岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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ユルサレザルモノ

 

 

 

『コノサキノシンゴウヲヒダリ』

 

 可愛げのない無機質な音声に従い住宅街をバイクで走る。ついにバイクが喋るようになるとは流石エンジニア部と言ったところか。

 

『今回の依頼少し変なの』

 

 そう連絡が来て現在指定された場所へ向かっている最中だ。僕は今朝は少し用事があった為現地集合となっている。

 

『モクテキチ!モクテキチ!』

 

「わかったよ…これ切れないのか?」

 

 そう口うるさく言われ案内されたのは

 

「どこからどう見てもふつーのマンションだな」

 

 本当にここが依頼の現場なのだろうか?僕は陸八魔に『着いた』とメールを送る。

 

 ガチャ

 

「ロハンさん3階まで上がってきて!」

 

「ああ」

 

 そう手を振る彼女に僕は片手を上げ、マンションの玄関に入った。

 

「お邪魔するよ」

 

「あ、岸部の兄貴3日間のお勤めご苦労さまっす」

 

 サングラスを掛けた浅黄がやけに様になったお辞儀で出迎えた。

 

「良いサングラスだな」

 

「でしょでしょ」

 

「全員中にいるのかい?」

 

「アルちゃんは中、2人は下で装備の確認中〜」

 

装備って事は

 

「…戦闘系なら僕かなりきついぜ?」

 

「うーん、どうなんだろ?」

 

 部屋に入ると、少しくどい芳香剤の匂いと生活感のある空間が僕を出迎えた。

 

「ロハンさん、この子が今回の依頼人よ」

 

 テーブルを囲み椅子に座っている陸八魔の対面に座る女がペコリと頭を下げる。

 

「ど、どうも」

 

「突然お邪魔してしまってすまないね」

 

「いえ……あの岸部さんってカウンセリングできるって本当ですか……?」

 

「やけに急だな」

 

「あっすみません突然……」

 

「まあ、できるが…」

 

 彼女の話では友人が最近噂になっている廃墟となったショッピングモールへ3日前に肝試しに行ったそうだ。彼女も誘われたそうだが怖いのが苦手だからと断りを入れた。その翌日友人は何事もなく帰ってきたらしいのだが、どうにも様子がおかしい。

 

「……全然笑わないんです」

 

「面白い事がなかったんじゃないのか?」

 

「そうじゃないんです!」

 

 友人はそれほど明るい性格というわけでも無かったが、喜怒哀楽は普通にあった。それが今では生存に必要な行動しか自発的に取れなくなってしまっているとの事だ。

 

「医者には見せたのか?」

 

「はい、外的なショックが原因と言っていたんですが…治るかどうかは本人次第と…」

 

「じゃあ、何故僕を?」

 

「…最初はその廃墟に一緒に来てもらおうと依頼したんですけど…」

 

「どうせならやれる事やろうと思って、ほらロハンさんカヨコが変になっちゃった時カウンセリング習ってたって言ってたじゃない?」

 

 なるほどな、身から出た錆ってやつか。

 

「なんとかできないかしら…?」

 

「まずは見てみないとわからないな」

 

「お願いします…」

 

 彼女に案内されたのは薄暗い部屋、パチンとスイッチを押すと見えづらかった人影がハッキリと見えるようになった。

 

「私の友達のキヌエちゃんです」

 

「……」

 

 キヌエと呼ばれた女はベッドで横になったまま何も返事をせずじっと棚を眺めている。

 

「…岸部さん、どうですか…?」

 

「…ああ」

 

 なんだこの違和感……いや、不快感というのだろうか。彼女を見ていると何処か居心地の悪さを感じる。

 

「彼女の深層心理に語りかけたいんだが……そのために僕と二人っきりにしてもらえないか?」

 

「それは…」

 

 依頼をしたとは見ず知らずの人間と友人を二人っきりにするのは抵抗があるのだろう。

 

「大丈夫、ロハンさんはプロだから」

 

「やっぱり岸部さんって…あの漫画家の?」

 

「ああ」

 

「キヌエちゃん岸部さんのファンなんです……こんな状態じゃなかったら……飛び跳ねて喜ぶんだろうなぁ……」

 

 そんな涙の混じった声がやけに心に残った。

 

「私、残ろっかな」

 

「ちょっとムツキ」

 

「……そうだな、もし彼女が拒否反応を起こして暴れそうになった時に抑える人間がいた方が良い、君に頼んでも良いが友人が錯乱してるのを見るのは結構クるだろ」

 

「そう…ですね、岸部さんお願いします」

 

 2人が部屋から出る。

 

「で、どういうつもりだ?」

 

「何が〜?」

 

 僕の問いに惚けて返事をする浅黄。少しムカつきながら答えを急かす。

 

「何が狙いで残ったんだここに」

 

「やだなぁ無いよ狙いだなんて、ほらどうぞ岸部先生」

 

 釈然としないまま僕は手を彼女の方に向け

 

「はぁ…ヘブンズ……」

 

 “それが他の人を自分自身の為だけに利用する事なら私は許さない“

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

 そんなのは今更だ。

 

 僕はそっと寝転がる彼女の頬に手を添えた。

 

「ヘブンズ・ドアー」

 

 今、心の扉は開かれる。

 

 バサッ

 

「なんだかんだちゃんと見るのは初かも」

 

「軽々しく見せる様なもんじゃあないからな、ましてや人様のプライバシーってやつだしな」

 

「ロハンちゃんからプライバシーって言葉が出てくるなんて……」

 

 涙を拭う真似をする浅黄。

 

「ついでに君の記憶を消したって良いんだぜ」

 

「ほら、早くしないとと2人が戻って来ちゃうよ」

 

「……調子のいいヤツ」

 

 ページを捲っていく。

 

「何かわかった?」

 

「そんなすぐに……これ見てみなよ」

 

「うん」

 

 緊張の面持ちで彼女を覗き込む浅黄。

 

やっぱり岸部ロハンの漫画はすごい面白い。絵はもちろんのことセリフの自然さが圧倒的に読みやすい。

 

「相当見る目あるぜ」

 

「……」

 

 隣から鋭利な視線を感じる。

 

「……とりあえず重要なのはここ数日だ」

 

 僕はガサッとページを一気に飛ばした。

 

怖い

 

 ただその文字がページを埋め尽くしていた。

 

アイツが怖い

 

「アイツって?」

 

「ちょっと待て……駄目だなどこにも書いていない」

 

 ヘヴンズ・ドアーは例え脳が忘れようとも身体、魂に刻まれた記憶を読む事ができる筈だ。だが次のページに書いてあることは

 

お腹が空いた

 

眠い

 

 それだけが続くのみ。書体すら変わるなんてどうなっているんだ……これはまるで……

 

「結局行かなくちゃわからないみたいだね」

 

「ああ、だが」

 

ビリッ

 

「あっ!破いちゃって良いのそれ…?」

 

「死にはしないよ」

 

 廃墟に入った後からのページを全て破り能力を解除する。

 

「……」

 

 彼女の目に光は戻らなかった。

 

「駄目か」

 

 僕は破いたページを戻し外にいる二人を呼び戻す。

 

「どう……だめでしたか?」

 

 彼女の声はベッドの上のキヌエの様子を見て諦め混じりになる。

 

「ロハンちゃん…なんて答えるの?」

 

 僕にしか聞こえない声量でささやく浅黄。

 

「僕の見立てでは彼女は心を失っている」

 

「そんなの……そんなのおかしいじゃないですか……ただ肝試しに行っただけなのになんでそんなことになるんですか……」

 

「それを今から明らかにしにいくんだろ?陸八魔」

 

「ええ」

 

 人が運転する車ってのもそう悪いもんじゃあない。流れていく景色を眺め特有の揺れに揺られながら考え事をする。それは依頼人の友人であるキヌエの状態。心を失う、よく表現として心を奪われるなんて言うが、あれは失うとは正反対だ。

 

 僕の能力でも同じ状態にする事は可能ではあるがそれをするメリットが無い。メリットデメリットを超えた目的があるのか?

 

「ねぇロハンさん」

 

「なんだ?」

 

「シャーレの先生ってどうだったかしら?」

 

「……どうって?」

 

「その…ほらロハンさん数日一緒にいたのよね?」

 

「ああ」

 

「なら、どういう性格かとかわかったんじゃないかしら…?」

 

「別に普通だったさ、特に何かおかしな所があるわけじゃあ無かったよ」

 

 そう答え前を見るとミラー越しに鬼方と目が合う。

 

「そう…なのね」

 

「もしかしてアルちゃんビビっちゃってる〜?」

 

「そんな事無いわよ!」

 

 なるほど、陸八魔の質問の意図がわかった。つまり

 

「シャーレが僕達を潰す可能性があるかどうかが聞きたかったのか」

 

「え、ええ……もしゲヘナの風紀委員会と連携されたら…」

 

「そういえば君達マークされているんだったな、差し入れの希望はあるかい?」

 

「美味しいもの」

 

「捕まる前提なの!?」

 

「そ、そのシャーレの先生をけ、消せば良いんですか…?」

 

 僕の天敵になりうる存在がそんな事を言う。

 

「伊草、それはアリだな」

 

「ナシよ?本当に駄目だからね」

 

「まあ、君達なら大丈夫さ先生との敵対はないだろうね」

 

「本当?信じるからねロハンさん!」

 

「ああ、大船に乗ったつもりでいいよ」

 

「だ、大丈夫です…いざとなったら……」

 

「派手にやっちゃう?」

 

「いざというときは無いから!」

 

「だと良いけど…」

 

 “それが他の人を自分自身の為だけに利用する事なら私は許さない“

 

 彼女達はどちらかと言えば利用される側だ。なら先生は捨て置かないだろう。相性も悪くないと思う。

 

 そんな事を考えて僕は再び流れていく景色を眺める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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