ポケモン世界を安全に観光するなら   作:ミパデネア

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【ナナミのレポート】永遠の色

 焼き付いて離れない私の思い出。

 

 はじめましてはおじいちゃんの研究所だった。

 カントー地方では一般的に十歳になればポケモンを連れて旅をする。

 私も旅立ちを楽しみにしていた。

 その時はおじいちゃん、オーキド博士の孫という自分の立ち位置をきっと物語の英雄、というのは言い過ぎかしら。

 けど、主人公だと思っていたわ。

 子供ゆえの万能感はあるだろうけれど、それよりもきっとオーキド・ユキナリの名前を抱えるために編み出したおまじないのようなものだった。

 

 両親を早くに亡くした私と弟のグリーンにとって、おじいちゃんは最後の家族で。

 そして世界にとっては唯一無二の偉人だった。

 

 おじいちゃんの提唱したポケモンの区分方法、タイプ。それまで混然として統一性の無かったポケモンという生物を全く新しい概念でカテゴライズした偉業である。私の生まれる前に学会を騒がしたそれは今やどこの地方でも使用できる共通の物差し。

 私が物心付いた頃からおじいちゃんはずっとすごい人。その孫が、私がすごい人だったら、なんてみんなが思うのは当然だったわ。

 

 カントー地方では田舎の方というべきか、静かで小さく何にも染まっていないマサラタウンだからこそそれはきっと最小限最低限の期待だったのだろうけど。それでも幼い私ですら感じ取れてしまう程、たくさんの視線や言葉があった。

 

 普段の遊び場は研究所、ポケモンのことが書かれているから図鑑を見るのが大好きだった。読み終われば近くにあった他の本に興味を移して、分からなければ周りの大人に聞いて。今思うと仕事の邪魔をして悪い子だったわ……けど大人達は、そんな私に優しく答えてくれた、教えてくれた、そして期待してくれた。

 同年代の子達と遊ぶのはたまのポケモンキャンプ、とはいえ私は年齢的には一番お姉さんだ。みんなの面倒を見て、ポケモンのことを聞かれれば覚えたての知識で教えた。流石、スゲー、やっぱり、思い思いの言葉でみんな私に讃えてくれた、頼ってくれた、そして憧れてくれた。

 

 だから私はおじいちゃんのように成りたいと思って10歳の旅に備えた。

 ポケモンは何度も捕まえようと思ったけれど、おじいちゃんも最初はパートナーポケモンを選んだと聞いて我慢した。

 それまでにたくさん本を読んで、カントー地方のジムリーダーについても調べて。

 

 だから、その日はびっくりしたわ。

 だって私の他に旅に出る子がいるなんて、しかも同い年。

 その子、カシアくんは、つい最近引っ越して来たわけではないらしい。確かにポケモンキャンプは自由参加、顔を合わせないことも不思議ではない。けれど、そういった子はまだポケモンが怖かったりする場合がほとんどで、旅に出ようと思えるほどポケモンが好きなら顔を合わせるものだ。

 見ていると最初のパートナーポケモンを受け取ろうとしているということは、すでに捕まえていてこなかったというわけでもないみたいだし。そう、第一印象から今に至るまでずっと不思議な人。

 ともかくその時は彼よりも、そして多分彼も私より目の前のフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ、の三匹に夢中だった。

 もう何度も思い描いて、どの子にしようかほとんど決めていたのに! 

 二人して悩んでポケモンを決めて、そこで私はバトルを提案した。

 それは、せっかくの同い年なのにお姉さん扱いみたいな「さん」付けに少しむっとしたのはあるのだけれど。

 それよりも私はきっとおじいちゃんに、研究所のみんなに、そして目の前の知らない子に見せたかったのだ。

 ナナミはすごいポケモントレーナーだということを。

 結果は、惨敗。

 頭の中のバトルと、目の前のそれは全然違うものというのを私はそこで初めて知った。出会ったばかりのフシギダネのことを私は何も知らない。まずはこのコが何をできるのか手探りで指示する中、カシアくんは違った。

 彼はヒトカゲが何をできるのか全て識っているかのようで。何一つ疑いもなく指示を飛ばしていた、私とは違って一つ一つの行動に無駄がなく自信に溢れていて。応対するばかりになっていた私とは全く違う。彼は最初からポケモントレーナーだった。

 当然、私はすっごく落ち込んだわ。でも、それを救ったのも彼だった。

 

「楽しみだから色々調べてたんだ」

 

 私と同じなんだ。

 彼もポケモンが大好きで、たくさん学んで、それであんなことができたんだ。

 それなら、私だってできるかもしれない。

 私はその時まで頭の中だけに理想を夢描いていたけれど、それを実現できる人間が隣に、しかも同い年。最初からつまずいちゃったけれど、この道を進むのは間違いじゃないって思わせてくれたの。

 おじいちゃんも褒めるくらいで、さっきまで負けて不機嫌だったのが一気に誇らしい気持ちにまでなっちゃったの覚えているわ。

 

 不安だらけの出発の日だったけれど、彼との旅なら楽しそうだって思えた。

 

 けれどカシアくんのマイペースさというのはこの頃からで、せっかく友達がいるのに一人でさっさと出発しようとしたのには驚いちゃったけど。

 まあ、私が抜けてるのもこの頃からで地図なんてなくても大丈夫! なんて思ってたからこの時カシアくんを呼び止めて本当に良かったわ。

 

 それくらい一番道路の旅は楽しかった。

 

 だって初めて同じレベルでポケモンの話ができたのだ。

 カシアくんは一体どこでポケモンを知ったのかしら、他の地方での生態なんかにも詳しくて、私は彼の話を聞いて驚いてを繰り返す。

 とはいえカシアくんも万能じゃない、生でポケモンと触れ合う経験は無かったようでそこはポケモンキャンプ皆勤賞の私の出番だ、今度は彼を驚かす。

 何よりもポケモンバトル! 一人旅だったらこんなに色々試せなかったもの! 

 初めて彼に勝った時は嬉しくて、今でもバトルの内容をそらで言えるわ。

 

 あとは彼の作ってくれる料理の美味しさと言ったら。シチュエーションや思い出と美化されているのも、もちろんあるだろうけれど、それでも友達やポケモン達と一緒に夜空の下で食べたシチューは格別だった。カンヅメでいいなんて思っていた私はやっぱり少し抜けてたわ。

 

 だから、ずっとこんな旅が続けばいい。そう思ってたのにね。

 

 トキワジム。

 当時のジムリーダーは、サカキさんだった。じめんタイプの使い手で、マサラから旅したトレーナーの最初の関門。

 

 ずっと不思議だったのは、あれだけ旅に備えていたカシアくんの選んだポケモンがヒトカゲということ。

 もちろんポケモンを選ぶのには色々な理由があるわ、私だって直前になって迷っていたのだからそこに糾弾や非難する気持ちは当時から一つもない。

 だから単純に疑問として。

 じめん、いわ、みず。マサラからのジムの旅路はあまりにほのおタイプにとって辛い道のりなのだ。

 もちろんタイプ相性というのが絶対ではないのは知っている。けれどポケモンが育ちきっていない最初こそ、多数の経験を積めるジムでは有利な、少なくとも不利ではないタイプがいいとどこかでトレーナーは考えてしまうもの。

 私がフシギダネを選ぶときにそう言ったことを考えずに選んだとはとてもじゃないが言えないもの。

 もちろん有利なジムまで旅を進めるトレーナーもいるけれど、カシアくんはそうじゃない。トキワジムでの対策会を私としていたくらいなのだから。

 

 これだけバトルが上手なカシアくんだし、大丈夫なんだろうと特に言及はしなかったけれど。

 

 多くのジムではジムリーダーとの戦いの前にそこのトレーナーとの手合わせをすることができる。

 私は少し緊張していたのと、カシアくんとのバトルがあったから大丈夫だと、早速ジムリーダーに挑むことに。

 カシアくんはそれなら待ってる間に挑戦してくるよと手合わせを望んでいた。

 応援してもらいたかった気持ちと、見られたら余計に緊張しちゃうから助かった気持ち半々くらいの中、私は初めてのジムバトルに挑んだ。

 

「よ、よろしくお願いします!」

「ほほうッ! 元気な子供だな。私はトキワポケモンジムリーダーのサカキ。じめんタイプの雄大で強靭な力をみるといい!」

 

 まず出てきたのはディグダ、カシアくんの予想が当たっていた! 

 トキワのジムコートはオーソドックスなもので利用できる物陰等がない。そんな中じめんタイプのポケモン達は持ち前のパワーでそのフィールドを自分の有利な状況になるよう壊しながら戦ってくる。タイプ相性は有利だけど、作戦にハマれば簡単に負ける。

 だから、先んじてそれを封じる! 

 

「フシギダネ、はっぱカッター!」

「避けろ、ディグダ!」

「まだまだ続けてフシギダネ!」

 

 避けられても構わずはっぱカッターを撃ち続け、コートは葉っぱで埋まっていく。

 

「……ほう」

 

 どうやらサカキさんはこちらの狙いに気付いたようだったけれど、ディグダへの指示を変えるつもりはないみたいだ。

 

「ディグダ、ひっかくだ」

 

 ようやくディグダが攻撃に移ったが、すでに準備は完了している。

 ディグダの特徴はその潜ってからの奇襲による素早い攻撃、普通なら捕えるのは難しいけど。

 今、潜ったディグダの出現場所は葉っぱの動く音でこちらが一瞬早く分かる。

 

「フシギダネ、はっぱカッター!」

「フシャ!」

 

 だから狙って攻撃できる、こうかはばつぐん! 一撃で倒すことに成功した。

 

「いけ、サイホーン」

 

 最後のポケモンはサイホーン、けどもう大丈夫。

 サイホーンの強さはその強靭な四肢から繰り出されるたいあたりやじならし、けど葉っぱの上で踏ん張りが効かないサイホーンが出せる選択肢は少ない。

 元々の遅さもあって行動に移れないサイホーンは隙だらけ、今なら先んじて攻撃が通る。

 

「つるのムチで持ち上げて、そのまま叩きつけてフシギダネ!」

 

 葉っぱの上を滑らせて遠心力を利用してフシギダネがサイホーンの巨体を持ち上げる、そしてその勢いのままフィールドに投げるとサイホーンは自身の強みである体重がそのままダメージとなって襲いかかる。

 

「……」

 

 どうやら急所に当たったのかそのままサイホーンは目を回して気絶してしまった。

 

「素晴らしい作戦だった、私の負けだ」

「……やったー!」

 

 初めてのジムバトルでの勝利、けど嬉しい理由はそれだけじゃない。私の考えた作戦が、カシアくんとのバトルでの経験が、この旅で学んだことがジムリーダーに通じた喜び。

 もちろんサカキさんは途中で作戦を分かっていたけれど見逃したように、ジムバトルの、特に一つ目は戦いというより指導であることは分かっているわ。けれど嬉しかったの。本当に、その場で飛びあがっちゃったくらいに。

 

「ありがとう、フシギダネ」

「フ!」

 

 フシギダネとその場で抱き合って踊っちゃうくらいに。

 その後、サカキさんからジムバッジを受け取る時は少し恥ずかしくなってたけれど。

 今すぐにでも一緒に旅する友達に、カシアくんに伝えたいくらい嬉しかった。

 

 でもそれは彼の挑戦が、成功で終わってから。私は試合前の自分を棚に上げて観戦席へ移って応援するつもりでいた。

 ジムトレーナーさんによるフィールドの補修の後、しばらくして。

 やってきたカシアくんはサカキさんを前にやはり少し緊張した面持ちだった、彼がわかりやすくそうした態度を取るのは思えば後にも先にもそこくらいだったように思える。やっぱり初めてのジムバトルだったからかしら。

 

「ふぅー……よろしくお願いします」

 

 掛け声と共にヒトカゲが飛び出す、もちろん迎え打つサカキさんが出すのは。

 

「いけ、ディグダ」

 

 地面から顔を出すディグダに先ほどの試合の疲れやダメージは微塵もなかった、回復しているのだから当然だけれど。

 カシアくんのヒトカゲが覚えてる技を私は全て知っているわけじゃないけれど、一般的な成長から考えれば撃てる技はさほど多くない。

 私のフシギダネははっぱカッターという有利な技を持っていたから一撃で倒せたけれど、有効打の少ないヒトカゲで果たしてどういう戦法を使うのだろう。

 勝って欲しい。そして一緒に笑いたい。

 

「ヒトカゲ、えんまく」

「かぎゅ!」

 

 するとヒトカゲは口から黒い煙を自分の周りに吹き巻いた。

 普通は相手の目をくらませるものだけれど、ディグダは潜って回避できるからこの場合は隠れるのに使用した方が有利に働く。

 やっぱりカシアくんも自分の有利な状況を作るつもりだ。

 

「ディグダ、どろかけだ」

 

 接近してひっかくをしようとすればおそらく技は外れた上で煙幕の中一方的な攻撃を受けると判断したサカキさんは遠くからどろかけで牽制することを選んだ。けれどそれではディグダの強みである奇襲は封じられたも同然。

 

「ヒトカゲ、中央に向かってひのこ!」

 

 遠くからひのこで狙い撃ちにされ続ける。

 ディグダはサカキさんの指示で避けえんまくが晴れるのを待ったけれど逐次補充するカシアくんの指示との根比べの末に。

 

「戻れディグダ」

 

 ついに一撃も攻撃を受けることなく突破。

 

「やった!」

 

 思ったより響いて恥ずかしくなる私。ともかく第一関門はクリア。

 ただ、問題は次のサイホーン。

 サイホーンはじめんタイプだけでなくいわタイプ、ほのおタイプの技の効果が薄いのだ。

 それだけじゃない、問題はもう一つあって。

 

「いけ、サイホーン」

 

 ズシンという音と共に降り立ったサイホーンに対して、カシアくんのとった行動は。

 

「ヒトカゲ、同じようにえんまく!」

「か!」

「!?」

 

 声を出すのは我慢したけれど、それは駄目と叫びたい気持ちだった。

 さっきの作戦は攻撃できる距離が、範囲が少ないディグダだからこそ成功した。

 巨体であるサイホーンならばあのえんまく程度なら突撃するだけで全域をカバーできる。

 カシアくんはせめて普通にサイホーンへ向けてえんまくを放つべきだった。

 ミスだ。

 

「サイホーン、近づいてじならしだ」

「サァイ!」

 

 その隙を見逃すジムリーダーではない。

 突進していくサイホーン。

 避けもしないから攻撃は当たるだろうがひのこでのダメージは微々たるものだろう。倒し切れるはずがない。

 負けちゃう。

 どんどんサイホーンが近づいてついにヒトカゲがいるであろう場所を踏みつけようと。

 

「ヒトカゲ、()()()()()()

 

 その瞬間、攻撃前の動作で腹を見せたサイホーンへと飛びかかったヒトカゲ、放つ銀色、二筋の閃光。

 思わぬ大ダメージにそのまま仰向けに転がってしまうサイホーン。

 

「!? サイホーン、転がりつのでつく」

「もう一度メタルクロー!」

 

 サカキさんの新たな指示の前に、飛びあがったヒトカゲの落下の勢いまで加えた再びの攻撃。

 先ほどよりも無防備なところへ入ったそれは、当然のようにサイホーンを戦闘不能にした。

 

「ふぅ……どうにか勝てた」

 

 カシアくんの疲れたような呟き。

 私は、目の前で起こったことを整理するのに必死だった。

 あれはメタルクロー、カントー地方では珍しいはがねタイプの技。いわタイプに大きなダメージを与えるそれは、けれどヒトカゲは自力では覚えないはずだ。

 わざマシン。ポケモンに特定の技を学習させる装置。

 でもどうやって、まだトキワのデパートには行ってないはず。そもそも、この時取り扱いはなかったのだけれど。

 つまり、カシアくんは準備してたのだ。ジム戦の前から、旅に出る前から、ポケモンを受け取る前から。

 初めからヒトカゲでこのジムを攻略することを考えて。それだけのために子供のお小遣いや、たまのプレゼントを注ぎ込んでいたのだろう。

 このためだけに。

 だから、あれはミスではない。

 えんまくを周りにまく作戦は、リーチに乏しいメタルクローを確実に当てるためにサイホーンに近づいてもらう必要があったから。

 わざと上手くいった作戦に固執してるように見せかけたのだ。不意を打って一撃を与えるために。

 私とは違う。

 指導の中、与えられたハードルを飛び越えただけではない。あの瞬間、カシアくんはジムリーダーの思考を上回ったのだ。

 ジムリーダーとのポケモンバトルで、彼は勝ったのだ。

 

「素晴らしい、私の負けだ」

 

 サカキさんが言葉と共にバッジを送る。

 おっかなびっくりと受け取るそれを見て。

 私は手のひらにある同じはずのバッジに視線を移す。

 コートを照らすライトで輝く彼のとは違い、観客席の私のは色褪せて見えた。

 

 私は、ひどく苦しくなった。友達なのに。




感想、評価ありがとうございます。すごく嬉しい!
今回少し長くなったのはバトルとナナミが重いせい。
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