岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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ここでは踊れない

 

 

ピッ……ピッ……ピッ

 

一定間隔で鳴る電子音が彼女達の生命を伝える。あの一件から一夜が明けても意識の回復はみえない。

 

『外傷はそこまで酷くは無いはずなんですが…』

 

医者すら頭を抱えて唸っていた。

 

「……寝てないのか、陸八魔」

 

「……」

 

朝早めに来た僕を出迎えたのは簡易ベッドの上に膝を抱え、うずくまったままただジッと彼女達の方を見ている陸八魔だった。思わず悲鳴を上げそうになったよ。あの大立ち回りの反動と言ったところか。やはり戦わせるべきでは無かったのかもしれないな。

 

「……もしかしたらの話なんだが、僕が君達を巻き込んだのかもしれない」

 

これはずっと頭の中にあった考えだ。昨日色々と調べてみてわかったんだが、彼女達の依頼主に柴関を爆破させる旨味が無いんだ。ましてや彼女達自身を狙う旨味もな。

 

あの、赤い女…僕は彼女のデッドラインを踏み越えてしまったのかもしれない、狙いは僕だった。それに彼女達を巻き込んだ。そう考えるとかなりしっくりくるんだ。

 

「……それを聞かされてどうすれば良いの…?」

 

「さあな、言いたくなったのかもしれない」

 

僕も余裕が無くなってきているのがここに来て自覚出来た。この一件を対策委員会に放り投げ僕は手を引く。それが1番安寧に繋がるだろうな。わかってるからこそ逆を行く。

 

「じゃあ僕はもう行くよ」

 

明日色々と話し合う、その明日が今日なんだ。これから先の方針だの、僕が便利屋だの色々と語らなくちゃならないのがめんどくさいな。

 

「待って…!」

 

うずくまっていた陸八魔は立ち上がり僕の肩を掴む。

 

「私達を巻き込んだって…じゃあ狙われてるのはロハンさんって事でしょう!?また狙われたらどうするの!?」

 

肩に鈍い痛みが断続的に走る。

 

「大丈夫じゃあないか?あの爆発の後追撃も無かったしな」

 

「そんなのッ!……駄目……ロハンさんまで…何かあったら」

 

「ヘブンズ・ドアー」

 

力の抜けた身体を簡易ベッドに置こうとするが、肩を掴む手の力は抜けていない。

 

「そんなに、嫌なのか」

 

彼女の社員への…仲間への想いはそれだけ深いって事か。

 

身体の力が抜け安心して眠りにつく

 

しっかり寝ないと彼女達が起きた時に心配かけるからな。病室から出て、廊下を歩いていく。

 

「なぁ、君」

 

通りがかりの看護師を呼び止める。

 

「はい、なんでしょう?」

 

「あの、病室で昨日からお見舞いしている奴いるだろう?」

 

「ええ…凄い…辛そうにしてましたね」

 

「夜通し起きてたみたいで今やっと眠ったみたいでね、起こさないであげてくれないか」

 

「あぁ…わかりました」

 

「すまないね」

 

「いえ、患者に寄り添うのがワタクシ達の仕事ですから」

 

その言葉から確かな誇りを感じる。

 

「助かるよ」

 

そうして病院を後にし、アビドスに向かおうと駅に向かって歩きだした。

 

昨日の内に調べることが出来たのは自治区内の土地の所有者と覆面少女団が何を盗んだかの2つ。そしてその2つがある1点で密接に交わるのだ。

 

キキー!

 

黒い高級車が僕の行く手を阻む。

 

ガチャ

 

「岸部ロハン様でお間違いないですね?」

 

「…ああ、用件は?」

 

「私カイザーPMCの者でして……理事が貴方と話がしたいと」

 

その一点が向こうからやってきた。僕は先生に欠席とだけ連絡して車に乗った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「アビドスの自治区をカイザーコーポレーションが所持している……!?」

 

ノノミの驚きの声が部室に響く。セリカとアヤネがもたらした情報はそれだけのインパクトをもたらした。

 

「まさか…柴関ラーメンが…」

 

「はい、大将にも退去命令が出ていたようで…大将はお店をたたむ気だったようで…いつかはそうなる事だったと」

 

自分から終わらせるか、他によって終わらせられるか…彼にとってその違いしか無かったのだ。

 

「………」

 

「どういう事…?」

 

憩いの場でもあった柴関のそれにショックを受ける一同だが、会議は進んでいく。

 

「所有権が渡ってないのはこの校舎と、周辺の一部のみです」

 

「は?」

 

「待ってください…つまりそれって…!」

 

「そこ以外は全てカイザーの所持になってるの」

 

「自治区の取引なんてできるわけが…」

 

そう、ノノミの言う通りそこに住んでいる人間ができるのは物件の売買や土地の住宅権の売買のみ、根本の所有権は全て学校が保有している。それが意味することは1つしか無い。

 

「……アビドスの生徒会ならそれができる」

 

「……!」

 

「はい、取引の主体はアビドスの前生徒会でした」

 

「2年前に無くなった筈では?」

 

「ですから、2年後以降に取引は一切なされていません」

 

「2年前…」

 

「何やってるのよ生徒会の奴らは!学校の土地を…!それもカイザーなんかに!学校の主体は生徒なのに!」

 

「どうしてこんな大事な事に…」

 

先入観、自治区の権利は学校が持つという当たり前。それこそが彼女達を蝕み始めている。

 

「私がもっと早く気が付いていれば…」

 

「…アヤネちゃんは悪くないよ、これは……対策委員会ができる前からの事なんだから」

 

何処か懐かしむような目で呟く。

 

「確か…ホシノ先輩は…アビドスの生徒会でしたよね」

 

「え、そうだったの?」

 

「……それに最後の生徒会の副会長だと聞きました」

 

「うへ~2年も前のことだしね〜、それに私もその辺の生徒会の人達と繋がり無かったしね」

 

彼女が生徒会に入った時にはすでに彼女含め2人しか所属していなかった。授業も無く、引き継ぎ書類も無い。ただ校舎の移転作業に追われていた。

 

「会長なのに、校内随一のバカで…私の方も嫌な性格の1年生でさ…むちゃくちゃで…ただ、バカ二人がなんにも知らないままで…」

 

「……ホシノ先輩」

 

「責任を感じなくて良い…ホシノ先輩のお陰で対策委員会が出来た」

 

「え?」

 

「……ホシノ先輩は怠け者だし、色々とはぐらかしてばかりだけど大事な時には必ず誰よりも前に立っている」

 

「アヤネちゃんが誘拐された時も先生に最初に頼ったのは先輩でした」

 

「え、そうなの?」

 

「うへ~覚えて——」

 

〝ホシノはいつも先頭だったね〟

 

「……ホシノ先輩は駄目なところもあるけど、尊敬はしてる」

 

「それって…褒めてるの?」

 

「あ~えーと…おじさんこういう雰囲気ちょっと…苦手かな…どうしちゃったのさシロコちゃん」

 

彼女は頬を搔き照れくさそうに、視線を泳がせる。

 

「なんか、言っておきたくなったから」

 

「え、えぇ~…」

 

シロコの目は真っ直ぐホシノを見据えていた。

 

それから会議は進み一つの推測へ至る。

 

アビドスは罠にかけられたのだと。

 

「でもどうしてそんなのに引っかかるのよ!無能じゃ…」

 

〝違うよ、悪いのは…騙した側の人間だよ〟

 

「わかってるけど……悔しい…!」

 

「人は切羽詰まるとなんでもやっちゃうものなんだよ………よくある話だと思うよ」

 

「だけど、これではっきりしました……カイザーの狙いはこの残った土地」

 

これまでで手に入れた情報が指し示したのはそれだった。

 

「でも、どうして…こんな荒れ果てた…」

 

〝そういえば、あの風紀委員長の子が言ってたんだけどさ〟

 

『アビドスの捨てられた砂漠でカイザーコーポレーションが何かを企んでいる』

 

「アビドスの砂漠で…」

 

疑問が尽きずに何故、どうしての連鎖が続くかと思われた。

 

「そうやってここでウジウジしててもしょうがないじゃない!直接行って確かめればいいじゃん!」

 

「……確かに、そうですね」

 

〝じゃあ行こっかアビドス砂漠〟

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「月並みな言葉だが、騙される方が悪いなんて言葉があるが君はどう思う?」

 

「おいおい、それは騙して来た側の人間が騙された側に言っちゃあ駄目な言葉だと思うが?」

 

僕が辿り着いたカイザーローンとアビドス生徒会の関係。それを目の前の男に聞かせて出てきた言葉がそれとはな。

 

「ふっ…騙したとは人聞きの悪い…しっかりとした取引だったのはそこの記録を見ればわかっただろう?私は単純に君の考えを聞かせてもらいたいだけだ」

 

確かに全て、法の下で合法的に行われていた。これを崩す事は僕達には出来ない。

 

「……そうだな、僕から言わせれば…騙されるやつは悪くは無いが」

 

「無いが?」

 

「愚かだ」

 

「……」

 

男は目でその先に急かしてくる。

 

「目先の苦しみから逃れるために長期的に物事を見れなかった、愚かと言う他ないよ」

 

それでケバブの肉の様にどんどんと土地を削ぎ落とされていった。後の世代が気が付いた頃には可食部は無くなっていた。何とも笑えてしまう話だ。

 

「だが、馬鹿じゃあない」

 

「…ほう」

 

「何せ、残すとこは残して君を悩ませてるからな」

 

先人が手放さなかった物が今こうして目の前の男を悩ませている。

 

「違うな、君達は私の掌で踊っているにすぎない」

 

「僕が踊るには狭すぎる」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

砂漠を進んでいく対策委員会の目に入ったのはとても巨大な施設。張り巡らされた有刺鉄線は優に数キロに届くのでは無いかと思わされる、その広大さに唖然とするばかりであった。

 

「こんなの…前は無かった」

 

ダダダダダダッ

 

「侵入者だ!」

 

かなりの数の兵士が彼女達を排除しようと戦闘を仕掛ける。だが、先生の指揮下にあるアビドス生の戦闘メンバーの前には無力であった。

 

「そんなに強くないけど……やりづらい」

 

「一体何者…」

 

『見てくださいあのロゴ…あれは…』

 

「カイザーPMC」

 

ホシノがそう呟く。カイザーコーポレーションの系列会社の1つである。

 

「どこ行ってもカイザーカイザーカイザーって!」

 

「PMCって事は…民間軍事企業ですよ」

 

やりづらさの原因はそれであった、ヘルメット団や風紀委員とは軍隊としての練度が違ったのだ。

 

ゥ゙ィィィィー!

 

「警報!?まずいんじゃない!?」

 

「それにこの地響き……戦車です…!」

 

『大型の戦力に包囲されかけてます!その場から脱出を!』

 

その言葉を合図として作戦行動を開始する。1つ倒しては進み、2つ倒しては進む。それを繰り返していく内に

 

「はぁはぁ…」

 

「キリがないね…」

 

対策委員会の弱点、メンバーの少なさによる持久戦の不得意。それが顕著に表れることになってしまった。

 

ガチャ

 

「囲まれちゃったね」

 

「…………」

 

数多の兵器が彼女達を囲む。

 

万事休すか、そう思われた中ある男が彼女達の前に現れた。

 

「これはこれはアビドスの諸君、まさか君達がここに来るとはな」

 

「な、何よこいつ」

 

(こいつは…)

 

ホシノはその姿に見覚えがあった。

 

『生徒会長が居ない今、貴方が借金を返していくということでよろしいでしょうか?小鳥遊ホシノさん』

 

(あの時の…)

 

「勝手に人の私有地に入り暴れた事による被害額…君達の借金に上乗せしてもいいが、あまり変わらないな」

 

「あんたは…あの時の」

 

「……確か…ゲマトリアが狙っていた副会長か…ヘルメット団や便利屋を雇うよりも面白いアイディアが思い浮かんできたな」

 

「ヘルメット団…便利屋?」

 

「……あなた達は、誰ですか?」

 

「まさか、知らないとはな…自分達が金を借りている相手位は知っておくべきだと思うがね……私はカイザーコーポレーションの理事だ」

 

「嘘っ…」

 

「アビドスが借金している相手…」

 

「か、カイザーコーポレーションの…」

 

突然のビックネームに動揺してしまうアビドス。

 

「正確にはカイザーコーポレーション、カイザーローンそしてカイザーコンストラクションの理事だ、それに加え今はカイザーPMCの代表取締役も務めている」

 

「それはどうでもいいけど、要はあなたがアビドス高校を騙して、搾取した張本人って事でいい?」

 

「ほう…」

 

「そうよ!ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私達をずっと苦しませてきた犯人はあんたなんでしょ!?」

 

「やれやれ、我が社員を攻撃して、施設の破壊行為を行って出てくる言葉がそれか……くくっ面白い…だが口の利き方には気をつけた方が良いここは公正なる取引で得たカイザーの私有地だ、君達が好き勝手できる場所では無い」

 

「!?」

 

「アビドスの自治区だったか?今言った通り全て合法的な取引だ、当然記録もしっかりと存在している……まるで私達が不法な行為を行ったかの様な言い草だったが…勘弁してくれ私達はただアビドスに埋まっている宝物を探しているだけだ」

 

「宝物って…そんなでまかせ信じられるわけ…!」

 

「その目的とこの兵力、どう考えても説明つかない…私達の自治区を占領するために用意したんじゃない?」

 

「それこそ宝の持ち腐れだ、たかが6人の学校にこれほどを用意するとでも?君たち程度ここまでしなくてもどうとでもできる……私だ、進めろ」

 

男は突然通信を行った。たったそれだけでアビドスの利子は約1億円近くに膨れ上がる。

 

「嘘でしょ…!?」

 

「自分達の首の紐が誰の手にあるのか確認できたか?ふむ、そうだな君達の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう、カイザーローンに三億円を預託してもらおうかこの利率でも払えるかどうか証明してもらわなければ」

 

「そんな、今…利子でも精一杯なのに」

 

「ならば、学校を諦めて去ったらどうだ?」

 

「!!」

 

「まあ、良い…それで眠れる獅子は目覚めたか?」

 

彼は後方に語りかける。後方から歩いて来たのは

 

「ロハン…先輩…どうして…?」

 

「どうしては、こっちが言いたいね…帰るぞアビドスにこれ以上ここにいても碌な事にならない」

 

「賢明だ、では利子と保証金はよろしく頼むよお客様……お客様を入り口まで案内してさしあげろ」

 

ただ、静かに学校に戻るしかなかった。

 

アビドスは敗北した。武力でも財力でも政治力でも。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

『夢物語もいい加減にしてください!』

 

ビリビリッ

 

彼女が破いたのは幻想かそれとも…

 

 

 

 

 

 

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