岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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借金は減らない

 

 

1人眠った。命があっても動かずにそこに居るだけとなって。

 

ピシ

 

罅が入る音がした。

 

1人居なくなった。その頭の上に輝く光が壊れて。

 

パリン

 

割れる音がした。

 

1人離れた。彼女の意思ではなかったと思う。だけど居なくなった。

 

ガタンッ

 

聞いたことのある音がした。

 

1人絶った。それが無いと生きれないのに。自分で外して。

 

ピー!!

 

甲高い機械の音がした。

 

1人見つからなかった。どこにも居ない。

 

――

 

何も聞こえなかった。

 

 

何も見えない、暗くて寒い。私の終わりはこうなんだ。こうやって…朽ちていく。

 

なら、全部間違いだったんだと思う。私が始まったあの時から全部。

 

あぁ…そっか、私もみんなも

 

「苦しむ為に生まれてきたんだ」

 

心が砕ける音がした。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ロハン…ロハン起きて」

 

呼びかける声がした。

 

「おはよう」

 

起き上がるとベッドの横に立ちこちらを覗き込む青色の目の奥に輝く2色の色。

 

「……見えるようになったのか?」

 

「どうしたの?」

 

そう聞かれて初めて自分が何を口にしたのかわからないことがわかった。砂狼シロコ、彼女が拾われてから目が見えなくなった事なんてこれまで無く、健康そのものだった筈だ。

 

「……さぁ?」

 

「寝ぼけてる?」

 

「ああ、そうだな」

 

棚の上の時計は午前の4時を指している。予定よりも1時間も早い起床になってしまった。僕は触れないようにしていた事実に切り込みを入れる事にした。

 

「なぁ、君…何でここにいる?」

 

「ん、ツーリングに行く」

 

「そうか、行って来い」

 

「…?ツーリングに行く」

 

彼女は僕が何を言っているのかわからないという顔をしながら首を傾げる。

 

「まさかだが、僕を誘っているのか?」

 

「うん、ツーリングだから」

 

「勘弁してくれ、僕が君の走りについていけるわけがないだろ」

 

200KMを軽くなんて言う奴となんて走れるか。

 

「でも、ツーリングだよ?」

 

「それで通せると思うなよ」

 

「ロハン…ツーリングのツーは2人って意味」

 

「そんな意味は無いね!ツーリングのツーは旅って意味だ、もし本当って言うならそれが載ってる辞書かなんかを持ってくるんだな出版元にクレーム入れてやるよ」

 

3人だとスリーリングになるのか?なんてくだらないことを考えていると砂狼は少し考え込み

 

「…ロハン、バイク買ったって言ってた」

 

「ああ、言ったな」

 

「それを言うって事は一緒に走るって誘うのと同じ」

 

暗黙の了解にも程があるな。

 

「……ぶぶ漬け食べるか?」

 

「よくわからないけど大丈夫、今回の目的地で食べる為にお弁当作った」

 

「ああ、そう…」

 

「安心して良い、しっかりとロハンの分もある」

 

「そいつは凄いな」

 

僕は諦めて準備をする事に……本当に諦めて良いのか?

 

朝の4時にいきなり人を起こすような邪智暴虐を許していいのか?

 

激怒するべきなんじゃあないのか?

 

そもそも彼女はどうやって家に入ってきた?鍵は彼女が1人で暮らす事になってから返して貰ったはずだ。ピッキングかなんかをやったのならそこから切り崩せる。

 

「そういえば君、鍵が無いはずだがどうやって入ってきたんだ?」

 

僕は彼女が何かとんでもない方法を使ったことに期待しながら返事を待つ。

 

「ん…開けてもらった」

 

彼女を招いた黒幕は扉からひょこっと顔を出しながら

 

「いってらっしゃい」

 

なんて言うからそいつに免じて行かざるを得なくなってしまった。

 

「はぁ…行ってくるよ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

『ROADKINGキドウシマス』

 

「できるだけ音は静かに頼むよ」

 

『ワカッタ』

 

朝の4時に起こされる事の辛さ、わかるからな。ご近隣の皆様にそんな思いさせるわけにはいかない。

 

「そのバイク喋るの?」

 

「ああ、最新式だからな」

 

「凄いね」

 

『マアネ』

 

機械音声の筈なんだがふてぶてしく聞こえる。

 

「あんまり可愛気がない」

 

『オタガイサマ』

 

「ロハン…ちゃんとしつけした方が良い」

 

「機械相手にムキになるなよ」

 

「ん、確かにそう」

 

『アレレ?モシカシテ…ニゲルノカ?』

 

「………」

 

穴が空くほどバイクを睨む砂狼。

 

「はぁ…それ以上人の事を煽るならオミットするぞ」

 

一体何を学習したんだかな。

 

『ホンジツハドコイキマスカ?』

 

「ん、私が案内するから大丈夫」

 

『ヘヘ、ソウデゴザイマスカ』

 

三下みたいだな。情けなくならないのか…?まあ、良い今度ソフトの方をメンテナンスしてもらうか。

 

「じゃあ行こうロハン」

 

そう走り出した彼女の背中を追う。

 

 

高台特有の澄んだ空気を身体に浴びる。後ろを見ると息を切らした砂狼がタオルで汗を拭っている。かれこれ3時間休憩無しでバイクと並走し続け最後には上り坂と来たもんだ、流石の彼女でも疲れはするだろう。

 

「ふぅ…」

 

「流石に疲れたか?」

 

「最近あんまり乗れてなかったから少し鈍った…」

 

理由は聞かなくてもわかった。ヘルメット団の攻勢によるものだろう。追い詰められているというのはこの間知ったが更に詳しく聞いてみれば物資は限界ギリギリのところまで減らされていたらしい。ただのチンピラが兵糧攻めを行うとは考えづらい。偶然そうなったのなら良いんだが。

 

「やっぱりここは綺麗」

 

それから暫く2人で景色を眺めていた。もうそろそろ他のところに行くかと口を開きかけたところで砂狼が口を開いた。

 

「…家にいた子は…私と同じ?」

 

「大雑把に言えばそうだな」

 

『私と同じ』名前以外を覚えていなかった彼女が言う言葉でこれ以上重い言葉があるのかとふと思ってしまった。

 

「まぁ、君と違って記憶はあるよ」

 

「そっか…」

 

彼女は噛み締めるように何かを考えポツリと呟いた。

 

「あの子もアビドスに…」

 

「来れば良い」恐らくそう続けようとしたのだろうが最後まで出なかったのだろう。今のアビドスに誰かを入学させるのはハッキリ言って危険だ。何せ生徒の一人が誘拐されたんだからな。助かったとは言え、先生という本来無い筈のカードを切らなければ不可能だった。

 

「…ごめん…なんでも…」

 

シンパシーを砂狼は感じたのかもな。

 

「学校を襲撃する奴らの目的がわかって安心して借金返せるようになったらそれもありだな」

 

安心して借金返すってのも変な話だがな。一体何が裏で動いているのか、それは僕達の手に負えるのか。

 

「だからそれまでは先輩じゃあ無く友人になってやりなよ」

 

本人が拒絶しない限りはな。

 

「ん、言われなくても」

 

彼女はそう強く頷いた。

 

「……なんでセリカだったんだろう?」

 

ふとそんな事を口にした。確かにそうだな。

 

「一番取っ捕まえやすかったからじゃあ無いか?」

 

「そういう基準で選ぶならアヤネかロハンの2択だと思う」

 

「まあ、そうだな」

 

「……与える影響力で言えば…先輩とノノミとロハンが大きい」

 

小鳥遊を誘拐する事ができたなら一気に対策委員会を追い詰めることは可能だろう。まあ、それが可能な奴らならとっくに詰んでたがな。

 

十六夜は…彼女の実家が黙っていないだろう。一気に大事になるだろうな。

 

僕は言わずもがなだ。

 

ということは相手はできる限り小さく事を済ませたいということだ。アビドスを狙うのは…単純に場所が欲しいだけなのか?

 

「ロハン、私はアビドスを…あの場所を守りたい」

 

それは自分に言い聞かせている様にも聞こえた。

 

「みんなとの思い出が詰まっているから」

 

「……そうか」

 

「だから明日の定例会議、練りに練った『計画』を出す」

 

そう言う彼女の青の目は燃えていた。やる気と情熱に。もしかしたら彼女なら…そう思わせられる程の『凄み』があった。

 

「一先ずご飯食べよう」

 

そう彼女は布で包まれた箱を出す。

 

「ああ、いただくよ」

 

 

 

         〜〜〜〜〜翌日〜〜〜〜〜

 

 

「アビドス対策委員会定例会を行います、本日は先生もいらっしゃるのでいつもより真面目に会議できると思います」

 

「は~い☆」

 

「もちろん」

 

「よろしくね先生」

 

〝うん、よろしく〟

 

「おいおい、僕はいつも真面目だぜ?」「何よ、いつもは不真面目みたいに」

 

ジトッとこちらを見る奥空。

 

「お言葉ですが…前回の会議の際に『逆に返さなくて良いんじゃあないか』と言ったり『マグロ漁船に乗ればすっごい稼げるらしいよ!』と言ったりしてたのはどちら様でしたっけ?」

 

「「……」」

 

僕達は沈黙に活路を見いだし下を向く。

 

「話が逸れましたが今日の議題はアビドス高等学校が抱える負債をどの様に返済するかを具体的に議論していこうと思います、何か案のある方挙手をお願いします」

 

「はい!」

 

勢い良く挙手を行うのは僕と下を向いていた筈の黒見。

 

「…それでは1年の黒見セリカさんお願いします」

 

(いけるのか?)

 

(任せて!)

 

僕の訝しげな目に生き生きとした目を返す黒見。汚名返上って事か…不味いな僕も急いで何か考えなくちゃあならないな。

 

「対策委員会の会計として言わせてもらうけど現在のここの財源状況は絶望的っ!…このままいけば廃校ということはみんなわかっているよね?」

 

「まあね〜」

 

「毎月の利息は約700万円…これまで通りのやり方じゃそれを返すので精一杯…何か根本的な所を変えるしか無いわ」

 

確かにそうだが一体どうするつもりなのだろうか。

 

「そこで!これを見て」

 

黒見はテーブルの上に紙を1枚広げる。何かの…チラシか?

 

ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一獲千金

 

思わず黒見の顔を見る。特にふざけた様子は無い。いたって真剣な顔付きだ。

 

「これが…君の案なのか…?」

 

そう尋ねる僕の声は震えていた。

 

「そう!これでガッポガッポ稼ぐの!」

 

自信満々な声が部屋に響いた。

 

「………」

 

だがそれに返事をできる人間は居ない。僕は額を机につけた。

 

「この間さ、街で声かけてもらって説明会に連れて行ってもらったの、運気が上がるゲルマニウムブレスレットってのを売っているんだって!」

 

「………」

 

誰も何も言わない。僕はもう限界だった。

 

「これ凄いんだよ!着けてるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの3人に売れば……あれ?みんな…どうかしたの?」

 

「却下〜」

 

小鳥遊が先陣を切った。

 

〝だね〟

 

「えぇー!!なんでっ!?」

 

「セリカちゃん…それマルチ商法だよ…」

 

「儲かる儲からない以前の話」

 

「へっ!?」

 

「そもそもゲルマニウムに運気が上がる効果なんてあるのかな…?」

 

「ゲ、ゲルマニウムには…痛みを和らげたり…免疫を上げたり抗炎症なんて話も…あ、あるがどれも眉唾な話だよ…」

 

少なくとも運気が上がるなんてのは聞いたことが無い。

 

「ねえ、ロハン先輩どうして机に突っ伏してるの!?」

 

「こんな怪しい所でまともなビジネスを紹介してくれるわけ無いよ」

 

「そうなの!?私2個も買っちゃった…」

 

「プッ…ハハハハハハ」

 

我慢できずに吹き出してしまった。友人からの紹介で断りきれなくてとかじゃあ無くてマジで引っかかる奴いるんだな。

 

「ちょっと!」

 

「セリカちゃん、騙されちゃいましたね、可愛いです☆」

 

「……!」

 

「まったく…セリカちゃんったら世間知らずだねー、気をつけないと悪い大人に騙されて人生取り返しがつかなくなっちゃうかもよー?」

 

「…そんなふうには見えなかったのに……」

 

〝最初から疑ってかかれとは言わないけど、誰か知り合いに聞いたりしてみた方が良かったんじゃないかな〟

 

「ま、まあ…良い経験になったんじゃあないか、美味い話には裏があるってな幸い数千円くらいだろう?人生終わるわけじゃあないからな高い授業料だと思えばいいさ」

 

「私のっ…お昼抜いて貯めたお金が…」

 

涙ぐんでしまった黒見。

 

「セリカちゃん、お昼私と一緒に食べましょう?私がご馳走しますから」

 

「ノノミ先輩ぃ…」

 

「黒見、そのブレスレット1個売ってくれよ眉唾だろうと一応確かめてみたいからな」

 

そういったスピリチュアル系に手を出した事は無いが気にはなるからな。十中八九効果は無いだろうがそう決めつけるのは着けてみてからでも良いだろう。

 

「ロハン先輩ぃ…」

 

「とりあえず黒見さんの案はここまでにして…他に案のある人は?」

 

そう仕切り直しを宣言した奥空。

 

「はい!はい!」

 

「…3年の小鳥遊委員長お願いします」

 

出鼻が挫かれた様なこの会議。果たして流れを変えてくれるのか見物だな。

 

「生徒数を増やす為に他校のバスを拉致しようー!」

 

「えぇ!?」

 

「ここにある転学届けにサインしなければ降ろさないとか言っちゃってさー」

 

「名案、どこのバス狙う?ゲヘナ?トリニティ?ミレニアム?」

 

「うーん…ゲヘナっちゃう?」

 

「流石に風紀委員会が黙ってませんよ」

 

空崎ヒナがいるんだったか?彼女を小鳥遊が抑えている間になんとかいけそうだがな。

 

「ゲヘナは自由な校風らしいぞ、もしかしたら許してくれるんじゃあないか」

 

「校風とかじゃ無くない?」

 

「だめかー」

 

「もっと真面目にお願いします!」

 

「私にいい考えがある」

 

そう名乗りを上げたのは僕に凄みを感じさせた砂狼だ。

 

「……2年の砂狼シロコさん…」

 

「銀行を襲うの」

 

何が凄みだ。

 

彼女の緻密な強盗案は当然の様に却下される。用意された手作りの覆面が悲しく陽に照らされる。その後会議は続いたが

 

「スクールアイドル!水着少女団!」

 

「却下」

 

スクールアイドルで廃校を回避するなんていうどこかで聞いたことのある様な案が小さくて特定のマニアにしかウケなさそうな可哀想な奴が却下したり。

 

「ロハン君後で話ね」

 

………

 

「さっき私の事笑ってたけど岸部先輩はなにか案ないの?」

 

突然のフリに

 

「カジノを作るのはどうだ?」

 

完璧に対応したり

 

「これ以上治安悪くなったらやばいよ」

 

「せっかく、良さそうなカモを見つけたんだがな」

 

「なんでこっちを見ながらそれ言うの!?」

 

そんなことを繰り返していたら

 

「あああああぁ!」

 

ガシャーン!

 

奥空が怒ってちゃぶ台が舞った。

 

 

 




セリカ「ねぇ、マコモ湯って知ってる?」



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