岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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2度同じ事は言わない

 

 

部屋には黒い男とピンク髪の生徒がいた。

 

「これでいい?」

 

ペンを走らせ、契約書にサインした。

 

「ええ、これでホシノさんがお持ちの生徒としての全権利は私のもとへ譲渡されました、契約の通りアビドスの借金の大半はこちらで受け持つとしましょう……ですが想定外でした岸部ロハン…彼がまさかあなたを手こずらせるだなんて」

 

男の想定を上回る大健闘を彼は見せた。

 

「…見てたんだ…あの不思議な力について知ってるの?」

 

「……あなたを最高値とするなら彼は外れ値……いえ、違いますねあなた達をX軸とするなら彼はZ軸と言ったところでしょうか…研究対象としては大変興味深い…そんな怖い目をしなくても貴重過ぎるが故に下手に手を出せない存在でもあります」

 

彼は絶滅危惧種の様なものなのだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

酷く懐かしい夢を見た気がする。

 

「あぁ……そうか」

 

負けたんだったな。今は何時だろうか、小鳥遊との小競り合いで携帯は砕けた。何物にも遮られない姿を見せる青空。太陽の位置から10時だな。

 

周りの地面よりも更に下にいるからだろうか。いつもよりも高く空が見えた。

 

身体の怠さと内側の倦怠感。ヘブンズ・ドアーの連続使用によってだろう。

 

「はぁ…」

 

ゆっくりと急な坂を登っていく。不味いな、登り切るまでで限界かもしれない。

 

自分で作ったクレーターなんだが、如何せん登るのが今は億劫で仕方ない。これと瓦礫の合わせ技で10秒は稼げると思ったんだがな。まさかその半分にも満たない時間で脱出されるとは思わなかったよ。

 

ズザッ

 

気が付けば身体と地面が平行になっていた。どうやらこの大地は僕のことが大好きらしい。

 

横を見るとROADKINGの残骸が辺りに散らばっている。

 

『トップスピードダゼェ゙』だったか?まさか腕一本で受け止められるとは思っていなかったよ。モンスターマシーンだったんだかな……前半分だけになっても彼女に向かっていった気概は中々評価できる。

 

「……せめて先生には連絡しておくべきだったか」

 

別に小鳥遊がどうこうなろうと知ったことでは無いが、あいつ置き手紙残してるんだろう。十中八九今、対策委員会はてんやわんやして……待てよ。

 

「……やられたな」

 

対策委員会が事実上の生徒会でいられたのは前生徒会の副委員長である小鳥遊が居たからだ。あの男があの場でアビドス対策委員会へ圧を掛けたのは小鳥遊を焦らせ、契約を交わさせるため。

 

「切羽詰まった人間の心理を突かれたか」

 

後はその契約の中にアビドスの借金をどうこうする為に小鳥遊自身を退学もしくは、権利を譲渡させれば一度で2度美味しいって事になる。

 

現在存在する公的書類の中での生徒会メンバーは小鳥遊のみだ。つまり今アビドスを突こうと思えばどんな屁理屈だろうと突けてしまう。

 

何が『狙いは小鳥遊ホシノだろ』だ。わかっていてもその後の手を考えていなければ意味ないじゃあないか。小鳥遊を事実上失った対策委員会は権利の面でもそうだが、メンタルの面でも不味いぞ……どうすれ…ば……

 

「……もういいか」

 

僕が言ったんだ。『もういいんじゃあないか』と。だからこのままアビドスが奪われようと別に良い、そう考えるべきだ。

 

『あのさ、ホシノちゃんとアビドスの事お願い』

 

『……なぁ、なにかあったのか?』

 

『うーん……特に無いかな。どうしたの?』

 

『いや、無いならいい……その2つ断らせてもらうよ』

 

 

梔子ユメが遺した言葉、あの時は拒否したそれを…今この場でその言葉に報いるために動くべきなのか…それは託された者としてすべきことなんだろう……

 

 

やっぱり断る。小鳥遊だのアビドスだの別にその2つはどうだって良い。だが、

 

「この……岸部ロハンをまんまと出し抜いたと思っている奴が居る……ふざけるなよ」

 

ムカッ腹が立って仕方ない。アビドスには小鳥遊ホシノしか価値が無い……そう考えられているってことだよな、僕には小鳥遊の様な話が来てないあいつよりも価値が無いだと……殊更その狙い打ち砕くに他ないね。

 

その為にも今は立ち上がらないといけない。

 

ウィーンっ……

 

突如、横から謎の機械音が聞こえてくる。

 

「君は…」

 

ガコンッ

 

自動販売機はただ一本の飲み物を落とした。

 

「……おいおいそこまで取りに行くのも億劫なんだぜ?」

 

………

 

「わかったよ、頑張って行けば良いんだろ……不親切な奴だ」

 

なんとか辿り着き取り出した飲み物は

 

「ジンジャーエール……」

 

僕はキャップを開け喉を鳴らし飲む。それを飲み終わった時既に自動販売機は消えていた。

 

エール(応援)か」

 

なんとも粋な事をしてくる奴だ。お陰で喉は潤った。後は立ち上がるだけだ。

 

「随分、ボロボロだね」

 

「あれってロハンちゃんのバイク?事故っちゃったの?」

 

2つの手が僕を引っ張り起こす。

 

「驚いた、お迎えがきたのかと思ったよ」

 

「ロハンちゃん、それすっごい不謹慎だよ」

 

「まあ、迎えにきたのは事実だしね」

 

「陸八魔と伊草は?」

 

「罠を仕掛けに行ってるよ」

 

「カイザーが街を攻撃してるんだよ、アビドスの子達も頑張ってるけど大勢に無勢だからね、そんな時は奇襲に限る」

 

やはり僕の考え通り攻めに来たか。

 

「病み上がりで大丈夫か?」

 

「良いリハビリになるねー」

 

「岸部こそ身体大丈夫?」

 

おいおい一体どの口が言ってるんだそれ。

 

「誰かさんに庇われたからな、これで君達とトントンさ……少し取りに行きたいものがあるからそこに寄っていいか?」

 

「急がないとかっこいいタイミング逃しちゃうかもよー」

 

「そういうのは陸八魔に任せるよ」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

住民の悲鳴、砲弾の音、辺りに広がる黒い煙。そこは戦場と言うに他ならなかった。

 

「公的な部活も、委員会も、生徒会も、自治区すら持たないアビドスは学園都市の学校として不十分極まりない……そこで我がカイザーコーポレーションがあの学校を引き受けるとしよう新しい学校の名前はカイザー職業訓練校にでもしようか」

 

対策委員会は打ちのめされていた。それは戦力的な意味でも、精神的な意味でも。カイザー理事が彼女達に示したのは単純な現実、それがどこまでもどこまでも彼女達の心を折ろうと重くなっていく。もはやそれは生徒がどうこうできる話では無くなっていたのだ。

 

「そんな、そんな事になったら今までの私達の…努力が…」

 

「まさか…本気で何百年もかけて…借金を返すつもりだったのか……?驚いたなてっきり最後に諦める時の言い訳に使うために頑張っている物だと思っていたよ」

 

「……!!」

 

「一体君達は何のためにそんなに努力していたんだ?」

 

『この学校は何を君達に返した?』

 

それら言葉は彼と重なった。だからこそ

 

「それ以上言ったら…」

 

「撃ち抜く」

 

言い返せない自分に腹が立つ。そんな事無い、そう否定出来ない(してあげられない)事が悔しくて仕方ない。

 

「ですが…」

 

「ここで戦って何かが変わるんでしょうか…あの時以上の兵力差…この場を凌ぐ事が出来たとしてもその後が……もう…」

 

「アヤネちゃん…」

 

連日受ける理不尽。悪化していく状況、それは彼女達から気力を奪っていく。

 

「取引された土地も戻ってこない…ホシノ先輩もいない、生徒会も無い……こんな状況で……私達に一体何が……どうして…こんな目に…」

 

この不条理に嘆くしか、彼女には残されていなかった。

 

「無いものねだりしたってしょうがないだろう」

 

「ロハン…」

 

「ロハン先輩…」

 

街の角からゆっくりと歩きながら彼はそう問う。

 

「君達はどうせ、今世界で1番自分達が理不尽にあっていて困難な状況に追い込まれている…そう考えているだろ?」

 

彼の声はそこまで大きくない…だがその場にいる全員が耳を傾ける。

 

「僕から言わせれば借金が9億ある事も、こうやって沢山の兵士に囲まれる事も先輩が何処かに消えるのもそう打破が難しい事じゃあない…借金なんてのは宝くじを当てればなんとかなるし兵士だって倒せば居なくなる、小鳥遊ホシノなんてのはそこら辺で寝るからそれを捕まえればいい」

 

『そんなの…』

 

そんな事は到底あり得ない不可能だ。

 

「ああ、全部夢物語だな……だがこれまでの対策委員会はそれ(夢物語)に向かって努力してきたと僕は考えている」

 

『っ………』

 

「君、さっき彼女達が何のために努力してきたと言っていたな」

 

「ああ、心底わからなくてね」

 

「同感だ…いやぁ同感だったが正しいな…多分理屈じゃあ無い」

 

「…は?」

 

「そもそも僕達子供が頑張るのに理由とか筋とか求めるんじゃあない、大人である君達ですら通すべき筋を通さずこうやって街を攻撃してるんだからな」

 

「筋ならあるさ、もはやアビドスに生徒会は…」

 

「その情報はもう古い」

 

彼は懐から封筒を取り出し開き中を読み上げる。

 

 

 

アビドス生徒会特例措置

 

本来なら生徒の入学後に決定される生徒会所属の有無をアビドス高等学校生徒会長梔子ユメの権限により入学前に下記の事項を決定します。

 

1、岸部ロハンをアビドス高等学校生徒会の広報へと任命する事。

 

 

 

「嘘…」

 

「なんだと…?」

 

その場にいる両陣営から驚きの声が漏れる。

 

「聞こえなかったのか?ここに居るんだぜ、アビドス生徒会のメンバーが……これで君達の言い分はもはや通らない」

 

「……その紙がまず本物なのかの精査が、いや…そもそもそんな紙()()()()()()()

 

認知されていないのならどうとでもなる。ここで文書を始末できれば最初から無かったのと同じ事。

 

「ほら、僕が言った通り筋なんて通すつもり無いじゃあないか、だが対策委員会はそうじゃあない真剣に借金を返すために頑張っていた……彼女達の方がよっぽど筋を通している」

 

「……!」

 

彼女達は正直混乱しかけていた、昨日はあれほど否定していたのに何がここまで彼の意見を変えたのか。

 

「……君もまさか本気で借金を返せると…?」

 

「さあな?僕一人なら余裕だが対策委員会全員いればもっと余裕かもしれないしその逆かもしれない…彼女達は未知数だからな」

 

「未知数だと…?岸部ロハン……貴様わかっていないのか!?この状況が!何から何まで私の掌の中だ!」

 

小鳥遊ホシノの身柄、アビドスへの借金、この兵力差。彼がそう思うのも無理は無いだろう。

 

「2つ言わせてもらう、カイザー職業訓練校よりは岸部ロハン記念高校の方がセンスがあるという事」

 

『……それはどうでしょう…』

 

「あと一つ……僕に同じ事を言わせるな」

 

ドガァァァァァンッ!

 

鼓膜を突き刺す衝撃。腹に響く振動。

 

「報告っ!合流予定の部隊に甚大な被害を確認!」

 

「アビドスはここにいる面々のみの……まさか…何をしたんだ!?岸部ロハン!」

 

「掌でも見たらわかるんじゃあないか?」

 

「便利屋68…作戦開始!」

 

反撃の一手は舞台の外からやって来た。

 

 

 

 




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