とある呪術の両面宿儺   作:全智一皆

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プロローグ

 

■  ■

 両面宿儺。それは上古、仁徳天皇の時代に飛騨に現れたとされる異形、或いは鬼神の事。

 腕が四本、目が四つ、口が二つとあるその鬼神は、あくまでも縁起の中の存在。

 つまりは仮想の存在であると、それを知る誰もが断定する。だが、それは真実ではなかった。

 両面宿儺は、仮想の鬼神ではなく実在した“人間”だったのだ。

 しかし残念ながら、物語の根幹に関わる部分を説明しはしたけれども、それはあくまでも別の“位相”での話であってこの世界の話ではない。

 この世界の主人公は、両面宿儺ではあるが両面宿儺ではない。姿形と能力が両面宿儺でこそあるが、その人物像は決して両面宿儺とは言い難かったのだ。

 己の快・不快のみが生きる指針と言うには優しさがあり、しかし善人というには残虐であり。どちらかと言えば、赤の他人に両面宿儺のそれが僅かに移っている様な感覚にある。

 それは――――――彼の名前が両面宿儺であるからなのだろう。

 

「つまらん」

 

 『学園都市』。最先端の科学が集結したこの街には、“スキルアウト”と呼ばれる武装した無能力者の集団が存在する。

 無能力者。LEVEL0。科学によって超能力の開発が行われているこの学園都市において、超能力を持たない、或いは持ってはいるが非常に効果が薄い微弱な力を持つ者。

 能力を能力として扱えない事から他のレベルの者達から差別や迫害の対象になる事も少なくなく、それ故に自己防衛へと走る。

 武装無能力者集団“スキルアウト”とは、その自己防衛の為の不良集団である。

 そんなスキルアウト達は、裏路地で山の様に積み重ねられて椅子の代わりとなり果てていた。

 桃色の髪をかき上げ、鋭い目付きをした目の目元にまた鋭い目。全てを蔑んでいるという感情(それ)を包み隠さず放ち続けているそれは、人が積み重なって作られた山の一角をぐりっと踏み付けた。

 

「この俺に手を出してきたのだ、余程腕が立つ奴なのだろうと僅かにも期待した俺が阿呆だったな」

「ぐっ…」

「大人数で挑めば一撃でも入れられると愚考したその莫迦正直に免じて、殺さないでおいてやる。が、二度はないぞ」

 

 山を下り、心底うんざりした様な表情で一瞥した後に鬼神は路地を脱する。

 

 学園都市に数ある都市伝説の一つ―――呪いの鬼人。或いは、“堕し子”。学園都市の第七区には、四つの目を持った鬼が存在しているという。その鬼人と対峙した時、誰一人の例外もなく斬り捨てられるという。

 学園都市の人体実験によって生み出されたとされる闇のそれを調べんとする者は数多く、しかしそうした者の殆どが瀕死の状態で発見されたという。

 その鬼人が―――彼だ。

 両面宿儺。それが彼に与えられた名前である。その呪い名こそが、彼の真名なのだ。

 生まれるべくして生まれなかった者。忌むべくして忌まわれた者。

 親の顔も知らず。己の出自すら知らず。ただ己が己である事のみしか知らぬ強者。

 それが彼であり、両面宿儺として生まれてしまった彼はそれ以外の何者でもなく、また何者にもなれぬのだ。

 しかし、世の中には―――

 

「おまっ、またやったのか!?」

 

 そんな忌者に関わる莫迦も居る。

 

「……はぁ、だる」

「開口一番にだる!? 上条さんはそんな子に育てた覚えはありませんよ!」

 

 ツンツン頭の高校生の少年が、まるで母親の様に宿儺へと非難の声を上げる。が、宿儺はそれをだるいと一蹴した。

 上条当麻。滅多に人間と関わる事がない宿儺が関わりを持つ、文字通りの意味で数少ない人間である。

 

「お前に育てられた覚えなぞないわ、戯け。何故、貴様が此処に居る」

「いやー、その…普通に学校から帰ってたら不幸にも躓いてしまい、その先にスキルアウトが居りまして…で、財布を取られそうになったので逃げていたら貴方に出会った次第でありまして…」

「…ケヒっ! 相変わらず貴様は運が無いなぁ、上条。どうだ? 飯を奢るなら助けてやらんくもないぞ」

 

 愉快愉快と嗤う宿儺に、上条は「笑い事じゃないっての!」と声を荒げる。

 上条当麻の特徴は、その運の無さ。とにかく『不幸』の一言に尽きるのだ。それこそ部屋で一歩を踏み出しただけでカードが割れるくらいの。

 

「どうなんだ?」

「いや、上条さん金欠…」

「なら其処に積み重なった塵から取れば良いだろう。馬鹿と鋏は何とやらだ」

「それ犯罪だから! てかお前がやってるのも結構犯罪だからね!? 暴力が過ぎるんだよ!」

「正当防衛だ。そもそも雑魚に何を気遣う必要がある」

「開き直ったな!? お前そういう事するから指名手配犯扱いされるんだぞ!」

 

 都市伝説扱いに指名手配犯扱いとは。何と生き難い境遇だろうか。

 宿儺本人としては、大した苦にもなっていないのが何ともだが。

 上条としては、友人が指名手配犯扱いされているのは困ったものである。

 

「そんな事はどうでもいい。どうなんだ?」

「あーもう! 分かった、分かりました! でも、奢るって言っても上条さんの手料理だからな! 野郎の肉野菜炒めだからな! それでも良いのか!?」

「構わん」

「えぇ…? 毎回思うけど、お前グルメだよね? 上条さんの料理美味しい訳?」

「美味い訳なかろう。普通此処に極まれりだ」

「じゃあなんで食べるんだよ?」

「不思議と飽きんのだ。さて、それでは狩りと行くか」

「狩るなよ?…狩るなよ、殺すなよ!? 宿儺さん!? 宿儺さーん!?」

 

 少年の叫びは、虚しく消えた。

 鬼人はただ愉快に、嗤っている。

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