部屋は静まり返っている。こんなにも大量の水が張り巡らされているが水の音すら聴こえない。僕は3人が祈る姿を横目に部屋を観察する。
何故地下にこれ程の空間を作る必要があったのだろうか。かなり昔に作られたのだろう。部屋の至る所が朽ちている。しかし、不思議と不潔さというものは感じず寧ろ神秘的に感じる。広さは平均的な学校の体育館程度だろうか。床に空いた穴を除けばどこかの高名な遺跡のように思える。
ある程度観察を終えて3人に目線を戻す。ライトの明かりが照らす姿は悔しいが絵になる。『祈る』と言うだけなら簡単だが、僕はあんまりそういった事が得意じゃあない。誤解しないで欲しいんだが決して嫌いじゃあないんだ。神や仏が居ないって言いたい訳でも無い。だが感覚として苦手なんだ。だから僕はシスターや僧侶といった人たちのことは結構リスペクトしている。
この場所の噂について考える。泉に5円玉を投げ入れ願えば会いたい人に出会うことができる。無くしたものが見つかる。こういった話はかなりある。縁結びの神社等が近いだろう。だから特段珍しい話でもない筈なんだが……3つ気になる点がある。
1つ僕と彼が結構苦戦したデッドスペースの謎を解明しなければこの部屋には辿り着くことが出来ないのにも関わらず、噂の数がそれなりに多い事。
2つ噂には亡くなった人に会いたいと願った場合どうなるのかが記されてなかった事。ポジティブに考えるなら、僕達が最初にそれを願ったというパターン。ネガティブに考えるなら…いや、彼女達が祈っているのにこんな事考えるのなんて野暮か。
そろそろ足の冷たさが気になって来た。僕が声を掛けようとすると
「何も、起きませんね…」
という阿慈谷の声が静寂に響いた。
「そう…だね」
浅黄が辛そうに相槌を打つ。
「…風邪引いちゃうと大変なので、帰りましょう」
少女は…案外平気そうにそう言った。
「もう…良いのかい?」
僕が思わずそう聞いてしまうくらいにはケロッとしていた。
「はい、大丈夫です」
そう微笑む少女の顔を僕は直視できなかった。
「…僕は明日、絵を描きに行こうと思うんだが…一緒にどうだい?」
「良いですけど…どこに行くんですか…?」
少女が怪訝そうに聞いてくる。
「そうだな…最近赤色の塗料が余ってしまっていてね」
「…!」
「どこかオススメの場所知らないかい?」
「…1つだけ…知ってます」
「じゃあ、そこに行くとしようか」
「…ロハンちゃんずるい〜! 〇〇ちゃんとデートしようとしてるー!」
重い空気を吹き飛ばすかのように浅黄の明るい声が響く。
「ああ、しっかりとエスコートさせてもらうよ」
「私から〇〇ちゃんを奪おうとしてる! 私も着いてくからね!」
「おいおい、絵描き同士の間に割込む気なのかい?」
「ヒフミちゃんも来るよね!?」
「あはは…しっかり寝てませんし、どうでしょう…」
「えぇ~!」
「あの!」
少女が声を張り上げる。
「どうしたんだい?」
「なんで…どうしてそんなに私に…優しくしてくれるんですか…?」
少女がそう問い掛ける。
「なんでって…」
浅黄が答えようとした瞬間
ブクっ
そんな音が聴こえてきた。
「何…今の?」
「穴の方からですよね…」
「ああ、間違いなくそっちの方からだ」
僕達は警戒態勢に入った。
「もしかして…お姉ちゃん…?」
少女のその言葉を皮切りに
ブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブク
バシャッ
水しぶきと共にそいつは姿を現した。
僕は穴の底から上がってきたそいつを表現する言葉を必死に探している。宙に浮いていて…凸凹があって…ゴムのようで…卵…いや『繭』のようだ。
「ひっ…」
怯える少女を浅黄が後ろに下げる。
「何者ですか…?」
『可哀想…可哀想』
阿慈谷の問いにそいつは答えない。
「…どういう意味…?」
「わかりません…何に対してなんでしょう…」
「何がだ?」
「響いている声ですよ」
「いや、僕には聴こえないが…」
「聴こえないって…結構大きな声で言ってるよ」
「私も…聴こえない」
なんだ…何が起きている? 何が聴こえるものと聴こえないものの差を生み出しているんだ…? 少女と僕には聴こえないが阿慈谷と浅黄には聴こえる…どういう違いだ…?
『行こ』
「え?」
ボギュッ
ヤツから異様な音が鳴る
ゴギュッ
右側が膨れ上がる
ボゴボゴ
どんどん形作られていく…あれは…腕か?
そう思った瞬間、ヤツが近づいてきた。
「…っ! 撃ちます!」 「喰らえっ!」
そう阿慈谷と浅黄が引き金を弾こうとする。
「っぐ…くは…」 「あがっ…」
引き金は弾かれない。突如2人が左腕を抑えて蹲ってしまう。浅黄の左腕が真っ黒になっている。長袖で見づらいが恐らく阿慈谷もだろう。
「大丈夫ですか!?」
「力が上手く…入らない…」
少女が狼狽える。ヤツはそんな少女目掛けて文字通り腕を伸ばす。少女に腕が到達するまで約5メートル、ヤツの本体までは距離があるが、僕の射程内だ。僕は少女の前に立ち
「え!? 岸部さん!」
「
僕に当たる直前に腕は力を失い下へと落ちる。
「え? あ、大丈夫ですか…?」
「ああ、偶々助かったみたいだ」
少女は唖然と僕の方を見る。
「いや、でも…」
「とりあえず2人を上まで運ぶとしようか」
僕の能力は死んでいるものに効果は無い。本にすることは可能だが読み書きはできない。
「大丈夫か?」
そう振り返ろうとし僕はヤツの腕に違和感を感じ見る角度を変える。
──────────────────―
阿慈谷ヒフミ 浅黄ムツキ
契約内容
耀奈石ユイを桜宇紡 ユナと会わせる。
──────────────────―
読める…? 何なんだヤツは…生物なのか? 契約…それを邪魔しようとしたから浅黄と阿慈谷が弱体化したって事か…? 少女と姉を会わせる、なら何故こいつは危害を…ああ…そうか…死とは本来不可逆的なものだ…死者を生者にするなんてのは不可能だ…だがその逆は違う。死者と生者を会わせる。その不可能を可能にするためにこいつは生者を死者としようとしているのか…!
契約を無効にする
駄目
なっ…文字が消された…!?
契約なんて無かった
会わせてあげないと
これも駄目か!
「早く上まで運ぶぞ!」
この廃墟から出れば力が弱まるタイプかもしれない。とにかくヤツのテリトリーにこのまま居続けるのは危険すぎる。
「…ます」 『邪魔しないで』
「どうした阿慈谷?」
「まだ声が聞こえます…」
ゾッ
その声と同時に僕と少女は振り返る。
ヤツが浮かんでいる
「ッ! …」
僕の能力はまだ解除されていないはずだ…! その証拠に腕はまだ本の状態だ。
だが腕が使えないならヤツの攻撃手段は体当たりしかない筈だ遠距離攻撃を持っているならさっき使った筈。移動速度はそれほど速くなかった。ならばここは
「おい、逃げッ」
瞬間僕は殴り飛ばされた。
バシャンっ
「岸部さん!」
少女の悲痛な叫びと冷たい水が僕が意識を失うのを許さない。ヤツは瞬間的に腕を4本生やしていた。何とか2本は逸らすことができたが…2本はもろに喰らってしまった。油断していた。腕は一本しか生やすことができないとヤツを侮っていたんだ。
「ひっ…」
僕を殴り飛ばした4本の腕が少女を掴む。そのままヤツは穴へ向かって進み始めた。
「離してっ!」
少女が暴れるが効果は無い。
早く…早く助けなければ。頭ではわかっていても身体が動かない。何か…何か無いか…? あの子を助ける方法は…動け…岸部ロハンあんなに美しい祈りが…優しい願いが…こんな結果を生み出す事を許すことはできない!
────────────────────―
Side少女
これは…きっと罰だ。
今日は私の人生の中で1番楽しい日だった。
だから…今日で終わっても良いって…思う。思うのに…どうしてだろう…前が見えない…人生最後に見る光景なのに、ぼやけて…何も…見えない。目を擦りたいのに両手を掴まれてて…皆の顔…見えないと……やっぱり…寂しいな。
ガシッ
誰かに足を掴まれる。
「ッ…今助けるからッ!」
ムツキお姉ちゃんが私の涙を拭く。暖かい笑顔が見える。
「ぐっ…」
「お姉ちゃん…! 危ない!」
お姉ちゃんが殴り飛ばされる。
「ムツキさん! …おりゃっ!」
ヒフミさんが体当たりをする。なんで…そんなに辛そうなのに…
「キャッ!」
ヒフミさんは吹っ飛ばされてぐったりしてしまっている。
「このッ!」
ムツキお姉ちゃんが飛びかかる。…また吹っ飛ばされてしまった…それでもすぐに立ち上がる。
「お姉ちゃん…! もうやめて!」
「〇〇ちゃん…大丈夫だから」
なんで立ち上がれるの…? ボロボロで、銃を持てない状態なのに…
「絶対に助ける!」
私ははもう…満足だから…もう大丈夫だから…誰か…助けて
「これってクーリングオフできないのかい?」
突然私を掴んでた腕が無くなる。
岸部さんがムツキお姉ちゃんを支える。
「ロハンちゃん…大丈夫なの…?」
「ああ、ずぶ濡れにされたのはムカつくが僕は水も滴る良い男だしな、それに…僕よりも君のほうが随分かっこよくなってるじゃあないか」
私…助かったの…? どうして…急に…腕の主は動く様子はないし…それよりもヒフミさんは!?
「ヒフミさん!」
「大丈夫、軽く気を失っているだけだ」
「良かった…」
本当に良かったぁ…
「ほら、浅黄を支えてやってくれ」
「え、あ…はい!」
ムツキお姉ちゃん…すっごい傷だらけだ…私のせいで…
「はぁ…」
岸部さんはため息を吐き
「君、死にたくないだろ?」
え? なんでそんな事急に…?
「それって…どういう…」
「…恐らくあいつに連れて行かれれば君の会いたい人には会うことができるだろう」
「…!」
「だが…それは、片道切符だ」
「ロハンちゃん…どうしてそんなのわかるの…?」
「噂では死んでいる人に会いたいと願った人の話は出てこなかった。恐らく帰って来れないからだろう」
帰ってこれない…
「君がもし、その切符を掴むのなら僕は止めはしない」
「だが、もし一欠片でも後悔が…心残りがあるのなら今すぐ帰って何か暖かい物でも食べると良い」
後悔…その言葉を聞いて私の頭の中に浮かんだのはお姉ちゃんのお陰で楽しくなった日々だった。
私は…まだ…
「生きていたい…!」
お姉ちゃんがくれた物を大切にしたいから。
「だ、そうだ」 『わかった』
岸部さんがそう言った瞬間動きを止めていた繭が腕を振るう。
「〇〇ちゃん! 危ない!」
ああ…助かりたいって思っちゃった。私は何も見ないように目を瞑った。
……
何も無い…掴まれてもない…?どういう事…?私は恐る恐る目を開けた。
「え…な…んで?」
なんで…私じゃなくて…岸部さんが掴まれてるの!?
「何が…どうなって…」
ムツキお姉ちゃんも混乱している。
「まあ、これしか僕にはできなかったって事さ」
「何を…言ってるの…?」
繭は岸部さんを穴の方へ引きずっていく。
「おいおい、腕一本しか無いからって引きずることはないじゃあ無いか。残念だが僕の能力では君達とヤツとの間の契約を書き換える事はできなかった」
「能力…?」
「ああ、それを使って少し付け足させてもらった」
────────────────
阿慈谷ヒフミ 浅黄ムツキ
契約内容
耀奈石ユイを桜宇紡ユナと会わせる
耀奈石ユイが拒否した場合、代理として岸部ロハンが桜守紡 ユナと会う。
────────────────
「ロハンちゃん…どういう事…?」
「僕はヘイローが無いかわりに少し特殊でね、人の記憶や心を本にしてを読むことができる、そう…こんなふうにね」
「ヘブンズ・ドアー」
岸部さんの顔が本みたいになっちゃった…!?
私とムツキお姉ちゃんは唖然とする。
「なっ…でも…どうして今になって…それを…?」
「助かる見込みが無いからな、どうせ死ぬなら〇〇にインスピレーションを与えてからのほうが有意義だろ?」
そう、岸部さんが私の目を見ながら言う。
「でも…付け足したって事は…私が…私がお姉ちゃんに会い」
「それは駄目だ」
「ッ!」
岸部さんの言葉に口を閉じてしまう。
「〇〇そのまま口を閉じておくんだ。良いか、僕の能力もそこまで万能じゃあない。付け足しだってコイツが大分譲歩してくれたから出来たようなものなんだ」
私は頷く。
「でも、このままじゃ…!」
「浅黄、君〇〇のお姉さんなんだろ? ならしっかりと優先順位を付けるんだな」
「でも…でも」
ムツキお姉ちゃんは狼狽える。
「〇〇、君さっきなんで私に優しくしてくれたんだって言ってたよな」
「…はい」
「他の奴らはお人好しだからな、特に理由なんか無いだろう」
「え…」
「悪いが僕には1つ、とても大きな理由がある」
「君の絵が上手いからさ」
ッ…!
「なんで…そんな事…で」
「おいおいおい、そんな事って君ぃ僕は漫画家だぜ?」
「そう…ですけどっ!」
「君より絵が上手いやつは沢山いるさ、だが、君より才能のある…絵に想いを篭められる人間を僕は知らない」
岸部さんっ!
「あ、勿論僕を除いての話だがな」
岸部さん…
「だからそのキヴォトスで2番目の…いや僕が居なくなるから1番目か」
岸部さんはニヤリと笑う。
「笑いごとじゃ…ないですよ…」
「確かにな、〇〇その才能を腐らせないようにな」
「はい…!」
岸部さんは目を閉じる
「今思ったんだが…これ結構余裕あるな」
「ねぇ…ロハンちゃん」
「どうした?」
「どうしたじゃなくて…」
「うん?」
「なんで…助けてって言わないの…?」
「やれることは全部やったからな」
「まだ私達がいる!」
「無理だ、平常時の君なら兎も角今の君には」
「なら、助けを!」
「ここは地下だ、電波が通らない。上に上がろうにもこいつは君が妨害行為をしようとした瞬間攻撃態勢に入るだろう」
「ッ…! それでも!」
ムツキお姉ちゃんが拳を握り込んで繭に飛びかかろうとする。
「浅黄…君は僕が見る最後の景色を仲間がボロボロにされているものにする気か?」
「だって…! だって…!」
「おいおいおい、お姉さんが妹分の前で泣くんじゃあない。陸八魔と鬼方には旅に出たとか何とか言っておいてくれ、阿慈谷には…上手く誤魔化しておいてくれよ」
「嫌だ…」
「でも、唯一心残りがあるとするのならコイツの正体を知りたかったなァー!」『困る』
うん、元を辿れば私のせいでこうなってる。それは忘れてはいけない。でも、この人ムツキお姉ちゃんが泣いているのに反応薄いし、淡々とし過ぎじゃない? なんだか腹が立ってきた。どうにかしてこの人を助けよう。
でも…どうやって…? 考えないと…
この繭は会いたい人に会わせてくれる。どうやって? あの穴に向かっているってことは溺れさせるってこと…? 違う…腕が沢山生やせる時点で首を絞めたほうが確実だよね。
岸部さんの能力は記憶や心を本にして読む事が出来る。そんな人が片道切符って言ってた…つまりピンポイントでお姉ちゃんの所に行ける…? 待機所みたいな…駅のホームみたいな感じかな…?
繭の目的は会わせる事…つまり連れてくのは目的じゃない!
『もしどうしようもなくなったら思いっきり』
私は精一杯息を吸い込み
「お姉ちゃんー! ユナお姉ちゃんー!」
『私を呼ぶこと!』
「助けてぇー!」
────────────────────―
Side岸部ロハン
少女の声が辺りに響く。
「おい! 君僕の話聞いてないのかい!? 君が会う事を肯定してしまったら!」
「それはわかってます!」
「なら、なぜ!」
「大丈夫です! 約束したから!」
少女の方へ向かおうとする腕にしがみつき時間を稼ぐ。ヤツは更に4本腕を生やし少女へと伸ばそうとする。
「弾け! ヘブンズ・ドアー!」
不意打ちでないのなら4本くらい弾くことはできる!
『面倒…面倒』
「約束って何を!?」
「危ない事してどうしようもなくなったら!」
おいおいおいおい、8本は流石にやばいぞっ!
「思いっきり! お姉ちゃんを呼ぶって!」
『確かに言ったけど怒ってるからね!』
「それはそう…だ…」
「え、嘘…」
そこにいたのは写真でだけでしか見たことのない
「お姉ちゃん…!」
ちょっと頬を膨らませ様子で佇んていた。だが次の瞬間には優しい顔になる。
『久しぶり、大きくなったね〇〇ちゃん』
そんな言葉に少女は面食らってしまったようで
「え、あ、あ…」
何も言えなくなってしまっている。
こういう時に手を貸すってのは粋じゃあないが、これじゃあ折角の再会が勿体ないしな。
僕は少女に近づき少女の手の甲だけに能力を使い、書き込む
言いたい事全部言う
「お姉ちゃんっ! 私、約束しっかり守って…友達一杯できたよ! それに! 洗濯も掃除も…料理はまだ練習中だけど、頑張ってて!」
涙を流しながらそれでも笑顔で伝える
『うんうん』
「後、絵! 完成したの! …よし! ギリギリ濡れてない!」
少女はバッグから丸めた画用紙を取りだし広げる
『えぇー!? ちょっと上手くなりすぎ!』
「えへへ、あの…お姉ちゃん、ありがと」
『うん』
「私、今日沢山良い事があって…あ! ほら! 岸部さんと! ムツキお姉ちゃん! あっちで横になってるのがヒフミさん!」
『どうも、ユイちゃんがお世話になっております』
「ああ、すごく沢山お世話してやって」
「ねぇ、ロハンちゃん余計な事言わないでね〜?」
浅黄に肩を掴まれる。
「いえいえ、全くそんな事ないよ」
「うんうん!」
「えっと! それから」
『ユイちゃん、ごめんね』
「そんな…謝んないでよ…」
『そろそろ行かないといけないみたいなの』
「ッ…そっ…かぁ」
『ユイちゃん、私本当は不安だった』
「うん…」
『でも、安心した。素敵な人達と出会えたみたいだし』
「うんっ! すっごい人達ばっかりなんだ!」
「これも全部お姉ちゃんが色々教えてくれたから!」
『ううん、ユイちゃんが頑張ったからだよ』
「いや! お姉ちゃんのお陰!」
『いやいや、ユイちゃんの頑張り!』
『「じゃあ両方で!」』
2人は息ぴったりに笑う。
『じゃあね、ユイちゃん』
「うん、じゃあ」
「ちょっとだけ待ってくれないか」
僕は別れの挨拶に割り込む。
「〇〇、これ、渡すんだろう?」
そう言って僕はポケットから白い造花を1本取りだし少女に握らせる。
「…うん! お姉ちゃん! これ持っていって!」
『ありがと、ユイちゃん。とっても嬉しい』
「うん、またね! ユナお姉ちゃん!」
その言葉に首肯いて空気に融けるように消えてしまった。
『会えて良かったね』
ああ、同感だ
──────────────
深夜車通りも疎らな道路を静かに走る。
車内には少女と阿慈谷の寝息、そして
「はぁ~私にもお姉ちゃんが居たらあんな感じなのかな〜」
浅黄の声が響いている。
「さあな、あれ程いい姉は中々いなさそうだな」
「確かに…そうだね」
「なんだ、珍しく暗いな」
「いや、私…お姉ちゃんって〇〇ちゃんに言ってもらってたじゃん…?」
「ああ」
「だけど、本物には勝てないな〜って」
「別に彼女達も血が繋がってる訳じゃあないだろ?」
「そうだけど…なんか、負けた感じがするって言うか…」
「勝ち負けじゃあ無いだろ」
「でも…悔しいな…」
「はぁー、なぁ
「え?」
「君はどんなにボロボロになっても少女を助けることを諦めなかった。少女の心に寄り添っていたしな。…それに…君の私達を頼れって言葉少し頼もしかったぜ」
「…」
「だから、僕が言うのもなんだが今日の君はとても姉らしかったと思う」
「…」
「僕はそんな君に敬意を表するよ」
やけに静かだな
「…ぐぅ」
「おいおいおい、人が折角……褒めてるのになァ〜」
僕は視界端の赤くなった耳に気が付いてないフリをして鼻歌を歌いながら事務所に向かった。
貴方が思うこの世で1番強いものは何ですか?