ヘルメットは壊れない
『砂』ってのはどこか人を惹きつける力がある。それは観光の名所としてだったり、流れる姿で時間を表現したり。
イギリス人の画家ウィリアム・ブレイクはこう言葉を残した。
「一粒の砂に世界を見、一輪の野の花に天を見る」
砂という小さな粒はどこか僕達生物そのものの源を想起させると僕は考えている。
だからこうして埋もれた街を歩いていると生命の始まりと言われる海を泳ぐのと近い感覚になる。それは安心であり恐ろしさだ。
細かな粒の集まりが街や人、真実すらも覆い隠す事が出来てしまう。僕はその事に無情の美すら覚える。
彼女はどうだったんだろうか。この景色を憎んだのだろうか。自分で言っていてそれがあり得ないことなのはわかっている。彼女は何かに憎悪を抱ける様な人間じゃあなかった。
『−−−−−−−−をよろしくね、ロハンくん』
終わりに向かう中彼女は砂に何を見たんだろうか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁぁ……」
ここはアビドス高等学校のとある教室。そこはとある委員会の部室である。『アビドス廃校対策委員会』略して対策委員会。日夜アビドス高等学校の廃校を回避する為に駆けずり回る人間の巣窟である。
そんな中に気の抜けたように椅子にもたれ掛かる姿が1つ。
対策委員会書記奥空アヤネである。他の対策委員はカタカタヘルメット団に拉致された黒見セリカ奪還の為の戦闘を終え帰還している最中である。
(セリカちゃんが無事でよかった…)
先生が連邦生徒会のセントラルネットワークに接続した為迅速に発見する事が出来たが…
(でも…あんな戦車どうやって…)
様々な疑問が浮かぶ中、
カツカツ
廊下の奥から足音が聞こえてきた。
(もう帰って来たのかな?)
一瞬そう考えたがおかしな点に気が付く。
カツカツ
(1人だけ…?)
そう、明らかに足音は1つしか無い。先に誰か帰ってきた?なら通信があってもいいはず。可能性が浮かんでは消え浮かんでは消え1つに絞られる。
「カタカタヘルメット団が…?」
(拉致はあくまで陽動で本命は空になったここを占領する事……私1人でなんとか…少しでも時間を稼げばみんなが帰ってくる…!)
自らの愛銃を構え足音を待つ。
奥空アヤネは昨夜から寝ていない。そして黒見セリカ奪還作戦が成功し緊張の糸が切れかけていた。だから気がつけなかった。
何故足音が迷いなく一直線にこちらに向かってくるのか。何故襲撃を行うカタカタヘルメット団が1人なのか。
ガラッ
「うわっっ!」
時を少し遡らせる。
ここに来る途中絡んできたカタカタヘルメット団から、そのトレードマークであるヘルメットを奪った岸部ロハン。
ヘルメットを上に投げたりして弄ぶ中1つ思い付く。
(こいつ被って行って驚かしてやろう)
一瞬驚くかもしれないが男子生徒なんて僕くらいしか居ないからすぐに気が付くだろう。
岸部ロハンは黒見セリカが拉致された事を知らない。知っていたら恐らくやらなかっただろう。無知とは恐ろしい物である。自分がしている事の重大さに気が付いていない岸部ロハンのニヤニヤした顔はヘルメットに隠されて見えなくなっていた。
廊下を歩いていく。
(……妙に静かだな)
その静けさにどこか違和感を覚えるがヘルメットを取るには至らない。
(先生が来たことによって形勢が逆転したのか…?なら逆にこちらから攻めに出たのか?…小鳥遊か砂狼のどっちかの案だろうな。まあ、だとしてもオペレートをする必要のある奥空は残っているか)
誰も居ないのにヘルメットを被る意味が無いため安心する岸部。意気揚々と部室の扉を開け
「うわぁっァァァ!?」
放たれた銃弾がヘルメットを掠める。驚かすため上げた声が断末魔へとグラデーションされる。
「待ってくれ!奥空!悪かった!」
腰を抜かして命乞いを行う。
「カタカタヘルメット団っ!今更謝っても許しません!」
「ヘル…?違う!僕だ!」
急いでヘルメットを脱ぐ岸部。
「あっ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〝掠っただけで済んで良かったね〟
削れたヘルメットを触りながらそう溢す先生。部室に戻ってきて最初に見た景色が、見知った生徒が何故か説教を受けている光景でありかなり驚いた。
「あぁ…ヘルメットが無かったら即死だった…」
「無かったらそもそも撃ってません!」
持って帰ってきた戦車の部品を解析しながら奥空がツッコミを入れる。
〝悪戯するにしてもTPOは弁えないと〟
流石にヘイローの無い人間を問答無用で撃つ様な生徒はよっぽどの事をしない限りいないと思うが。
「知っていればやらなかったよ、少しだけビビらせてやろうくらいの気持ちだったんだ」
「それで撃たれちゃったら世話ないよねぇ〜」
対策委員会委員長小鳥遊ホシノが呆れた口調でそう言う。
〝ねぇ、ロハン〟
「なんだい?」
〝どうしてアビドスの事言ってくれなかったの?〟
そんなに信頼されていないか。そう続きのある言葉だった。
「僕だってまさか救援要請をするくらい追い詰められてるだなんて知らなかったよ危険だから来るなって言われてたしな」
「えっそうだったんですね!てっきりお仕事が忙しくてこれなくなっちゃったのかなーって」
「確かに暇じゃあないが顔出せない程僕が自己管理出来ないわけないだろう」
十六夜ノノミにそう返す。
「僕と同じ様にヘイローの無い先生がここにいるんだ、それで僕が安全な所で温々してるってのは筋が通らない、そうだろ?小鳥遊」
「まあ、確かにそうなっちゃうよねぇーロハン君だけ蚊帳の外って訳にもいかないしねぇー」
「ああ」
「あれ…ロハン君って言うなって言わないんですね?」
「別に…先生の前でわざわざ呼び方1つで空気悪くする必要ないからな」
「遂に心開いてくれたんじゃないのー?」
どの口で。
「そうなるくらい立派な姿見てみたいもんだな」
「ノノミちゃんロハンくんが酷いよー」
それからしばらく戦車部品の解析を待つと。
「あの戦車…やはりキヴォトスでは禁止されている違法機種で間違いないみたいです、それ自体かなり問題なのですが…」
「どうしてヘルメット団がそれを持っているかだよね」
「裏に何かがいるのは間違いないな」
「この部品の流通ルートを分析すればその裏が探し出せますね!」
「はい、何故ヘルメット団がここを狙っているのかも明らかになっていくと思います」
「とりあえずじっくり調べていこっかー」
「そうだな」
(まあ、『違法』『不明』『禁止』どれか1個でも当てはまったら十中八九『ブラックマーケット』だ。それで決め打ちしても良いんだが…先生もいるしな、こちら側の余裕はかなりある。外すリスクより今は確実性を取ったほうが良いか)
今後の為の確認を終えた所で先生から声がかけられる。
〝ねぇねぇロハン、ちょっと良い?〟
「どうかしたのかい?」
〝ちょっと来て〟
「わかった」
そう言って部室の外に出ていく先生の後ろをついて行く。
「……お説教かい?」
〝違うよ、1つ気になった事があって〟
「それは?」
〝私が初めてキヴォトスに来た時にも戦車が出てきたじゃん〟
「ああ、そうだったな」
あの2台の戦車。間違いなく無計画の不良が用意できるものじゃあなかった。さらに7囚人である狐坂ワカモが脱獄したその日に手にするには強奪しない限り不可能だろう。
〝関係あると思う?〟
「判断するには如何せん情報が少なすぎるな」
共通点と言えば不良と戦車くらいだが…
「あの日の戦車は確か…トリニティで使用されている物と同型だったよな」
〝うん、ハスミがそう言っていたと思うよ〟
「なら多分別件じゃあないか?」
〝あ~そう思う?〟
「連邦生徒会管轄のシャーレの次にアビドスを襲う意味なんて無いからな、全盛期の頃なら兎にも角にも今のアビドスは吹けば飛ぶぞ」
〝飛ばさせないように頑張らないとね〟
「それに戦車3台のうち1つだけ別機種にする必要無いからな、部品の面でもメンテナンスの面でもな」
〝それしか用意出来なかったとしても?〟
「なら2台しか用意しないだろうね無理に3台目はいかないさ」
〝そっか〟
プライドが高い奴が完璧な計画を練ろうとすればする程非対称ってのが許せなくなって、統一感が欲しくなる。
「同一犯の方が良いのかい?」
〝一網打尽に出来たらなって〟
「先生、ここは学園都市だが…いや、だからこそ野望や悪の糸は絡み合ってここで生きる人間を捕らえる網と化してしまう」
〝なら…大人が網を切ってあげないと〟
そう拳を握り込んだ先生。
「ああ…頑張ってくれ、とりあえずしばらくしたら黒見のお見舞い行ってみるんだな」
〝うん〟
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ…はぁ…くそっ…」
身体に力が入らない。突然感じた熱と風、他の奴らよりも少し離れていたから意識を失う事は無かったが…なんとか残った力を振り絞って辺りを見渡す。そこに広がるのは力無く倒れる伏す仲間の姿。
ドダダダダダダダダ
「うわぁぁぁぁ!」
聞こえてくる銃声と悲鳴。
「こっちは終わったよ」
「こっちもだよ社長」
向こう側から聞こえてくる声。夜の闇に紛れた暗くて見えない姿。それが私をより深く絶望に落とす。
「何なんだよっ!お前らぁっ!」
悲痛な声が木霊する。バカ…なんで黙っていないんだ。
ガシッ
胸ぐらを掴まれるあいつの姿。
「お、お前らっ…アビドスの奴らか!?」
「…こんな冴えないところをアジトにしているのも納得ね」
「な、何を…」
「今現時刻を持ってアビドスは私達が引き継ぐわ、要は…あなた達はお払い箱って事」
ああ、やっぱりか…あんなに太っ腹なクライアントの事だ。成果が出なければ他の手段を用意するに決まっているよな……あの戦車も駄目にしちまったし。
「そんなふざけたことっ!」
ドサッ
「あなたの意見は聞いていないわ」
馬鹿野郎…!
…悪ってのはより強い悪に淘汰されるってなんかで聞いたことあるが正にそれだな。チンピラが自業自得に滅んだだけ。誰も見向きもしない当たり前の事実。このまま、こうして寝てればあいつみたいに痛い思いをせずに済む。これもまた1つの事実。
だけど納得出来ない。碌な事やってこなかったけど確かにここは私の居場所で馬鹿な仲間がいた。それは揺るぎない事実なんだ。
力を両腕に込めていく。
やめとけ!見ただろ勝てるわけ無い!
うるせ、勝つか負けるかの次元じゃねぇ
武器は!?さっきふっ飛ばされて壊れただろ!
頭に着けてんだろ、飾りじゃねぇんだぞこれ
…意味なんかないだろ
意味なんかねぇよ
震える足を思いっきり叩く。
「あら、撃ち漏らしかしら」
マスクが今は邪魔だ。紐を引き千切って息を思いっきり吸う。
「命乞いくらいは聞いてあげてもいいわよ」
「舐めんな」
ヘルメットを手に持って女に走っていく。
当然その仲間である2人から銃弾を浴びせられる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
全っ然痛くねぇし!止まってやらねぇ!
「今の私は馬鹿だからなァっ!」
風邪引かねぇって言うし銃弾くらいなんてことない。
「ァァァアアアァアアっ!」
ようやくあと少し手を伸ばせばヘルメットが届くところまで来た、そこまで来ると暗くてよく見えなかった姿が見えるようになる。
こんな強そうな奴らだったんだな。そりゃ勝てねぇか。まあ、関係無ぇ。そのいかにもカリスマリーダーって面に
私は腕思いっきり振り下ろした。
「ハルカ」
「アガッ」
私は思いっきり地面に叩きつけられる。
「アル様に触れるな」
もう1人いたのかよ…くそっ
「正直驚いたわ、流石の野良犬根性ってやつね」
ちくしょう…もう立ち上がれねぇ…馬鹿でも痛いもんは痛い…!
「最後に何か言い残すことは?」
頭の前に銃口が突きつけられる。
あーあ、ちくしょうやれる事やったし良いよな。
「へっ…ダッセェコート」
私の意識はそこで途切れた。
「え……えっ?ダサく無いわよね?」
「くふふ…どうだろうね〜」
「カヨコ…ダサく無いわよね?」
「このヘルメット団、意外とガッツあってビックリしたね」
「カヨコー?……ねぇダサく無いわよねっ?」
「かっこいいです!アル様!」
「…そうよね!ありがとうハルカ!」
より強い悪がアビドスを飲み込もうと動き出していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
通知を知らせ携帯が震える。
【私のコートってどう?】
陸八魔からよくわからないメールが来ていた。今回の依頼ってファッション関係だったのか?戦闘系って僕は聞いていたんだが。
【似合っているんじゃあないか?】
【そうよね!特に〜】
そんなこんなで時間を潰していると足音が聞こえてきた。
校門から出てきた影に声をかける。
「黒見、身体はもう大丈夫なのか?」
「うわっ…あっロハン先輩か…もうシロコ先輩がすぐに運んでくれたしある程度は良くなったかなって」
「そいつは何よりだな、ところでうわって酷いじゃあないか」
「いや、あの突然声かけてきたから驚いちゃって」
「…そういう事にしておくよ」
「あ、あはは〜あ、私に何か?」
「君、誘拐されたんだってな」
「…うぅ…はい」
「別に言いたくないなら良いんだが…誘拐された時どう思った?」
「どうって…?」
「怖いなーとかなんで私が誘拐されなくちゃあならないんだとか、考えなかったかい?」
僕の言葉に彼女は少し考え。
「怖いとか不安とかもあったけど…一番は…」
「一番は?」
「裏切ったって思われたくない、私も他の人達みたいに諦めて逃げしたってみんなに思われたくないなって」
「なるほどな」
「えっ、もしかして漫画に使うの?」
「いや?それで発見された時に泣いてたのかって」
「ねぇ!それ誰から聞いたの!?」
「貴重な話ありがとうな」
「ちょっ!もうっ!」
砂の上を歩いてさっきの黒見の言葉を考える。
「みんな…か」
思い出を創るのは人だ、場所じゃあ無い。
────────────────────────────
アビドス高等学校対策委員会
残り借金額・・・9億5100万