地獄のトイフェル   作:産地直送の焼き鳥

4 / 5
 今回は食事シーンがありますが、呪術廻戦の呪霊玉に少し似ている表現があります。
 お食事中のかたはお気をつけください。

 それと評価ください_:(´ཀ`」 ∠):(唐突な乞食)


御食

 僕は寝床に突っ込んでおいた単眼犬の右足を見る。

 見た目は細い骨にまあまあな量な肉がついている。まあここはいいだろう。

 

 問題は血だ。

 僕が噛み切った足の付け根から出る血液は何と紫色である。紫色だ。もう一回言うぞ?紫である。

 さっきは周りの警戒に必死で気が付かなかったが、血液の色が紫色だった。意味がわからん。

 酸素が少ないと血液は赤っぽい紫色になる。しかしこれはどうみても紫な紫である。どういうこっちゃ。

 

 さらにさらに。

 なんかこの血液臭い。コイツらの血液特有の臭さかもしれないが若干臭い。

 少しだけ食欲をなくした。

 

 だが、それを無視するほどの食欲がある。

 凄まじいほどに腹が減った。腹減った。背中と腹がくっつくくらいに。何でだ?運動したからか?いやそれにしては腹が減り過ぎている。この地獄で意識が出てから1日も経っていないはずだ。

 まさかこの体は一時間に一回飯を食べないとダメなようにできているのか?そうだったらまずい。なんたる非効率だ。

 さっさと食べないと行動に支障が出るかもしれない。

 

 だけど食べて大丈夫なのか不安なため、少しだけ齧ることにした。

 寝床の穴の中に入れていた、単眼犬の足を取り出し、付け根を齧った。するとすぐに口の中に肉の味が広がった。

 

 (…まっっっっっっっっず!)

 

 硬い。苦い。臭い。不味い。ネバネバしている。辛い。酸っぱい。

 口の中に凄まじい悪臭が広がる。とてもじゃないが食えたもんじゃない。凄まじいほどの不味さ。

 だけど僕の内面から湧き出る食欲はそれを許さなかった。

 そのまま飲み込む。吐きそうになった。涙が少し出てきた。

 だけどーーー

 

 (お腹が、少し、溜まった。)

 

 息を切れ切れにしながら、空腹が少しだけ紛れたことがわかった。ほんの少しだけだが。

 まだまだお腹は減っている。

 今もお腹が鳴り始めそうである。

 

 だけどこの肉は食いたくない、と理性が入っている。

 お腹が減った。早く食べたい、と本能が言っている。

 

 こんなのじゃなくてラーメンを食べたい。甘いパフェを食べたい。安いお寿司をたらふく食いたい。母さんの作ったカレーが食いたい。

 だけどここにはそんなものはなく、あるのは紫色の血を出す生肉だけである。

 それをみても口から涎が出てきた。

 お腹が減った。

 

 結局負けたのは理性だった。

 

 吐きそうになりながらも、肉を食う。

 凄まじいほどに臭い。言葉を絶するほどに苦い。顎が痛くなるぐらい硬い。目から涙が滲むくらい酸っぱい。

 例えるならば嘔吐物のスープ。

 お腹が減った。

 

 帰ったら大好きなお寿司が食べたい。

 母さんが作ったカレーを家族とテレビを見ながら食べたい。

 友達と一緒に購買で買ったパンをバカ笑いながら一緒に食べたい。

 お腹が減った。

 

 だけど周りにそんなものはない。

 美味しそうな食べ物はなく、目の前には不味すぎる肉だけ。

 テレビやら購買やらそんな便利なものはなく、黒っぽい岩石だけ。

 母さんも友達もいない。ここにいるのは敵である単眼犬や僕によく似た小悪魔とかだけ。

 オナカガヘッタ。

 

 涙が出てきた。

 酸っぱさとかじゃなくて、悲しくて出る方のやつ。

 ポロポロと出てくるけど、それでもお腹は減る。

 一心不乱に。今を考えないように。肉を食べた。

 …お腹がいっぱいになった。

 

 お腹がいっぱいになったのは肉を半分食った頃だった。

 

 吐きそうだ。だけど吐いたらまたお腹いっぱいになりそうで、吐きたくない。精一杯喉を引き締めて吐かないようにする。口の中は嘔吐をした後の数倍辛い。

 喉に痛みも感じるくらいだ。

 

 いっぱい肉を食べたし、なぜか走った疲れももう癒えているが、精神的にとても疲れた。ひとまず今日は休むことにしよう。

 

 そう憂鬱に考えながら、半分を食った単眼犬の脚を奥に押し込み、自分も穴の中に入って丸くなる。

 肉に背を向けて、横になった。若干血の香りが漂ってくる。とても臭い。この匂いのせいで、先ほどの食事を思い出してしまう。

 その匂いをできるだけ嗅がないようにして、まだ人間だった頃の美味しい食べ物の記憶を思い出す。いつか食べれるだろうと。

 ああ、だけど。

 

 (そんなもの食べれる時が来るのだろうか。)

 

 頭によぎったネガティブな思考を振り切る。

 

 少し涙を滲ませながら、今日は眠りについた。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 今日僕は周囲の探索に出ることにしていた。

 精一杯隠れながら。

 

 ここに何がいるのかわからない。わからない状況で動くわけにはいかない。つまりは

 怖い。

 

 死にたくない。生きていたい。明日も生きていたい。 

 

 まともそうな理由をいくつか挙げたけど、結局こんなところである。

 だから今日は周囲の探索だ。生き残るって言うんだったらずっと穴の中に引きこもっていればいいと思うけど、『ずっと生き残る』っていうんだったら肉を食べなければいけなくなる。

 今はまだ、単眼犬の足肉があるけど後二、三回食べたらなくなるだろう。

 

 無くなる前に新しいやつを倒して、肉を貯めておかないといけない。だけどこの前単眼犬を倒せたのは漁夫の利からの漁夫の利を狙ったからだ。今僕が単眼犬と戦って勝てる自信はあまりない。

 良くて重傷で勝利、だろうか。

 

 だから出来るだけ情報を手に入れる。

 どんな奴がここにいるのか。戦闘方法は?体格は?特殊能力のようなものはあるのか?

 情報は多すぎると使い所がないけど、あったらあっただけ嬉しい。

 まずはあの単眼犬の肉を食い尽くすまで探索に徹することにした。

 

 (…!今度は新種だ。)

 

 新たな奴を見つけ、すぐさま岩陰に隠れる。

 寝床を探す時。漁夫の利を狙うため戦闘中の奴らを探していた時。そして今。

 三回の探索である程度わかったのは、よくいる種類。そして強い奴。

 

 まずよくいるのは僕と同じ容姿の小悪魔、デカくて触手を口から出しているちっちゃな目の芋虫、そして気色悪い泥みたいなスライム。

 コイツらはしょっちゅう見かける。見た感じではスライムが一番弱い。そして小悪魔と芋虫が同レベルくらいだ。小悪魔と芋虫は群れになっていることもたまにある。

 

 そして中堅と言える奴は単眼犬、目無し蜥蜴。

 コイツらはまあまあ強いし、小悪魔とかにもよく勝っている。だけど油断したら逆転されて、すぐ殺されていたため強さとしてはそこそこ。

 9:1くらいで小悪魔や芋虫が勝つ。当然小悪魔、芋虫の勝率は1の方。

 

 そして今の僕が手を出したらまずい奴ら。

 弱い小悪魔や芋虫が突撃しても傷もつかない。せいぜい人間に鳩が向かってきたレベル。

 中堅である奴らが束になってかかったら、ギリギリ相打ちになるんじゃないか。という奴だ。

 僕はコイツらの姿を一瞬しか見ることができなかった。

 

 八本の足を持った獣の何か。人型の何か。

 

 さっき見つけたのもこれだ。今回は泥のような生物を見つけることができた。見えたらすぐさまその場に蹲り、見つからないよう必死に隠れていた。

 運が良かったんだろう。僕は食べられなかった。

 

 ソイツが去ったらすぐさまその場を離れる。

 それを繰り返しながら、行動していった。

 

 結局僕が勝てるのは芋虫、小悪魔、スライムだけ。

 目無し蜥蜴や単眼犬を狙うなんて、漁夫の利か弱ってる時しか狙いたくない。

 

 ソロソロと岩陰を隠れながら、寝床へと移動する。

 その途中でスライムを見つけることができた。黒っぽい泥が蠢いている、なぜ動いているのかよくわからない泥。

 それがスライム。

 

 食えるのかどうかすら怪しいが、芋虫が食っていたのを見たことがあるから一応は食えるはず。だけど出来れば食べたくない。

 だが少しずつだが、スライムがこっちに寄ってきている。奇襲のつもりだろうか。

 

 だけど、遅い。遅すぎる。ある程度は黒い岩に黒いスライムっていうことで擬態はできているけど、違和感は持つ。

 ある程度まで近づいたスライムをそのまま叩いた。

 

 「〜〜!?」

 

 体を震わすけど声は出ない。

 そのままぐったりとしてしまった。

 

 (これ食えるのか?単眼犬より美味しかったら嬉しいんだけど。)

 

 そのままスライムを手に持ち、寝床に向かう。

 探索中には隠れるしかない奴らが三体も見つけたため、とても疲れた。ため息をついていると、いつのまにか寝床についていた。

 

 持っていたスライムを手から離す。

 スライムは黒岩の上にそのまま落ちたが、音はベチャ、ではなくドシャ、であった。

 持っている間の感覚から大体わかっていたが、見た目も感触も泥みたいだ。

 

 食べる前から嫌な予感がする。

 だけどあんなに不味かった単眼犬の肉はもう食いたくない。

 

 単眼犬の肉よりも美味いことを願いながら、一口食べてみた。

 

 (…不味い。)

 

 単眼犬とはまた違ったベクトルの不味さ。食感が泥みたいなゼリーみたいな感じだ。さらに汚泥の匂いも若干漂ってくる。

 だけど無味で粘土を食べているような気分である。

 匂いはあるのに無味ということでかなりの違和感を感じるし、お腹にもほとんどたまんない。

 全て食べ終わり、岩の上には黒っぽい粘液だけが残った。

 

 総評:不味い

 

 (…まあ単眼犬も不味かったんだけども。)

 

 美味いかもしれない、そんな淡い期待が砕かれ、かなり萎える。

 だけど非常食とかには使えるのかもしれない。

 

 飯も食べた。探索もした。他にすることもない。もう寝よう。

 口に粘土のような砂利のような食感が残りながらも、寝床に入った。

 

 まだ残っている単眼犬の足から悪臭が漂ってくる。

 これはただの血の香り。死んでから結構経ったからか、さらに血が臭くなってきた。

 地獄に腐る、という概念があるのかは知らないが、このまま腐って食べるものがなくなってしまうのは嫌だ。

 

 明日はこれを食べることにしよう。いやだけど。

 今日も探索でとても疲れたため、すぐに眠れそうである。ただ床が硬い。昨日は戦闘で興奮していたのか、あまり感じなかったが今になって気づいた。

 

 だけどそんなものは気にしていられない。

 ここに柔らかいベットなど。ここに布団やシーツなど。ありやしないのだから。

 

 そのまま僕は眠りについた。

 

 (願わくばーーー

 ーーー夢が覚めたら、この地獄が終わっていますように。)

 

 願うはずのない夢を、願いながら。

 

 

 




 異世界転生って運が悪かったらこんなもんだよね。
 多分明日も投稿っす。

 【御食】
 古文における「お食事」の意味を持つ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。