停めていたバイクまで戻り、ボタンを操作する。
「すっげぇ! バイクが変形した!」
「サイドカーってやつっすね!」
「君達も送っていこうか?」
「気遣いはありがたいんだがよ……あんまり早く着いちまうと緊張しすぎてやばいからな」
「そうか」
身体を動かすってのは緊張を解すのに結構効果的だからな。
「なあ、〇〇ちゃん」
姉御が少女に話しかける。
「どうしたの? お姉さん」
「1つ約束してくれ」
「何を……?」
「アタシが舞台に出れるようになったら絶対に見に……いや、描きに来てくれ」
「…はい!私の絵で良ければ!」
「おいおい、僕は呼んでくれないのかい?」
「え!?……ほら!一番最初に描いて貰うなら〇〇ちゃんがいいなと言うか……」
「ああ、わかっているさ、僕はそうだな……午後の部からにするか」
「えー! 岸部先生も一緒に観に行きましょうよ〜!」
「そうっすよ! 絵に描く時間をずらせばいいだけっす!」
「いや、大口叩いたのはいいんだけど……受かってるかわかんねぇし……」
「別にプレッシャーを掛けるわけじゃあないが、僕と将来有望な絵描きは君をセンターで描く気満々だぜ?」
「ど真ん中!」
「うわぁ……凄いプレッシャーっすね……」
「……ふふっ、あはは!」
姉御が突然笑いだす
「おかしくなっちゃった……?」
「姉御……大丈夫っすか?」
「ははっ……任せろ絵描き共、お前らが描けないくらい凄い演技してやるよ」
「そいつは楽しみだ」
描けないくらいの演技ねえ……それは是非とも目に焼き付けないとな。
「そのためにもロハン先生、頼んだぜ」
「ああ、わかった」
「よし! じゃあ行くぞ!」
「うっす!」
「お姉さん達! いってらっしゃーい!」
そう走りだす彼女達を少女は笑顔で見送った。
「じゃあ僕達も行くとするか」
そう言いながらヘルメットを渡すと少女はそれをぎこちなく被り
「出発〜!」
そう腕を振り上げた。
便利屋68オフィス前〜
近くのパーキングにバイクを停め2人で事務所の前に立つ。
「岸部先生」
少女が声をあげる
「どうしたんだい?」
「便利屋の人達ってどんな人達?」
どんな人達かと聞かれると難しいね。一言じゃあ表せないくらい濃いやつらだからな。
「僕を除いて3人しか社員が居ないんだが」
「3人……」
「僕は3人共いい奴らだと思っているよ」
「岸部先生が言うなら……そうなんですかね……」
「おいおい、やけに信用があるな」
「だって岸部先生が描く絵とても綺麗ですもん! そんな先生が言うならきっと大丈夫!」
「ああ、この岸部ロハンが言うんだ。安心してもらって良い」
「……ねぇ岸部先生」
「どうした?」
「お姉ちゃんに……会えるかな……?」
少女が不安そうにこちらに問いかけてくる。
「それは判らない」
僕がそう言うと少女の目に涙が溜まる。
「だが、これから探していく上で君は結果を得るんだ」
「結果……」
「もしかしたら、それは後悔に繋がってるかもしれない」
少女は静かに僕の言葉に耳を傾ける
「探さなければ良かった、あやふやなまま思い出として閉まっておくべきだったと君は思うかもな」
「……はい」
「だが僕は君が無駄な事をしたとは決して言わない」
「君が探すという意思を持ち、行動したからこそあの2人は君と友達になったんじゃあないか?」
「友達に……なれた……?」
「次に会う約束をしたならそれはもう友達さ」
「そう……なんだ……」
「君は真実を探す覚悟……できてるかい?」
僕の問いに少女はグッと拳を握り頷く。
「それじゃあ入るとするか」
中に入るとどうやら一仕事終えたような様子でくつろいでる3人組がいた。
「あっ! ロハンさん〜遅いわよ!」
「すまない、ちょっと用事が立て込んでしまっていてね」
「その場合はしっかりと連絡しないと!」
「次からは気をつけるようにするよ」
「絶対気をつけないパターンだ〜」
「失礼じゃあないか? 浅黄、僕はこんなにも頭を下げてるっていうのに」
「下げてないよね」
「まあ、そんな事は置いておくとして」
「話し逸らしたね」
「依頼人を連れてきたよ」
そう言いながら僕は横にずれる
。
「え……わ……ど、どうも……」
「ロハンちゃん……誘拐?」
「君ぃ失礼だぞ」
「とりあえず! 依頼があるのよね?」
そう陸八魔が言い少女をソファーに座らせる。
「はい、これメロンソーダ!」
浅黄がコップにこの前余った飲み物を注ぐ
「ありがとうございます……」
「これ、煎餅良かったら食べて」
なんか、僕の依頼のときより対応良いなと思い鬼方に言うと
「だって岸部、社員になってたじゃん」
なるほどな
僕が納得していると少女は依頼の話、思い出の話を始めた。
「そのために、私はお姉ちゃんを探したいんです」
依頼の話が終わり陸八魔が泣きながら
「わ、わがっだわ私達便利屋68が必ず見つけてみせるから!」
「ありがとうございます!」
「おいおい、陸八魔……そんなクシャクシャな顔じゃあカッコつかないぜ」
と言いながら僕はハンカチを渡す
「依頼料ってどれくらいになりますか……?」
少女が陸八魔に尋ねる。
「ふっ……今は払わなくて良いわ」
「え……?」
「あなたが大きくなってからもっと凄い依頼を持ってきたときに上乗せしておくから」
(今の私すっごくかっこいいんじゃない!?)
「っ……! ありがとうございます!」
凄いカリスマ感出てるじゃあないか。こっちをチラチラ見ていなかったらだが
(どう!? ロハンさん!)
なんて思ってそうな顔をしているため、とりあえずサムズアップをしておく。
「〇〇ちゃん! 私の事をお姉ちゃんだと思ってくれて良いからね!」
浅黄がそんな事を言い出す。僕が思うに浅黄は末っ子キャラじゃあ無いだろうか?
「……ムツキお姉ちゃん」
少女がそう言うと浅黄は固まってしまった。
「ロハンちゃん」
「おいおい……大丈夫か?」
「私お姉ちゃんだ」
「そうか……それは良かったじゃあないか」
大丈夫ではないようだ
「探すのはいいんだけどさ、何か特徴はあるの?」
そう聞いた鬼方に少女はチラシを渡す
「なるほど……制服とか覚えてない?」
「制服……うーん……」
「学校絞れたら大分探しやすくなるんだけど……」
「ごめんなさい……どうしても思い出せなくて」
「そういえば、君そのお姉ちゃんに絵を贈るって言ってたがその絵見せてもらえるかい?」
「あ、はい!」
少女はリュックの中から丸められた絵を取り出し机の上に広げた
これは……鬼ごっこで遊ぶ子どもたちか
「すっごく上手だわ……」
「へぇ……凄く楽しそう」
2人が感嘆の声をあげる
「ロハンちゃん、私の妹凄いね」
「本当に大丈夫か?」
1人心配だが
「お姉ちゃんが話しかけてくれた時に描いてた絵が完成したから……それを贈りたいなって」
「すっごく喜ぶと思うわ!」
「だがこの絵を見る限りジャージだな」
僕が残念そうに言うと
「私何か、大事な事を忘れているような気がして……」
「思い出せない感じ?」
「こう……靄がかった感じになっちゃって……」
なるほどな……今回使うつもりは無かったんだが……仕方ないな
「魔法をかけよう」
「魔法……?」
「大事な物を思い出すことができる魔法さ」
「へぇーロハン先生そんなの事も知ってるんだ!」
「ああ、目を瞑って数字を1から数えてくれないか?」
そう言うと少女は目を閉じ
「1」
僕はゆっくり手をあげ
「2」
深く息を吸い
「3」
唱える
ヘブンズ・ドアー
僕は4人を本にしソファーに座って本にした少女を読む。僕の能力は生きてきた記憶を読む能力だ。本人が忘れてしまっていても記憶は魂へと記録されている。
さて、君は一体何を忘れてしまっているんだ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
❍月❍日
久しぶりに。相変わらずお姉ちゃん、足は速いのに体力が無くて増やし鬼弱かった。疲れすぎてゴホゴホ言ってるし……綺麗な翼も力無く上下してる。
✘月✘✘日
最近お姉ちゃん、咳き込んでいるけど大丈夫かな……?
お姉ちゃんに聞いてみても優しく微笑んで大丈夫とだけ言われた。
風邪ならゆっくり休んでほしいな
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
僕が少女を読んでいて気になったページはこの2つだ。翼が生えているって事は……トリニティの生徒の可能性が高い
それと……咳き込んでいたという事。秋なら風邪の可能性もあるが……不穏な気配を感じてしまう。
とりあえず僕は少女に
お姉ちゃんに翼が生えていたことを思いだす
そして4人に意識を失っていた事を疑問に思わないと書き込み能力を解除した。咳き込んでいた事は思い出させない事にした。そっちのほうが良い気がしたからな。
「う、うーん……あ! 思い出した!」
「お、何を思い出したんだい?」
「お姉ちゃんには綺麗な翼が生えていたんです!」
「翼……ということは」
「トリニティ……よね?」
「おそらくね……」
「そうと決まれば早速行くとしようじゃあないか」
「そう行きたいところ……何だけど……」
少し言いづらそうに
「トリニティとゲヘナって仲悪いじゃない?」
「私達一応ゲヘナの生徒だから……」
ああ、そういう事か、彼女達に差別意識はおそらく無いだろうが下手に踏み込むとそれを理由に何をされるかわからないって事か
「僕が行ってくるよ」
僕はアビドス所属だから多分大丈夫だろう。
「私も行きたい!」
「いや、君にはすることがあるぜ」
「すること……」
「その絵と一緒に渡す花。探さないとな」
「花……?」
「お礼を伝えるのに花は1番効果的だからな、そうだろう?」
「そうだよ! 〇〇ちゃん、一緒にお花探しに行こうよ!」
「え、でも……」
「君のお姉ちゃんの事は僕がしっかりと探しておく」
「……わかりました」
「よし! 便利屋68! 今日も頑張るわよ!」
「おぉー!」
「ロハンちゃん! 〇〇ちゃんの事は任せて!」
「ああ、随分と頼もしいな」
そうして僕はパーキングに向って歩こうとしたとき
「岸部」
鬼方が追いかけてきた
「もしかして、何か掴んでる?」
「……いや、特には無いな……」
「なんかさ、あの子の事遠ざけようとしてない?」
「気の所為さ、早く行かないと置いてかれるぜ」
「わかったけど……何かあったら報告しっかりとね」
「ああ、わかっているさ」
そう返事すると鬼方は小走りで去っていった。
とりあえず僕はスマホを取り出し知り合いのトリニティの生徒に連絡を取ることにした。
『もしもし、いきなりどうしたんですか? 岸部さん』
「突然すまないね阿慈谷」
『どうされたんですか?』
「今から暇かい?」
『えっと……特に予定は無いですけど……』
「今から僕トリニティ学園に向かうから正門で待っててくれるかい?」
『え……突然ですね……大丈夫ですけど……何分後位に居ればいいですか?』
「大体30分後位につくと思うが……着いたら連絡するよ」
『わかりました、一応聞いておきますけど……変な噂の調査とかじゃないですよね……?』
「今回は違うね」
『なるほど……ではまた後で』
「ああ、ありがとう」
そう言って通話を終了する。やはり持つべきものは友人だな。そんな事を思いながら僕はバイクのエンジンを掛けトリニティ総合学園へナビをセットし出発した。
評価、誤字報告等ありがとうございます。