岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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岸部ロハンは言っていない

 

 

 

便利屋68が介入した事によりカイザーを退却させる事に成功した。

 

「覚えておけ…!この代償は高く付くぞ…!」

 

その後出払った先生が小鳥遊の居場所を掴み、対策委員会総出で乗り込む事に決めた。

 

“ホシノを助けに行こう”

 

「僕はやめておくよ」

 

彼は一瞬足りとも逡巡せずにそう宣言した。

 

その様子を見て彼女達、対策委員会は一瞬ムッとした顔をしそうになるが流れ弾を防ぐ術が彼には無いことを思い出しハッとする。

 

“ロハンの分の思いもしっかりと持っていくから”

 

「えぇ…先生流石にそれはクサすぎじゃない?」

 

「想いだけじゃあなくてこれも頼むよ」

 

彼に似つかわしく無い大きさの布で包まれた荷物。その布を剥がすと

 

「なんで…これをロハンが?」

 

「同じ事を小鳥遊に言ってやれ、多分気まずそうに答えてくれるぞ」

 

“シロコお願い”

 

「ん」

 

その会議の後

 

対策委員会だけでは戦力が足りない為、先生はゲヘナへ行き。風紀委員長に応援を要請、見事話を取り付けた。

 

「一体どうやったんだ?」

 

“足舐めました”

 

「…それで協力を?」

 

“足、舐めました”

 

(本人が良いならそれで良いがまさか風紀委員長にそういう趣味があったなんてな)

 

主語はしっかりとしなければ被害者が生まれる。

 

「風紀委員長に取り次いでほしかったら足でも舐めるんだな」

 

“レロレロレロレロ”

 

「ひやぁー!」

 

プライドもへったくれもなくほぼノータイム銀鏡イオリの足に飛び付くその姿はまさに見事と言うしか無い。

 

「準備完了」

 

「ホシノ先輩救出作戦開始です!」

 

そして一夜が経ち、各々出来る限りの準備を行い小鳥遊ホシノを助けるためアビドス砂漠へと向かっていった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「店は順調な滑り出しか?」

 

「ああ、おかげで初心に戻れたよ」

 

「そいつは良かった」

 

椅子に腰掛けると提灯の明かりに顔の半分が照らされる。今までより少し風通しが良いが……屋台としては上も上だろう。

 

「…対策委員会も便利屋も随分前に行っちまったよ」

 

ここでお腹を満たして戦いに行ったんだろう。おかえりと言う為に。朝からラーメンは結構きついと思うが。陸八魔達はなんでだろうな、単純に対策委員会が気に入ったのかもな。

 

「おいおい、僕が行ってもしょうがないだろう?精々後ろでスケッチするくらいしかすること無いよ」

 

「しょうがないも何もお前が問題の渦中に行かない訳が無い……あの時も描かなくていい物を描こうとしてたしな」

 

「………それとこれとは話が違うさ」

 

図星を突かれると親しい相手でも少し腹が立つな。

 

「で、何食っていくんだ?」

 

「いや今はいい……全部終わったら食べにくるよ」

 

わざわざ顔出しておいておかしな話だがな。

 

「こんなところで油売ってたら何もせずにありつけるようになるんじゃないか?」

 

「ああ、そうだろうな」

 

優秀な指揮に優秀な戦力が合わさってあって負ける訳が無い。だから別に僕がどうこうしなくても良いんだ。良いんだが…

 

溜息を1つ吐き、椅子とおさらばする。

 

「正直行かなくてもいいんじゃあないかとも思ってるんだ……水を指しに行くようで」

 

だが、タイミングとしては今しかない。

 

「なんだそりゃ…まあどっちにしろ、ちゃんと食いに来いよ」

 

「ああ、お腹が空いてたらな」

 

「おう、いってらっしゃい」

 

僕は振り返らずに手だけを挙げて返事した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

彼女は夢を見ている。

 

『私にとっては……ホシノちゃんとこうして一緒にいられることが奇跡みたいなものなんだよ』

 

顔を綻ばせて心底嬉しそうにそう言う。

 

『そんなのは奇跡とは言いませんよ、奇跡って言うのはもっと凄くて、珍しいものの事を言うんですよ』

 

『はぅ…ホシノちゃんもロハンくんと同じ様な事言うんだぁ…』

 

『なら、それで合ってるんですよ』

 

投げやりにそう続けた。

 

(また、ロハン…)

 

別に嫉妬している訳では無い…ただ少し面白くない。そう彼女は誰に言うでもなく1人心の中で言い訳した。

 

『…ううん、ホシノちゃん……私はそうは思わないよ、きっといつかホシノちゃんに後輩が出来たら…その時———「この先にいるはずです!」

 

「………」

 

少女はユメを見ていた。自由を奪われそれしかする事が無いから。

 

ドガーンっ!

 

「ん、壊れない……もう一度」

 

再度響く爆発音。

 

「あ、アヤネちゃん…どうしてここに!?」

 

通信越しでは無く現場まで出てくる予定は無かった筈。

 

「シャーレのヘリを借りたんです!」

 

「みんなホシノ先輩は?」

 

「この先…」

 

「こんなのぉっっ!」

 

ドカアアァァンッ!

 

(一体…何が……体が自由に…?夢でも見ているのかな……)

 

彼女は夢を見ていた。

 

(みんなの声も聞こえたし、夢か………)

 

だから今回のもそうだと諦めに入ろうとした。

 

(……声……こっちの方からかな)

 

だけど

 

(夢でもいいから…最後にもう一度…)

 

手放したくなかった。

 

ガチャンッ

 

「「「「ホシノ先輩!」」」」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

砂の上に大量に散らばった機械の部品。その中心に一際大きな塊が1つ。

 

「こいつは、随分とこっぴどくやられたな」

 

「……岸部…ロハン…」

 

あの余裕のある…いや、昨日の時点でかなり無くなっていたが…なんていうんだろうな覇気というものが薄くなったように思える。

 

「踏んだり蹴ったりだったみたいじゃあないか」

 

実質トリニティとゲヘナに潰されたような物だからな。阿慈谷は違うと言っていたが。

 

「流石の僕でも同情を」

 

「やめろ……これ以上惨めにしないでくれ…」

 

それは哀しい懇願だった。

 

「ああ、わかった」

 

「……笑いにでも来たのか…?」

 

「まさか、大して面白い光景じゃあないさ」

 

対策委員会が積み上げてきた縁がこの男を…大人の野望を打ち砕いた。人によってはそれを奇跡と言うだろうが僕に言わせればそれは必然…だから面白味にかける。

 

「別に僕が言わなくてもわかってると思うが、これから先大変になると思うよ」

 

「……だろうな」

 

今回の件どうしたって内々では済まされない。シャーレが動きキヴォトスの2大学校が動いた。カイザーやその裏にいる存在はその責任の所在を目の前の男1人に押しつけようと躍起になるだろう。

 

「皮肉なものだ……結局は私も…掌の上で踊る駒に過ぎなかった…」

 

「意外と踊るのも悪くないんじゃあないか?彼女達のように楽しく踊れる奴らもいるようだし」

 

結局は場所じゃあないのかもな、彼の掌すらも仲間がいればたちまちダンスフロアになってしまう。いっそそれくらいバカバカしい方が描く側としては有意義だ。

 

「…あぁ…羨ましいとすら…思えるな」

 

「Shall we dance? 」

 

「ハハハっ…先ずは1人で…ゆっくりステップでも踏むと…しよう…」

 

「そうか」

 

彼からの返事が無くなり、風の音と機械のショート音だけがただその場に残った。彼のモニターに点いた砂を払う。

 

「……僕を狙う位なら早く治療してやるんだな」

 

「………」

 

彼の部下だろうか、暗いモニターに反射する物影からこちらに銃口が向けられているのが見えた。

 

ザッ!

 

随分と話のわかる奴で助かったよ。手間が省けて。

 

アビドス砂漠に根差した彼が築いた施設を歩いていく。

 

「つわものどもが夢の跡……か」

 

きっとここもいずれ砂が呑み込み歴史の一部となる。物は残って後へ思いを伝える。それが正しい正しくないは置いておいてな。

 

物がそうなら

 

「ただいま」

 

今、彼女が口にした言葉はどうなるんだろうか。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「全員、健在で何よりだよ」

 

やっと聞けたただいまの言葉、それに連なるように彼女達の後方から声がかけられる。

 

「え!?ロハン先輩どうしてここに!?」

 

「奥空、君は人の事言えないんじゃあないか?」

 

「岸部君は来ないって…」

 

「小鳥遊ホシノを助けに行かないとは言ったが助かった後に来ないとは言ってないよ」

 

「なにそれ…」

 

屁理屈めいたそんな言葉にうんざりした様な表情を浮かべる黒見セリカ。苦笑いを浮かべる他のメンバー。

 

「砂狼、アレは?」

 

「ん、これから渡す」

 

「これは…」

 

折りたたまれた盾が彼女の肩に掛けられた。

 

「あの…爆発したやつは…」

 

「トリックだよ、あの程度の爆発でそれがお釈迦になる訳が無いだろう……僕のバイクはなったがな」

 

「あ、あはは………ごめんね…」

 

「お互い様って奴だろう」

 

その場にいる中で2人だけしか会話に参加できなかった。だからだろう、会話のキリのいいところで

 

「ちょっと……説明してもらえませんか?」

 

「もしかして先輩達…戦ったの!?」

 

「ツーリングもう出来ない?」

 

矢継ぎ早に疑問が飛んだ。

 

「いやぁ~……ねぇ?」

 

「ああ、別にそう大した事じゃあ…」

 

話を変えるためにアイコンタクトを取り合った2人。だが

 

「前々から思っていたんですけど!お二人は報連相が不足しすぎです……なので対策委員会では徹底した報連相を義務化するべきだと提言しますっ!」

 

一段落した事で溢れるように言葉が出る奥空アヤネ。

 

「……ああ、そうだな」

 

「今それを言われちゃったら…従うしかないよ〜」

 

思い当たる節が至る所にあり、特に反論出来ない2人。

 

「早速で悪いんだが」

 

「なんですか?」

 

「小鳥遊ホシノ副会長、君をアビドス生徒会から追放する」

 

一瞬、時が止まった。

 

「理由は勿論分かっていると思うが、君はこうして我がアビドス高等学校の生徒を危険に晒し巻き込んだ……よってアビドス緊急事態マニュアルに乗っ取り君を解任する事をアビドス生徒会の過半数が賛同した」

 

衝撃によって動けなくなっていた面々がやっと情報を呑み込む。

 

「過半数が賛同って……今生徒会にはホシノ先輩とロハン先輩しかいないじゃない!ねぇ、どうしちゃったの急に!!」

 

彼は黒見に目を向けること無く1枚の紙を取り出し読む。

 

 

────────────────────────────

 

アビドス生徒会特例措置

 

本来なら生徒の入学後に決定される生徒会所属の有無をアビドス高等学校生徒会長梔子ユメの権限により入学前に下記の事項を決定します。

 

1、岸部ロハンをアビドス高等学校生徒会の広報へと任命する事。

 

2、何らかの理由で私が自分の意思表示を行えない状態にある場合、私の意思決定は岸部ロハンに依託される。

 

3、上記の内容は私以外の誰かが生徒会長になったら破棄しても良い。

 

────────────────────────────

 

 

「これを根拠に、君は解任される」

 

「嘘だ……先輩がそんな…」

 

「ほら、これやるよ」

 

彼は強引に紙をホシノの手に持たせた。

 

「ぁ…うそ…」

 

「先輩!」

 

「煮るなり焼くなり好きにすれば良い」

 

一目でわかってしまった、それが梔子ユメの字であることが。

 

「そしてアビドス生徒会役職規定により委員長副委員長が空席である場合、その他の役職から生徒会長になるということで現時刻をもって僕が生徒会長だ、ここまでで何か異議は?」

 

「異議も何もそんな暴論は!」

 

「暴論…?全部君達が守り抜いた学校にあるルールじゃあないか、そうだな……対策委員会、君達も他校の生徒を巻き込みブラックマーケットにて我が校の名誉を傷つけかねない行動を起こした、生徒会長の権限によって対策委員会が保有するアビドス高等学校の財政に関わる権利を今現時点から無期限で凍結する…話は以上だ、じゃあ失礼するよ」

 

「待ってくださいッ!」

 

呼びかけに応えず彼は背を向けて歩き始める。その行く手を阻むように立つのは

 

「止めるのか?」

 

〝……〟

 

今この場で唯一アビドスの権力に縛られず突っぱねる事ができる人間。シャーレの権限をもってすれば岸部ロハンの権利を剥奪する事も可能であろう。

 

「それをするにはしがらみが多すぎるぜ?」

 

シャーレがそれをすれば、他校は黙っていられなくなる。その前例を作ってしまえば先日のゲヘナの風紀委員会によって行われた先生拘束未遂、それ以上の事が起こりかねない。

 

〝……ロハンはそれでいいの?〟

 

「質問の意図がわからないな」

 

そう吐き捨てて彼は立ち去った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ビリビリビリッ!

 

『アビドス生徒会特例措置』のコピーを破り窓から放り投げた。風によって夜の闇に消えていく。

 

「くくっ…あーはははっ!」

 

今僕は楽しくて仕方がない。柄でもないが無謀な賭けをしてみよう。

 

今、『アビドス特例措置』の存在を証明できるものは彼女の手元にしか残っていない。もし彼女があれを破棄できれば当然僕は大人しく身を引こう。だがそうじゃあなく、過去を振り切れないままでいるんだったら……

 

「ロハン、このダンボール終わった」

 

「ああ、ありがとう」

 

「急に引っ越しするなんて、びっくり」

 

利子は今回の件を引き合いに出せば下げる事は可能だろう。だが元値のアビドス高等学校の9億を1人で背負う形になるからな、削れる出費は削りたい。それにあの家は僕が住んでると広く周知されてしまっているからな。

 

「貴重な経験だろう?」

 

「……うん、でもそこまでする価値があるの?」

 

「当然だ、物に念が込められるという話があるように場所にも縁や因果が込められる」

 

どうしてもあそこには影が付き纏う。

 

僕も彼もその影に魅了されたのかもしれない、それが自らを破滅へ導くのだとしても。

 

「でも、こんな広い家は高い筈」

 

「事故物件だからな、安くて家具もついてくるのさ」

 

「ふーん、何が起こったの?」

 

「お姉ちゃんに会える」

 

因縁としてはこの場所も相当なものになるだろうな。

 

「?」

 

首を傾げるその姿がやけに様になって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アビドス対策委員会

 

残り借金額……0円

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アビドス生徒会

 

残り借金額……9億円+α

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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