「生徒会長就任おめでとうございます、岸部ロハンさん」
心底胡散臭い顔でそんな事を言いながらこちらを測るかのような目を向けてくる。
「ああ、どうも」
非常に居心地が悪いがそれを態度に出せばこういう奴は勝手に底を見た気になって得意気な顔を浮かべてくる。僕としてはそっちの方が腹が立つ。
「ですが、呼び出しに応じていただけるとは…」
僕は今、連邦生徒会に呼び出されここにいる。呼び出しのタイミングとしてはカイザーと交渉し法外な利子の取り下げ、更にウチの高校の生徒を誘拐した賠償として更に利子を下げる事に成功した後だ。
あまりに出来過ぎている。シャーレ経由で僕がアビドスの生徒会長となったというのが連邦生徒会に知られていてもわざわざここに呼び出す理由なんてのは無い筈だ。
防衛室長不知火カヤとカイザーは繋がっていると考えてもいいだろう。それが呼び出しに応じた理由の1つ。
「まさかダメ元で人を呼び出したのか?」
「いえ…ですが些か手こずるとは思っていましたよ、あなたをプロファイリングした結果に基づけばですが」
「なら更新しておくんだな」
「ええ」
そんな内容の薄い会話がしばらく続く。
「で、こうやって無駄話をする為に呼んだわけじゃあないだろう?知ってると思うが僕は多忙なんだが……」
「ええ勿論存じ上げています、話しに聞けばあなたは大人気漫画家…」
「話しに聞けばだと…?君読んだこと無いのか」
「失礼な話あまり興味が持てなくて」
「ああ、そう」
だとしたら尚更僕をここに呼ぶ意味がわからない。サイン欲しくて読んでしまったとかなら可愛げがあってまだマシなんだかな。
「……単刀直入に言うとあなたをスカウトしたいのですよ」
はぁ…
「僕の漫画読んだ事無いのにか?……賭け事とか好きなタイプには見えないが」
絵描きを勧誘しようとしているのにそいつの絵をみないなんて馬鹿げた話あるもんなんだな。
「……漫画以上の価値があなたにはあると考えています……どうですか、私と共に…」
針の穴を糸で通し合うかの様な雰囲気が僕と彼女の間に広がる。
正直
「飽きた」
「はい?」
「君に言ってもしょうがないが、こうやって対面で探り合って思考を巡らせ合うのは君を入れて4回目だ…その内の3回が今の君みたいに能力だのなんだの…」
人の事を舐めてるよな。
「どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつも人の漫画をついでの様に扱いやがって、少し僕自身を調べればわかるだろう、どれだけ漫画に比重を置いているのかが」
取り繕われるのもまあムカつくが僕の価値がそれしか無いかのように語ってくるのは一体何なんだ?彼彼女には言わなかったが僕を踏み台扱いするにしてもその踏み台がどれくらい飛ぶのか、安全性くらいは調べるだろ。
「そういう点ではまだ、君は3人の中ではまだマシな方だ、1人は下につけもう1人は実験対象としてだったからな口先だけでも共になんて言葉が聞けて思わず涙が出そうになったよ」
「………」
僕の言葉に何も言わない不知火。その目には驚きと少し同情的な色が浮かんでいた。
「だから腹の探りあいは勘弁してくれ」
「………良いでしょう、ですが」
「ヘブンズ・ドアー」
言質は取った。ページを捲っていく。
「ふーん」
キヴォトスの治安に対するスタンスや想いは…漫画家としてじゃあなく1市民としては概ね同意だ。つまり一般的……いや、小市民的だ。
「そういえば」
さっきの視線の動き的にカメラかなんかを隠しているだろうからな。とりあえずそれを……
ペラペラ
「机の裏…ドアノブ…窓の鍵の所に……多いな」
28カ所に盗聴器や隠しカメラが仕込まれていた。溜息を吐きながら5分ほどで全て取り外すことが出来た。
そういった自動記録媒体それ自体は僕の能力を暴くのには有効なんだが……
「…どうして部下を使わなかった…?」
あの赤い女は襲撃位置を部下に任せ
黒い服の男は記録媒体を他者に隠させ
元カイザー理事は部下にリアルタイムで確認させていた。
彼らは知らない事を武器としていた。カイザーから何らかの情報が行っているならそうしてもおかしくないはず…だが彼女が仕込んでいたのはどれもメモリーカードに記録するタイプ。これを砕いてしまえば良いだけの話しになる。
そしてその疑問は彼女を読み進めていくと自ずと判明した。
根本的に自分以外を信用できていない。いや、信用するのが苦手なのだろう。利用することしかできていない。それでいて人の上に立ちたい、トップになりたいという野心はある。
カイザーとの交渉なんかは多少軽んじて見ている部分があるとはいえ僕よりも上手い、素直に尊敬してしまう程。彼女が僕に同情していなかったら僕はおそらく丸め込まれても不思議じゃあなかった。
裏から人を動かすのには向いているが、矢面に立つのには向いていないタイプ…No.2で満足できるのならこれ以上ない能力を持っている。
ペラペラペラペラ
ページを捲る手が止まらなくなっていく。
「こいつ…最初は味気無いと思っていたが読めば読むほど味が出てくるぞ…!」
そしてある一文を読んで思わず笑みが溢れた。
彼女の持つ自尊心とコンプレックスの狭間で形成された歪んだ憧れの形。
「『超人』か」
名残惜しいが…これ以上は誰かしらが入ってきてもおかしくない。僕はなんとか衝動を堪え彼女に掛けた能力を解除する。
「良いでしょう、ですが」
カラユンッ
僕は記録媒体と粉々にしたメモリーカードを彼女の机の上に置く。それは逆説的に彼女に何かをしたという証明になってしまうがどうしても反応が見てみたい。
「なっ…!」
目を見開き驚愕する表情を浮かべる。そうそう、こういうので良いのさこういうので。
「悪いな、あんまり多いもんで少し緊張してしま」
「や…やはりあなたは特別な存在なのですね!私と手を組みましょう!」
僕の言葉を遮り目を輝かせ身を乗り出してくる。これは意外な反応だな。そのまま捲し立てる様に自分と組むメリットを言ってくる。だが答えは決まっている。
「先ずは僕の漫画を読んでみてからにしてくれ」
話し合いの最低ラインはそこからにしよう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
彼は立ち去る。
思ったより反応は悪くありませんでした。当然首を縦に振っていませんから最高ではなくそれでいて最低でもなく。
事前に調べさせていたここ1週間の彼の動き。激動と言うに他ならないでしょう。そしてその激動にほぼ完璧と言って良い対応を行っている。なんて優秀なのでしょう。更に興味深いのはカイザーの…元になったんでしたね、元カイザーPMC理事は彼を『唯一』と称していました。
机の上に散らばったそれらを片付ける。
そう、彼はただ優秀なだけではないんですよ。大人達でさえ彼の全容を把握する事はできていない。だが私なら彼の『唯一』を有効活用する事ができる。さすれば私はキヴォトスで『唯一無二』の………殊更その優秀さを絵なんかに使わずに黙って私と共に……
『どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつも人の漫画をついでの様に扱いやがって、少し僕自身を調べればわかるだろう』
……適当に流し読みして当たり障りのない感想をいえばいいだけですしね。今日の業務は片付いている事ですし。
カチャン
「私です、今すぐに岸部ロハンの漫画を……は…めんどくさい?業務内容に含まれていない?ネットで……そうですか」
ガチャンっ!!!
叩きつける様に受話器を置く。
何故、上の立場である私の指示が聞けないのでしょう……今の連邦生徒会の規律が乱れているからに他なりませんね。私がトップなれば当然そんな事は許しませんが。
「岸部ロハン 漫画」
カチカチ
検索して1番上に出てきたアプリをインストールする。その僅かな待ち時間でさえ煩わしい。
「……これで読めるようになったわけですか」
正直私の時間を1秒だってインクで描かれた線なんかに捧げたくなんてありませんが、これも彼をスカウトするために必要な事。
カチ
…ほう…
………はぁ…
………………へぇ…
「防衛室長さん……防衛室長さん」
肩を揺すられる。うるさいですね。
「…なんですか?」
画面から目を離さずに返事する。今丁度山場なんですよ。
「あの、施錠を……」
はぁ…やる気のない人間は本当に嫌になりますね。
「誰の命令で業務を早く終えて良いことになってるんですか?」
「えっ…?」
「ですから誰が業務時間を縮めて良いと…」
「もう、施錠時間ですよ…?」
困惑した声で反論される。なんですかこの警備員…どうしてこんなに生意気で………!?
顔を上げた瞬間思わず唖然とした。窓の外は暗く、フロアには私以外の人間もいない。時計を確認すると……私がこれを読み始めてから既に4時間が経過していた。
「大丈夫…ですか?」
「……少し集中しすぎていたようで」
「そうですか、あまり無理はなさらず…」
私が……これに夢中になっていた…?そんな筈が……もしや…これが彼の『唯一』…それなら私の時間をここまで奪う事が出来たのも納得です。
だとすれば彼の漫画を読み解く内に彼の全容が……きっとそうに違いありません!今、読んでいたのは……よしメモができました。
「それ、もしかして…」
「……なんですか?」
「いえ、なんでもないです」
私が足早に立ち去ろうとすると
「岸部ロハンさんの作品なら…『ステップラック』が面白いですよ」
そうすれ違いざまに言われる。
なんですか急に馴れ馴れしく……ですが評判が良いということは彼が何か残しているかもしれませんね、今読んでいるのが終われば……
防衛室長不知火カヤ、彼女は夜明けの瞬間を体感するも翌日の業務に支障は出さなかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「苦しむ為に生まれてきたんだ」
この世の終わりを詰め込んで煮詰めたみたいな言葉を目の前の女の子が吐く。包帯を巻いていてボロボロ…厄介事の匂いがプンプンした。正直面倒事に関わるのはごめんだったけど、どうしてそんな結論に達したのかが気になって。
「……あの、大丈夫?」
声をかけても全然反応が無いから肩を叩く。
「………」
顔を上げた女の子の目は焦点が合わず何も見えていないようだった。だけどその奥にある光はとても綺麗で画になるななんて思ってしまった。
良くないとはわかっていた。わかっていたけど
「……ぁ…」
その子を持って帰ることにした。
「………誰……?」
掠れて不安そうな声が後ろから聞こえてくる。それはそうだよね、誘拐みたいなもんだもん。
「私はロハン、写真家だよ」
私が撮ってみたくなっちゃったからにはこの子には被写体になってもらうしか無い。例え全てを諦めていても。
そう家路につく