。
店員が後ろの方から救急セットを持ち出そうとしていたし、女子高生は狼狽えながら救急車を呼んでいた。母親はなんとか止血しようとしてたかな?
肝が座ってんな〜、と思いながら意識は遠のいていったんだ。
後悔はあまりない。自分でこの道を選択して動いたから。まあ可愛い子供助けられたから十分なんじゃあないかな。だけど子供の前で死んでしまうのは少しダメだったかもしれない。
そう思いながら僕は目を閉じた。はずだった。
いつのまにか変なところにいた。
なんだかフワフワ漂うような海みたいな白い空間で、何かが何かを喋っていた気がしなくもない。
内容に関しては全く覚えてすらいない。
その時はすごくぼんやりしていたから仕方がない。
その後どこかへと送られたわけだ。結局何だったのかわからぬまま。
今はアレは神様で僕を異世界転生させてくれた、と仮説を立てられている。
だけど神様何だったらもう少しだけ転生先を変えて欲しかった。
意識が芽生えた場所は揺籠の上でも、子宮の中でもなく。
周りは家の中でもなく、空は青くなく。
太陽もなく月もなく星もなく。
綺麗な木々も、爽やかな河川もなく。
容貌は人ですらなく。
そこは地獄、と呼べば良いだろうか。
溢れ出るマグマ。気色悪い色の木々。赤黒く光る岩山。宙に浮かぶ血の塊のような岩石。空はドス黒い赤色の雲が充満し。空気中には煤のようなものが降っている。チラホラと骸骨やゾンビ、名状しがたい冒涜的な生物がいる中で。
僕は一匹の悪魔として生まれ落ちた。
漫画であるような人型じゃない。三又の鉾を持っていそうな獣みたいな悪魔。
羽は飛ぶのには小さすぎる。爪と牙は鉛筆のような細さで。尻尾は弱々しく動く。体つきもまた頑丈ではなく、柔らかい肉の塊のような感触で。
僕は意識が芽生えたその場所、薄灰色の岩石の上で少し思った。
あぁ、私を転生させたものよ。できることならばーーー
一発だけ思いっきり殴らせてくれ。
気分が乗った。後悔はない!!続くかは分からない。気分次第?
【トイフェル】
ドイツ語で悪魔。つまり題名は「地獄の悪魔」。なんという。