秋の冷たい風をバイクで切る。
試し乗りも兼ねて事務所に行くかと思いナビをセットする。白石が言ってたがこのバイク使えば使う程学習し自己判断も可能になるらしい。これがどこかの知らないメーカーだったら不具合の心配も出てくるが白石なら心配は要らないだろう。そう思わせる職人気質というような物が彼女にはあった。
とりあえず自己判断の機能で反逆されないように手入れをちゃんとすることにしよう。
そんな事を考えながら信号待ちをしていると、横の路地裏から
「誰かぁー!」
なんて切羽詰まった声が聞こえてくる。
別に僕が助ける義務は無いのだが何か気になる。このまま無視してしまったら心に良くないものが残りそうだ。僕は息を吐き出しバイクを路肩に停める。短時間なら問題無いだろう。そうして僕は路地裏に足を踏み入れた。
少し歩くと開けた場所が見えてきた。それにつれ声が大きくなっていく。どうやら複数人でのトラブルらしい。
「ちょっとだけで良いからさ! 頼むよ!」
「私! そんなつもりじゃなくて!」
「そこをどうにか!」
なんて小学生位の子供に詰め寄るスケバン風の二人組。
「君達、何しているんだい?」
「ああ!? なんだこの野郎! 見せもんじゃねぇぞ!」
この手のタイプは血の気が多くて困るね。
「おいおい、そんなに大声出さなくてもいいじゃあ無いか」
「姉御に向って偉そうに! ……ん? ……」
「おい、彼女急にどうしたんだ?」
「私に聞くなよ」
スケバン女の1人が僕の顔を見たまま止まる。
「こいつ……岸部ロハンっすよ岸部ロハン!」
「あー? 聞いた事ねぇな」
「姉御が好きな漫画の作者っすよ!」
「えっ!? ステップラック*1の!?」
「そう! それっす! 姉御が好きなやつ!」
「マジかよ~!」
「マジだ、僕がステップラックの作者岸部ロハンだ」
「本物だ……サインくださいっす!」
へぇ……ステップラックが好きなのか、あの作品結構取材苦労したからな。作者冥利に尽きるね
「え、お姉さんステップラック好きなの?」
「あ? あー……そうだよ……」
姉御と呼ばれている女が気まずそうに返事する。少女漫画が好きとは言いづらい様子だ。まあ、僕からしたらそんな心配無いと思うがね。
「そうなんだ! 私も大好き!」
少女が笑顔で頷く
「そうか……お揃いだな」
スケバン女は照れくさそうに顔を逸らす。
ほらな、これこそがエンターテイメントってやつさ。どんなに歳が離れていようが一緒の物が好きなら笑い合えるからな。
「姉御……嬉しそうっすね」
「ああ、そうだな……ところで君達はこんなところで何してたんだい?」
ヘブンズ・ドアーで読んでもいいんだが……無粋な気がするからな。
「えーと……それは……」
「ふーん、なるほどね」
彼女の話を要約すると
スケバン女達が歩いていると、貼り紙を貼っている少女を見つける。で、その貼り紙に描いてあった絵に姉御が一目惚れしてしまい、1枚自分の為に描いてくれないかと頼んでいた所に僕が登場って事らしい。
「なんていうか……見た瞬間グッと来たっていうか…なんかスゲェなって…」
「へぇ……それ僕にも見せてくれないか?」
「え、あ、はい!」
少女が手に持っている紙をこっちに渡す。こういう人探してます……おいおいおいこれ、人探しじゃあないか。写真では無く絵が描いてある。
これは…上手いな。特徴がわかりやすく描いてあって、絵からこの人物の雰囲気が伝わってくる。
「結構上手いじゃあないか……これ、君が描いたのかい?」
「はい、写真が無くて……それなら絵を描いて探そうかなって」
「どういう関係なんだい?」
絵と少女を見比べた感じ血縁関係って感じじゃあ無さそうだが
「お姉ちゃんは……何時も1人で絵を描いてた私に話し掛けてくれたの」
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私はその頃友達の作り方がよくわからなくて、何時も1人でいて、施設の人にもよく心配されてた。
「◯◯ちゃん、寂しくないの? 1人でいて」
「うん。さびしくないよ」
ってウソをついてた。さびしかったけど……それ以上にこわかった。友達ってそんなに大事なのかなって、だから絵を描く事に夢中になっていった。描けば描くほど上手くなっていくのが楽しかった。人も風も街も私が描けば私の色に染まっていく。それが楽しくて楽しくて……さびしいのをがまんしてたの。
お姉ちゃんと出会ったのは今日みたいに風が冷たい日。
私と同じ位の人たちが遊ぶ声を聴きながら、いつも通り絵を描いてた。私も一緒に混ざりたかったけど勇気が出なかった。そんな時だった。
「何の絵を描いてるの?」
凄くきれいな人が話しかけてきてくれた。年上の人と話す機会なんてあまり無かった私はドキドキしながら
「……あそこで遊んでいる人たち」
「ほうほう、ちょっと見せてみ」
その人に絵を見せる
「おぉ~凄い上手」
「ありがとうございます……」
ほめられてうれしかった。
「確かに上手だけどこの絵には1つ足りないものがある!」
ビシッなんて効果音が付きそうな勢いでその人は言う。
「足りないもの……」
「そう! 足りないもの!」
私にはそれが何かわからなかった。
「それは……」
そう言いながらその人はゆっくりと指を滑らせていく
「youさ」
「私……ですか?」
「そう!」
何を言ってるのかわからなかった。
「どういうこと…?」
そう質問するとドヤ顔しながら
「絵を描くのに必要なのは! 経験!」
「経験……」
「つまり! もっといい絵にするには経験しとかないと!」
「私だって……遊べるなら遊びたいけど……」
「じゃあ行こうよ!」
「……」
泣きそうになって俯いてしまった。
「うーん」
呆れられたのかと思い顔を見ることができなかった。
「じゃあさ、半分……半分勇気出してみて」
「半分……?」
「もう半分はお姉ちゃんが出すから」
そう笑いながら手を差し出してくる。私はその手の温かさを感じながら
「「まーぜーて!」」
次の日は筋肉痛で動けなかった。
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「それからも何度かお姉ちゃんは施設に来てくれたんだけど、ある日突然来なくなっちゃって……だから、探してお礼を言いたいの!」
「施設の人に聴けば良いんじゃあないか?」
「それが……何も教えてくれなくて……」
「だから自分で探そうって思ったのか」
なるほど、凄い行動力だな。
「うぅ……凄い良いお姉ちゃんだな」
「感動したっす……」
スケバン女達が泣きながらそんな事を言う
「私、お姉ちゃんにあの時描いてた絵を最初にあげたくて……」
「よし! 私達が今から探してやるよ!」
「いや駄目っすよ! 姉御これからオーディションの結果発表じゃないすか!」
「オーディション?」
「はい、姉御昔から舞台に憧れてて……」
「でもよ、こんな話聞いておいてのこのこ自分だけ……」
「お姉さん、私お姉さんが舞台にいる姿絵にしたい!」
少女はそう言いながら姉御の手を握る。
「っ……! わかった……」
「それじゃあ、私達で探すとしますか!」
「おいおいおい、君彼女と仲良いんだろ?」
「はい? それはそうっすけど」
「結果発表で緊張してるじゃあないか、側にいてやりなよ」
「え、でもそれじゃあ岸部先生だけで探す事になるっすよ?」
「僕は探さないさ」
「え!?」
「岸部先生! そりゃねぇよ!」
「ううん、岸部先生忙しいもん。私自分の力で頑張ってみる」
「まあ、待ちなよ……僕は探さないが探してくれる会社があってね。そこに依頼をするってのは……どうかな?」
「え、どこですかそれ?」
「君、便利屋に依頼する気はないかい?」
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『ステップラック』…岸部ロハンが描いた短編少女漫画。ダンスの天才、大宮アムが役者を目指し様々な人達と支え合う物語。ラストのアムが街をバックに踊る姿は漫画なのにまるで映像を見ているようだと読者達の中で話題に、続編を望むファンが多い。
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