カチっ
コンロの火を止め2人が座っているテーブルに皿を運ぶ。
「お待たせ、これが岸部ロハンのオムライスだ」
「うわぁ~美味しそう!」
どうして僕がオムライスを振る舞って居るのか、それは少し前に遡る。
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あのゲームセンターが消えた後僕たちは足早に事務所へと向かった。そして事務所に着くと買った物を事務所の冷蔵庫に入れようと袋を開けた瞬間それは発覚した。
「どうしてぇー!?」
買った卵の内の1パックが割れてしまっていた。幸い外に漏れ出ては居なかったのだが……
「折角買ったのにぃー!」
「どうして割れちゃったんだろうね?」
陸八魔が崩れ落ち、才羽が興味津々に卵を見る。彼女達には心当たりが無いようだが……僕には1つ心当たりがある。
陸八魔が偽才羽を吹っ飛ばした後、彼女は2階から最短で僕たちに駆け寄って来た。
更に僕は彼女達の記憶を書き換え、ゲームセンターで雨宿りしていたら急に停電になってしまったという事にしてしまったため、陸八魔達目線だと全く心当たりが無いのに卵が割れてしまっている事になっている。
「あのゲームセンターの呪いよ!」
「卵1パックだけに?」
そいつはかなりピンポイントな呪いだな。
「勿体無い……」
「じゃあ、食べるとしようか」
「「え?」」
「少し座って待っててくれ、ちょっと早いが……ランチにしようか」
笊でも使えば、殻は気にしなくてもいいだろう。
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陸八魔がオムライスの皿を回しながらじっくりと眺める。
「鑑定家にでもなるのかい?」
「え? あっ! ごめんなさい! お行儀が悪かったわよね!」
「別に構わないよ」
この場がそういった厳正な場なら少し注意はするが、仲間内なら別に気にする事じゃあない。
「でも、なんか意外!」
「そうかい? 隣失礼」
返事をしながら空いている陸八魔の横に座る。
「ロハンさんみたいなタイプってあんまり料理しなそうだなって」
「おいおい、どうしてそう思うんだい?」
「なんていうかお腹に入れば一緒だろ! みたいなの職人気質の人って良く言わない?」
「僕から言わせればそんな事を言う奴はド三流だな゙。いいかい視覚、触覚、聴覚、味覚それら全ての感覚を用いて僕達は最高の作品を届けなければいけないんだ。日頃の生活から味覚を大事にしないままこれが自分自身にとって最高の作品ですなんてのは口が裂けても言えないね」
「へぇー凄いこだわり」
「ほら、早く食べないと冷めるぞ」
会話を切り上げ食べるように促す。折角僕が作ったのに1番美味しい
状態をみすみす逃されるってのはプライドが許さない。
「ええ! そうね!」
陸八魔がスプーンを持とうとするが
「ちょっと待った!」
待ったがかかりスプーンから手が離れる。
「どうした?」
「このオムライス、何かが足りないと思わない?」
そう言われて僕は目線を皿に落とす。白い皿の上に堂々と光を反射する卵、どこからどう見ても完璧なオムライスにしか見えない。
「僕の目には完璧なオムライスにしか見えないな」
「ええ、どこからどう見てもすっごく美味しそうなオムライスよ? 本当に……美味しそう……」
そう言う陸八魔の口からは涎が垂れそうになっていた。
「陸八魔が齧り付かない内に答えを頼むよ」
「それはね……ケチャップだよ!」
随分威勢の良い待ったの割に…ケチャップねぇ…
「白米じゃなくてチキンライスだから要らないと思うんだが…」
ただのケチャップライスでも十分だと思ったんだが……この時期はチキンライス食べたくなるからな。
「それは悲しいよ、ロハンさん」
こいつの底知れない余裕。一体何なんだ……?
「悲しい……?」
「もはや悲劇だよ! さっきロハンさんは全ての感覚を使うって言ってたよね?」
「ああ、そう言ったが?」
「じゃあどうして……オムライスの醍醐味をやらないなんて事ができるのさ!」
僕は思わずハッとした。確かにそうだ。全身全霊でオムライスに向き合うのならケチャップアートは必要だ。それはオムライスとって欠かせない儀式であり、ルーティン。僕は味だけを見てオムライスを見てなかったッ!
「その様子だと、わかってくれたみたいだね」
「ああ……ケチャップ取ってくるよ」
冷蔵庫へと向かう僕の足は軽かった。
ケチャップで才羽のオムライスと、それを羨ましそうに見てた陸八魔のオムライスに絵を描く。
「よし、まあまあだな」
「いや、すっごい上手いじゃん!なんで陰までかけるの!?」
「僕だからかな」
「逆に何になら描けないのかしら…?」
陸八魔の疑問に少し考えてしまう。
「あ!ロハンさんのは私が描くね!」
そう言うと才羽はゆっくりとケチャップで形を作っていく。
「できたー!」
「随分と可愛らしい猫だな」
「でしょでしょ!」
「ふふっ、じゃあいただきましょうか!」
僕たちは手を合わせ
「いただきます」
「「いただきますっ!」」
スプーンを手に取り黄色とオレンジを掬い口に含む。
彼女達の第一声に僕は
「当然だろう?」
そう返事をした。
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玄関の鍵を締め椅子に深く沈み込む。一人になると考え無い様にしてた事を考えざるを得なくなる。あのゲームセンターは一体何だったのか。事務所の中では誰も口にしなかった疑問。
突然建物が現れ、消える。なんてのはかなりありきたりな話だ。1番有名な所でいくと遠野物語に出てくる『迷い家』だろうか。
山奥に突如現れる無人の屋敷、決して廃墟では無く人がいたかのような温かみがある。そして訪れた人はその屋敷から何か物品を持ち出して良い事になっていて、持ち出すと裕福になれる。
これが本当だとすると陸八魔は本当についていない。あのぬいぐるみが引っかからなかったら……もしもの話をしてもしょうがないか。
僕はとある事に気が付く。
あのゲームセンター、決して山奥なんかには無かった。それに……人がいたかのような温かみも感じる事ができなかった。あそこにあったのは人に使われなくなった機械の冷たさ……孤独。
『迷い家』と呼ばれるものとは反対の性質を感じさせた。
もし、あのゲームセンターが『迷い家』と逆の性質を持つのだとしたら……
「陸八魔……君は相当運が良いのかもしれない」
僕は机の上に置いてあるクシャクシャにしてある紙を退かし、新しい紙にペンを走らせる。
同じようで違う存在。
あらゆる可能性を秘めている。
無限に広がる『IF』。
『IF』を観測し、別次元へと再現する。
それが、それこそが
「パラレル・シフト」
「そして、それが観測したのは」
キヴォトスは滅亡する
終わり。一切の慈悲のない、冷たい結末。
だが…青年の紙に描かれている物は
それではない
今彼が描いているのは
停電する少し前に見た
「初めて見た」
ゲーム機から出てこようとする
「綺麗だったなぁ…」
頭の上に浮かぶ
「ヘイロー」
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岸部ロハンはヘイローを見ることが出来ない
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