星ウサギの異世界迷宮探索 ~元社畜が、ウサ耳巨乳美少女の姿でVRMMOだった世界へ~   作:健全なMTYK

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#10 ウサギと夢と朝の空気

「おかあさん!おとうさん!おきてよぉ!!」

 

 

 薄暗く小さな部屋の真ん中に置いてあるベッドの上に30代と思わしき男女が横たわっている。

 そしてベッドの横で、顔や膝などに大きめの絆創膏を張っている小さな男の子が涙目で叫んでいた。

 子供の横には顔の皺が目立ち始めている初老の女性が立っており、胸が上下に動いていない男女を見つめている。

 

 

「ったく……一人息子を置いて、何勝手に逝ってるんだい。この親不孝共め………」

 

 

 初老の女性は眼に涙を溜めながら愚痴を零す。

 我が子に聞かれれば、また口が悪いだのなんだのと文句を言われるだろうが、その文句も二度と聞くことはない。

 男の子は唯一の身内となった祖母である初老の女性に抱き着き大声で泣き叫び、女性は抱き着いている生き残った孫の頭を優しく撫でた。

 こうして交通事故で両親を失った卯月(うづき) 和人(かずと)は、祖母に引き取られて育てられるのであった……。

 

 

   *

 

   *

 

   *

 

 

「………」

 

 

 夢を見ていた……幼いころの夢を。

 昔よく見た、両親を交通事故で失い祖母に引き取られたころの夢だ。

 

 

「この歳になって、また見るなんてな……」

 

 

 中学生や高校生の時に、たまに見て最悪な気分の朝になることがしばしあったが成人してからというもの殆ど見なくなった夢だ。

 この夢を見た時の朝は決まって身体が鉛のように物凄く重いのだ。

 カグナは悪夢を見た倦怠感で身体を起こす気力が出ないのでベッドで横になり続けてると胸部に重みを感じた。

 頭を持ち上げて自身の胸部を見ると、そこに重力に沿って潰れ饅頭のようになりつつも確かな丸みと質量を感じさせる二つの山がカグナの呼吸と共に上下しているのが見えた。

 カグナはそれが自身の胸部についている魅惑の塊であることに、すぐには気づかなかった……ついこの間までは男の身体であったからね。

 

 

「…………」

 

 

 今の身体になってあまり考えないようにしていたこと、すなわち性別が変わったことによる異性の身体への好奇心だ。

 胸部にある魅惑のたわわは、どうあがいても意識の範囲に入ってくるので若干慣れてきてはいる。

 だがもう一か所、そうもう一か所ちゃんと確かめないといけない所がある!

 一度意識してしまったせいか、悪夢による倦怠感もどこぞへと吹き飛んでしまったらしい……今カグナにあるのは倦怠感ではなく好奇心である!

 だが未知への探検をするべきかどうかの脳内会議は、一つの声によって中断される……アイが声をかけてきたからだ。

 

 

『おはようございます、主。どうされました?』

 

「いや……なんでもないよ」

 

 

 サポートAIの声により正気に戻ったカグナは、のそのそと体を起こす。

 起きたばかりの身体に力が入らないのを実感しつつも、ベッドから立ち上がり窓から差し込む朝日を身体で浴びる――よい朝だ。

 

 

「ふッ、ふんんーーーーッ!!」

 

 

 両腕を上にあげて背筋を伸ばし軽く身体を動かして眠気を飛ばす。

 腕と一緒に大きなウサギの耳まで持ち上がったが、ご愛敬。

 頭もすっきりしたところでアイに手伝ってもらい、寝間着から普段の服装へと着替えた。

 アラサーにもなった癖に一人で着替えられないとはなんと情けない、と思われるかもしれないが女の子の身体にまだ不慣れなのだからしょうがないと謎の言い訳で自分に言い聞かせる。

 着替え終わったカグナは、自己主張する胸部の膨らみを両の掌で持ち上げる、ずっしりと重い。

 

 

「ふぅ……俺は、この身体に慣れる時が来るんだろうか」

 

『はしたないですよ、主』

 

 

 呆れ顔のサポートAIに怒られた。

 自分の身体なんだから別にいいじゃないかとカグナは思ったりするが、アイは意外と厳しいようだ。

 

 

『おや、主。朝早くからお出かけですか?』

 

「早くに目が覚めちゃったし、軽く散歩しようかなって」

 

『なるほど、お供いたします』

 

 

 頭も格好もすっきりしたところで、カグナは軽く散歩することにした。

 まだ朝食の時間ではないが、眼が覚めてしまったので特にやることもないからだ。

 カグナが酒場の外に出ると清々しい空気に包まれたような気がした。

 

 

「すぅはぁ~会社に出勤する時の外の空気とは全然違うな……これが空気が美味いって感覚なのかな」

 

 

 かつての社畜時代の思い出を懐かしがりながら村を散策する。

 そしてカグナが村を散策していると、荒らされた畑が眼に入ってきた。

 大事に育てられたであろう農作物は喰い散らかされおり、畑の土もあちこち掘り起こされた跡が残ったままで農具をしまっていたと思われる小屋も半壊している。

 

 

「………」

 

 

 荒らされた村の様子を見ていると、カグナは昨晩寝る前に考えていたことが再び頭によぎってくる。

 

 

「やっぱり、あのダンジョンを……」

 

 

 カグナが昨日行ったダンジョンのことを考えていると、近くの広場から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「ハッ!ふんッ!!」

 

 

 村の広場でアリシアが、木製の剣を振って鍛錬している。

 昨日のガーディアンゴーレムとの戦闘で、アリシアは自身の力不足をはっきりと感じてた。

 かつて高ランクの冒険者であった祖父に鍛えてもらったおかげで、戦闘能力に関しては同じランクの冒険者と比べて高い。

 だが、それではまだ足りないとアリシアはずっと思っている。

 朝の鍛錬は、その気持ちを絶やさないために、また修行していた名残でもある。

 アリシアは日課の素振りがひと段落すると、背後から呼ぶ声が聞こえたので振り返るとカグナの姿があった。

 

 

「おはようアリシア、鍛錬?」

 

「カグナさん!?」

 

「こんな朝早くからとは、精が出るね」

 

「もう習慣みたいなものですから」

 

「そっか」

 

「そういうカグナさんは?」

 

「う~ん、ちょっと早くに目が覚めちゃったから散歩してた」

 

「そうですか。でしたらお見苦しいモノをお見せして申し訳ありません」

 

「いやいや、ぜんぜん見苦しくなんかないよ。むしろすごく努力してるって、わかったからさ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 

 アリシアがタオルで顔の汗を拭いているのを見ていると彼女が腰に下げていた剣が、カグナの眼に入った。

 先日のガーディアンゴーレムとの戦いでアリシアが使っていたはずの剣だ。

 

 

「そういえば、その剣」

 

「これですか?」

 

 

 アリシアは鞘から剣を抜く。

 その刃は昨日の戦いで出来た大きなヒビがあった。

 

 

「ヒビが入ってるね」

 

「はい……あのダンジョンのガーディアンゴーレムとの闘いの時に破損を」

 

 

 アリシアは、貴重品を扱うかのように剣を撫でる。

 剣を見つめる彼女の表情はどこか悲しげであった……。

 

 

「大事なモノなのかい?」

 

「えぇ。一流冒険者でした、お爺様から頂いた大事な剣なのです」

 

「そうなんだ」

 

「ですが仕方がありません。剣は消耗品ですから……」

 

「……」

 

 

 アナザーワールド・オンラインにおいて、武器や防具などの装備品には”耐久値”が設定されている。

 敵を攻撃したり敵からの攻撃を防いだりすれば耐久値は減っていき、ある程度の数値まで落ちると破損(ブレイク)状態となる。

 破損状態となれば武具としての機能は大幅に弱体化し、さらに酷使すると消滅(ロスト)する。

 ただし破損状態でも素材を用いて修復すれば耐久値は元に戻り、再び使うことができるのだ。

 

 

「直してあげようか、その剣」

 

「え……?」

 

「おr……私の召喚獣の中に鍛冶系の職種(ジョブ)を極めたのが居るんだ。剣の修復くらい簡単にできるよ」

 

「ほ、本当なのですか!?」

 

 

 落ち込んでいたアリシアの眼に希望の光が灯した。

 カグナは杖を握り、杖の先を地面に向けて呪文を唱える。

 

 

「”召喚(サモンズ)マヒトツ”!!」

 

 

 召喚獣を呼び出す魔法陣が展開されると、光と共に1体の猿が召喚される。

 作務衣を着ておりキッセルを咥えた大きい白い猿、名をマヒトツ。

 武具の製造や改造・修復に関するスキルを習得した鍛冶師の職種(ジョブ)を会得したカグナの召喚獣である。

 鍛冶師としての職種(ジョブ)レベルは最高レベルにしてあり、カグナは武具の作成や修復をマヒトツにさせることが多い。

 召喚されたマヒトツは鋭い眼光でカグナのことを見た。

 マヒトツの眼光の威圧にアリシアは一瞬身を構えようとするが、カグナは構わず近づいて話しかける。

 

 

「やぁ、久しぶりだねマヒトツ」

 

「久しぶり……じゃぁねぇだろう!!このボケェナスがぁ!!!」

 

「あッ痛ァ!!!」

 

 

 カグナは自身が召喚した召喚獣である猿の人獣族(ビーストマン)であるマヒトツに、ゲンコツで頭を思いっきり殴られたのであった。

 タンコブが出来たのではと思うくらいの衝撃を頭に受けたカグナは、その場でうずくまり涙目になる。

 

 

「お、怒ってる!?ナンデェ!?」

 

「当たり前じゃアホンダラぁ!!100年近くも音沙汰ねぇと思ってたら、こんな場所にいきなり召喚()びだすたぁどういう了見だぁ!?」

 

「はッ?ひゃ、100年!?」

 

 

 マヒトツの100年音沙汰なしという言葉の意味に、涙目のカグナはすぐに理解できなかった。

 あと、とても痛かった。

 

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