岸部ロハンは透き通らない   作:マイケル行ける

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過程の無い結果の残るここで

 

 

 

厳かな空気が満ちた教会の更に奥、静寂に包まれた一室。所謂『懺悔室』に彼は居た。  

 

「次はその『ユスティナ聖徒会』について教えてくれ」

 

「はい、ユスティナ聖徒会というのは…」

 

その部屋には似つかわしくないペンと紙の音を鳴らしながら、懺悔を聞くはずのシスターを逆に質問攻めしていた。

 

何故彼がその様な事を行っているか。話を聞くだけならわざわざ懺悔室である意味は無い。それこそそこら辺を歩いている生徒に聞けば良い筈だ。

 

否、筈だった!

 

山村ニモンは浮いていた。

 

突然の転入生である事に加えいきなりのティーパーティー所属、更に男子生徒である事。デザートには問題児揃いの補習授業部所属である事。

 

それらが揃うことによって彼1人を浮かせるには余りあるほどの浮力を生み出したのだ!もしもこれが物理的力を持てば彼を大気圏外に追放する事ができるだろう。

 

だが、そんな彼に話しかけてくれる親切な人間もいたにはいたのだが

 

『わからないことがあればこの宇沢レイサにお任せ…ゆすてぃな?……えーと…あっ!ティーパーティーならわかりますよっ!偉い人たちの集まりですよっ!』

 

鼓膜への被害に比べ得られた情報が少なすぎた。

 

「拷問や脅迫を………」

 

これまでに彼がシスターから聞いたことは

 

『ティーパーティー』『救護委員会』『シスターフッド』『浦和ハナコ』そして『ユスティナ聖徒会』についてだ。かなりの時間がかかった。彼女でなければ早々にお帰りを願っただろう。

 

伊落マリー、憐れにも岸部ロハン……山村ニモンの餌食となってしまった彼女。元来の優しさから懺悔する気の見えない彼を見捨てる事なく彼が満足するまで付き合うつもりであった。

 

「…と言った組織でありました」

 

「ああ、ありがとう…図書館で読んだことと殆ど違いはないな」

 

「…そ、そうですか…」

 

散々説明させて上でその様な事を平然と言う態度に流石の彼女も引き攣った笑みを浮かべるしか無かった。

 

「…ところで先ほどの話の続きは……」

 

打って変わって待ち切れない様な好奇心が抑えられない表情を浮かべ『続き』を急かした。

 

「ん…あぁ…そういえばそうだったな」

 

「そんなどうでも良い事のように…」

 

彼の質問攻めに付き合ったのは確かに彼女の優しさが大半であった。だがそれともう一つ瞬間的割合で言えば上回る理由があった。

 

      〜〜〜1時間前〜〜〜

 

「神はあなたの行為をお許しになるでしょう」

 

優しい声が後悔を自らの罪を吐き出した生徒の背を押す。

 

「ありがとうございます…!」

 

懺悔室から出ていく足取りは軽く、心スッキリと行ったように教会の外へ。

 

立派なシスターになる為に熱心な見習いシスターマリーは今日も迷える仔羊を懺悔室にて待つ。

 

ガチャ……コツコツコツ…カタ

 

どうやらまた1人彼女の元へ迷える仔羊が……

 

「別に神を信じてる訳じゃあないんだが、良いかい?」

 

「えっ?」

 

思わず声が漏れてしまった。神からの許しを得るための場所にわざわざ神を信じていない人間が来る事なんて彼女の経験上一度も無かった。

 

「……ええ、大丈夫です」

 

規律上どうなのだろうかと悩んだがここに来るということは彼もまた迷える仔羊である筈、ならばそれを放っておくことはできない。

 

「これは僕がとある街の教会に取材に言ったときの話だ、その教会にもこんな感じで懺悔室があった」

 

まるでそれは懺悔と言うよりもエピソードトークを始めるかのようで

 

「今はこうしてしっかりと懺悔する側に座っているがその時の僕は誤って懺悔を聞く側……つまり君の方の部屋に入ってしまってね、すぐに出ようと思ったんだが・・・・」

 

そうして始まった懺悔?に気が付けば伊落マリーは聞き入っていた。優等生の彼女には考えられない過ちを犯したのにも関わらず開き直った事から始まる彼の話に何か良くない事をしているかの様なワクワクを覚えた。

 

「そしてその男にこう告げた『お前が幸せの…』………あぁ」

 

突然、話すのをやめてしまう。

 

「……どうしました?」

 

「いやぁ……聞き込みしなくちゃあならない事を思い出してね…ほら、僕転校生だろう?だからイマイチこの学校の組織がわからなくてね…どこかに『親切』な人間がいれば『質問』する事ができて聞き込みの手間が省けるんだけどな」

 

わざとらしい態度で彼は彼女の次の言葉を待つ。

 

「…私で良ければ」

 

「助かるよ、早速で悪いんだが『ティーパーティー』について教えてくれ」

 

「ティーパーティーというのは………」

 

彼はちゃっかりと用意していたペンを走らせた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

話の続きを人質ならず話質に取られていたのも彼の質問攻めに何一つ文句を言わずに付き合った理由の一つであった。

 

「最後に1つだけ『質問』良いか?」

 

「……はい、なんでしょうか」

 

「どうしてゲヘナとトリニティは仲が悪いんだ?」

 

これだけはどう調べてもわからなかった。エデン条約なんて大層な名前が付けられた条約を結ばなければならない程に。

 

だが、そんな状態に至るまでの過程が無いのだ。

 

「……何故……なんでしょうか…?」

 

質問された側が質問をそのまま返してしまう程に。

 

「いや…悪かった、忘れてくれ」

 

「……はい…」

 

何か後味の悪い空気が漂う。

 

「色々、ためになったよ」

 

そう言うと彼は立ち上がった。

 

「え…続きは…」

 

「明日だな」

 

あっけらかんとそんな事を一方的に告げ、マリーが止める間もなく懺悔室から出ていってしまった。

 

「いまいち…語りが乗らなかったな」

 

今日話すのが突然しっくりと来なくなってしまったのだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

この学園に居ると自分が貴族になったかのような気分になるね、こうやってベンチに座ってるだけでも優雅さが身に付きそうだ。

 

ヒソヒソ……

 

こちらを見ながらこちらには聞こえない声量で何かヒソヒソと会話している生徒達、ここは社交場じゃあないんだがな。

 

シスターのおかげで情報が色々と集まったが、『裏切り者』に関してはあまり進まなかったな。

 

数日間を補習授業部で過ごした、最初は『白洲アズサ』がそうだと思ったんだが……内部から情報を何処かに流すにしろ直接の破壊工作にしろ目立ちすぎている。

 

『下江コハル』も同様、直情的過ぎてスパイに向いていないどころの話じゃあない。もしもあれがスパイなら選んだ奴に同情して僕が情報流してやるよ。

 

となると残りは2人なんだが……『阿慈谷ヒフミ』……彼女と僕の付き合いはまあまあ長いと自負している、彼女はそんな事をする様な人間では……無いと信じている。

 

『浦和ハナコ』に関しては動機という面ではかなり怪しくはある。シスターからの話も気になった。日頃の態度がブラフの可能性も捨てきれないが、これまた目立ちすぎている。

 

結論、補習授業部の中に裏切り者らしき人間は居ない。

 

そもそもゲヘナを嫌う理由が無いのにも関わらず、いがみ合うことが伝統のようになっている時点で何も問題の無い生徒の方が怪しく思えるがな。……桐藤がそこまで思考が及んでないのは条約の締結に真剣では無いからか、もしくは……『百合園セイア』の不在の影響か。

 

まあ、『補習授業部』の中から裏切り者を見つけろとしか言われてないからな。その外に裏切り者がいたとしても別に草の根分けて探しはしないさ。

 

条約によってしか手を取り合えないのならそのうち瓦解すると考えていたが、条約によって和解の足掛かりさえ作ってしまえばどうとでもなりそうだ。流石は『超人』と言ったところか。

 

トツゼンキテティーパティーニナンテ

 

「さっきからなんなんだ?言いたいことがあるなら黙っててくれ」

 

…ナニアノタイド…ナマイキ…

 

僕も別に好きでこんな麺類が弱点な服を着ているわけじゃあないんだ。寧ろこれのせいで今みたいに敵対の視線が集まる事もある。才羽風に言うなら呪いの装備ってヤツだな。

 

そんな事を考えていると

 

「駄目だよー?同じ学園の仲間同士仲良くしなくっちゃ」

 

能天気な事を言いながらにこりと彼女達に笑い掛けた。

 

………イコウ…

 

どうやら効果はバツグンだったようだ。ヒソヒソ達はさっさとどっかに行ってしまった。

 

「あらら、どっか行っちゃったね…トリニティはどう?ロ……今はニロンなんだっけ、ニロン先生」

 

名前を間違えた上無遠慮に人の隣に腰掛ける。

 

「ニモンだ後先生を付けるんじゃあない、見ての通り満喫してるよ…随分暇なんだな聖園」

 

「えー誰も居ないんだから良いじゃん〜それにこう見えて色々忙しいんだよ☆」

 

「そうか、ならこんなところで油を売ってる場合じゃあないぜ?」

 

「釣れない事言わないでよ〜……ロハン先生さ、ちょっとお話しようよ」

 

聖園ミカ、彼女にはおちゃらけた印象しか無かったが意外にも真剣な表情をしていた。

 

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