岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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夢は逆夢

 

「ふぅ…」

 

小鳥遊が疲れたように息を吐く。それを皮切りに思い思いさっき起きたことに関して述べていく。

 

「なんなのあれ!」

 

「カイザーコーポレーションは一体…何を」

 

「宝物を探していると言ってましたが…」

 

「いえ、あの砂漠にはそういった物は無いと調査結果がでているはず…」

 

(なら……宝物は移動する…?水脈…オアシス…違うな…水の為にあそこまで…小鳥遊を誘き出す為か?)

 

推測を重ねるが、朧気なまま。まるで煙の輪郭を探すような、根本的な情報の不足を強く感じる。

 

「それも気になるけど!どうしてロハン先輩はあいつと一緒にいたの?」

 

当然それが気になるだろう。

 

「便利屋のお見舞いの帰りに突然接触された、正直何が狙いかはわからない」

 

「なんで私達を呼んでくれなかったの?」

 

「君達を呼んでもさっきの光景が早まっただけだ」

 

「……そうかもね〜」

 

「でも、良かったロハン先輩が裏切ったのかと一瞬思っちゃった…」

 

「僕と彼はあまり相性が良くないよ、もし裏切るとしてももう少し良い所に付くさ」

 

「うへぇ…ロハン君熱心にキャリア選びしてる〜」

 

「えぇ……いや!それよりも借金よ借金!」

 

「三億円だなんて…」

 

1週間でば到底彼女達には用意出来ない、利子も文字通り桁外れ。どうすれば良いのか頭を抱えるが一向に案が出ない。

 

「………行ってくる、あそこで何をしてるのか調べないと」

 

「行くって…何処に…」

 

「PMCの施設、徹底的に準備すれば何とか潜入できると思う、行って何をしているのか確認しないと」

 

「待ってよ!それよりも今は借金の話をしないと」

 

手詰まり、それが今アビドス対策委員会が置かれている状況そのものだった。PMCを調査している間に学校の権利を奪われ、借金の為に奔走すればPMCを野放しにすることになる。

 

「……借金はもう、真っ当なやり方じゃ返せない」

 

「それはダメですよ!それじゃ…また」

 

「私はシロコ先輩に賛成!学校がなくなったら全部終わりなんだからなりふり構ってられない!」

 

「セリカちゃん…!?」

 

「セリカちゃん待って!そんな事したらあの時と同じだよ!?」

 

「違わないけど…違う!そうじゃなくて…!」

 

「あの時折角ホシノ先輩が止めてくれたのに!」

 

「わ、私は…」

 

「もういいんじゃあないか?」

 

喧騒の中で、それはやけに響いた。

 

「は?……ロハン先輩それどういう意味?」

 

「意味も何もそのまんまさ、もうここを諦めるってことさ」

 

「……え?」

 

誰も、口に出さなかった。出すことの出来なかったそれ(禁句)。言ったら何かが変わってしまう気がしたから。

 

「なあ、黒見…君が誘拐されて救出されたその日僕が聞いたことになんて答えたか覚えてるか…『()()()に裏切ったって思われたくない』って思われたくないって言ってたよな」

 

「それが何…」

 

「誰かを残すから後悔が生まれる、みんなで諦めればいいじゃあないか」

 

ガタッ!

 

黒見が立ち上がり椅子が倒れる

 

「ふざけないで!それじゃ私達が今まで頑張ってきたのは…」

 

「それはギャンブルがやめられない奴と同じ発言だ、今まで使ってきた金を取り返すまでは〜そういう考えの奴が行き着く先を教えてやろうか?破滅だよ。いいか、バイトの掛け持ちだのなんだのやってまで利子を返して……この学校は何を君達に返した?まさか思い出なんて言わないよな?」

 

彼はまくし立てる。

 

「………」

 

「授業も無い、教員も居ない…そもそも学校としてとっくに破綻している、挙句の果てに君達の手を犯罪に染めた…他校の生徒も巻き込んでな…この世の何処に生徒を犯罪者にする学校があるんだ?なあ先生、小鳥遊…なんで止めなかった?」

 

〝………〟

 

「……」

 

「あれは…お金目的では…」

 

「目的?目的によって法律が変わるのか?ああ、確かにブラックマーケットで行ったからなグレーゾーンさ、だが君達の行為で恐怖を感じた人間がいるそういうのを強盗って言うんだぜ……もうとっくにアビドスはデッドラインを踏み越えている、そもそも黒見が誘拐された時点で…あの時止めるべきだった」

 

あの時点でもう手に追える物ではなかった。それが彼の意見。

 

「先生と言うイレギュラーを使わなければ黒見を見つけ出すことは出来なかった!アビドスに君達の命を守る力は無い!」

 

「それでも…」

 

「仮に借金を返し終わったとしよう、その時ここに何人残る?四人か三人かそれとも二人…一人…全滅だってあり得るな、校庭に墓でも建てれば満足するのか?その墓に私達は無事借金返す事が出来ましたって報告すれば良いのか?」

 

「っ…!」

 

「悪いが僕には到底そんな事出来ないね」

 

言うだけ言って彼は部室から出ていってしまう。先ほどまでの言い合いの熱は何処へ沈黙がそこにあった。

 

「……正直、ロハン君の言ってる事は…うん、正しいと思う……そうだなぁ…決断するにしても何にしても時間が必要だと思うからさ、明日また集まってどうするのか話し合おうよ」

 

先延ばし、良くも悪くも今はそれが必要だった。各々が一人で考える時間が。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「メンテナンスしたが特に異常は無かったよ」

 

「そうか、ありがとう」

 

『アリガトウデゴザイマス』

 

ROADKINGに異常は無い。それが意味することはこいつの情けない所は仕様であるという事。

 

「だが良いのかい?EMPから普通の爆薬に変えてしまって」

 

「最近物騒だからな、それともう一つ頼んでいたものは?」

 

「できているが…こんなハリボテ何に使う?」

 

「ハリボテだから良いのさ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

夜が明けるか明けないかの境目の中、1人アビドスのゴーストタウンを歩く影。

 

「………」

 

思い詰めた様な顔を浮かべ、ひたすら進むのは小鳥遊ホシノその人だった。彼女はとある提案に乗ることを決め、対策委員会部室の机の上に退部届けと皆への手紙を置いてきていた。もう、彼女は振り向く事は無い。

 

「こんな早くから何処に行くんだ」

 

そんな彼女の行く手に立つのは岸部ロハン。電柱に背中を預け何かストレッチの様な物をしている。

 

「何ってパトロールだよー?治安も心配だしね〜ここらへん瓦礫も多いしロハン君も危ないから帰った方が…」

 

「パトロールに行く人間がそんな顔をするか?」

 

「うへぇ…もしかしてロハン君ったらおじさんに釘付けなのー?」

 

そう茶化してこの場を去ろうとする。もしかしたら誰かが部室に置いてきたものに気が付いて追いかけてきてしまうかもしれない。横を通り抜けようと足を動かす。

 

突然、彼が笑いだす。

 

「そんなに笑っちゃって、失礼しちゃうよ〜」

 

「いやぁ、君こそいつまで梔子ユメに釘付けなのか気になってね」

 

心臓が一瞬止まった様な感覚に襲われる。

 

「あはは、何のことだかわかんないかな〜」

 

「君が彼女から僕の事を聞かされていた様に僕も彼女から君の事を聞かされていた、『キリッとしていて時々厳しいけど、凄い優しいくて良い子』だったか…イメチェンでもしたのか?」

 

「……大人になったって事だよ」

 

「書き置き残して出ていくのが大人か、僕には家出する子供のようにしか見えないよ」

 

「……なんで…」

 

「マジで書き置き残していたんだな、随分可愛らしいことで」

 

彼は彼女が何らかの目的を持っている事を確信している。

 

「……色々積もる話もあると思うんだけど、ちょっと用事が…」

 

強引に話を切り上げようとする。このままだと夜が明けかねない。

 

「君が、そうやって焦っているのはわかっているからだろ」

 

「………」

 

「君は先輩として慕われてるからな、書き置きなんて残してたら彼女達は君を追いかけどんな危険の中だろうと飛び込む……だから本当に彼女達の事を思うならさっさと回れ右してお得意の睡眠でもしてるんだな」

 

「それは、できないよ…この方法しかアビドスを…」

 

話は平行線。譲れないものがある2人が話したらそうなるのは当然だった。

 

「そうか、君がその気になったら僕には止められないからな…最後に1つだけ良いか?」

 

「何かな?」

 

彼は鞄からラジカセを取り出し、ボタンを押す。

 

♫♫♪〜

 

聞いたことの無い曲が静かな街に響き渡る。

 

「これは…」

 

「アビドス高等学校の校歌さ、彼女が見つけていたんだ」

 

それは遥か昔に音源が紛失して、誰も歌えなくなってしまったと聞いていた。

 

「嘘…」

 

彼女が遺した?そんな筈は無い、彼女の遺品と呼べるものは全て回収したはず。だけど今はこの音を聴き逃したくなかった。

 

「『ホシノちゃんとロハンくんが同級生と後輩と歌えるようにしてみせる』彼女はそう言ってたよ、結局は僕に託す形になってしまったが」

 

「そっか……ありがとう、ロハン君…でもそろそろ行かないと」

 

「こちらこそありがとう、集中して聴いてくれて…やれROADKING」

 

ドゴンッ!

 

瞬間彼女の身体に衝撃が疾走る。バイクに跳ね飛ばされた身体は宙を舞い、梔子ユメの話が出たからだろうか彼女は反射的に銃の方を構えてしまう。彼女の身体が地面に着くその瞬間。

 

「サイドカー、自爆」

 

ドがんッ!!!

 

爆風によって構えていなかった盾が彼女から離れてしまう。

熱が彼女の視界を悪くする。視界が戻った彼女の目には

 

「どういうつもりなのかな……ロハン君…」

 

彼女の盾を持つ岸部が立っていた。

 

「目覚まし時計だと思ってくれればいい」

 

「何を……待ってっ!!」

 

彼は大きく振りかぶってその盾を後ろに放り投げた。

 

ドがんッ!!!

 

炸裂した盾の破片が雨のような音をならし降り注ぐ。

 

「おはよう、小鳥遊ホシノ」

 

「どういうつもりだ……岸部ロハンッッ!!!!!!」

 

「君はどうしたんだホシノちゃん?…ROADKING!…再突撃だッ!」

 

『トップスピードダゼェ゙!!!』

 

託された者と遺された者。

 

その2人によって久方ぶりにこの街は騒がしくなる。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話を聞いた限り僕とそのちんちくりんが仲良くなれるとは思えないな」

 

スケッチブックから顔を上げずに少年は吐き捨てる。

 

「ロハンくん、駄目だよ人の事ちんちくりんとか言ったら!確かにホシノちゃんはちまっとしていて可愛いけど」

 

「君の発言の方が酷いと感じる奴もいると思うよ」

 

「ひゅーひゅー」

 

口笛とすら呼べない何かが吹かれる。

 

「吹けてないぞ」

 

「練習中だから!え~絶対仲良くなれると思うんだけどな〜」

 

「はぁ……で、わざわざ僕の絵の邪魔をしておいてその…小鳥遊ホシノと僕が仲良くなれるだのなんだのをわざわざ言いに来たのか?」

 

「それもあるんだけど……じゃーん!これ見て!」

 

少年がめんどくさそうに顔を上げると目に入るのは1枚の紙。

 

「僕の方が上手いな」

 

「確かにそうだけど、そうじゃなくて!これは昔開催されてた『アビドス砂祭り』のポスターなんだよ!」

 

「へえー良く残ってたな」

 

少年にしては珍しく素直に感心した。

 

「えへへ、まさに奇跡だよっ………これをホシノちゃんにプレゼントして、元気になってもらおうと思って、いつか奇跡が起こってこの頃みたいに人が沢山集まる…その為に頑張っていくぞって!」

 

「とんでもない夢物語だな」

 

「……うん」

 

「だが、嫌いじゃあない…その時が来たらポスターは僕に任せてくれよ」

 

「当然!だってロハンくんはウチの生徒会の」

 

「広報だったか?」

 

「そう!入学したら絶対生徒会に入ってもらうからね!」

 

「僕が生徒会長になって君達をこき使うのも面白そうだ」

 

「えぇ~!」

 

 

 

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