ポケモン世界を安全に観光するなら   作:ミパデネア

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【ナナミのレポート】神秘の色

 カスミさんは当時の私にとっての憧れであり、アイドルのような存在だった、というのは以前に書いたことね。

 今でもカスミさんは変わらずみんなのアイドルのような存在としてジムリーダーに勤めている。

 けれど、今と比べて昔のカスミさんのアイドル像は随分と違ったものでした。

 

 人魚と評されるその美しい姿と戦法で観客どころか戦闘相手まで魅了するのはこの後、成長した中で獲得したものであるというのは有名な話ね。

 当時の彼女も同じように人魚、と呼ばれていたがそれは人魚(マーメイド)ではなく人魚(セイレーン)

 航海の中、その歌声で人々を惑わし船ごと嵐の中に沈める怪物。

 天才というより天災と記されるべきその強さは、当時のカントーポケモンリーグの頂点に最も近づいたトレーナーだったの。

 

 愛されるよりも前に神聖視されるようなアイドル。それがカスミさん。

 

「さあバトルするわよ」

 

 だからこそ、ああ。私はどこか納得してしまっていたの。

 

「いや、だから今日は観光の予定で」

「そんなの明日にしなさいよ。どうせこの先は恋がどうとかいう、つまらない噂しかないハナダの岬だけだし」

 

 彼女に、目をつけられるカシアくんは同じ存在なのだと。

 私を、私のポケモントレーナーの道を肯定してくれたはずだったカシアくんは、違ったのだと。特別だったのだと。

 私はそれに安堵してしまったわ。

 だって、彼が同じ道を歩んでいたとしたら、遠すぎる。

 宙に輝く星を手に取ろうとするかのような、途方もない夢物語。

 それを追い求めていたら地に落ちると誰もがわかっている、だから彼が特別なんだと分かって。とても楽になったのを覚えている。

 

「なんでそんなにバトルしたいんですか」

「面白そうだから、あんたとのバトル」

 

 にっこりと、目を細めて満面の笑みのはずなのにとても怖かった。

 

「わかりました、じゃあジムに移動しましよう」

「あら、ここで戦ってもいいのに」

 

 ジムリーダーがジムバッジを授けるのには、特別な規定はないらしいの。

 少なくともカントーではバトルの形式からどこで戦うのかなんていうのも自由。

 カスミさんはすぐに戦いたいようでウズウズとしてた。

 それは、初めてカシアくんとバトルした時の私と似ていたわ。

 同じ目線のトレーナーと出会えたことが嬉しい。

 だから彼女は我慢できなくなっていたのだろう、こうして思い返してみると後にも先にも彼女がああまでワガママな姿を見たのはこれきりだったわ。

 

「いや、それじゃあフェアじゃないでしょう」

 

 だからカシアくんの返した言葉が、どれほど心を揺さぶったのか。

 橋の上ではカスミさんが全力にならないと、自ら不利を背負いに行ったカシアくん。

 言葉もなくカスミさんは彼の手をひっぱりジムへと向かった。

 

 私はせめて、見逃したくはないと、その背を追いかけた。

 

 

 

 ハナダのジムコートは、水に囲まれている。というのはきっと正しくないわね、正確に言えば水もコートの一部、だから泳げないポケモンはそれだけで不利。

 

 カシアくんはそこに、リザード一匹で挑もうとしている。

 

 無謀で、無茶で、無理だわ。

 少なくともあの時、観客席にいた私には。

 

「あんた、一匹だけなの?」

 

 戦いの前、見合った状態でカスミさんは問う。

 カシアくんはリザードこそまだ出していないが、コートの下、腰につけたモンスターボールは一つだけである。

 

「うん……あれ、もしかしてダブルバトルだったりする?」

「ホウエンじゃないんだから、あたしのところはシングルよ。でも、それなら」

 

 カスミさんは徐に用意していたであろう三つのモンスターボールを、後ろのジムトレーナーへと手渡して……代わりに一つを手に収める。

 

「手加減してくれた?」

「まさか。言ったでしょ、あたしはレベルは合わせても手加減も手抜きもできないの。ジムバッジ三つ目のチャレンジで使えるコ達の中で、きみを倒すのに最適解がこっちのコだと思っただけよ」

 

 今まで当然だったが、ジムリーダーにとってカシアくんは挑戦者だった。

 それもジムバッジが一個や二個の頃、ポケモンを複数捕まえてないなど当たり前の頃。

 けれど、これからは違う。

 ここまで一匹のポケモンで勝ってきたというのならそれに相応しい理由がある相手として考える。

 ましてやカスミさんはハナから挑戦者なんて考えていない。

 最初から全力で、倒したい相手として戦いに臨んでいる。

 

「じゃあ、よろしくお願いしますカスミさん。そうだ、自己紹介も忘れてましたね、俺はカシア」

「呼び捨てでいいわよ。あたしの自己紹介は……みずタイプの使い手よ!」

 

 掛け声と共にカシアくんからはリザードが、カスミさんからは……スターミー。

 

「リザード! えんまく!」

「スターミー! みずでっぽう!」

 

 カシアくんの得意な戦法、えんまくでの隠れ身はけれどとてつもない水圧で放たれたみずでっぽうが地面に直撃し拡散、その勢いで散らされてしまう。

 

 その一瞬の攻防で分かってしまう、スターミーのレベルは僅かだろうがリザードより高い。

 

「へえ、リザードでここまで来たの。出身は?」

「マサラタウン」

 

 互いにわざの隙を窺っている中だというのに、カスミさんは親しげにカシアくんと言葉を交わす。

 

「やるわね、つまりそれだけの何かがきみのリザードにはある」

「そりゃもちろん、格上に勝つために色々やってるからね」

「本当に格上なんて考えてる?」

「もちろん、今だってすごく不利でしょこの状況」

「でも全然諦めてもないし、考えている、どうやってあたしのスターミーに勝つか」

 

 カシアくんの強さの一つに観察眼がある、ほとんど誤差なく相手を見抜くそれと近しいものをカスミさんは持っているようだった。

 あるいは、同じ特別な存在だからこそ通じる何かがあるのか。

 

「みずでっぽう!」

「リザード、まもる」

 

 攻撃の準備が整ったのかスターミーは素早く移動しながらリザードに水の弾丸を撃ち続ける。

 対してリザードは防御の体勢をとりながら爪を使い次々とそれらを撃ち落としていく。口をぐっと結んで苦しげな表情だ。

 けれど、今は耐えるしかない。

 今回のカシアくんの作戦の要は、かみなりパンチだ。問題はそれをどう当てるか。

 スターミーの何よりの強さはその速さだ。星のような移動速度はふつうの技では当てられない、まして近づいての攻撃であるかみなりパンチは不可能に近い。

 ああして距離をとられるとそれだけで厳しい。

 おまけにみずでっぽうは隙の少ないワザだ、だからこそカスミさんもカシアくんの作戦を見極めるために使用しているのだろうが。

 近づいて、隙の大きいワザを打たせないといけない。

 

「えんまく!」

「みずでっぽう!」

 

 同じ繰り返し、撹乱拡散牽制防御撹乱拡散牽制防御撹乱拡散牽制防御……。

 せめて、こちら側にレベルの利があれば無理やり近づくことも可能だったろう。

 カスミさんの判断は正しかった、レベルで劣ることになる三匹より、上回れる一匹で戦っているからこそこの状況は生まれている。

 紙一重で防いでいるとはいえ繰り返す中の疲労はリザード側が大きい、このままだと攻撃が当たるのも時間の問題だ。

 でも、カシアくんは無駄なことはしない。

 これも作戦の内なのだ、ならば。

 

「スターミー、一度水に潜って」

 

 ()()()

 弾切れによる補充(水不足)

 これがカシアくんの隠していた作戦。

 

「リザード!」

 

 スターミーの潜水に合わせてカシアくんの指示が飛ぶ、事前に打ち合わせていたのだろう。

 リザードは慣れた手つきで爪を擦りわせて火花を起こす。

 でんきのタイプが点った証。

 

「ッ! スターミー!」

 

 カスミさんが気づいたようだが遅い。当て辛いなら、的を大きくすればいい。

 カシアくんは潜った水ごとスターミーにかみなりパンチを当てるつもりだ。

 

「かみなりパンチ!」

 

 洞窟でこだました時より大きな音がジムに響き渡る、本当に雷が落ちたかのような衝撃と光。

 目を開ければそこには。

 

「嘘」

 

 思わず呟いた。

 

「なるほど、かみなりパンチね。何か隠してるのは分かってたけど、すごいわキミのリザード。スターミーがダメージを受けるなんて久しぶり」

 

 決して無傷ではない。

 動きは先ほどより精彩を欠いてるし、自慢のスピードも確かに落ちている、真ん中の宝石は発光してそのダメージを訴えている。

 けれど、スターミーは健在だった。明らかにダメージが足りていない。

 

「かたくなる、か……」

「正解、リザードがスターミーにダメージを与えるワザを考えたら有効なのはどれもぶつりだもの。後は当てるためとはいえこの量の水は威力が分散しちゃったわね」

 

 後は、レベルの差。

 カスミさんは読んでいたんだ、だからカシアくんと同じように名前を呼んだだけでワザを使えるようにしていた。

 

「さて、キミの作戦はこれで分かったわ。水の補充も終わったし、こっからはもうそれは通らない」

 

 スターミーは距離を取り、宙に浮かんだまま姿勢を維持、その場で回りだした。

 

「私のスターミーはこれからずっと近づかないし水に潜らない、そして撃つのもさっきみたいな優しいワザじゃない。バブルこうせん!」

「かわせリザード!」

 

 中央の宝石部分からいくつもの泡がガトリングのように放たれる。指示通りリザードは避けようとするが疲労のせいかいくつも被弾してしまう、先ほどのかみなりパンチで稼いだアドバンテージもたった一手で覆ってしまった。

 

「次のバブルこうせんで終わりよ」

 

 スピードは落ちた、隙の大きい技も使ってくれている。けれど駄目だ、距離がある。

 何より、仮に当てられたとしてもおそらくもう一発のかみなりパンチでは倒しきれない。

 最初の一撃が、軽すぎた。

 

「安心して、バッジはあげるわ。受け取るだけの実力はあるみたいだし」

 

 リザードは苦しそうに顔を歪めている。

 

「バブルこうせん」

 

 スターミーの回転スピードが最高速に到達する。

 

 

「よく我慢したリザード」

 

 

 ぐべぇ、と。リザードは口から薄い円盤のようなものを吐き出し手に持った。

 

「なげつける!」

 

 そのままリザードは全身を捻り手に持った円盤を投擲した。

 

「スターミー! 潜っ」

 

 カスミさんは即座に指示を飛ばすもののバブルこうせんを撃つ姿勢だったスターミーは切り替えられず。

 発射された泡を切り裂きながら円盤はスターミーの宝石、コアを撃った。

 

「フウッ!」

 

 仰け反ったスターミーは鳴き声を上げ、そのまま水に落ちた。

 時を空けずに浮かび上がったスターミーは。

 

「……ありがとうスターミー。やるじゃない……あんたの実力、素直に認めるわ」

 

 勝った。カシアくんが勝った。嬉しい、嬉しい、嬉しい。やっぱりカシアくんは特別で、すごいんだ。なのに。

 

「なんで……私、泣いてるんだろ」

 

 分かってる、本当は。悔しい、悔しい、悔しい。やっぱりカシアくんに近づきたい、側にいたい。楽になったなんて嘘、星は諦められないからこそ、手を伸ばしてしまうのだ。

 今回だって、途中までは分かったんだ、喰らいつけてたんだ、なのにその先が私には見えない。

 カスミさんはその先が見えていた、カシアくんはさらに先が見えていた。

 

 ステージの中央で、カシアくんは今の試合についてカスミさんの質問攻めにあっていた。

 

 私もそこへたどり着きたい、同じ目線で話したい、私のことを見てほしい。

 カシアくんは優しい、私にバトルの楽しさを教えてくれた、私の慣れてない旅に付き合ってくれた、私とプリンの出会いをくれた。

 今のバトルで、彼が私から学んだことはあっただろうか。

 私は普段、彼からいくつのことを学んでいるのだろう。

 私は彼から貰ってばかりで、何も返せていない。

 そうしている間にまた一つ彼は遠くへ行ってしまう。

 

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 私は、私は、私は。

 

 ナナミは、カシアくんと友達になりたい。

 

 だから決心した。

 私は、この日カスミさんに一つのお願いをする。




カスミの手持ち改変は黄のマチスがライチュウを使ってきたのをイメージしていただければどんなものか伝わるかと。
そんなわけで恋もまだ興味なしなバトルジャンキーカスミちゃんでした、強キャラっぽく見えてたら幸いです。
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