ポケモン世界を安全に観光するなら 作:ミパデネア
タケシ……いやタケシさん!
もちろん数あるジムリーダーの誰もが俺にとっては親愛なるキャラクターであるのだが、思い入れ、思い出の多さでは他の追随を許さないのがタケシさんだ。赤・緑からポケットモンスターの世界へと入った俺のようなプレイヤーなら似たような思いの人も多いのではないだろうか。
なんといっても最初に立ちはだかるジムリーダーであり、アニメでは旅についてきてくれる頼りになるお兄さんだ。世界一かっこいいフォレトスによる参戦、再登場に感動したのは俺だけじゃないはず。
アニメではポケモンブリーダーやドクターを目指している部分や、みんなにご飯を振る舞う役割など心優しきトレーナーという面が目立っていたが、ゲームでは硬派な求道者ともいうべき描写が多いのが特徴だ。俺は特にポケモンマスターズEX内でチームである主人公に対して本気で戦ってみたいという気持ちが抑えきれなかったストーリーが好き。
ともかく、そんなタケシさんが目の前にいる。しかもゲーム中には描写の無かった若い姿! いやここが赤・緑の三年前というのは分かっていたからなんとなく予想はしていたがそれにしても衝撃的である。いや、もちろん子供とも言えるような年齢のジムリーダーというのはほとんどのシリーズで出てくる定番の属性ではある。彼、彼女らは才能に溢れる若者、ある意味で主人公と同じ存在として立ち向かってくる、特別な存在といってもいい。
俺の推しが新しい属性を引っ提げてきてしかも戦えるのだ、こんなに嬉しいことはない。
何よりも初々しいタケシさんというのが新鮮だった、そりゃあジムリーダーをやっているからそこら辺の同年代よりは落ち着いているが後年の作品での大人っぷりを知っていれば照れくさそうにはにかんで会話するその姿だけでまるで色違いや証持ちを前にしたような喜びが溢れる。
交わした言葉は少ないが夢のような時間である、いやあ本当を言えばサカキ様とだって会話したかった。先ほどからファンとしての側面が出過ぎて敬称が暴走している。
だがサカキ様との会話はあまりにもリスキーすぎる、あの人すっごく悪い人だし! そこがキャラクターとして好きな部分に繋がってるから文句なんかないのだけれどしかし寂しいのは事実。もっと時代が進めば、あるいは俺に実力があればただのファンボーイとしてとっしん、あるいはすてみタックルすることもできた。が、ストーリーを、この世界を捻じ曲げるわけにはいかないと泣く泣く、いやそもそもバトルに集中していたのもあったけれど。そして結局浮かれてサインはお願いしたのだけれど。
ともかく、何も心配することがない状態でただ真っ直ぐにファンができることのなんと気持ち良いことか。
そしてタケシさんとの思い出が駆け巡るハイになった脳内で思い出した。
そういえば化石ポケモン使ってたな、と。
直後の言葉でほぼ選出が確定というか、それを前提に作戦を組み立てた方が勝率がいいと結論づける。
ゲームでのインターネットマッチや、あるいはバトル施設でのパーティーを考える時、俺が大事にしているのはどれだけ負け筋を想像できるか。そしてそれを潰せるか、あるいは割り切れるか、だ。
まずイシツブテだがこれはたいあたり、まるくなるしか技がなかったはずだ。しかしバッジ二つ目で強化が入ってくるとなるところがるやじならしも技候補として入ってくるだろう。
……まるくなるからころがるのコンボがやばいな、普通に負ける。思い出すぜアカネのミルタンク。
しかしうちのリザードもレベル自体は上がっている、先んじて予想の外にあるであろうメタルクローを叩き込めれば最小限のダメージで切り抜けられる。
その場合はじならしですばやさを落とされるのがまずいか。しかしこれは割り切るべきだな、えんまくで命中を下げるくらいしか切り抜ける方法がないし、こちらの行動を見られてからまるくなるを指示されるだけで一撃分のアドバンテージを失ったまま戦わなければいけなくなる。そもそもじならしは近づくことが必要なわざ、まず距離を詰めるためにたいあたりやころがるを選択する可能性は高い。
えんまくはなし、やはりメタルクローだ。
問題はイワーク。たいあたり、がまん、しめつける、がんせきふうじ、ずつき、いわおとしなんかも選択肢にある。まともにメタルクローで撃ち合ったらどれでも勝てないだろう、そもそも攻撃できる範囲まで近づくのが危険すぎる。つまり遠距離からの攻撃が必要、イワークのとくぼうが高くないことを考えるとひのこを撃ってるだけでもいいかもしれないが、なるべくなら少ない手数で倒したい。万が一乱数(これはゲーム的表現すぎるが)で打ち倒せなくてがまんの大火力で負けたりが怖い。ああ、やっぱりもう一匹くらい捕まえるべきだろうか、しかし無理だ、今はうちのリザードのお世話で手一杯な上に進化してリザードンになれば新たに覚えることが増えるのが確定している。今ある手札でどうにかするしかない、わざマシンがある分マシなのだ。
……色々広げて見てみるが、特殊わざは案外タイプが狭い。その上、ちょくちょく覚えさせて試しているがやはり一足とびで強力な技は撃てない。きあいだまの練習にとりあえずウェザーボールでも練習させようかと思う、同じぼうだんで防がれるカテゴリーだから何かしらのヒントになるはず。
……あ、にほんばれでいいじゃん。
強力なほのおタイプわざが少ないと思っていたが、ウェザーボールがあった。あれは周りの天気、環境の力を借りて勝手に変化するわざで放つ難易度もそこまで高くない。
先ほどポケモンセンターを抜け出して試してみたがにほんばれも問題なく使える。
イワークはにほんばれからのウェザーボールで倒せる、がまんならリスクなくにほんばれを撃てるし、しめつけるも口が塞がれることさえ気をつければ問題なし……がんせきふうじが怖いか。いや、あれは説明通りなら岩石を投げつける攻撃、この世界ならメタルクローで弾き返される可能性を考えるはずだ。イシツブテ戦でメタルクローを印象付けておけばいい。いや、にほんばれをイシツブテ戦で使っておくのもいいかもしれない。ああ、やっぱり駄目だ、隙だらけの内に近づかれてじならしされやすくなる。
残るはカブト、あるいはオムナイトだがここまで作戦通りだとして。果たして何があれば負けるだろうか。みず技はにほんばれの効果で弱まるのでさほど脅威ではない、そしてレベルの関係上強力なわざは使えないだろう。二匹ともとくぼうは低いので四分の一だとしてもウェザーボールは脅威的なはず、とはいえイワークほどではないので耐えられる可能性がある。真っ直ぐいわタイプのわざを使われるのがまずいな。オムナイトはともかくカブトのいわなだれが急所に当たるだけで終わりだ。
せっかく細い勝利をもぎ取ろうとしてるのに最後の最後で安心できないのは心臓によくない。
イワークのように、技を誘導できないだろうか。
大前提としてジムリーダーは、新米トレーナーの腕前を確かめるのが仕事だ。
天候を有利な状況にして戦うトレーナーが来たとして、では不利な天候ではどうだろう? とか、確かめたくなるのではないのだろうか。
すなあらし、あるいはあまごいを使わせる。
ならウェザーボールはだめだ、天候を変える理由がなくなる。かえんほうしゃだ。
「……にほんばれでほのおの力は操りやすいはずだけど、どうだいリザード」
「カ!」
ニコニコと自信満々のリザードは炎を吹く。まあ三回に二回は成功という感じで。
「……真っ直ぐ勝負しかないな」
つまり当てれば勝てる後は祈っておこう、である。
さて結果、どうにか勝てた。作戦がうまくハマったからいいものの、やはり弱点のジムを序盤で連戦するのは心臓に悪い。ううむ、この後のカスミを思うと勝った後だというのに気が重い。
しかしそれはそれとしてテンションが上がった俺は当然のようにサインを希望。心地よく承諾してくれたタケシさんと会話する。
「きみたち二人は予想よりも、とんでもなく強いトレーナーだった。おれもまだまだ修行が足りないと思い知ったよ」
おお、あのタケシさんにそこまで褒めてもらえるとはもう感無量である。
「しかしおれが今ひしひしと感じているように世界は広い。このジムやニビシティで何かを学んだように、新しいどこかでも研鑽を忘れないでくれ」
「もちろん、世界中を見るつもりなので!」
カントー地方だけじゃない、まだまだ楽しみが待っているのだ。バッジ二個目で満足する程俺のポケモン欲は大人しくない。というか子供らしい。
タケシさんは少しの間ぽかんとした後、大声で笑い続けた。
笑うと止まらなくなるタケシさんまで見れるとは、これだから旅はやめられない!
カシアくんは基本的に全方位ファンボーイ。
ジムリーダーはアイドルみたいなものだと思うのでまあ世間的にそこまで逸脱してないとは思います。