岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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『DMI』③

 

 

激戦を制し、事務所へ向かう僕達。

 

「ふふふーん♪」

 

鼻唄を歌い上機嫌な陸八魔を横目に僕は空を見上げていた。

 

「これは、雨降るね」

 

「え〜じゃあ急がないと!これ濡れちゃうかもしれないし!」

 

そう、才羽は紙袋をクイッとこちらに見せる。

 

「ああ、そうだな」

 

そうして僕達は少し歩く速度を上げる。

 

ポツンッ

 

「冷たっ!」

 

その反応を皮切りにアスファルトがどんどん色づいていく。遠くの方から雷の音が聞こえてくる。

 

「どこかで雨宿り出来ないかしら?」

 

「そうは言ってもここら辺何かあったか?」

 

「うーん…ちょっと行った所に喫茶店が…」

 

「あ!ほら見てあそこ!多分ゲームセンターだよ!」

 

才羽が指を指した方に目をやると確かに少し古びたネオンライトが光る建物がある。自動扉の先にはクレーンゲームが置いてあるようだ。

 

「…この辺にゲームセンターなんてあったかしら?」

 

「僕達、あんまりそういったの興味無いから見落としてたんじゃあないか?」

 

「そう…よね」

 

僕達は雨が本降りになる前にゲームセンターに入る事にした。

 

中に入るとゲームの音がダイレクトに鼓膜に響き、顔を顰める。結構広い建物で2階にもゲームがあるようだ。

 

「あれ?人全く居ないね」

 

「まあ、ここは少し駅から遠いからな、わざわざここまで来る人も少ないんだろう」

 

「ふーん、ちょっと寂しいね」

 

寂しい…か。ゲームってのは人がプレイする事が前提に造られている。それが誰にもプレイされずこうして音と光をただ発するだけの空間。ああ、これは寂しいな。

 

「で、陸八魔そんなに真剣に何を見ているんだ?」

 

僕の視線の先にはクレーンゲームの中身をじっと見つめている陸八魔の姿だった。

 

「懐かしいなぁと思って」

 

「確かに!結構前にテレビとかで観てた!」

 

「ふーん」

 

クレーンゲームのガラス越しに耳が特徴的な猫のキャラクターと目が合う。

 

「ロハンさん観たことないの?」

 

「ああ、ちょっと知らないな」

 

「えー結構有名だったのに」

 

「知らなくて悪かったね」

 

良く見たらこのぬいぐるみ腹立つ顔してるな。

 

「拗ねないでよ〜」

 

「拗ねてない」

 

「…ちょっと取ってみようかしら」

 

「おぉー頑張れー!」

 

「おいおいおい、折角あのスーパーで節約したのにいいのか?」

 

「…少しだけなら大丈夫な…筈」

 

陸八魔は小銭を財布から取り出し、クレーンゲームに入れる。

 

「そもそもこういうクレーンゲームってのは何回かやらせる前提だろ?」

 

「意外と取れちゃうかもよ」

 

「無いね、言っちゃあ悪いがこんなにガラガラなゲームセンターの設定が甘い訳が無い」

 

そんな会話をしながら陸八魔のクレーンを眺めていると

 

ガシッ

 

クレーンがぬいぐるみを掴みゆっくり上がっていく。

 

「お!もう少し!」

 

「よし、そのまま」

 

そのままクレーンは出口の方へと運ばれていく。

 

「確定じゃん!良かったね!」

 

「一回で取れて良かった〜」

 

クレーンはぬいぐるみを離す。

 

「あれ…出てこなくない?」

 

「え、嘘!?」

 

才羽の言う通り落とした筈のぬいぐるみが出てこない。

 

「あーこれ引っ掛かちゃってるね」

 

どうやら出っ張りに引っ掛かってしまっているようだ。

 

「取れたと思ったのに〜!」

 

「ここまで行ってれば店員に言えば出してくれるんじゃあないか?」

 

「ほんと!?」

 

「僕は知らないが、流石にな」

 

仕様では無いようだしな。

 

「でも、店員さんどこだろうね?」

 

見渡すが店員の影も形もない。

 

「2階とかかな?」

 

「じゃあちょっと行ってくるわね!」

 

そう言うと陸八魔はキビキビと階段を上がっていく。

 

「まさか引っかかるなんてね」

 

「ついてないな」

 

クレーンゲームコーナーからちょっと外れたところにアーケードゲームが置いてある。

 

「ロハンさんってこういうゲームやったことある?」

 

「まあ、少しだけあるよ」

 

雑談しながら色々見て回る。僕が知らないゲームは才羽が解説してくれ、興味のない僕でも退屈する事は無かった。

 

「え、これワンプレイ50円だって!」

 

2台並んだゲームを前にテンションを上げる才羽

 

「その反応的に知らないゲームかい?」

 

「うん!初めて見た!」

 

ゲームのタイトルは…『Parallel・shift』どんなゲームかはタイトルじゃわからないな。

 

「パラルリーシャフト?」

 

「パラレルシフトだ」

 

「どんなゲームだろ?」

 

「やってみるかい?陸八魔はまだ来ないようだし」

 

「2台あるからロハンさんもやろうよ!」

 

「いや、僕は」

 

「ほらほら」

 

才羽に押され2人で横並びになる。

 

「はぁ、一回だけだからな」

 

チャリンっ

 

ゲームの画面が切り替わる。どうやらキャラクターを選択しろというわけだ。

 

「あっ、格闘ゲームなんだぁ」

 

とりあえず僕は適当に狐のお面をつけたキャラクターを選択する。

 

「対戦する?」

 

「遠慮しておく、僕は操作方法わからない初心者なんだ」

 

「私もこのゲーム初めてだし!逃げるの?ロハンさん」

 

「そんな安い挑発に乗るのは癪に障るが…いいだろう」

 

「よし!じゃあスタート!」

 

そうして始まった対戦。僕の操作するキャラクターが才羽の操作するキャラクターのヒットポイントを半分ほど削ったところで才羽がジャストガードを決め一気に逆転され僕のキャラクターのヒットポイントは0になってしまった。

 

「危なかったー!」

 

すると画面に『コンティニューしますか?』の文字が浮かぶ。

もちろん僕は空かさず『はい』を選択する。

 

「え?コンティニューなんてあるの!?」

 

「無いのが普通なのかい?」

 

「対戦ゲームでコンティニューなんて初めてだよー!」

 

コンティニュー前に半分ほど削っていた為、特に難なくもう半分を削り切る。

 

「こんなのずるだよー!」

 

「ビギナーズラックって奴かな、日頃の行いが良くてよかったよ」

 

「ぐぬぬぬ」

 

そうして僕がボタンから指を離そうとすると

 

「あれ?コンティニューしますかって」

 

普通こういうのって片方にしか出ないものだと思ったんだが…

 

「なぁ、才羽初心者に勝ちを譲るってのも大事じゃあないか?」

 

「…ロハンさん、私もこのゲーム初めてなんだよね」

 

「待ってくれ!」

 

才羽がはいを選択する。確かに分が悪いが、しかし

 

「才羽、君は負けから復活したんだぜ?つまり勝負の流れは僕にある!」

 

「ふふふ、来なよロハンさん」

 

そうして僕は負けた。

 

「マイナーゲーム特有のよくわからない機能だったね」

 

「僕はもう2度とやらないね」

 

「じゃあ違うやつ教えるからもっと色々やろうよー」

 

「はぁ、君がやった事ないジャンルで頼むよ」

 

「よーし、任せて…って私がやった事ない奴ってどうやって教えれば良いの?」

 

「良く気がついたな」

 

「全くロハンさんったら〜」

 

ゲーム音に混じって外の雨の音が聴こえる。まだ止む気配はない。

 

「あ!やばっプレゼントクレーンゲームの所に置いて来ちゃった!」

 

「おいおい、大事なものなんだろう?早く取りに行ったほうが良い」

 

「うんっ!何か興味のあるゲームあったら言ってね!」

 

「はいはい」

 

才羽は小走りで入口の方へとかけて行った。

 

「興味のあるゲームか…」

 

実を言うと僕は結構負けず嫌いだ。絶対に才羽に勝てるゲームがないかどうか探そうと、その場を離れようとした時。

 

ゴダッ

 

後ろからそんな音がした。僕が振り返ると

 

「随分と早いな…どうしたんだ才羽、そんなところで手をついて」

 

才羽が四つん這いで床を見ていた。恐らく転んだんだろうな。

 

「おいおいおい、気をつけるんだな、折角のプレゼントが大変な事に…」

 

何かがおかしい、才羽の手には紙袋が無い。それに銃も無い。何よりさっきから僕の言葉に全く反応をしない。いい機会だ僕は能力を使おうと才羽に近づく。

 

「どうしたの?ロハンさん」

 

僕が振り返ると紙袋を手に持った才羽が首を傾げていた。

 

じゃあ…こいつは?

 

「ん?誰その子?」

 

僕は視線をそいつに戻す。表情は見えない。

 

「FATALITY…」

 

そう聞こえた瞬間そいつは両手に包丁を持ち僕に飛びかかってきた。

 

「危ないっ!」

 

僕は間一髪才羽が後ろに引っ張ってくれたお陰で何とか斬撃を躱す。

 

「このっ!」ダダダッ!!

 

『…!』

 

才羽の銃を喰らいヤツが怯む。

 

「ロハンさん大丈夫!?」

 

「ああ、ありがとう助かった」

 

僕達の視線の先には確かに才羽が居る。包丁を両手に持っている以外には瓜二つだ。

 

「君の妹ってあれかい?」

 

「そんな訳無いでしょ!」

 

『ーーー!』

 

奴が咆える。

 

「ロハンさん!後ろに!」

 

奴は包丁を逆手にすると姿勢を低くし一気に駆け出す。

 

「速っ!」

 

才羽が乱射する。

 

カキンっ!

「嘘でしょ!?」

 

包丁で銃を吹っ飛ばされる。

 

『DEATH…』

 

そのまま包丁が才羽に振り下ろされる。

 

僕が何もしなければの話だがな。

 

ガシャンっ!

 

 

瞬間ゲーム機が才羽と偽才羽の間に入り甲高い音が鳴る。

 

 

時速80Kmで斜め50度に吹っ飛ぶ

 

「逃げるぞっ!才羽!」

 

「う、うん!」

 

僕達は入口のクレーンゲームコーナーの方へと走る。

 

          ギュイーン

 

後ろから何かをチャージするかのような音が聞こえてくる。

 

 

『あなたたちを殺すよーーー!』

 

その声と同時に後ろを振り返ると思わず

 

「何なんだあいつはァー!」

 

そんな声が出てしまった。

 

奴は腕が8本に見えるほどの高速回転をして浮遊しこちらに猛スピードで飛んできている。

 

「ロハンさん!クレーンゲームを盾にしよう!」

 

僕らはクレーンゲームの影に身を投げ出す。

 

スパッ

 

パリンッ

 

「おいおいおい、冗談じゃあないぞ!」

 

あまりにも綺麗にゲーム機が切断される。

 

「ロハンさんっ!」

 

才羽が身を挺して破片から僕を庇う。

 

運が悪い事に破片の一部が紙袋に直撃してしまう。

 

回転を終えた奴が近づいてくる。

僕は才羽を後ろ手に隠し、片目だけを閉じる。

 

「なあ、頼む才羽だけでも見逃して貰えないか」

 

「え…ロハンさん!何言って」

 

「君と才羽は瓜二つだ、ならきっと君にも妹が居るだろう?祝わせてあげてくれないか」

 

『………』

 

「頼む」

 

『DESTINY…』

 

奴は両手に持った包丁を振り上げ僕に向かって振り下ろす。僕を殺すのに包丁は1本で十分だった!人間ってのはとどめを刺す瞬間が1番油断する瞬間なのさ。

 

バンッ!

 

2階から放たれた銃弾を奴は弾くことが出来ず態勢を崩す。

 

半径50cmが吹っ飛ぶ

 

更に奴は床ごと吹っ飛び僕との距離を広げる。

 

「屈んで!」

 

僕と奴との間に才羽が挟まり爆風から僕を庇う

 

           ドカンッ

 

追加の爆発で奴はアーケードゲームコーナーに吹っ飛ばされる。

 

「2人共、無事?」

 

「あの爆発だと才羽が庇ってくれなかったら僕は死んでたかもな」

 

「危なかった〜!」

 

「それは本当にごめんなさい!」

 

「でも、2人共ありがとう、助かった」

 

僕は立ち上がりホコリを払うとアーケードコーナーに目をやる。

 

「何だったのかしらあの子」

 

「確認しに行くか」

 

「え、やめておこうよ…」

 

「君の銃だって拾いに行かないといけないしな」

 

「そうだけど…」

 

3人で奴が吹っ飛ばされた所まで行くと

 

『………』

 

大の字になって倒れている。

 

「意識は無いみたいね…」

 

「こうして見ると瓜二つだな」

 

「ドッペルゲンガーなのかな…」

 

ドッペルゲンガーに出会ったら死ぬらしいが直接殺しに来るタイプは聞いたことがないな。

 

僕はやつの顔に触れ

 

「ロハンさん危ないよ」

 

「いや、危なくなくなるよ」

 

「え?」

 

「ヘブンズ・ドアー」

 

その場に居る僕以外を本にする。

 

「さて、一体君は何者なのか…読ませてもらうよ」

 

僕はページを捲っていく。

 

「身長は143cm、趣味はゲーム、誕生日は12月8日…双子の妹がいて…最初はあまり仲が良くなかったがゲームを通して仲良くなっていった…」

 

こいつ、包丁を振り回すやつのくせに随分とまともな…いや、おかしい

 

包丁の記述も…あの回転をどうやって起こしたのか…一切書いていない…

 

僕はこいつの名前を見落としていたことに気がつき最初に戻る。

 

才羽モモイ

 

こいつは…どうなって…

 

僕立ち上がりもう一人の才羽の記憶も読んでいく。

 

「…全く一緒だ」

 

あり得ない…例え双子だとしても…環境が一緒だとしても…必ず違いは生まれる。完全な同一なんてあり得るわけがない…

 

僕は偽才羽の方を再び読む、

 

「とりあえず…」

 

人に危害を加えない

 

どうしたものか…初めての経験だ。読めるのに素性がわからない存在なんて…例え記憶喪失だろうと身体は…魂はその経験を覚えている。

 

次のページに行こうとページを触った時、僕は違和感に気がついた。

 

ページが分厚い…?

 

ペンの先でページの間を剥がしていく

 

      ベリベリベリッ

 

出てきたのは、黒い表紙の

 

「全く別の…薄い本…」

 

僕は震える手を抑え、ページを捲る。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

これは私が観測した結果である

 

そしてあらゆる可能性のうちの1つである

 

可能性の収束点には―――――がある

 

それは不変的であり可変的でもある

 

キヴォトスは――する

 

それが観測されし唯一の結果である

 

コンティニューとは、再出発ではなく再構築である

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

コンティニュー…あのゲームの事か…?

 

僕はゲームに目を向ける。揺れている。

 

再構築…才羽モモイのあらゆる可能性のうちの1つを再構築したって訳か

 

そして…そのトリガーはコンティニューをすること。

 

「じゃあ…僕は?」

僕は才羽モモイよりも先にコンティニューしている筈だ。データの容量が大きい程構築には時間が掛かる。僕には才羽モモイと違ってヘイローは無い。だが唯一無二の能力がある。

 

ゲーム機が音を立てて揺れている。

       ガタガタガタ

「何を…観測したんだ…?」

 

音が止まる。

ガシッ

出てきた腕が画面両端を掴む

         ぐぐぐぐ  

何かが歪む音が僕の耳に響く。

 

「君は…何を伝えようとしてるんだ…」

         バキンっ!

         ズズズ

息が荒くなる。期待からか恐怖からなのか僕にはわからない。黒い本の記述が追加される。

『―――』

あれは――

       ゴロゴロッ!バチンッ!

 

辺りが暗くなる。

どうやら停電したみたいだ。

 

辺りが一気に静かになる。外の雨の音が殆どしなくなっている。どうやら雨が止んだようだ。

 

「帰るか」

 

折角買った食品が傷んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームセンターから出ると冬の寒さが一気に僕達を包み込む。

 

「ひぃ~すっごい寒い〜」

 

「風邪引かないように早く帰りましょう」

 

そうしてゲームセンターを背に僕達は歩き始める。

 

「でも、まさか停電が起きるなんてね」

 

「ビックリだよね、それに…クレーンゲームが爆発するなんて…」

 

そう、才羽は煤けた箱を眺める。

 

「折角貰ったサインがぁ〜」

 

「書き直してやろうか?」

 

「うーん、大丈夫…なんか申し訳ないし」

 

「そうか」

 

僕の提案を複雑な表情で才羽が断る。

 

「結局、店員さん居なかったね」

 

「本当に何も言わずに帰っちゃっていいのかしら」

 

そう言うと陸八魔はゲームセンターの方を向く。

 

「あ~僕が後から連絡しておくよ」

 

はあ、僕が壊したわけじゃあ無いが…経営者側も被害者だしな。

 

「まあ、結構な穴場スポットの発見かな!また今度来ようよ!」

 

「僕はしばらく遠慮しておくよ」

 

「えー」

 

「あ、あの、ロハンさん」

 

陸八魔に腕を揺さぶられる。

 

「どうしたんだ」

 

「見て!あれ!」

 

陸八魔の言う通りゲームセンターの方を見ると

 

「何も…無いね」

 

「え、嘘ぉ…」

 

僕達がさっきまで居たゲームセンターは駐車場になっていた。

 

「私達…どこで雨宿りしてたの?」

 

僕達の間を冷たい風が通り抜けた。

 

 




感想、評価、誤字報告ありがとうございます。
次にエピローグやってDMIは終わりです。


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