ポケモン世界を安全に観光するなら   作:ミパデネア

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【レポート】さいきょうの トレーナーを めざす ぼくに かてるかな?

 ポケモンによるバトルというものは多岐にわたる。なんていうことはポケモンというコンテンツに少しでも浸かった者ならなんとなく想像がつく話だろう。

 例えば単純にシングル・ダブル・マルチ・トリプル・ローテーションという最も基本的な枠組みで強いポケモンや戦法は変わる。

 さらにバトルロイヤル、ミラクルシューター、さかさ、スカイ……他にも様々。俗にいう本編と呼ばれるゲームの範囲でさえ両手の指では収まらない形式がある。

 外伝まで広げればさらにさらに、もっと言えばポケモンカードゲームや漫画、アニメで描かれるバトルまで行けば当然のことだがポケモンという素材は同じであれどそれぞれの作品に似通った部分を見つける方が難しい有様だ。

 

 つまり、この世界でのポケモンバトルも同じように前世の常識が通じない。ということだ。

 

 目の前にはトレーナーがいる。カントー地方では珍しくもない、むしとりしょうねん。

 しかし彼の前にはトレーナーの証とも言えるポケモンの姿がない。無論その手にもつ虫取り網の中にも肩から下げた籠の中にも。

 その理由は、手持ちのポケモンが俺のリザードに敗北したから……というわけでももちろんなく、目深に被った麦わら帽子の下から覗く眼光はいまだ彼が敗北せず臨戦体勢をとっていることが分かる。

 

「にーちゃんマサラの出身だろ、ここら辺のヤツなら見破れて当然だからな」

 

 言いながら少年は手に持った網を不意に動かす。瞬間、警戒していたはずのリザードが突然うずくまり、苦しみだす。

 目に見えない攻撃、しかしエスパーやゴーストのわざをくらっているわけではない。あれはどくだ。

 その戦法自体はナナミさんとのバトルで幾度か味わってはいた、けれど熟知された環境を利用されるとここまで厄介なものだとは。

 

「森を丸ごと使ったかくれんぼ作戦か」

「そんなダサい名前やめろよな! ビードルスナイプだ!」

 

 ……俺と少年のネーミングセンスの優劣は置いておいて。

 トキワの森三日目、ついに開始したトレーナーとのバトルは想像以上の大苦戦から始まっていた。

 

 トレーナーとのバトルをテレビや大会で目にする時、それは多くの場合ジムやリーグの用意した整備されたコート上でのものだ。

 けれど実際にほとんどのトレーナーが経験するバトルはこうした隠れ場所の宝庫である森の中や、不安定な水上、砂嵐舞う砂漠、息をするだけで肺が焦げるようなマグマの傍、トレーナーそしてポケモンが利用できるものだらけの中でのことが多い。

 それはゲームの中で場所によっててんきを利用して有利に立ち回ったり、あるいは逆に泣かされたりした経験がある以上分かってはいたが。

 まさか戦闘開始と同時にボールを樹上へ投げるとは思っていなかった。彼のビードルは試合開始から一度もこちらに姿を見せずどくばりを飛ばして攻撃してきているのである。一撃一撃は軽くとも積み重なればどく状態も重なりリザードの体力はかなり削られている。

 何よりもすごいのは、それを成し遂げられる彼のトレーナーとしての能力である。指揮棒のように振り回す網で的確にビードルへと言葉にせずとも攻撃を伝えている。この隠れるという作戦はそれだけでは弱い、攻撃の際のトレーナーの指示で避けたり防御する指示が間に合う可能性がある。だから対策として攻撃の指示すら隠しているのだ。

 それだけの信頼が、あるいは練習が、実戦が彼とビードルの間にはあるのだろう。

 

「じゃあなにーちゃん、その次はそっちのねーちゃんも勝負だ!」

 

 勝利を確信した少年は俺の後ろで控えているナナミさんへと網を向ける。

 残念ながらそれは百万光年早い、ってこれをいうのは少し早いな次の町だ。

 ともかく、見つけた。

 

「攻略法。リザード、えんまく」

 

 俺の指示でうずくまっていたリザードはそのまま四つん這いの体勢をとり、前方へとえんまくを放つ。

 先日まで苦手だった口から吐き出す攻撃だったが進化したことで何かコツのようなものを掴んだのだろう、以前と違いそれはブレスのように勢いよく目標へと向かう。

 そう、少年へと黒い煙は広がり彼の姿を覆い隠した。

 

「なっ!」

「虫取り網を指示棒がわりにするアイデアは素晴らしいけど、それはビードルが見ることで作戦を理解しているってことだろう。つまり隠してしまえばいい」

 

 少年は網を振り回しているが中々えんまくは晴れない。

 

「……なら我慢比べだ! 待ってればそっちはどくで倒れる!」

「もちろん、だからあとはこっちが攻撃を当てられるかの勝負だ」

「そんな運任せ、あたりっこない!」

「それがそうでもないよ。まずさっきも言った通りに君の指示が見えないといけないから俺やリザードで隠れてしまう真後ろにはいない。続いて君の真後ろにもいない、わざが自分に当たってしまう可能性があるし、何より君がビードルの位置を判別できないし。そして樹の上でもない」

 

 えんまくの中、見えないが思わず、なのだろう。動揺したような声が返ってくる。

 

「なんで」

「わざわざボールを投げたから、意識を上に向かせておいて隠れるのは下っていう方が見つけにくいだろうなって。後はポッポなんかに襲われるリスクも考えたら君みたいにビードルを大事にしているトレーナーならやらないだろうし。それとわざを受けたリザードの痛がり方は下からの攻撃っぽかった」

 

 だから後はリザードのパワーアップした攻撃範囲を考えたらほとんど二択である。右か、左か。

 

「リザード、右の草むらに向かってひのこ!」

 

 残り僅かな体力のはずだが、リザードの吐く火の勢いは衰えるどころかいつにも増した激しさで爆発したかと見まごうほどの威力を見せる。

 もうかによる威力上昇で隠れ場所の無くなったそこからは、目を回したビードルがフラフラと現れ、倒れた。

 

「なんでそっちも当てられるんだよ! うう、オレの負けだ!」

「えんまくで前が見えなくなった時、君がそっち側を晴らそうと腕を動かしてたからね。ありがとう、いいバトルだったよ」

 

 やるなーにーちゃんとビードルをボールに戻しながら言ってくる少年、君の方がやるぞ。まさかリザード使っててビードルに苦戦する日が来るなんて思ってもみなかった、トキワっこやっぱりヤベーって。最後の二択だって選択の根拠はあったが断言できる程の自信があったわけじゃない。運否天賦である。いやポケモンやってたらそんなことはよくあることなのだが、急所にしろコインにしろ。

 

 ともかくジムバッジを一つ手に入れてどこか分かったような気になっていたがとんでもない、この世界でもポケモンバトルというのは奥深く深遠は見えない。

 先日の群れバトルでは野生の容赦なさというものを学んだ。あれ以来トキワの森での散策は常に群れを刺激しないようにしている、むしよけスプレーって群れ対策のアイテムとしての側面がこちらでは強いなんて知らなかったよ。

 今回はトレーナーの勝利への執念、本当に勝つためなら何でもやるのだトレーナーという生き物は。

 今までこちらの世界で戦っていたトレーナーはナナミさん、ジムトレーナー、そしてサカキ。三人しかいなかった。

 この内ナナミさんは俺と同じで初心者で、コチラの一般的なトレーナーとしてはまだ単純に経験値が足りてない。サカキ達はリーグのジム所属、つまりトレーナー達を導く存在であり、視点が違う。

 すれ違い目が合えばバトルする普通のトレーナー達は自分の手札で勝つ方法を確立してこちらの隙をずっと伺っている、ということを初めて実感できた。

 旅をする俺たちは地元のトレーナー達に対して常に挑戦者なのだ、進化しているとかタイプが有利とかそれだけで勝てるほど甘くない。

 

 なんていうことをバトルの後ナナミさんへ話す。

 

「……カシアくん、てっきりそんなことはわかってるのかと思ってた。だって、今回も勝ったじゃない」

 

 どうやらナナミさんはすでにご存知だったらしい、恥ずかしい。本当にどうにかしないといけないことは分かっているが、俺は知識は多少あれど常識知らずなのだ基本的に。

 

「リザードが頑張ってくれたからだよ」

 

 どくけしとキズぐすりをリザードに使いながら返す。

 そう、今回は元々の相性が有利だったから勝てただけ、なのだ。

 最後のどくばりで下にいると確信を持つまで相手の作戦に翻弄されっぱなしだった、位置が分かりやすくなるから嫌ったのだろうがどくばりではなくいとをはくでこちらの動きを封じられていたら多分負けていた。

 他にも思いつくだけ負けたであろうもしもを話す。トレーナーとの戦いは得るものが多い、互いに共有すれば今後のバトルで役立つだろう。

 ナナミさんはメモを取りながら俺の話を聞いてくれた、そこまでされると緊張する。さっきの少年の方が役立つこと喋ってくれそうだし。

 

 一通り終わり。

 

「じゃあ、私はフシギソウが頑張りすぎないように勝たなくちゃ」

 

 それはなつき度を上げてくれる優しいナナミさんらしい言葉だった。けれど、初のトレーナーバトルに向けて緊張していたのだろう、どこか願うような声だった。

 

 ナナミさんはその後、攻撃に使ったはっぱカッターの一部を森の中に隠すという探知機と地雷を両立する新戦法を確立してトキワっこ達相手に連勝記録を重ねた。流石である。




本年もよろしくお願いします。
ポケモン世界にも干支の概念とかあるんですかね、ハロウィン以外明確な記念日が確認されてない世界ですが。
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