Side少女
「―ちゃん……〇〇ちゃん起きて」
誰かが私の事を優しく揺さぶる。懐かしさを感じて起きたくなくなっちゃう。この感じ……お姉ちゃんみたい
『〇〇ちゃん大丈夫?』
目を閉じていたい気持ちに抗うと微笑んでるムツキお姉ちゃんと目が合う。
「おはよ、〇〇ちゃん」
「おはよう、ムツキお姉ちゃん」
そう返事するとムツキお姉ちゃんは顔を逸らしてしまった。
「おいおい、ニヤけすぎなんじゃあないか?」
「ちょっ! ロハンちゃん!」
ムツキお姉ちゃんニヤけてるんだ……
「目は覚めたかい?」
「あっ……すみません、私のためにここに来たのに……ぐっすりで……」
「別に謝る必要は無いんだがなァ……まあ寝れる時に寝ておいた方が良い」
そう岸部さんは中指を抑えながら言う。
「あの……岸部さん、指どうしたんですか?」
「ちょっと挟んでしまってね、まあそんなに心配しなくてもいいぜ」
『ゴホッゴホッ……大丈夫だからそんな心配そうな顔しないで〇〇ちゃん』
「くふふ、これはね」
「そんなことよりも阿慈谷を起こさないとな」
あ、話逸らした……なんともないならいっか。
「起こしておいてくれたまえ」
そう言うと岸部さんは紙に何かを書き始めた。
「はぁー、しょうがないなぁロハンちゃんは」
そうムツキお姉ちゃんは肩を竦める。
「ヒフミちゃん! ヒフミちゃん起きて」
「んんー」
肩を揺さぶっても効果は無いみたい、ぬいぐるみを盾にして丸まっちゃった。どうしよう。
「どうしよっか〇〇ちゃん」
ムツキお姉ちゃんも唸ってる。あ、そうだ、あれなら起きるかも。私はムツキお姉ちゃんに耳打ちする
「あはは! 確かにそれなら起きるか」
よし
「あ! 、あそこにいるのって……ペロロ」
「どこですか!?」
早っ
「おぉ流石だね〜〇〇ちゃん!」
「えへへ、そんな事無いですよ」
『〇〇ちゃんはお利口さんだね』
「阿慈谷も起きた所だし早速向かうとしようじゃあないか」
「え、あの……ペロロ様どこですか?」
「何を言ってるんだ? ……あー僕の漫画がモモフレンズとコラボするって話か、まだ先の話だがそれ関係の映画の作画監督を担当することになってね」
え、凄い
「もし、君が来たいんだったら試写会に来るかい?」
「え、あっあ」
ヒフミさんエラー起こしてる……寝起きにしていい話じゃないよね゙。
「ぜ、是非」
「そうか、詳しい話は追々させてもらうよ」
「良かったね! ヒフミちゃん!」
「うへへ」
ヒフミさんの顔が溶けてる……
車を降りて5分程歩くとかなり大きい屋敷が見えてきた。その大きさに威圧されて思わずつばを飲み込むと急に岸部さんが止まって
「僕は一度ここに入ったことがあるんだ」
岸部さんは語り始めた。
──────────────────────―
あれは2年ほど前だったか、知り合いが突然こんな事を言い始めたんだ。
「買い取った屋敷が変なんです」
詳しく聞いてみると、不動産業を営んでいた彼は先日とある屋敷を購入したのだがどうにも違和感を感じるのだと言う。
具体的にどこがおかしいのか聞いてみてもそれがわからないのが尚更恐怖だと彼は言った。正直彼以外がそんな事を言うなら鼻で笑っていただろう。
しかし彼は僕が知る中で一番建物というものに詳しく誠実だ。そんな人間が感じる違和感の正体……気にならないわけがない。彼も僕が興味を持つことがわかっていたのだろう。早速僕達は調査に乗り出す事にした。様々な資料を集め、いざ屋敷に入ると確かに何とも言えない違和感が僕達を襲った。
──────────────────────
唐突に岸部さんが黙ってしまった。
「え? それで終わり?」
「いや、此処から先は自分達で見たほうがわかりやすいだろう」
そう言うと岸部さんは懐から鍵を出し門を開ける。なんで岸部さんが鍵を?
「どうして僕が鍵を持っているのか気になるのかい?」
見透かされている。
「彼嫌になったみたいでね、だから僕に持っててくれって事らしい」
「それって……違和感と関係あるんですか……?」
「さあな、本人にしかわからないさ」
そう言うと玄関に向かって歩き始めた。
ガチャッ
岸部さんが扉を開ける。中から少し冷たい風が流れてくる。少し怖い……
「……〇〇ちゃん、手繋ごっか」
そうムツキお姉ちゃんが手を差し出してくる。私はその手の暖かさを逃さないようにぎゅっと握る。
「じゃあ行こうか」
岸部さんはさっさと入っていってしまった。私達はそれに着いていく。
「中は思ったより綺麗ですね……」
埃があるにはあるが廃墟と呼ばれるには綺麗だ。落書き等も見当たらない。
「さっき僕は家に違和感があるって言っただろう?」
「あ、はい」
「その違和感の正体は霊的な物や超常的な物なんかじゃあなくてもっと根本的な物だったんだ」
「どういう意味ですか?」
「これを見てくれ」
そう岸部さんが取り出したのは手書きの間取り図。さっき描いてたのはこれなんだ。
「これは僕が記憶を頼りにさっき描いた間取り図だ」
記憶を頼りにって割には凄く正確で家具の位置まで記されてる。
「で、どれが違和感の正体なの?」
「おいおい、プロが見つけられなかった物なんだぜ、それなりの仕掛けはあるさ」
そう言うと岸部さんはもう一枚紙を取り出した。これは……
「屋敷を上空から撮った写真さ」
あ、そういう事か。2つを見比べてわかったことがある。
「これって重ねたら……」
「そう、ピッタリ合うはずさ」
そう言いながら2つを重ねてライトで照らす。そうすると丁度私達の右側に隙間があるのが浮かび上がった。
「これが違和感の正体……」
「ああ、この隙間こそ僕達の目的でもあるだろう」
右側にあるのは……食器棚……? それに少し寒さが増した気がする。
「すまないが……阿慈谷これ退かして貰えないか?」
「あ、はい」
ヒフミさんが食器棚を動かす。ググッと動いていく内に後ろにあるものが見えてきた。
「……階段だね」
「そう、そしてこの先に」
「泉があるって事?」
それは光を吸い込む様にただその場に存在している。
「おそらくな、どうする? 見なかった事にして引き返すってのも悪くないんじゃあないか?」
確かにそのほうが良いかもしれない。でもここまで皆が付き合ってくれたのなら最後まで行かない選択肢なんて無い。意を決して中に入る。
『約束! 危ない事は絶対にしないこと! もしどうしようもなくなったら□□□□□□□!』
階段を進むことに心細くなる。でも、みんな一緒なら……
そう進んで行くと、光が見えてきた。光の先には水面があった。濡れないように中を覗くとかなり広い空間があった。
部屋の中が水浸し……というより水張りされている。
「深くは無さそうだけど……冷たそぉ……」
ムツキお姉ちゃんの言う通り。屋敷の中とはいえ、かなり寒い。そんな中で足を濡らすのはかなりキツイ。
「おいおい、冗談じゃあない」
岸部さんが困惑している。
「どうしたんですか?」
「2年前に来たときにはこんな状態じゃあ無かった」
「え?」
「僕達が来たときには
つまり、たった2年でこんな状態になったって事……?
「あそこら辺に穴があるんだ。おそらくだがそこに5円玉を投げ入れるんじゃあないか?」
そろそろ噂の時間も来てしまう。私は靴と靴下を脱いで
チャプンッ
水に足を入れる。水深は足首までしか無いけどかなりの冷たさ。そもそもこの水透き通ってはいるけど……衛生的にどうなんだろう……
穴の前に立つと水の冷たさが増したような気がする。
「じゃあ祈ろっか」
「え、ムツキお姉ちゃん会いたい人居るの?」
「あはは、そうじゃなくて〇〇ちゃんがお姉さんと会えますようにって」
「え、あ……ありがとうございます……」
何から何まで手伝って貰ってばっかりだ……
「私もそう祈りますよ」
「ロハンちゃんは?」
「僕はパスだ」
「えぇー」
「あまりそういうの得意じゃあなくてね」
「得意とかないと思うけど……」
「ほら、時間だぞ」
その言葉を合図に私達は5円玉を投げ入れた。
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