地獄のトイフェル   作:産地直送の焼き鳥

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 題名の読み方は(えんめいれい)

 今回は丸ごと戦闘シーン。むずかった…。


魘螟蛉

 今日起きたのは太陽でも目覚ましでもなかった。

 まあそもそもここに太陽も目覚ましもないんだが。

 

 僕が今飛び起きた理由は…激烈な痛みだ。

 

 (〜〜〜〜〜〜ッ?!?!?!?)

 

 右脇腹が燃えるように痛い。刺されたような痛み。その痛みとともに何かが僕の脇腹にかかった。おそらくは酸。

 寝ている最中に攻撃を受けたからか、何に襲われているのか分からない。

 

 激痛を無視ししながら、何が起きているのか知るため目を開けると。

 この入り口に芋虫がいた。

 探索中によく見かけるデカい芋虫。ソイツの口から出てきた一本の太い触手が僕の脇腹に刺さっていた。

 

 「キュー♪」

 

 ソイツは機嫌の良さそうな声で鳴いていた。

 眠っている不用心な肉を見つけたのだから当然だろう。さらにその肉の奥には死体が置いてある。

 なんて自分は幸運なんだろうか。そう足りない頭で思っているのだろう芋虫はさらに触手を伸ばす。

 

 寝起きの僕は当然対応できない。

 そのまま触手の攻撃を許してしまった。

 

 脇腹の肉が少しえぐられる。

 不幸中の幸いか、穴の入り口が陰になって上手く僕が見えていないようで、深い傷にはなっていなかった。

 だけど芋虫は追撃をしようとしている。

  

 僕は痛みがひどい中、必死に刺さっていた触手を掴んだ。そのまま握りつぶす。

  

 「ギュピ!?」

 

 楽に獲物を狩れると思っていた中での、油断によって受けた痛みに驚いてしまった芋虫はのけぞってしまう。

 その勢いを利用して、そのまま僕は触手を引きちぎる。

 

 「ギュァァ!!」

 

 触手の付け根のあたりから紫色の血が噴き出る。

 芋虫は痛みで少しだけ後退ったけど、怒りでその場に踏み止まっていた。僕もひとまず寝床から出る。

 

 芋虫が怒っているのが良くわかる。

 今もなおギューギューと泣き喚いている。とても気色悪いし、五月蝿い。

 それに怒りたいのはこっちも同じだ。

 

 (寝ている最中に起こされた。しかも暴力的に。くっそ痛えし。怒んない奴なんていないだろ?

 潰してやるよ。ぶっ殺す。)

 

 こっちで生まれてから初めての怒り。

 いつもはそんなに怒らないはずで、コンビニ強盗の時も僕は冷静に対応できていた。

 だけど今回はダメだ。この身体の問題なのか、痛みの量なのか、こっちに来たことによるストレスなのか理由はわからない。

 だけど今は

 

 怒りで溢れている。

 痛みで逆に冷静にもなってくる。

 腹を引き締め、血が出ないようにする。そんなのできるわけない、とは思うけど理論は今はどうでもいい。

 ひとまず目の前のコイツを殺す。

 グッチャグチャに殺し…、こんな思考前世ではしていたっけ?

 まあいいや。まずはぶっ殺そ。そのあと考えよう。

 

 目の前の芋虫も怒っている。僕も怒っている。

 どちらも感情は同じだったから、どちらも行動は同じだったようだ。

 

 どっちも突進する。芋虫は口を大きく開けながら。僕は爪を構えながら。

 僕と芋虫の距離も短かったので、すぐに火蓋が切れられた。

 

 図体は僕の方が小さいからか。

 先に僕の爪が、芋虫の身体に当たった。狙ったのは目だったけど、痛みのせいで少しずれて頬の部分に命中させることができた。

 そして芋虫は爪が頬に当たった後、口を閉じそのまま頭を振って僕に当てた。

 

 僕は身体が吹き飛ばされたけど、転がりながら立ち上がる。

 芋虫は頬が切れたから、頬から薄い紫色の舌が見える。脳みそには届いてないみたいだけど、結構深傷は与えられたんじゃないだろうか。

 

 「ギュァァァァ!!」

 

 痛みのためと威嚇のために芋虫は大きな声で叫ぶ。

 それに対応して僕も大きな声で威嚇した。

 

 「ルァァァァ!!」

 

 威嚇としてはどっちも威嚇としての意味をなしていない。結局どっちの行動にも大した影響は与えることはなかった。

 

 芋虫がほっぺたを思い切り膨らませる。

 切れた頬から何か透明の何か液体が出てくる。その液体が地面に落ちると共に、地面の岩が音を立てて溶ける。

 頬が切れていて肉が見えているからか、頬の肉も少しずつ溶けていってるけど芋虫は全く気にしていない。

 

 僕はそのまま突進しようとしたけど、いやな予感がしたため近くの岩陰に隠れた。

 僕が岩陰に隠れた瞬間、芋虫が口に力を入れて液体を飛ばしてきた。

 

 「ギャウウ!」

 

 声と共に芋虫が吐き出したのは球体なような形になった液体。僕が起こされた時に注入されていた酸。それが僕の方へと降ってきた。

 

 様子を伺うため少し出していた頭をすぐさま隠す。

 僕が隠れている岩に、酸が降ってきた。

 

 ジュウジュウと音を立てながら、岩石が溶けていく。

 酸が少し跳ねて、僕にかかる。ちょっとだけど身体の表面上にある毛が少しだけ溶けてしまった。

 

 さっさと岩陰から出る。

 やはりというべきか、芋虫は二撃目を出すため頬を膨らませている。

 

 僕はそれを回避するため、ちっちゃめの石を持った。

 芋虫が酸を口内に溜めている途中に、頬を目掛けて石を投げる。

 

 (命中っ!)

 

 運良く左頬に石が当たり、芋虫の口内に入った酸が衝撃で吹き出る。

 吹き出た酸は芋虫の頬にかかってしまった。僕の爪で切れていた右頬が、酸によってさらに溶けて気色悪い紫色の肉が見える。

 

 「ギャアアアアアア!?……ア、ルァァァァ!!」

 

 いきなり左頬に届いた衝撃に驚いた芋虫は大きな声をあげる。

 しかし何が原因なのかわかったのか、怒り声で威嚇する。

 …さっさと野次馬がやってくる前に倒さないといけないな。芋虫の大声で他の奴らが寄ってくるかもしれない。

 

 勝負をつけるため、さっきよりも大きめな石を両手でぶん投げる。

 

 「ッ!?」

 

 相当ゆっくり、力を入れながら投げたので速度も、威力もそれほどではないだろう。

 そして芋虫が避けている間に僕はそのまま突進する。

 

 多分岩が影になって僕は見えないと思う。そのまま動いていく。

 図体としては芋虫の方が僕よりも大きい。それに芋虫は目があるけど、頭の上の方についているから下の方はあまり見えない。

 

 芋虫に近づいたら、すぐに屈む。

 屈んだことで芋虫は、僕はどこにいるのか一瞬だけど見失った。それでいい。僕は芋虫の左側に移動した。

 

 (なあ芋虫知っているか?昆虫がどうやって呼吸しているか。)

 

 昆虫のほとんどは肺呼吸ではなく、気門というもので呼吸している。

 その気門と呼ばれるそれは、昆虫の両側の腹部に幾つもついている。昆虫の気門を塞いだら、当然その昆虫は空気不足で死んでしまう。

 

 (その呼吸部分を思いっきり殴ったらどうなるんだろうね。)

 

 僕は拳を構えて、気門目掛けてぶん殴る。

 その衝撃で芋虫がのたうった。

 

 「ギィィィ!」

 

 そのまま続けて拳を繰り出す。

 芋虫は震えるけど、気にせず殴り続ける。芋虫は痛みを堪えながらこっちに振り返る。

 芋虫が顔を振るって攻撃する前に、僕は芋虫の上に乗った。

 

 そのまま僕は爪を芋虫の身体にブッ刺す。

 

 「ギッィ!」

 

 柔らかい肉の塊に爪が突き刺さる。さらに短い僕の牙も肉に突き立て、食い破る。

 

 「グ、ア、ルァァ、ア。」

 

 次第に芋虫も弱っていく。

 僕はそのまま勢いをつけて芋虫の肉を食い破った。

 

 「…ギッ、ギィィ、グ……、…。」

 

 そのまま芋虫がぶっ倒れる。

 ピクピクと若干震えているけど、もう問題なさそうである。時間もあまり経っていないからか、野次馬となる小悪魔とかはいない。

 

 (はぁ。…やっと終わった。)

 

 初めてのそれらしい戦闘。終わったからか急に身体が痛み出す。

 

 かかってしまった酸のせいで全身が微妙に痛む。寝ている時に刺されたことで食らった脇腹の傷が痛い。

 脇腹に力を入れて、血が出るのを留めていたせいなのか全身が怠い。

 

 血はあまり流れていないと思うけど、全身から血液がなくなっているような感覚がある。

 なんでそんな感覚があるのかはわからないけど、今がまずい状況だ、ということはよくわかる。

 

 (ああ、お腹が減った。)

 

 こんな状況なのに、お腹が減ってきた。

 すっごい空腹。戦闘が終わったからお腹が減るとは言っても、これはなんでもおかしい。

 

 理性を持って考えられないぐらいお腹が減った。

 ふと今さっき倒した芋虫が目に入る。芋虫は震えながらもまだ生きている。

 ブヨブヨの肉でよくわからないけど首の辺りから紫色の血が流れ出てくる。この血がとても美味そうに見える。

 

 ああ腹が減った。

 お腹が減った。

 

 早く食べたい。

 

 欲求のままに目の前の肉に齧り付く。…ああくっそまずい。

 単眼犬とも、スライムとも違う味。

 薄い味なのに不味さが引き立つというよく分からない味。腐った魚のような匂いが鼻に漂ってくる。食感はグチャグチャしていて嫌な感じだ。

 

 だけど今は美味い、と感じてしまう。

 不味いはずなのに美味い。

 そんな変な感じ。

 理屈はわからないけど次第に全身に負っていた酸による傷も、次第に癒えていく。

 

 どんどん肉を食っていく。肉が声にならない声を出すけど、気にしない。美味い。不味い。美味い。不味い。…不味い。

 ついに全部食い尽くしてしまった。

 

 だけどまだ疲れているし、脇腹の傷も治っていない。

 寝床に置いておいた単眼犬の肉を食う。やっぱりクッソ不味い。嘔吐を食っているかのような不味さ。ああ、やっぱり不味い。

 不味い不味いと思いながらも、お腹減ったと思いながら。

 半分だけ残った単眼犬の肉を喰らう。嘔吐物のスープみてえな味。

 バカまじぃ。

 

 そして全部食い尽くしてしまった。

 残るのは単眼犬の足の骨と血液、芋虫の体液だけ。

 

 まだ脇腹の傷は治っていない。若干焼き後のような感じで残っている。肉を食べることで傷が癒える、ということは分かったけど、その肉がなければ治りはしない。

 

 腹が減った感じがするけど、すぐにここから離れたほうがいいかもしれない。

 多分この芋虫がここに辿り着いたのは、スライムの残り液と単眼犬の匂いが漂っていたからだろう。それをたまたま嗅いだ芋虫が僕の寝床を見つけたんだろう。

 

 今は血液やら骨、体液がここら一帯に落ちている。

 すぐに他の奴らがくるんじゃないだろうか。昨日の単眼犬と小悪魔の戦闘の時も小悪魔、目無し蜥蜴が野次馬として居た。

 アイツらも匂いを嗅ぎつけて、やってきていたんじゃないだろうか。

 

 (早くここから逃げないと…。)

 

 疲れた体に鞭を打ち移動する。

 遠くから単眼犬らしき奴が見える。単眼犬なんて今戦ったら負けるのなんて確定だ。

 さっさと逃げる。

 

 僕はそのまま数日間寝て居た寝床を去ったのだった。




 ⊂((・x・))⊃評価を、おくんなせぇ。


 【螟蛉】
 青虫のこと。

 【魘】
 うなされること。鬼を刀でコロコロする漫画に出ている、列車の鬼の名前にも使われている。
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