バンズとパン
ダダダダダダッ
『あぁ〜もうっ面倒な!』
銃声と喧騒。騒がしい街をビルの屋上から眺める。数分までは一方的な破壊が行われていたが、現在5人の人間がそれらを蹴散らして行く。様々な学園の生徒で構成されたグループ。早瀬の声しか聞こえてこなかったがどうやら連邦生徒会がそれに対処を押し付けたといったところか。
そう分析し紙袋から目玉焼きの入ったハンバーガーを取り出し齧り付く。前から思ってたんだが、月見バーガーって別に期間限定じゃあ無くても良くないか?
「流石にワンマンチームだったって訳じゃあ無いよな」
だとしたらあまりにも連邦生徒会長が出来過ぎたということか。あの規模の組織を1人で……想像もしたくないね。まあ、ハンバーガーで言うところのバンズが連邦生徒会長だ。いくら優秀な具材が揃ってもバンズが無ければハンバーガーにならない。
そんな連邦生徒会長が居なくなって治安が悪化してすぐの頃、何処かの社長は
『私達の天下よ!』
なんて息巻いていた。実際護衛の依頼が増えた。それ自体は良いんだがそれに比例して依頼代の踏み倒そうとする輩も増えた結果
『今日は……休みにしましょう……』
少し折れた。まぁ、なんだかんだ大丈夫だろう。少し考え事をしてる間にかなり人数が減っていた。5人のうち戦っているのは4人。
「あの指示を出しているのは誰だ?」
まるで上から見ているかのような的確さ。それに加え他4人の特性を理解してそれを相手に押し付けるような指示。絶対性格良くないだろうな。
「あれは狐坂ワカモか」
矯正局から逃げ出してその日の内にこの規模の暴動を起こすとことんヤバイ奴。奴の他にも6人のビッグネームが逃げ出している。全く厄介な事この上ない。
「七囚人ねぇ……」
……檻の中に居ないのに囚人ってのはおかしくないか。
とにかく狐坂ワカモの実力は相当。いくら4人で戦ったところで激しい戦いになるのは想像に難くない。そう予想していたが意外にも狐坂ワカモは軽く撃ち合うとあっさりと背を向け逃げていく。
『逃げられてるじゃない!?』
暴動は時間稼ぎか。狐坂を追っていく5人。目的地になりそうな場所はこの先には1つしか無い。
ドガァンッ
空気が震え、ずんと腹の奥を貫くインパクト。
「おいおいおい、どうやったら戦車2台をその日の内に用意できるんだ」
この一連の流れの裏には何者かがいる。そう確信するには十分だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
独立連邦捜査部シャーレの地下。
「これは一体……?」
首を傾げて考え込む人影が1つ。
「何かわかりませんがとりあえず」
その手にある物に銃を向ける影。
「不法侵入は良くないぜ」
地下への入口から影へ声が掛けられる。
「その声は……」
「相変わらず元気そうで良かったよ」
「岸部ロハン……何故ここに」
「君こそ、わざわざ脱走してこんなところに来るなんてな。枕でも合わなかったか?」
「……」
返ってきたのは沈黙。明らかに拒絶の意が込められているがそれでも彼は会話を続ける。
「おいおい、そう警戒しなくてもここには消火栓もなければ電線もないようだぜ」
否、会話と言うよりも挑発であった。
「……相も変わらず口を開けば開くほどうざったらしい」
「そうかい?まぁいいよ。君……いや君達はどうやって矯正局から脱走したんだ」
「私があなたに教えるとでも?」
「少しくらい良いじゃあないか、僕は君に差し入れなんかもしてやったんだぜ」
「ええ、久しぶりに折り紙ができて中々楽しかったです」
どうやら彼の漫画はお気に召さなかった様だ。
「わかった、わかったよじゃあせめて1つだけ答えてくれ」
「…………」
「連邦生徒会長が健在だったらこれは起きなかったのか?」
「……それがなんだと」
「いやぁ、もしそいつが連邦生徒会長が居なくなったのを見計らって今回の計画を実行したのなら」
少し間を開けて
「興味が失せるね、実に小悪党的で」
「そうですか……で、わざわざ私の前に姿を現したということは」
彼女の手がゆっくりと銃を撫でる。
「八つ裂きにされる覚悟があると言うことですよね」
怒りを通り越した無。2日目のセミであろうとも鳴くのをやめるであろう彼女の圧が岸部に向けられる。
「君は絶対に起きない事を覚悟するのか?」
「……」
言葉の代わりに飛ぶ足。それを後ろに倒れることでギリギリ躱す。
「あの時もそのように情けなく地べたを転がりまわってましたよね」
「そんなやつに面割られた奴が居るらしいな」
「本当に……腹立たしい」
腕の大振りも後ろに引いて躱す。
「おいおい、牢屋の中で鈍ったか?」
容易い訳でもないが難しくもない攻撃。それに彼が違和感を覚えるのも仕方無いだろう。
「……いえ、鈍ったのはあなたの方です」
「何を……」
次の瞬間彼の目前に白の仮面が広がった。やばいと思った時には既に遅く鈍い痛みと床の冷たさを味わうことになった。
「……っぐぅ」
一瞬の油断の隙に投げられた。いや、仮に彼が油断をしていなくても2手3手先には同じ光景が繰り広げられていただろう。
「以前のあなたならそもそも私と正面で対峙なんてしなかったでしょうに……そんな惨めに蹲って」
そうは言われても彼は今それどころじゃない。とある理由で痛みが倍増してしまったのだ。
「僕だってしたくなかったさ……これが君の手にあったからね」
そう言って彼は長方形の箱を見せびらかす。
「……なるほど」
投げられる直前に抜き取ったのだろう。運悪くそれが鳩尾に入ってしまったためきついことになっていた。だが彼は一気に場の流れを掴むことに成功する。
「なんとも手癖の悪い」
「これにそんな事言ってたら君は頭のてっぺんから爪先まで悪い癖ばっかりだろう」
お互い軽く言葉を交わし合いながら相手の出方を伺う。と言っても彼の方はまだ立ち上がれてすら居ない。本来彼女の方は伺うなんて事はせずにそのまま力尽くで彼をどうにでもできるのだが、矯正局に居たブランクと相手が岸部ロハンということがそうさせなかった。
(彼が奪ったということはやはりあの箱には『何か』があるということ)
(あの狐坂が破壊を躊躇する程の『何か』がこの箱にはある)
お互いに箱の概要を知らぬまま箱が重要ということを確信するという不思議な状況もこの停滞を長引かせる要因になっている。それでも少しづつ距離を詰める狐坂ワカモ。まさに絶体絶命。
「……勝つときというのはこのように相手を見下しているときとあなたの漫画に描いてありましたが、どうです?見下される側は」
(なんだ……
「ああ、そういえばそんな事も描いたな」
少しづつ距離が縮まっていく。それでも岸部ロハンは動かない。
ジリジリ……
彼女の射程距離に入る。
「こうは描いてなかったか?相手が勝ち誇ったときそいつは既に敗北しているって」
ゾッ
瞬間彼女に悪寒が走る。
(何を!?)
彼女は防御の姿勢を取る。それは致命的な悪手だった。
「ヘブンズッ!」
"何をしてるの?"
地下に響いたのは本が開くような音では無く、様子を尋ねる声だった。
「……ッ」
ザッ!
岸部ロハンの意識がそちらに向くと狐坂ワカモはその場から離脱する。
"大丈夫?"
大の字になっている彼に差し伸べられる手。
「あぁ」
その手を掴む事無く彼は立ち上がると軽く服を払う。
"気分はどう?"
「凄くハンバーガーが食べたいのにサンドイッチしか無かったときみたいな気分さ」
"案外サンドイッチの方が美味しいかもよ?"
「かもしれないが身体が求めているのはハンバーガーなんだ」
それが岸部ロハンと先生のファーストコミュニケーションだった。