岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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アルティメット・ドリンク〜④

 所狭しと並べられたペットボトルを背景に僕達は確認作業を始めようとしていた。

 

「さて、これから組み合わせを調べていくが何か質問あるか?」

 

「はいはーい! 今から私達3人で手分けして組み合わせを飲んでいくってのはいいんだけど……ロハンちゃん全種類飲んでいくって正気?」

 

「ああ、味が気になるからな」

 

「キツくない……?」

 

「まあ、一口ずつなら行けるんじゃあないか?」

 

「ロハンさん……無理はしないでね」

 

「はぁ……吐くのだけはやめてよ」

 

「善処させてもらおう」

 

「不安だぁ〜」

 

 仮に本当に視えない物が視えるようになったとしてヘイローを持っているか持っていないかでどんな差が出るのかも知りたいしな。

 さあ、楽しい楽しいドリンク探しの始まりだ。

 

「メロンソーダにメロンソーダ混ぜる意味ある?」

 

「そういう突拍子もない行為が噂を生んでる可能性もあるからな」

 

 実際同じメロンソーダでもメーカーによって風味や後味が違う。些細な違いが大きな結果を生む可能性があるからな、意味はあると思うぜ

 

 

 1時間後

 

 

「液体アレルギーになりそうだわ……」

 

「その時は凍らせてシャーベットにでもするかい?」

 

「そういう問題じゃないの!」

 

 組み合わせが見つかった場合、シャーベットにすると何か違いがあるかも検証してみよう。

 

 さらに1時間後

 

「あはは、しばらくは甘いもの要らなくなりそう〜」

 

「確かにな、コーヒーでも飲むかい?」

 

「ロハンちゃん……」

 

 ギヴォトスには女子生徒が多いためか飲み物も甘めの物が多い。できれば辛めのジンジャーエールでもあればいいんだがな。そろそろ3人の限界が近そうだ。陸八魔に至っては涙を流しながら混ぜている。中々器用なヤツだ。

 

「あ、そういえば」

 

 鬼方が何かを思い出したようだ。

 

「自動販売機があったから買ってみたんだけどさ」

 

 と鞄から四本のドリンクを出す。

 

「見たこと無いやつだな」

 

「私もそう思ったから買っておいたんだ」

 

 そう言いながら四本のドリンクを少しずつ注ぎ混ぜていく。僕もそれに倣って四本をかき混ぜ口に運ぶ。合わせた割には意外と味がまとまっているじゃあないか。

 

ガシャン! 

 

 鬼方がカップを落としてしまったようだ

 

「おいおいおい、大丈夫か?」

 

「流石に今日はもう無理かしらね」

 

「箒持ってくるね~」

 

 なんて声を掛けたが反応が無い。鬼方の身体が異常に震えている。

 

 次第に顔が強張っていく

 

「なあ、一体どうしたんだ?」

 

「カヨコ?」

 

視ないで視ないで視ないで

 

「え?」

 

「視ないで……視ないで……視ないで」

 

「視ないでって何を!?」

 

「ずっと視てきてるの!」

 

「何が!?」

 

「いやぁぁぁ! 視ないで!」

 

 陸八魔が質問してるが埒が明かない。十中八九あの飲み物が理由だろうが僕も飲んでいるのに何故何とも無いんだ……? 僕と彼女の違いは何だ……ヘイローか! 

 

「陸八魔! 鬼方のヘイローにいつもと違う所はあるか!?」

 

「え!? ……何かノイズが混じってるいるわ!」

 

 やはりそうか、おそらくヘイローが目印となっているんだろう。そしてこの状況の打開の仕方も思い付いた。

 

「箒持って来たよ〜! え、どうしたの……?」

 

「鬼方が錯乱してしまってね。2人にお願いがあるんだが、鬼方の好きな食べ物買ってきてくれないか?」

 

「え?」

 

「僕はカウンセリングを学んでた時期があってね、あまり大人数だと反って鬼方を怖がらせてしまうからね」

 

 どうにかして二人きりになれなければ……

 

「いや……でも」

 

「頼む、僕を信じてくれ」

 

「わかったわ、いきましょうムツキ」

 

「でもアルちゃん!」

 

「社長が社員を信じなくて何を信じるって言うのよ」

 

「わかった……ロハンちゃん……任せたよ」

 

 

「ああ、任せてくれ」

 

 

 僕は2人が出ていったのを確認し鬼方に声を掛ける。

 

 

「おい、鬼方」

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

 

 

「僕の目を見るんだ」

 

 鬼方の怯えた目がこちらを向く

 

「いいか、ゆっくり息を吐くんだ……ゆっくりだぞ」

 

 そして掌を彼女の前にかざし

 

 

天国への扉(ヘブンズ・ドアー)

 

 

 さあ、読ませてもらうぞ。

 

 

 鬼方カヨコ、学年は僕より1個上か。誕生日は3月17日か趣味はCD収集、結構良い趣味してるじゃあないか。

 

「ヘヴィメタルねぇ……」

 

 僕はあんまり音楽に詳しくないが実に彼女に似合いそうなジャンルだ。もっとしっかりと読みたいが、急がないと陸八魔達が帰ってきてしまう為に今日のページまで飛ばす。

 

路地裏の猫の様子を見に来たけど……今日はいないみたい

 

 

 

 用事ってこれのことだったのか。

 

 

あれ……こんなところに自動販売機なんてあったっけ? 

 

それに売ってるのも見たことないのばっかり

 

 この自販機であの四本のドリンク買ったって事か。鬼方は警戒心が強いと思っていたが意外だな

 

 

岸部こういうの好きだろうから一応買っておこう

 

 

 

 なるほど。実にナイスな判断だ。

 

 そろそろ時間も怪しいため、本題に入ろう一体何を視たんだ? 

 

 

 

 

目が私を視ている。沢山の目が

 

 

 

 

目が私を混ぜようと視ている

 

 

好奇心溢れる目 涙を流している目 うんざりしている目

 

 

 

全てが私を視ている

 

 

 

 そういう事か。言い方は悪いがよくあるタイプの話だな。

 

 まあ、彼女は運が良い。このドリンクが混ぜた時点でアウトだったら僕でも対処は難しい。だが混ぜた液体を飲むことによって引き起こされるのなら簡単だ、飲んだ物を吐き出せば良い。ペンを取り出し

 

 

飲んだものを全て吐き出す

 

 

 と僕は書き込んだ。

 

 

「ロハンさん! カヨコは!?」

 

 

「カヨコちゃんの好きな物沢山買ってきたよ!」

 

 

 

 

「ああ、おかえり、もう既に落ち着いたよ」

 

 

「良かったぁ……」

 

「あの、ロハンさん今何やってるのかしら?」

 

 

「掃除」

 

「え、どうして?」

 

「彼女、落ち着いたら吐いてしまってね。それの掃除さ」

 

 

 僕は失敗した。書き込む内容を今飲んだにしておけば良かった。僕は彼女が僕の検証に付き合い大量の飲み物を飲んでいることを失念していたのだ。

 

「で、どうしてカヨコはあんなふうになってしまったの?」

 

「疲れが溜まっていたんだろう」

 

「疲れって……」

 

「そんな中大量に飲みたくもないものを飲まされるというストレス、彼女の真面目な性格も相まってああなってしまったんだろう」

 

「視ないでとか言ってた気がするのだけれど……」

 

「錯乱中の人間がよくわからないことを言うのは良くあることだ。それに今回の噂の内容が上乗せされただけだろう」

 

「えぇ……そうなのかしら」

 

「とりあえず今日は安静にな」

 

 

 何とか誤魔化せたか……? 

 

 

「ねーねーロハンちゃん」

 

「ん? どうしたんだ浅黄」

 

「カヨコちゃんの事ありがとう」

 

 と、浅黄が微笑みながら言ってくる。まあ、元はと言えば僕が悪いんだが

 

「あ~貸一つでいいぜ」

 

「いや、ロハンちゃんが私達に大量に飲み物を飲ませたのが原因でしょ〜」

 

「そうだったか?」

 

 片付けが終わったため僕は退散するとしよう。

 

「今日はすまなかったね」

 

「いえいえ、確かに大変だったけど楽しかったわ」

 

「報酬はちょっと増やしておくよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ごめん、寝てた」

 

 鬼方が目を覚ます

 

 

 

「カヨコ! 大丈夫?」

 

「え、何があったの?」

 

「え!? あ~」 

 陸八魔が返事に困っている。

 本人に錯乱してたとは伝えづらいだろうな。

 

「君が飲み物を飲んでる最中に吐いてしまってね。どうやら飲み過ぎで意識を失っていたみたいだぞ」

 

「え、ええそうなのよ」

 

「嘘……え、本当に……?」

 

「ああ、でも安心してくれたまえ。しっかり掃除はしたからな、痕跡は残ってないはずだ」

 

 みるみる鬼方の顔が赤くなっていく。彼女は腕がブレる

 

バシンっ

 

 

 次の瞬間、吹っ飛ばされ僕の頬は赤くなっていた。

 

「ロハンさーん!」

 

「ロハンちゃん……デリカシー無いよ……」

 

 

 これが乙女のビンタの威力か……メモしておこう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 頬を擦りながら薄暗い道を歩いていく。

 

 

 僕は鬼方が見た自動販売機を目指していた。

 

 ここら辺の道は入り組んでいてスマホの道案内アプリが手放せない。

 

 

「はぁ……道案内でも居ればいいんだけどな」

 

 

 あの状況で鬼方を連れてくる訳にもいかないしな。

 

 

「にゃ~ん」

 

 

 何だ、猫か

 

「おいおい、僕は犬派だぜ?」

 

「にゃ」

 

 まさか、付いて来いって言ってるのか

 

「ふにゃぁ……」

 

 罠の場合もあるが……その時はその時だ

 

 猫に付いていくと薄暗い中光を放つ自動販売機が見えてきた。

 

 アレか

 

「ここまででいい、ありがとな」

 

「……」スタスタスタ

 

 可愛げのない奴だな

 

 そんな姿を見送り僕は自動販売機の前に立つ。

 やはりどれも見たことの無い飲み物だ。スマホで検索してみる、どうやらここにある飲み物は全て今はもう販売していない物らしい。販売をやめた理由は売上が伸びなかったってだけか。とりあえず僕は自動販売機に1000円札を入れ、一個ずつ飲み物を買っていく。そしてそれを開け飲んでいく。

 

 

「へぇ、このジンジャーエール結構辛いな。僕は好きだが女子生徒の多いギヴォトスでは売れなかったんだろうな」

 

「このフルーツオレはイチゴが強すぎだな。イチゴが好きなら美味しいだろうがフルーツオレだとちょっと期待外れだな」

 

「これは良くあるソーダだなオーソドックスで普通に美味いがそれ故大手のメーカーに負けたんだろうな」

 

「このクリームソーダは……」

 

 一本ずつしっかりと飲み感想を伝えていく。

 決して嘘は吐かない。それは彼らへの冒涜だからな。今回の怪異の正体、それは売れなかった飲み物達の集合体ってやつだろうな。一本で飲むだけなら問題無いが混ぜて飲む……つまり飲み物に対する冒涜をすると取り憑いてくる。誰からも見られなかった飲み物達の怨念……概ねそんなとこだろう。

 

 最後の一本を飲み終わり立ち上がる。

 

 

「まあ、意外と美味しかったよ」

 

 そう言って自販機に背を向けて歩いていく。

 

 

『ありがとう』

 

 

 そんな声が後ろから聞こえた気がした。

 

 

 

「別に、ただ……喉が渇いてただけさ」

 

 

 

 

 

 








     
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