岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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暗いところに行くとき、ヘイローが欲しくなる。


『DMI』①

 

 

「はぁ……」

 

 吐いたため息が白くなる。正午一歩手前、少し着込みが足りなかったかもしれない。歩きながらあの夜の事を思い出す。

 

 殴り飛ばされた痛み、水の冷たさ、そしてあの繭の様なもの。

 

 水面に映るその姿はこの世のものでは無い恐ろしさとどこか美しさを感じさせた。どうにかその姿を描こうとしてみたが何かが表現し切れない。

 

 気晴らしで散歩に出たは良いもののこの寒さが更に悩みを強固にしているように思えてしまう。

 

 

「おいっ! さっさと出してもらおうか!」

 

「早くしてもらわねぇと日が暮れちまうなぁ!」

 

 道の奥から何か捲し立てる様な声が聞こえてくる。足早に歩いてくるブルドックのサラリーマンに事情を聞いてみる。

 

「急いでいる所申し訳ないが、この先で何かあったのかい?」

 

「え? ええ、不良達に中学生位の娘が路地裏の方に連れて行かれて……」

 

「ふーん、どれくらいの人数だったんだ?」

 

「何人って……まさか行く気ですか……? やめておいたほうが良いですよ、もしこの先に何か用事でもあるんでしたら危ないから別の道で行ったほうがいいですよ」

 

彼の円らな瞳にはこちらを心配している色が浮かんでいた。

 

「ああ、どうやらそうした方が良いらしいな」

 

 今は面倒事に関わる気分じゃあない。別のルートに向おうと振り返ろうとした時に

 

『誰かぁー!』そんな声を思い出す。

 

 僕はさっきよりも深く息を吐くと奥へと歩みを進める。

 

「ちょ、危ないですって! ああもう! 不良の数は5人でしたよ! 忠告はしましたからね!」

 

 彼に振り向かずに手を振る。どうやら彼は結構親切な性格をしているみたいだ。

 

 少し開けた場所に出ると見えて来たのは、涙を流し蹲る少女とそれを囲む不良達の姿だった。

 

「ヘヘッ面倒かけやがって」

 

「あーあー! 無駄な時間使わされちまったなぁ!」

 

「あははこりゃ慰謝料もんだなぁ!」

 

「う…うぅ…返してっ…」

 

 不良達は少女の紙袋を見せつける。

 

 恐らく、不良達に囲まれている彼女にとって袋の中の物は凄い大事な物なんだろう。なにせボロボロになっても手を伸ばしてるしな。

 

 さっさと諦めていれば痛い思いをせずに済んだかもしれないのにな。痛みによって涙を流しながらもその桃色の目はしっかりとそれを捉えている。

 

 思わず笑みが溢れる。ああ…多分、諦められる程器用な性格してないんだな。

 

 気に入った。僕はペンを取り出し()()()する。

 

「なあ、その慰謝料ってのは君達が払う側だよな」

 

「ああん!? なんだ急に!」

 

「あ……ぇ……?」

 

 前から思っていたんだがどうしてこうもデカイ声なんだろうな不良ってのは。小さくこそこそしてたら僕はわざわざここまで来なかったってのに。

 

「そんな大きな声出さないでくれよ、近所迷惑だ」

 

「んだてめぇ! ウチらの事舐めてんのか!?」

 

オーソドックスな不良過ぎて吹き出してしまう。

 

「ふふっ……いやぁ? そんなつもり無かったんだが……生憎本心を隠すのはあんまり得意じゃあないからなぁ……態度に出てしまっていたら申し訳ない」

 

「コイツっ……」

 

 不良の1人が僕の顔をじっと見つめ

 

「あんた……見たことある顔だな…岸部ロハンだろ?」

 

 人気者は辛いな、すぐに素性がバレてしまう。

 

「ああ、そうだよ」

 

 僕の言葉に不良達は浮足立つ。

 

「おい! マジか!」

 

「人気漫画家って事は……持ってるよなァ金目のもん!」

 

「今、大人しく出せば半殺しで許してやるよ!」

 

 大人しく出しても半殺しねぇ……

 

「に…げて」

 

「おい、うるせーぞ」

 

 不良の蹴りをダイレクトに喰らい中学生が動かなくなる。自分の方がボロボロの奴に心配されるのはこれで2度目か。

 

 にしても初めてだな、漫画家って明かしてサインを求められなかったのは。

 

「あんた、ヘイローがないじゃないか!こりゃあ手加減するのは大変だなぁ?」

 

 ニヤニヤと性格が悪そうな笑みをこちらに向けてくる。ヘイローねぇ…

 

「ああ、お互い様だな」

 

「おいお前ぇ!さっきからナメやがってッ!気に食わねぇなぁっ!」

 

「やっちまおうぜ!」

 

 不良2人が僕に向かってくる。

 

「きゃっ」ゴッ! 

 

「うわっ」ズブッ

 

 不良の1人が足を取られて顔から地面に倒れ込む。もう一人は体制を崩すだけに留まるが…もう遅い。

 

「おい! どうした!?」

 

 不良達が狼狽える。

 

「なあ!なんか地面がおかしくなってっ!」

 

 

半径1メートルが底無し沼になる

 

 

 ドロドロになっていたアスファルトがもとに戻り不良達の足を固める。

 

「助けてぇ…くれぇ…足が…足がっ!」

 

 

 先ずは2人

 

「おい……お前! 何をした!?」

 

「何って……何がだい?」

 

「とぼけやがって!」

 

「僕にこんな事出来るわけないじゃあないか」

 

「お前以外に居ねぇだろ!」

 

「何をしたんだよ!」

 

 そう言って不良は銃を僕に向ける。

 

「なぁ! 流石に殺すのはまずいって!」

 

「早く、あいつ等を元に戻せよ!!」

 

 半ばパニックに陥っているようだ。仲間の足が突然アスファルトに埋まる光景を見て冷静でいられる方がおかしいか。

 

 

ボゴッ! 

 

「ぐがっ……」

 

 突然飛んできたコンクリートブロックが不良に直撃する。流石ヘイロー持ちだな白目を剥いて倒れるだけで済んでいる。

 

時速80キロ、角度60で北へ飛ぶ

 

 3人目

 

「おい! テメェ!」

 

「なあ、君達の目は節穴か?僕はここから一歩たりとも動いてないんだ、何ができるって言うんだい?」

 

「このっ!」

 

 僕を撃とうと銃を向け引き金を引く不良。ヘブンズ・ドアーで側面を叩き銃弾を逸らす。

 

「はぁ!?なんで当たらないんだよ!」

 

 

円で囲った部分が5メートル突き出す

 

 

「おごッ」バタッ

 

 突き出した壁が顎にクリーンヒットし、意識を失う。

 

 4人目。

 

あと一人か。

 

「ひっ……ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 残った最後の不良に近づく。

 

「やだッ……やだッ来るなっ!」

 

 後ずさる不良、腰が抜けていて思ったように動けていない姿は哀れに思えてくる。

 

「あっ……嘘……嫌だ……やめて……」

 

 壁に背がついてしまって逃げる場所が無いことを悟ってただ祈る事しかできないようだ。

 

 僕はしゃがんで目線を合わせ手を突き出す。

 

「ほら、あの子の紙袋」

 

「あっ……え?」

 

 どうやら理解してない様だ。

 

「だから君達があの子から奪った袋」

 

「これっ……これっ……渡すからっ……渡すから……許して……」

 

 不良が僕に袋を渡し懇願する。

 

「ああ、わかった」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「ヘブンズ・ドアー」

 

「あっ……え……なにこれ……」

 

「今、心の扉は開かれる」

 

バサっ

 

 5人目だ。

 

 

 結局全員に能力を掛けるのが1番手っ取り早いんだが……確かめたかった事もあるしな。僕の能力、以前は無機物に書き込む時にはかなりの疲労感があったが今は殆ど無い。更に無機物に書き込んだ文字が残る時間も以前は1秒にも満たなかったが3秒ほどに延びていた。

 

それがわかったのは良いんだが…後処理が面倒臭いな。僕は不良達を本にし引きずり1箇所にまとめる。

 

 

さっきまで絡んでいた中学生に返り討ちにあい気絶した

 

岸部ロハンには恩がある

 

 

「別に君達がどうなろうと興味は無いが…」

 

 

ボランティア活動に興味を持つ

 

 

無償労働ってので少しは反省するといい。

 

 

 書き込みを終え、座り込む中学生に声をかけ膝をつき頬を軽く叩く。

 

「おい、大丈夫か」

 

「う…うう…もっと優しくして…」

 

 ゆっくりと目を開いた桃色の目と視線を合わせる。

 

「ほら」

 

 僕が差し出した紙袋をポカンとした様子で眺める。

 

「あ…え…なんで…?」

 

「なんでって、これ君のだろ。ずっと持ってるのも結構疲れてきたから早く持ってくれないか?」

 

そう少女は僕が差し出した紙袋を大事に抱きしめると

 

「あ゛り゛か゛と゛う゛」

 

大粒の涙を流しながらもお礼を言ってくる。

 

 

 参ったな…泣かれるのは苦手なんだ。

 

 

 

 

しばらく待つとどうやら落ち着いた様だ。僕は懐からハンカチを取り出し目の前のホコリと涙で汚れた顔を拭う。

 

「落ち着いたかい?」

 

「…うん…」

 

「そんなにボロボロになるほど大事なの物なのかい? それ」

 

 僕のわかりきった質問に中学生は優しい顔をして

 

「ミドリ…妹への誕生日プレゼントなの」

 

「へぇーよっぽど大切なんだな妹の事」

 

 随分と僕は姉妹とやらに縁があるらしい。

 

「君、名前は?」

 

「モモイ…才羽モモイ」

 

「岸部ロハンだ、ほら才羽立てるか?」

 

 僕が差し出した手を取り立ち上がる。

 

「すまないが、彼女達を運ぶの手伝ってくれるかい?」

 

 ボロボロとはいえ、僕よりも力はあるだろうしな

 

 僕の言葉にコクっと首肯く。

 

 二人で近くの公園のベンチに不良達を運び寝かせる。

 

「ねぇロハンさんってあのロハンさん?」

 

「君が言うロハンが誰かは知らないが…キヴォトスで1番有名なロハンの事なら僕だよ」

 

「うわぁ~本物だぁー!」

 

さっきまでの顔とは打って変わって目を輝かせている。

 

「レアエンカウントだぁ~!」

 

「そこまで僕って珍しく無いと思うんだが」

 

「そうかな…どのくらい?」

 

「出かけた先で同じ服を着てる人と会うくらいだな」

 

「うわ〜結構ありそうでなさそう…」

 

あれ何故か少し嬉しくなるよな。

 

才羽が紙袋に視線を落とす。

 

「ロハンさんがこれ、取り返してくれたじゃん」

 

「ああ、そうだな」

 

「ロハンさんどうやってあの人達を倒したの?」

 

まずい…軽率に答えるべきではなかったか。ここはかなり厳しいが…

 

「運が良くてね、頑張って攻撃を躱してたら同士討ちしてくれたみたいでな」

 

 苦しい言い訳だが……どうだ? 

 

「なにそれ!超すごいじゃん!」

 

 才羽がかなり純粋で良かった。

 

「フレーム回避極めてるってこと!?」

 

「ああ、そうなるね」

 

「やっぱり1流漫画家って人の動きとか予測できちゃうの!?」

 

「ああ、この岸部ロハンが出来ない訳無いだろう」

 

 尊敬の眼差しがここまで苦しいものに成り得るとは…いい経験になった。

 

「やっぱり凄いなー!…あの…これにサインって貰える……?」

 

 そう才羽は袋から1つ長方形の箱を出す。

 

「構わないがそれ大事な物なんじゃあ無いのかい?」

 

「あの、ミドリ…絵を描くことが大好きだから…これにロハンさんのサインあったら喜ぶだろうなって!」

 

「ああ、わかった」

 

 つくづく妹思いなんだな。白い箱にサインを描く。

 

「うわぁー!なにこれすっごい!」

 

「誕生日用の特別仕様だ。内緒だからな」

 

「うん、わかった!本当にありがとうっ!ロハンさん!」

 

 随分と軽快で明るいやつだ。

 

「う、うう……」

 

不良の1人がうめき声を上げる。そろそろ意識が戻る頃か。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 道行く人々の驚愕した視線を横目に、画用紙にペンを走らせる。イルミネーションが設置され、明かりが付いていなくとも存在感を放つ。この時期の街は少し浮つき始める。

 

 僕は別にそこまで楽しみにしてる訳じゃあ無いが浮つく気持ちもわかる。まあ、わかるとは言っても

 

「喝上げは少し、浮つき過ぎじゃあないか?」

 

「「「「「はい……すみませんでした」」」」」」」

 

 土下座をしている不良達を2人で見下ろす。

 

「まあ、いい経験になったよ、僕サインを強請られることはしょっちゅうだが金目の物を強請られた事は無かったからなぁーいやぁ本当にいい経験になったなぁー!」

 

「「「「「本当に申し訳ありませんでした…もう2度としません」」」」」

 

「僕に言われてもねぇほら君達が1番傷つけた相手に言わないと」

 

「「「「「すみませんでした」」」」」

 

「えーどうしようかなー?」

 

「おいおいおい、誠意が足りてないんじゃあないか?」

 

「「「「「誠に申し訳ございませんでした」」」」」

 

「もっと深く!」

 

 そう才羽に言われた不良達は頭を更に地面に擦り付ける。

 

「ふふっ……僕としてはこんなにも見事な土下座を見せてもらったから勘弁して上げてほしいんだが…どうだ?」

 

「うーん…ロハンさん言うなら…良いよ」

 

「「「「「ありがとうございます……!」」」」」

 

 そう言って立ち上がろうとする不良達を制止する。

 

「あ、おいおい、まだ描いている途中じゃあないか、もう少しそのままでいてくれ」

 

「そうだそうだ!」

 

「「「「「……はい」」」」」

 

 不良達声のトーンが下がる。何か不満でもあるのかと文句を言おうと口を開いた時

 

「あのロハンさん、どういう事なのかしらこの状況?」

 

 

 振り返ると陸八魔が困惑した様子でこちらを見ていた。

 




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