車から降りて白い大地に足を下ろす。ブーツ越しのため冷たさは感じず、肌寒さも感じないが息を吸うと肺が新しくなるかの様な感覚になる。少し重ね着をし過ぎたかもしれない。
「ふわぁ〜、自然の空気美味しいー!」
かなり座っていたからだろう、浅黄が伸びをしながら深く深呼吸する。
「本当にそうね! ロハンさん運転ありがとう」
陸八魔が僕にお礼を言う。
「構わないよ、運転は嫌いじゃあないしね」
「そう? なら良かったわべっ!」
陸八魔に雪の塊が直撃する。塊が飛んできた方を見るとニヤリとした笑みを浮かべ、雪玉をジャグリングする浅黄の姿。随分器用だ。
「雪と言ったら雪合戦だよね〜」
「ムツキ〜!」
「くふふ、当てられるかな〜?」
浅黄に向かって雪玉を投げまくる陸八魔、そしてそれをするする避ける浅黄を眺めため息を吐く鬼方。
「はあ……2人共、私達は依頼を受けに来てるんだよ」
鬼方の言う通り僕たちはとある物を調査してほしいという依頼を受けに来た。
「少しくらいならいいんじゃあないか? まだ少し約束まで時間があるしな」
「そうそう! 折角こんなに雪があるんだったら遊ばないなんて勿体無いよ!」
「ほらカヨコ! 手伝って!」
浅黄が鬼方に向かって雪玉を投げる。
パシッ
「まあ……少しだけならいっか」
投げられた雪玉を片手でキャッチし投げ返す鬼方。
「危なっ! ほらロハンちゃんはこっちチームね!」
そう言って浅黄が僕掴んで逃げる。
「おい浅黄、君……まさか僕の事を盾にしようとしてるわけじゃあ無いよな?」
「……」
「なあ、浅黄? 聞こえてるよな? おい?」
僕は反射的に首を傾ける。すると耳の横を結構な速度で雪玉が通過していった。
「私の道を阻むなら例えロハンさんでも!」
「ごめん岸部、こういうのは盾からが基本だから」
「冗談じゃあない!」
そうして僕達はしばらくの間、雪で雪を洗う闘いに没頭した。
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「便利屋68の皆様、ようこそおいでくださいました」
管理所についた僕と陸八魔を迎えたのは人工の暖かさと車椅子に乗った、初老の男犬だった。浅黄と鬼方は念の為外に待機してもらっている。
「始めまして、便利屋68社長の陸八魔アルよ」
そうして彼女はウキウキしながら作った名刺を彼に差し出す。
「これは、どうもご丁寧に……私、
「ええ、そのつもりでここまで来たわ、私達は何を調査すればいいのかしら?」
彼は少し不安気に次の言葉を告げた。
「便利屋68の方々には
「人魂……?」
「はい、数日前程前からこのキャンプ場の奥でゆらゆらと揺らめく光をお客様が目撃したと報告があり……それから何件も同じ話を……」
「蛍とかではなくて?」
「この時期に蛍は今まで見たこともありません、それに光源は1つしか無かったとお聞きしております」
お聞き……?
「貴方は見ていないのかい?」
「何かがあったらいけないからと妻や従業員から止められていまして……」
「なるほど」
もしかしたら危ない奴が火を振り回してるって事かもしれないしな。
「なので便利屋68の皆様がこの依頼を受けてくださって、ホッとしております」
そう言う彼の顔はどこか疲れているように見えた。
「ええ任せて頂戴! 必ず私達が正体を突き止めてみせるわ!」
「よろしくお願いします、人魂が目撃されているのはいずれも深夜です。ロッジを1部屋ご用意しておりますので是非ともおくつろぎください」
「ありがたくそうさせていただくわ」
陸八魔が管理人から鍵を貰い外に出ようとする。僕はそれを腕で制し、管理人の目を見る。
「1つ質問させてもらってもいいかい?」
「はい、どうしました?」
彼は人当たりのよい微笑みを浮かべ僕の言葉を待つ。
「この依頼、かなりの報酬を提示しているが……何故僕達なんだい?」
「はい?」
「少し疑問に思ってしまってね、何故僕たちの様なあまり名前が売れていない会社にわざわざ調査をお願いしたのか、何故公的機関に頼らないのか……別に疑っているわけでは無いんだがどうしても気になってしまってね夜も眠れなくなってしまいそうだったからな」
僕の言葉に彼は少し間を置いて
「正直に申しますと……私は今回の人魂に関してあまり大事にしたくないと思っております。なので今回皆さんが調査をする事も私以外の従業員、妻にも秘密にしております」
「そこまでする程、騒がれたら困るのかい?」
「このキャンプ場は家族連れのお客様が多いのです。もしもこの件が有名になってしまって遊び半分の肝試しで来る方が来られると……治安が悪くなってしまうかもしれません。ですからこれ以上噂が広まる前に少数精鋭である皆様にお願いをした、という訳なのです」
「なるほど、変な事を聞いてすまなかった」
「いえいえ、他に聞きたいことはございますか?」
「大丈夫だ、行こう陸八魔」
「私達の事少数精鋭だって」
誇らしげに胸を張る陸八魔を急かす。
「ああ良かったな、ほら2人が凍えてしまう前に早くロッジ行くとしよう」
「そうね!」
陸八魔が外に出る。僕もそれに続こうとし、ふと足を止め管理人の方を流し見る。
閉まっていくドアの隙間から見えた顔は何かに怯えていた。
こいつは予想以上に……
「面白い事になりそうだ」
────────────────────―
「ちゃんと電波通ってるんだね」
ロッジの中は木材特有の匂いが広がっており落ち着いた雰囲気だ。古い作りではないのだがどこか懐かしさを感じさせる。
そんな部屋の中心で僕達は今回の依頼について話し合っていた。
「人魂って……本当なの?」
鬼方が訝しげに眉を顰める。
「それを調査するのが僕達の仕事だよ」
「まあ、そうなんだけどさ」
鬼方は少し考え込む。
「あ! もしかしてここ心霊スポットだったりするんじゃない?」
浅黄がスマホを取り出して検索する。
「うーん、そんな話は一切無いね」
「管理人のじーさんが言うには人魂が目撃されるようになったのはここ1週間の話だそうだ」
「急に心霊スポットになったりするわけ無いものね……」
「そもそも人魂っていうのは読んで字のごとく人の魂が抜けて輝く姿だと言われている怪火の1種だ」
「リン酸? みたいなのが燃えると起こるんだっけ?」
「リン酸は人や動物の骨に多く含まれているよ」
「じゃあ野生動物の死骸から、人魂が現れたって事?」
「墓並みに密集して野生動物が死んでいる事があればその線もあるだろうな」
その場合はそっちの方を調査しなければいけないだろうがな
「そうだなぁこの場所が戦場、もしくは墓の跡地だったらあり得るかもな」
「確かにそれなら……」
「だが、残念ながらリン酸は自然発火しないんだ。リン化水素は常温だと酸素と結合して燃えるが……」
「こんなに寒い所では起きないってことだよね」
「そうだ」
「じゃあ……やっぱり見間違えたんじゃない?」
「それが一番妥当だろうな、問題は一体何と見間違えたのか」
かなりの数の人間が見間違えを起こしたと言う。
「光るものといえば……何かしら?」
「……ヘイロー」
ボソッと鬼方が呟いた。
「あ、そっか! ヘイローの形が丸っぽい形だったら!」
「人魂と見間違える人が出てきてもおかしくは無いか……」
「じゃあ、対人を考えておいた方がいいわね」
「それは君たちに任せるしかないな」
身体能力的には僕はそこら辺の小学生にすら危ういだろう。
「くふふ、ちゃんと守ってあげるから安心してよ」
「そりゃあ心強いな」
「じゃあ便利屋68冬の捕獲作戦頑張って行くわよ!」
「そのまんまだね」
「もうちょっと捻ってもいいんじゃないかな?」
「僕は一周回ってセンスあると思うね」
こうして僕達の仕事は始まった。
僕はどうしてもこの依頼の裏に何か別の物が潜んでいる気がしてならない。正直に言ってドキドキしている。修学旅行前日の布団の中のような。数日間家を開ける時の胸が締め付けられるような。
「でも本当に人魂だった場合はどうしようね?」
「それは……こう網みたいなのでクイッと?」
「社長……魚じゃないんだから」
「もし捕まえたら僕に預けてくれよ、味を確認してみたい」
「「「え?」」」
感想、お気に入り、評価ありがとうございます。
密猟海岸ってN○Kでやれるんだ…楽しみ