岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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生徒以外の人間はロボットや動物さん達ということで考えています。


「そのまま」4

 

「女の子が消えた…?」

 

「ああ、そうだ」

 

 管理所から帰ってきた僕は森の中で遭遇した少女の事を陸八魔達に報告する。

 

「あの消え方は幽霊か忍者のどっちかだろうな」

 

「ロハンちゃん、また変なモノと遭遇したんだね」

 

 呆れたように浅黄が言う。

 

「消えたってことはその子が昨日岸部を襲ったんじゃない?」

 

「どうなんだろうな」

 

 仮にそうなら大層面の皮が厚いやつなんだな。自分が襲いかかった相手の前に出てくるなんて。

 

「それに桜が泣いているってどういう意味なんだろうね」

 

「桜の精霊とか?」

 

「僕が桜の精霊とやらなら春に出てくるがな」

 

 多分、冬に出ても他の木の精霊と見分けつかないだろう。

 

 

「うーん…桜…女の子…」

 

 陸八魔が何か思い付きそうに唸る。

 

「…桜の木の下には…」

 

「死体が埋まっている…」

 

「梶井基次郎の小説か」

 

「え?あれってことわざじゃないの?」

 

「そう思われてしまうくらいには櫻の樹の下には屍体が埋まっているの一文が完成されすぎているからな、その部分だけ独り歩きしてしまっているんだ」

 

「どんな話なの?」

 

「桜っていう美しいものに裏が無いなんてのはおかしい。あの美しさは屍体が埋まっていてようやく釣り合いが取れるって話さ」

 

「ふーん。綺麗な薔薇には棘があるみたいな?」

 

「ああ、そういうニュアンスだよ」

 

 最初読んだ時は捻くれた考えを持たないと美しいモノに不安を感じてしまう哀しい男の話だと思っていたが…最近それが変わった。あれは作者の持つ死への不安や恐怖を美しさと表裏一体にする事によって希望を見出す前向きな話だと解釈できる。

 

「じゃあ死体が埋まってる訳じゃないのね」

 

「その話の中ではな、まあ実際に掘ってみれば一発でわかるがな」

 

「なんか本末転倒じゃない?木を傷付けた犯人探してるのに」

 

「それくらいしかあの少女の手がかりが無い」

 

 穴を掘るならシャベルが必要か。この辺りだと少し下ったところにホームセンターがあったな。

 

「この辺の行方不明者とか調べてみる?」

 

「そうだな。とりあえず聞き込みにでも行くか」

 

「普通に検索すれば良くない?」

 

「…ああ」

 

 "桜布美キャンプ場” ”行方不明“  

 

 0件(もしかして)キャンプ中に迷子になった場合の対処法3選。

 

 

「出ないね」

 

 色々言葉を変えて検索してみるがこのキャンプ場に関する行方不明者に関する情報はヒットしない。

 

「それくらいこのキャンプ場の安全管理が徹底されているってことだな」

 

「手詰まりかしら…」

 

「忍者で検索してみる?」

 

「多分もっと手詰まりになるよ」

 

「重要なのは少女の正体じゃあない、誰が木を傷付けたかだ」

 

「でも、明らかにその女の子怪しくない?」

 

「証拠を集めていってその少女に辿り着いた時に改めて考えれば良い」

 

 最有力容疑者として扱えばいいだろう。

 

「証拠も何も手当たり次第聞き込むしかないんじゃない?」

 

 管理人のサンロクからもらった名簿に目を通し溜息を堪える。

 

「重労働ね…」

 

 長期休暇のシーズンの結構な規模のキャンプ場。そこに来ている客一人一人に話を聞くなんてのは便利屋68のマンパワーでは到底不可能だ。

 

「聞き込み相手を絞る必要がある」

 

「そうね」

 

「最初はヘイローを持っている持っていないで分けようと思ったが…複数犯の可能性があるからな」

 

「確かにそうだね」

 

「とりあえず家族連れは除外して良い」

 

「複数犯なら結構可能性ありそうだけど?」

 

「家族でキャンプ場に来て犯罪を冒す奴は居ないと信じたいからな」

 

「家族連れ抜いたら結構絞れたけど…正直博打じゃない?」

 

「まあ、そうだな」

 

 フィクションには暗殺一家があるんだ。現実に木を伐る一家が居てもおかしくはないが…家族連れの善性を信じるしかないな。

 

「ひとまずそれでいきましょう」

 

「この数ならなんとか夕方までには終わるかな」

 

「怪しまれたらロハンちゃんの名前出せばいいもんね」

 

「僕の名前はそこまで万能じゃあない」

 

「ロハンさんは従業員の方をお願いね」

 

「おいおい僕一人でか?」

 

「じゃあ私も〜」

 

「頼んだわ、そっちが早く終わったらこっち手伝って頂戴ね」

 

「おっけー」「わかった」

 

「便利屋68冬の犯人捜し開始ッ!」

 

「季節毎に捜すの?」

 

「季節の変わり目が楽しみになるな」

 

「…そうかな」

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「それで1番最初に私のところに来たのですね」

 

「畑の事は農家、田んぼの事も農家、ここの事は貴方に聞くのが一番だ」

 

「そのような事を言っていただけて大変嬉しいのですがどれだけお役に立てるか…」

 

「構わないよ、いくつか質問させてほしいんだが」

 

「ええ、答えられることなら何でも」

 

「森の奥の桜は何か特別なものなのかい?」

 

「…眉唾な話なのですが、先祖代々とある言い伝えがあります」

 

「言い伝え…?」

 

「森の桜は不可思議をはらうと」

 

「不可思議…」

 

「貴重なものって事?」

 

「いえ、言い伝えがあるだけで普通の桜と変わりありません」

 

「わざわざ切ったりするような物では無いってことかい?」

 

「はい、ですからとても驚きました。リスクを冒して切るようなものでは無い筈なのです」

 

「ますます分からなくなったね」

 

「そうだな…2つ目質問いいかい?」

 

「はい、どうぞ」

 

「ここの従業員で、山道に慣れている人間はいるかい?」

 

「数人いますが…それが何か?」

 

「正直に言うと僕はその数人の中に犯人が紛れていると考えている」

 

「それは…」

 

 どうしてか。僕は懐から携帯を取り出し画面を見せる。

 

「昨日僕は鬼方からメッセージを受け取っている」

 

「あ!光の塊を見た時に送ってたやつ」

 

「そう、そのメッセージの約10分後に僕は襲われている」

 

「入れ違いになったんだよね」

 

「彼女が撮った木の画像の時間はメッセージの20分後、単純計算で犯人は彼女達の倍近くの速さで移動した事になる。夜の闇の中雪の積もっている道をだ」

 

 単純に彼女達以上のフィジカルを持っていた場合もあるが…相対した感じそれは無い。

 

「夜の森に慣れた人間なら…初見の人間よりも遥かに疾く移動する事は可能です」

 

「ああ」

 

「ですが…何故そんな事をする必要が…」

 

「それを知る為にわざわざ聞き込みしてるんだ」

 

「そう…ですよね、今泊まりで働いていて尚且つ山に慣れてる従業員はタケくんとマツさんの2人です。お二人は今山遊び体験コーナーに居ます」

 

「わかった」

 

「行こうロハンちゃん」

 

「体験コーナーはここから左に少し下っていくとあります」

 

「ありがとう。サンロクさん」

 

 そう立ち去ろうとすると、扉が開き1人女性が様部屋に入ってくる。

 

「ただいま、あらお客さん?」

 

「ああ、アザミお疲れ様。こちら漫画家の岸部ロハンくんと…アザミ?」

 

 アザミと呼ばれた女性は驚いた様子で固まっていた。

 

「え、あぁ…岸部さん、はじめまして」

 

「はじめまして、サンロクさんの奥さんかい?」

 

「ええ、そうです」

 

 そう首肯く。確かに物腰の柔らかそうな者同士お似合いそうだ。だが彼女の纏うお淑やかな雰囲気と驚いた表情のアンバランスさが引っかかる。

 

「随分驚いていたが、どうかしたのかい?」

 

「いえ私ファンなんです、ですから驚いてしまって。まさかここに居るとは思わなかったので」

 

「…へぇ〜」

 

「ロハンくんはキャンプの漫画を描く為の取材に来ていてね」

 

 サンロクがカモフラージュの設定を話す。

 

「なるほど…頑張ってください」

 

「ああ、浅黄行くとしよう、お邪魔した」

 

 そうして僕達は管理所から出て体験コーナーへと向かう。

 

「なんか露骨に怪しかったね」

 

「ふふっ…そうだったか?」

 

「驚き方とか犯人ですって言ってる様なもんじゃん」

 

「さあ?」

 

 あそこまで露骨だと逆に白く見えてくるがな。まあ、白と言うのは簡単だが黒と言うのには証拠が必要だからな。疑わしきは罰さずってやつだな。

 

「ねぇ、ロハンちゃん」

 

「?」

 

「どうして能力使わないの?」

 

「どうしてって?」

 

「今使っちゃえば大分楽できたんじゃない?」

 

「まあ、そうだな」

 

「怪しい人いたら手当たり次第やっちゃえば良いのに」

 

 確かに僕はその極論を可能にできる。だが

 

「僕は正直この件をあんまり重く見ていない」

 

「うん」

 

「別に人が傷付けられた訳じゃあないし、被害は木1本が抉られたくらいだ」

 

「そうだね」

 

「だからこそ、経験を積むのに丁度良いと思った」

 

「経験?」

 

「会社として1つの謎を解明する経験さ」

 

「なるほどね、能力使っちゃったら経験も何もなくなっちゃうか」

 

「経験こそが才能に勝る唯一さ。便利屋68には才能がある。なら経験さえ積めばキヴォトスで1番なんて目じゃあない」

 

「…あははっ、ロハンちゃん意外とさあ」

 

「なんだ?」

 

「なんでもな〜い」

 

 しばらく歩いていると賑やかな声が聞こえるようになってきた。その声が聞こえてくるように行くと『体験コーナー』と書かれた看板が掲げてあった。

 

 声の主たちは円になるように雪を固めている。

 

「何作ってるのかな?」

 

「雪だるまではないか」

 

「みんな楽しそうだね」

 

「ああ、寒い中ご苦労さまだな」

 

「あなた達もかまくら作り体験を?」

 

 そう声をかけられる。

 

「人を捜していてね」

 

「誰か居なくなったんですか!?」

 

「そうじゃあないタケくん、マツさんと呼ばれている従業員を捜しているんだ」

 

「タケは俺ですけど…」

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 はしゃいでいる声を背景にタケくんと呼ばれている彼から話しを聞くために木製のテーブルつきベンチに腰をかける。

 

「漫画の取材…?」

 

「ああ、キャンプ場の管理側の話を聞いてみたくてね」

 

「へぇ~どんなの描いてるんですか?」

 

「色々描いてるよ、『ステップラック』とか」

 

「あっ岸部ロハンさん?」

 

「良かったよ、知ってくれてて」

 

「流石の知名度だね〜」

 

 まあ、僕だしな

 

「漫画は大好きです」

 

「漫画は…ということは何か僕本人に不満点があるということか?」

 

「いやぁ…そんな言う程でもないと言うか…」

 

「おいおいおい、気になるなぁー。要は漫画は君に刺さっていて楽しめているんだろう?つまり君の中で100%楽しめない理由が僕にあるってことだ、是非教えてくれよ」

 

「うーん、物足りないって言うんですかね」

 

「物足りない?」

 

「感覚的なものなんですけど…もったいない気がしちゃって。こうポケットのないドラえもんって言うのかな…折角ドラえもんいるんだったらひみつ道具使いたかったなー的な」

 

「あ~」

 

「…」

 

「わかりづらかったですかね?他に上手い例えないかな…あんこのないアンパンマン、手術しないブラックジャック…」

 

「わかった、わかったよ」

 

「動かないガンダム?」

 

「わかったから」

 

「あ!一人暮らしのサザエさんっ!」

 

「君しっつこいぞッ!」

 

 思わず立ち上がってしまう。

 

「まあまあ、ロハンちゃん落ち着いて落ち着いて」

 

「すみません、なんか結構考えるの楽しくて」

 

 そう頭を掻きながらにへらと笑う。

 

「つまり僕という漫画家には何か大事なものが欠けてるって言いたいんだろ」

 

「まあ、そうですね」

 

「貴重な意見ありがとう、君のわかりづらい例え話以外は是非参考にさせてもらうよ」

 

「いえ、本当にすみません。結構失礼な事言っちゃって」

 

「全然っ気にしてないよ、本当」

 

「それは良かったです」

 

 なんだコイツ…無敵か?

 

「ロハンちゃん話逸れすぎてるよ」

 

 浅黄の言う通りだ。危うく大事な事を聞きそびれるところだった。

 

「それで、僕の漫画の好きなところは?」

 

「違うよね?」

 

「あぁ…ここの管理人…サンロクさんとアザミさんについて聞かせてほしい」

 

 

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