ポケモン世界を安全に観光するなら 作:ミパデネア
お月見山麓のポケモンセンターで一泊。
併設されているレストランコーナーで食事、新入りのプリンも交えて作戦会議である。
「これがお月見山のマップ」
「山なんて言うくらいだから登るものだと思ってたけど、これ位置的には降ってるんだね」
ハナダは標高的にはここから下に位置している、洞窟を利用して下山するような感覚だ。
「利用する人も多いから明かりも設置されてるし、まあ余程のことがない限り迷ったりはしないと思うけど一応これも渡しておくよ」
俺はカバンから長くて丈夫なヒモを取り出す。
「わ、あなぬけのヒモ! 初めて見た」
「まあこういうところに来ないと使わないだろうしね、講習受けたことある?」
「トレーナーカードもらった時に一度だけ……」
さて、ゲーム内ではクルクルと回転していつの間にか洞窟やらダンジョンから抜け出せることでお馴染みなあなぬけのヒモであるが一体全体どうやって脱出しているのか気になった人は多いだろう。
現実となったこの世界、知った時は大層驚いたのだが何とこれ分類的にはモンスターボールの亜種なのである。いやマジで。
どう言うことかというとこれは一時的にポケモンを捕まえ、限定的な命令をするアイテム。元の世界で言うとこのカウボーイよろしくヒモで輪っかを作ってポケモンに引っ掛けて使用すると、捕まえたポケモンはそのままヒモの持ち主の匂いを辿って元の道を進んで運んでくれる。と、そんなカラクリなのである。
ポケモンのフェロモンを分析してヒモにあらかじめ命令を覚え込ませているため声の出せない状態や絆を育んでなくても使える、また一時的なお願いであることが向こうにも伝わるため余程人間が嫌いなポケモンではない限り高い成功率を誇るアイテムなのだ。
ポケモンと仲良く暮らしているこの世界ならではのアイテムである、まさかそこら辺の野生のポケモンにお願いしているとは。
とはいえ一方的にポケモンへ負担をかけることになるアイテムなため、使用には制限があってトレーナーカードを所持している人間に限る。
その上たとえ使用していなくともライセンス料金が年間で発生する上に、買うのも別料金である。まあそんなの気にならないくらい便利なのだけれど、以前トレーナーには色々な制約があることを書いたがそのうちの一つである。機会があれば他のも書くことになるだろう。
「気をつけないといけないのは普段その洞窟で暮らし慣れてるポケモンじゃないと意味がないこと、例えば自分の手持ちに使ったりしても意味がない。その洞窟で生まれたばかりのポケモンや他所から移動してきたばかりのポケモンに使うと一緒に迷うことになるだけだから」
「……ねえ、それってどうやって見分けるの?」
「そう言われると、知識とポケモン図鑑と……あとは運?」
二人してとりあえず迷わないようにだけ気をつけることにする。
食事を終えてルート確認に入っていると、こちらもポケモンフーズを食べ終わったプリンが暇なようでテーブルの上にちょこんと登ってくる。
「本当にカシアくんは新しいポケモン捕まえないの?」
事前にお月見山でポケモンゲットのための探索はしないことを言っていたからか、そんな疑問がナナミさんから出てきた。
一昨日プリンのゲットを譲ってもらったと思っているのもあるのだろう、自分が欲しいポケモンを捕まえられたのだから次俺の欲しいポケモンがあったら手伝いたいという優しさ。ナナミさん人ができすぎている。
「うん、世話も今はリザードで手一杯だし」
「私も手伝うよ!」
「いやあこれ以上お世話になるわけにはいかないよ、旅するなら最終的には一人で育てられないと意味ないし」
「それは、そうだけど……でも次のハナダジムはクリアできそうなの?」
「一応、どうやってみずタイプと戦うかだけは決めてるよ。ね、リザード」
お上品に一つ一つポケモンフーズをつまみ上げて食べていたリザードがこちらを向く。彼女は最近進化した自覚が伴ってきたのかお姉さんぶるような行動が多い。おかげでご飯の時間が一番かかっている。隣のフシギソウは食べ終わって寝てるところだぞ。
ともかくリザードは呼びかけに応じて、爪を擦り合わせバチバチと光らせる。
「すごい! でんきのわざ」
「かみなりパンチ、この前のウェザーボールからほのお以外のタイプが得意になってきたみたいでさ」
手に握っていたフーズを焦がしてしまった彼女は少しの間涙目だったが食べてみると美味しかったようで僅かに残るフーズを次々と焦がしている。
「これでお互いに有利な相性で攻撃できるから後はどういうジムコートで戦うかによってかなあ」
まさか水中でバトル! なんて言い出さないだろうがプールを利用するくらいは普通にあり得そうだ。
「カシアくん私とのバトルでそう言う新しいわざ、あんまり見せなくなったよねー」
ジトーと言う感じでこちらを睨んでくるナナミさん、隣のプリンは変わらず真顔で自分の主人を見つめている。
「そりゃタイプ相性だってあるし、ナナミさんのフシギソウ相手には下手に慣れてないわざ使う方が怖いし」
中々レポートに書く機会がなかったが、道中のバトルは継続している。
相変わらず相性的にこちらが勝ち越すことが多かったのだが、最近加入したプリンのうたう、そしてフシギソウのねむりごなでリザードを動かせない作戦が強力で立場は危うい。こちらもわざマシンで新しい道をそろそろ開拓しないといけないか……と、まあお互いにいい経験になっている。
「さてそろそろ出発しますか」
リザードが食べ終わったので口を拭いてとせがんで来るのを合図に片付けを始める。
いざお月見山。
「いやあリザードちゃんのおかげで快適だね」
「頼りになるよ」
ふんす、と言う感じで先導するリザードの後ろを二人でついていく。
お月見山内部は予想していた通りランプが道に沿ってつけられており、フラッシュが必要な暗さではなかった。が、それでも広い空間の中、十全に見通すほどの明るさではなかった。なのでリザードの尻尾の灯りで照らしてもらうことにした。初めての連れ歩きである。
たまに襲いかかってくるズバットはかみなりパンチで練習がてらに追い払ってくれたりと最高のエスコート。
「そういえば珍しいよね」
「何が?」
「カシアくんって観光好きでしょ、絶対にお月見山の中も隅から隅まで見ると思ったから一直線で抜けるなんて。何なら化石掘るまでやるのかと思った」
「ハハハ、流石にそこまでじゃないよ、危ないし」
そう、危ない。
赤・緑ではロケット団がいるのだここには。流石に三年前の現時点でいるとは思えないが気をつけるに越したことはない。
あと化石は下手に掘ったりするとレッドが手に入れるかもしれないヤツを潰してしまうかもしれないし……いいのだシンオウ地方でひたすら掘ってやる。
後は洞窟内で寝泊まりする装備は流石にまだ持っていないのもある。
しかし、全部を見れていないとしてもお月見山洞窟は十分に楽しめている。
寒く静かな世界を人工物が照らす中、それでも潰せないぼんやりとした闇が漂うようにあり、ここでは太陽が照らす外とは別の法則が動いているのを感じる。
そしてここでも生態系はあるのだ、暗がりの中、物陰に、息を潜めてポケモンたちは活動している。
そうした異世界、肌で感じ取れる異質さが心を動かす。
何となく会話は徐々に少なくなって。
隣のナナミさんもきっと、同じような、いやもしかしたら全く別の感想かもしれないけれど。
ともかく新たな世界を感じていた。
「……ねえカシアくんあそこにあるのつきのいしじゃない?」
「ええ! 本当だ!」
楽しむのも大事だけど、トレーナーたるもの色んなものに目を光らせないとダメだなと反省のある道中だったが。
無事にお月見山を通り抜け、目の前にはハナダシティ!
ポケモン世界の三大不思議アイテムの一つ、あなぬけのヒモ。