星ウサギの異世界迷宮探索 ~元社畜が、ウサ耳巨乳美少女の姿でVRMMOだった世界へ~   作:健全なMTYK

29 / 48
#27 ウサギと殲滅

 先ほどまで戦っていたザコブリンの倍はある数で進行してくる新たなモンスターの集団。

 それを見た冒険者と騎士たちは困惑や絶望の表情を浮かべている。

 圧倒的な数もそうだが、集団の中には周りのザコブリンたちよりも大きな体格をしているザコブリンの上位種も混ざっているからだ。

 

 

「なんだよ、コレ……」

 

「まさかの第二陣ってことかよ!!」

 

「ん……おい、アンタなにしてんだ!?」

 

 

 戸惑っている冒険者たちが見たのは、ザコブリンの大軍に向かって一人歩くカグナの姿だ。

 普段は垂れているウサギ耳はピンと立ち上がっており、身体からは魔力のようなものが少し溢れ出ている。

 そんなカグナの姿を見たガインツェは彼女が何をしようとしているのか、すぐに理解する。

 

 

「まさか、一人であの大軍に挑む気ではあるまいな!?」

 

「問題ない」

 

「なに!?」

 

 

 カグナが一人でザコブリンの大軍へと歩いているのを見たガインツェは制止しようとしたが、スサノが問題ないとガインツェを止めた。

 スサノの表情は焦っているでもなく諦めているわけでもなく、もう戦いは終わったという表情であった。

 

 

「たとえザコブリンが千匹で向かって来ようと、これだけ準備する時間(ヒマ)があるんだ。俺の母の敵ではない」

 

「母……?今、母と言ったか!?」

 

 

 スサノの言葉に驚きを隠せないガインツェ。

 彼もスサノの実力を十分に理解しているので、その親ともなれば実力は未知数だとガインツェは思っているが……まさか、あのウサミミ少女が母親だとは思いもしなかったのだ。

 

 

「無茶だ!アンタ戻れ!!」

 

「ちッ!動ける者は立て!!俺達も行くぞ!!!」

 

「いや、黙ってそこで見ていろ」

 

「なッ!?」

 

 

 カグナの行動を見ていた他の冒険者たちは、あの大軍を彼女が一人で相手するのは無茶だと思い動ける者たちで戦闘に加わろうとしていると、刀を抜いたマカミに止められた。

 メズも薙刀を突き立てて冒険者たちの前に立ちふさがり、冒険者たちに告げる。

 

 

「あの程度、我が主の手にかかれば脅威でも何でもありません。むしろアナタ方が向かえば逆に我が主の邪魔になってしまいます」

 

「そういうことだ、此処は主殿に任せておけ」

 

「だが、一人であの数を相手するなんて無謀だ!!」

 

「我々の忠告を無視してでも戦いに向かおうというのであれば、主殿への妨害とみなし……斬り捨てる」

 

「……ッ!?」

 

 

 マカミは刀を冒険者たちに向けて最終忠告をする、邪魔をするなと。

 冒険者たちもマカミとメズの強さは知っている、さきほどまでザコブリンたちをバッサバッサと斬り飛ばしているのを目撃しているからだ。

 そんな二人が立ちふさがっているのだ、誰もが命が惜しさに立ち向かうことはできずにいる。

 すると一人の冒険者が二人に問いかけてきた。

 

 

「彼女なら、あの状況をどうにかできるんだな?」

 

「あぁ、容易に」

 

「………わかった、此処はカグナさんに任せよう」

 

 

 マカミに問いかけてきた冒険者のカマッセルは、問いに対する答えを聞いて納得して身を引いた。

 カマッセルの対応を見た彼の仲間である魔導士の少女は、彼に本当にいいのか聞いてくる。

 

 

「いいの、カマッセル?」

 

「あぁ、いいさ。それに不思議と、あの人なら本当に何とかできるような気がする……」

 

「アンタより、ずっと強いしね」

 

 

 そうだなぁ、っとカマッセルは口から漏らす。

 冒険組合の訓練所での決闘でカグナ相手に完敗したカマッセルは、彼女なら片づけてくれると不思議とそう思ったのである。

 カマッセルは、チラリとアリシアの方を見た……彼女と彼女の仲間たちも黙ってカグナの行動を見ていた。

 

 

「………カグナさん」

 

 

 カグナは、ゆっくりと歩きながら手に持った魔杖に魔力(マナ)を込めた。

 これから使おうとしている魔法をおもいうかべていると無意識に口から詠唱が零れる。

 

 

「鳴り響くは光の産声―――」

 

 

 詠唱が始まると魔杖の先端についている宝珠が眩い光を纏う。

 魔力が集まっている証拠だ。

 

 

「轟き叫ぶは天の御剣―――」

 

 

 詠唱を続けるカグナは魔杖をザコブリンの大軍に向けると、魔杖の先端から光の球が発射される。

 

 

「グォ?」

 

「ンギャ?」

 

 

 自分たちに向かって光の球が発射されたことを目視したザコブリンたちは警戒したが、思っていた結果にはならなかった。

 光の球はザコブリンの大軍の方向へ発射されたが、飛んで行ったのはザコブリンたちの真上であったからだ。

 

 

「ンギャギャギャ!」

 

「ンギャ!ンギャ!!」

 

 

 ザコブリンたちはドクロを模倣した仮面で顔半分を覆っていても眼の形がわかるくらい笑っている。

 自分たちに向かって放たれた魔法である光の球がザコブリンたちを攻撃するのではなく、はるか上空へと向かっていたことにだ。

 不発だと思い、魔法を放ったとカグナのことを大バカにしている。

 そんなザコブリンたちはまだ気づいていないが、カグナの後ろに居る冒険者や騎士たちは気づいている……光の球がザコブリンたちの上空で停止していることに……。

 

 

「―――咲き乱れるは黄泉の花」

 

 

 カグナが詠唱の第三節を唱えると、光の球は一つの魔法陣へと形を変える。

 そして最初の魔法陣を中心として、周りに一つまた一つと同じような魔法陣が展開され続く!

 無数の小さな魔法陣が、ザコブリンの大軍を覆い隠すぐらいの大きな魔法陣を描いているように……。

 

 

「ンゴ?」

 

 

 異変に気付いたザコブリンが天を仰ぎ見たが、何が起きているのか理解が追いつていなかった。

 十分に魔法陣が展開されたのを確認すると、カグナは思わずニヤリと笑みを浮かべる。

 そしてカグナは魔法の名前を唱え、魔杖を振り下ろす!

 

 

雷鐘(らいしょう)鳴らせ!―――”猛り満ちる雷鎚(タケミカヅチ)”!!!」

 

 

 その魔法の名を叫ぶと同時に一つの魔法陣から雷が落ち、1匹のザコブリンが一瞬で塵になった。

 

 

「ン、ングギャァァァ!!!」

 

「ンガァ!?」

 

 

 ようやく状況を理解したザコブリンたちが焦り始めたが、もう遅い。

 逃げ惑うザコブリンたちだったが、上空に展開した複数の魔法陣から次から次へと雷が降り注ぎ容赦なく魔物を塵へと変えていく。

 その様子は、まるで雷のゲリラ豪雨のようである。

 

 

「………なんだ、これ?」

 

「これも魔法……なの?」

 

「あの数のザコブリンたちが、どんどん数を減らしていくんだが……」

 

 

 眼の前の常識外れの光景に、冒険者たちは呆気にとられている。

 先ほどまで自分たちが苦労して戦っていた相手の数倍の数がいるのに、たった一人の魔法によって一方的に蹂躙されているのだから……。

 アリシア達もカグナの放った魔法を見て言葉が出ずにいると、スサノがやってきて説明を始めた。

 

 

「”猛り満ちる雷鎚(タケミカヅチ)”……対象の上空に無数の魔法陣を展開し地上に向けて数多の雷魔(ザンド)を落とす殲滅魔法。母が作った錬成魔法(ビルドスペル)の一つだ」

 

「これもカグナさんが作った魔法……なのですか」

 

「そうだ。この魔法の前では、ただのザコブリン程度は為す術もなかろう……大きい個体が少し耐えているみたいだが、無駄な足掻きだ」

 

 

 カグナの魔法によって次々と殲滅されている中、盾を持っていた体格が大きい1匹のザコブリンが巨大な盾を傘のようにして雷を何とか防いでいた。

 そして傘代わりの盾の下で数匹のザコブリンが身体を縮めて震えている。

 もう少しすれば雷が止むと願いながら、ボロボロになっていく盾を傘代わりになんとか耐えている。

 だがそんな願いもむなしく何処からともなく物凄い速度で飛んできた矢によって、盾を構えていた大きなザコブリンの頭が消し飛んだ!!

 

 

「ンギャ!?」

 

「ンアギャァァァ!!」

 

 

 頭を失った大きなザコブリンはそのまま力なく倒れ、雷の豪雨を浴びると塵へと帰っていく。

 そして自分たちを守っていた同士が消えたことで守ってくれるものが居なくなった、震えていたザコブリンたちも後を追うように雷の餌食となり、同じように塵になっていった。

 その様子を見ていたのは、大弓を構えていたメズである。

 

 

「………」

 

「やれやれ、わざわざそんなことをしなくても問題は無かろう?」

 

「我が主の魔法に抗うなど不敬なのですよ」

 

 

 雷に耐えていたザコブリンの頭を矢を撃ち抜いたのは、メズだ。

 カグナが発動した魔法に耐えていたザコブリンのことを不敬と思ったのか、思わず射抜いたしまったようだ。

 同じ主に仕える者の行動を見て、マカミはやれやれと肩をすくめる。

 

 

「しかし……相変わらず、主殿の魔法は恐ろしいの」

 

 

 二体の召喚獣は、主が起こした雷の豪雨が止むまで見守っていた。

 

 

 *

 

 *

 

 *

 

 

 雷の豪雨は止み、あたり一面静寂が戻ってきている、

 千匹は居たであろうザコブリンの姿は一つも見当たらない、全て消滅したのだ。

 カグナは立てたウサギ耳を再び垂らし、息を吐いて肩の力を抜く……その時、少しだけ胸が揺れた。

 

 

「ふぅ……殲滅完了、かな」

 

『お見事です、主……どうされました?』

 

「やっぱり勝手に詠唱を口走ってるな……」

 

『はい、錬成魔法(ビルドスペル)詠唱(チャージ)は必須ですから。基盤魔法(デフォルトスぺル)と違って完全な無詠唱(ノンチャージ)はできません』

 

「そのせいなのかな……あ、ところで敵の様子は?」

 

『現在、エネミーの気配は感知できません。あれで一旦最後のようです』

 

 

 カグナは、探索系の魔法を使用していたアイに周囲の状況を確認する。

 どうやら先ほどの大軍で、いったん打ち止めのようだ。

 カグナが一息ついていると、スサノがやってくる。

 

 

「相変わらず凄まじい魔法だったな、母よ」

 

「まぁね。元々は、こういう展開があった時のために作っておいた錬成魔法だし」

 

 

 ”猛り満ちる雷鎚(タケミカヅチ)”は、ザコモンスターの大軍の殲滅や巨大な相手への多段ヒットを目的としてカグナが作った錬成魔法。

 かつて大量のモンスターを制限時間以内に討伐した数を競うイベントがあり、それ用に作成したという経緯がある。

 スサノは、カグナが猛り満ちる雷鎚(タケミカヅチ)を使用するところを何度か見ているため、その効果をよく知っているのだ

 だからこそ味方が居る状態で使用すると大惨事になるため、最初の乱戦時には使用を禁じたのである。

 カグナとスサノが話し合っていると、アリシアたちもが駆け寄ってきた。

 

 

「お疲れ様です、カグナさん!!」

 

「アリシア!それにみんなも……どうやら無事みたいだね」

 

「えぇ、私たちは特に問題はありません」

 

 

 アリシアは多少の汚れなどはあるものの見た目からして、ケガなどは無いみたいだ。

 ロランとダリアン、サラも同様である。

 

 

「しかし、すげぇなさっきの魔法」

 

「うん、雷をあんなに落とす魔法だなんて初めて見た」

 

「あんなの喰らったら、俺達もひとたまりも無いな」

 

「あははは、だから最初は使えなかったんだよ。みんなを巻き込むからね」

 

「な、なるほど……そりゃそうだ……」

 

 

 あの魔法を乱戦時に使用されていたらどうなっていたか……想像したら身振りが止まらなくなりそうだとロラン達は思ったのであった。

 だがもうその心配も必要ない、なんせカグナがザコブリンたちを全て吹き飛ばしたのだから。

 

 

「でも、これにて一件落着ですね!」

 

「いや……それはどうかな」

 

「え?」

 

 

 安堵したサラの言葉をカグナが否定した

 カグナの否定の言葉を聞いたサラ達は困惑、アリシアもカグナとスサノの表情からまだ終わっていないのだと推測していた。

 カグナはスサノの方を見て、スサノもカグナの表情から何を言いたいのかを理解する。

 

 

「まだ終わっていないのですね、カグナさん」

 

「おそらくね……スサノ」

 

「あぁ、一仕事終えたところですまないが……ダンジョンの入り口を探してもらうぞ」

 

 




猛り満ちる雷鎚(タケミカヅチ)
 主に大量のザコ殲滅用に開発した錬成魔法(ビルドスペル)
対象の上空に大量の魔法陣を展開し、地上に向けて雷魔(ザンド)の雷を落とす攻撃魔法である。
広範囲かつ大量のエネミーに攻撃できる魔法ではあるが、無差別なのでフレンドリーファイアがある場合、味方に当たる可能性がある。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。