深夜間近、街頭だけでは少し心許無い時間。
キィー
「……開いてる……?」
良い家特有のドアの音が鳴る。それと同時に埃1つ無い綺麗な玄関がアタシ達2人を出迎える。そっと様子を伺っても人が動く気配は無い。
「なぁ……おい、大丈夫なのかよ……?」
できるだけ声を絞る。
「大丈夫なわけがないよ……不法侵入だよ?」
「そりゃそうだけどさぁ……」
アタシ達は今、とても良くない事をしている。主にアタシの前ににいるコイツが原因で。
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「えぇー!?」
「うわっ!なんだよもう!」
突然叫び声を上げられたせいで弁当の唐揚げがアタシの箸からこぼれ落ちる。
「お前、アタシの唐揚げどうっ「そんなことより!」
唐揚げ弁当の唐揚げをそんな事……?いかれてんのかコイツ……
「これ見てよ!」
「あぁ?」
そう言って見せてきたのは
『岸部ロハン、2週間の休養』と書かれたWeb記事。
「へぇ」
「へぇじゃないよっ!」
「別に2週間休むだけだろ?そんなに大したことじゃないじゃん」
アタシの唐揚げの方がよっぽど一大事だと思うんだけど。
「わかってないね岸部ロハンの事」
「漫画家だろ?結構色々描いてる奴」
「正確には漫画家と画家なんだけどさ」
「あ~うん」
コイツめんどくせぇ……
「別にそいつだって休むだろ」
「いーやあり得ないねっ!」
「なんでだよ」
「だって岸部ロハンだよ?利き腕が折れても漫画描くような人だよ?」
「じゃあ両手が折れたんじゃね?」
「そうなったら岸部ロハンなら口で描く!」
「そんな人間いる訳ねぇだろ」
「岸部ロハンはそうなの!」
こういうの狂信者っていうんだったか。コイツとは10年位の付き合いだけど昔っから一直線というか……。
「で、何が言いたいんだよ結局」
「何か凄いことが裏で起きてるんじゃないかなって」
「すっげーふわふわしてんな」
「……吸血鬼退治とか……」
「漫画家が?」
「古代人と戦ったりとか……」
「画家が?」
「殺人鬼を追ってるとか……」
「絵描きだよな?」
コイツ本当にファンなのか?大喜利の題材にしてるとかじゃないよな?
「とにかく!非常事態なんだよ!」
「あ~そうだな」
「気にならない?」
「ならない」
「だよね!調べてみようよ!」
コイツ……さては無敵だろ。
無敵のコイツに引っ張られここ数日の出来事について色々探っていると
「あっ!」
「なんか見つかったか?」
「流石岸部ロハン、20年越しの誘拐事件解決してる……!」
「……そう」
ワンチャンあるんじゃね吸血鬼。
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そんなこんなで行き詰まったアタシ達はもう直接乗り込むしかないとここまで来ちまった。正直コイツのせいでと言う割にはアタシもアタシで楽しんでしまっていて歯止めが効かなくなっている。
「とりあえず……進もう」
「お、おう」
玄関のドアが音を立てないように後ろ手でゆっくりと閉め前を歩く背に付いていく。
キィー
許容範囲の音に抑え扉の先の部屋に入る。
「仕事部屋か……?」
「そうみたいだね……」
手前には応対用であろう低めの机と椅子。奥の方にある本棚にはアタシとは無縁そうな本が詰まっている。丁度その中間、仕事机とこちらに背を向けている椅子。
「ここには……居ないな……」
「居るとしたら……寝室とかかな……?」
アタシ達の用があるのは岸部ロハン本人。前のコイツは興味深そうに見渡しているが、部屋まで漁ったら色々と終わってしまう気がする。
「さっさと次行くぜ次」
「あっ……うん」
名残惜しそうな返事を聞きながら後ろの扉に向かおうと振り向きかける。
ガタッ
部屋に音が響く。
「えっ……」
「何の音……?」
見渡しても特に何かが動いた様子は無い。ビクビクしながら再び部屋を出ようとすると
キィー
アタシたちの目の前にある椅子がゆっくりと周り始める。背もたれに隠れていた内側が……
「え?」
ただの空っぽの椅子。何もおかしいところは無い、ならどうして回った……?それに音は?
「気の所為な……訳ないよね……?」
「ワンチャン……」
「無いだろ」
「「……!?」」
後ろから聞こえた返事にアタシ達は声すら出なかった。
「君達も空き巣かい?」
「いやっ……そうじゃなくてっ……」
「なんにしろこの時間に人の家に来るなんて非常識じゃあないかぁー?」
「す、すみませんっ」
「はぁ、ワケアリなんだろう?聞かせてみなよ話」
そう言って男……岸部ロハンはアタシ達をさっき見た低めの椅子に座らせる。
「「……」」
「夜だから珈琲とかじゃあない方が良いかい?」
「い、いえお構いなく……」
「へぇ、深夜無断で人の家に入ってきておいてお構いなくねぇ……」
「「……」」
辛い……めっちゃ辛い……。アタシ達が悪いんだけど……辛い。
「珈琲……もらえますか」
マジかコイツ、ガッツありすぎだろ。
「良いよ、そっちは?」
「コーヒー……お願いします」
そう答えると岸部ロハンは3つのマグカップに珈琲を注いでお盆の上に乗せる。わざわざ飲み物を用意してくれるなんて意外と優しいのかもしれない。
「……これワンチャン許してもらえるか……?」
「最後に飲むのが珈琲なんて洒落てるじゃあないか」
「だめっぽいよぉ……」
終わったー!
「休養の理由?」
コーヒーを飲みながら深夜突撃の経緯を説明する。
「は、はい」
「まさか、君達それを聞きに深夜無断で僕の家まで来たのかい?」
「そ、そうなりますねぇ……」
「ふーん……君達が考えたのは?」
「……1番有力だったのは……怪我だったんすけど……」
「うん」
「でも何もつけてないから違うかなって」
「内側かもしれないよ」
あっ……確かにアタシ達と同年代だから無意識に考えてなかったけどそっち系の場合もあるんだ……
「仮にそうだとしても……岸部ロハンが漫画を休む理由にはならないと思って」
「へぇ……」
「岸部さん前に一度『厄災の狐』の起こした暴動に巻き込まれて利き腕を怪我されましたよね……?」
岸部ロハンは何も言わずに目線だけで続きを促す。
「そんな人が目に見えないところの不調で漫画を描かないなんてのはあり得ないと思ったんです」
いつになく横のコイツが頼もしく感じる、ちょっとビビって敬語になっちまってるけどしっかりと目を見て自分の言葉を話してる。じゃあアタシだけ黙ってちゃだめだよな。
「つまりだ、あんた程の男なら何かしらで描く筈だ!」
口とか!
「……っくく」
アタシのそんな言葉に急に笑い出す岸部ロハン。
「なっなんだよ!?」
「いやぁ……君僕が利き腕怪我した事あるって言ってたね」
アタシの横に視線を向ける。
「は、はい」
「それガセだよ」
「え」
マジか。
「もし仮に利き腕怪我したらしっかりと休むね」
「あ、そうなんだ……」
「当然だ。僕は読者に完璧な物しか提供しない、岸部ロハンが出せる100%これを下回る物を出した時点で僕は漫画家を名乗れなくなる」
「でもさ、あんたなら別にそこまでしなくても……ファンは喜んでくるんじゃね……?」
部屋の空気が凍る。やばいやらかしたかも……
「そこまでねぇ……」
「あ、なんでもないっす……」
「……足りないよ、どこまでやっても」
てっきり怒鳴られでもするのかと思って身構えたけど……大丈夫そうだ。
「で、僕は怪我してない訳だがもうネタ切れかい?」
「いえ、もう一つ」
「聞かせてくれ」
「岸部ロハンさん、誘拐事件解決なされてますよね」
その言葉を聞いた瞬間明確に岸部ロハンは動きを止めた。
「ああ、そうだよ」
「時効になってはいたもの、犯人本人が重罰を望んでいたとのことでかなりややこしい事件になったとの事ですが」
「彼の主張は聞き入れられなかった」
「はい、というのも連邦生徒会長の行方不明が重なったことで治安が悪化、結果過去の既に時効となった事件よりも現在起きている事件に対応する為、事実上の無罪となっています」
改めて思ったんだけど本人がやってくれって言ってんだからやってやれよって思うんだけどなぁ。
「詳しいな」
「調べましたから」
「それが僕の休養と関係あるのかい?」
「重要なのがここからで、その犯人行方不明だそうです」
「そうらしいな」
「だから私達はこう結論を出しました、犯人を捜しに行く為に休養するんじゃないかと」
「彼、見つかってるよ」
「あっえっ」
「謎が多いから報道はされてないが木に刺さって死んでたよ」
「誰が……そんな事……」
「自分自身」
まじかよ……自分から……木に刺さって……まじか。
「モズの早贄ってあるだろう?そんな感じさ」
アタシはそんな死に方想像もできずにいまいちピンと来ないが横のコイツはどうやら想像できてしまったみたいで顔色が悪くなっている。
ん……?『死んでたよ』……まるで自分が見つけたような……
「それさ、見つけたのは」
「僕だよ」
「それは……なんつうか……」
「まあ、彼の罪を暴いたのは僕だからな、色々と縁があるみたいだ」
「じゃあそれで心病んじまって……?」
「いや?」
あれぇ……じゃあもうお手上げだ。
「答えは出てたよ」
「……連邦生徒会長の失踪?」
「正解」
やべえ、それと岸部ロハンが休むの何の関係があんだ?
「連邦生徒会長が居なくなって治安が悪化しただろう?」
「はい」
「そんな中もし僕の漫画が読みたくて漫画を買いに出た読者が事件に巻き込まれでもしてみろ、もしかしたら僕の漫画がトラウマになってしまうかもしれない、だからこの騒ぎが落ち着くまで休養するんだ」
「なるほど……でも雑誌自体は出るんですよね……?」
「僕の漫画が載ってなければ少なくとも僕のが読めなくなる事はなくなるだろう」
「はぇ~」
マジで変人なんだな岸部ロハン。
「これが休養の理由だよ」
案外なんてことのない理由だった。
「用が済んだんだったらさっさと帰るんだな、さっきも言ったが治安が悪くなってるしな」
そう言って岸部ロハンは手の甲で欠伸を隠す。
「あーすんません」
そう言ってアタシは立ち上がるが横のコイツは動かない。
「おい、どうしたんだよ」
「最後に1つだけ良いですか?」
「構わないよ」
「そこで倒れている人は空き巣ですか?」
「は?」
そう指差された方を見ると暗闇に紛れる黒の靴と黒のズボンを履いた下半身があった。
「岸部さんは私達を最初見たとき『君達も空き巣か』と言っていた。本当なら君達『は』が正しい筈なのに」
「おい、大丈夫か!?」
アタシは倒れている人に近づいていく。
「言い間違えたのかもしれないぜ?」
「表現を大切にする貴方がその間違いをするはずがない。だから違和感を覚えたんです。そして冷静に注意深く周りを見渡しました。人がいる前提で」
「……」
「失礼な事を言うと貴方は身体能力では劣っているはず、どうやってあんな?」
なんにせよ安否確認が先だろ!
「なあ!おい聞こえ……る……か」
倒れている人を抱き起こして顔が光に当たった瞬間、背筋が凍る。
「なっ何なんだよこれぇー!?」
顔が本みたいに開いていた。
「え!?なにそれ!?」
お前も驚くのかよ……冷静で居てくれよ。
「好奇心は猫をも殺すってよく言うだろう?」
「何を……?」
「いやぁ、凄いと思うよ洞察力や推理の道筋の立て方」
「ぁ……逃……げて」
バサッ
アイツの身体が崩れ落ちる。
「だから踏み込んでしまう。1つ教訓にしておくと良い、猫でも無い僕らが好奇心に振り回され一線を越えるとどうなるのか」
「……どうなるってんだよっ!」
「命だけじゃあ済まないことになるよ」
どうする!?どうすればアイツを助けられる……!?
アタシは一か八かで本棚から本1つ掴む。
「ヘブンズ・ドアー」
アタシの意識は暗闇へと落ちていった。
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「うおっ」
バタッ
結構危なかったな、こいつ野球選手でもやったらいいんじゃあないか?
3人の人間が倒れている部屋を見渡す。客観的に見ると地獄絵図だな。夜いきなり来られて腹が立っていたが結構有意義な時間を過ごさせてもらったよ。
僕は本を投げた反動でうつ伏せになっている身体をひっくり返す
色々参考になりそうだからじっくり……いや、やめておこう。
今回、彼女達の記憶は僕の家に来たところから消すことにするが彼女達に教訓は残しておくことにする。それでもう一度僕に挑戦に来るのか来ないのか、来たとして一線を越えるのか越えないのか。まあ、流石に空き巣犯を用意するわけにもいかないから別の物を用意する事にしよう。
今日はなんて運が良いんだろうか、空き巣犯からはとても興味深い情報を得ることが出来たし、面白そうな奴らが向こうから来てくれた。
全くこれだから、
「春は良い季節だ」
ブルアカ要素が先生の髪の毛位になってる…
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