とある呪術の両面宿儺   作:全智一皆

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禁書目録

 

 

■  ■

 両面宿儺は憂いていた。眼の前に広がる光景を。ツンツン頭の高校生とありのままの姿をしたシスターが存在している逢瀬の空間に入ってしまった事を。

 

 始まりは、いつもの理不尽からだった。今日も今日とて上条当麻の家へと突撃し、食材を用意して彼に飯を作らせて平らげてやろうと思い行動に移したのだ。

 まず、スーパーで買い物を済ませた。作るのは良いが食材は自分で用意しろという不遜な(実に理に適った正論)発言に素直に従った結果だ。

 今日の食材は牛腿肉と大蒜と黒胡椒と馬鈴薯。牛腿肉は外から取り寄せた食品添加物を一切使っていない代物である為高額で、出費にして約4000円。千円越えた牛肉とか簡単にありつこうともしない。

 つまり朝からローストビーフ的なものを作らせようとしたのだ。普通の高校生に作らせる様な料理ではないのは確かだが、そんな事は知った事ではないのだ。

 決して上条は料理が上手い訳ではない。中の中、上の下といった感じの普通極まった腕前だ。

 しかし、宿儺は何故かそれに飽きない。美味い訳ではないが不味い訳でもないその味が、不思議と気に入っているのだ。

 そんな訳で、今日も料理を作らせる名誉を与えんと向かった結果が―――これである。

 

「朝から逢瀬とは随分と盛っているな、上条。貴様に幼女趣味などあったのか?」

「ち、違う! そんな事は断じてない! 俺のタイプは寮の管理人のお姉さんだ!」

「女体を見て言う事か?」

「そ、そうなんだよ!」

 

 かくして、四つ目不良と銀髪シスター―――鬼神の名を与えられた忌み子、両面宿儺と完全記憶能力を持つ『動く魔導図書館』インデックスの邂逅は果たされたのだった。

 ちなみに彼女の裸体を見たのは上条だけではなく宿儺もなのだが、彼には幼女趣味なぞ無いので欠片も興味を示さなかった。

 

「俺にもありませんけど!?」

「知るか。それよりさっさと飯を作れ」

「わたしも食べたいかもブッ」

 

 言い切った直後、インデックスの顔面に布が直撃する。何だ何だと布を取ってみれば、それは宿儺が着ていたパーカーだった。

 

「何時迄も裸体を晒すな。修繕を終えるまでそれでも着ていろ」

「あ、ありがとうなんだよ。えっと…あれ、なんで『歩く教会』が崩れた事を知ってるの?」

 

 インデックスは首を傾げた。

 インデックスが裸だった理由は、上条の右手が彼女の衣服―――修道服の形をした魔術霊装に触れてしまい、その所為で布地がバラバラになってしまったからだ。

 『歩く教会』。それは、彼女が身に纏っていた修道服であり、服の形をした霊装。

 布地の織り方、糸の縫い方、刺繍の飾り方まで、その全てが計算されて作られた『服の形をした教会』。イエス・キリストが着ていた布地のコピー品を用いられ、物理的にも魔術的にも絶大な防御力を誇る法王級の結界を持つ至高の一品。

 そんな強力な霊装だが、上条の右手はそれすらも打ち消した。

 ありとあらゆる異能を打ち消してしまう力―――『幻想殺し』と呼ばれるモノだ。

 

 宿儺はその場面を見てはいない。あくまでも、歩く教会が崩された後の現場を目撃してしまっただけなのだ。

 宿儺は買ってきた食材が入った袋を上条へと放り投げ、―――「ちょ、あぶねぇって!」―――我が家の様に寛ぎながら答えた。

 

「そのバラけた布地を見れば直ぐに分かる。普通の衣服ではない。織り、縫い、飾り…それら全てが計算された魔術的な代物だな。大方、自慢でもして触れた結果だろう?」

「す、すごいんだよ。見ただけでそこまで分かるなんて…」

「宿儺は不良なのに頭良いんだよなー」

「下ろすぞ貴様」

「酷くね!?」

「すくなって言うんだね! パーカーありがとうなんだよ!」

「礼など要らん」

「本当に不要って感じなんだよ!?」

「コイツそういうやつだから…」

 

 礼は受け取らない。何故なら不要だから。そも彼にしてみれば、見る気もない裸体が晒され続けているから服を渡したというだけの事で礼を言われる事が不思議で仕方ないのだ。

 礼を言われる様な事ではない。礼が欲しくてした訳ではない。しかして、それがして当たり前と思っている訳でもない。

 本当の意味で、礼など不要なのだ。

 

「そんな事はどうでもいい。さっさと作れ」

「はいはい…ん?」

 

 不遜な客と純白のシスター(裸パーカー)の為に、不幸だと呟きながら袋を開けてみれば。

 三千円の値段が書かれたシールが貼られた牛腿肉が、真っ先に彼の目に止まったのだ。

 

「なっ、ばっ、おいおいおいおいっっっっ!!!!」

「どうした。何を驚く」

「ちょ、これ何処で買った!? スーパーでも中々見掛けないぞっ、こんな高級品!」

「お肉! お肉なんだよ!」

「知人の手を使っただけだ。外から取り寄せた」

「材料だけ見れば分かるっ、お前ローストビーフ作らせる気だろ! 朝から高校生に作らせるもんじゃねぇぞ!」

「面倒な…それなら焼けば良いだろう。不幸極まる貴様が肉を食えるだけありがたく思え」

「いやそれは本っっっ当にありがとうございます宿儺様!」

「やっぱり、すくなは優しい人なんだよ!」

「反吐が出る」

「褒めたのに一蹴されたんだよっ!? やっぱり悪い人かも!」

「いや、素直じゃないだけだぞ。悪い奴ではあるけど、優しい奴だ」

「気色悪い」

「本当に優しい人なの?」

「自信無くなってきた……」

「口より手を動かせ、莫迦が」

「やっぱ優しくねぇコイツっ!」

 

 優しくはない。ただ、他者からすれば優しいと思われる事をしたというだけだ。

 宿儺が優しいと誰かに思われる行動に善意は無い、というよりは何もない。善意も悪意も、偽善も偽悪も、とにかく何も無い。何を思っている訳ではないのだから。

 

 ステーキはこの後、三人で美味しく頂きました。主に宿儺が食べました。

 ちなみに、宿儺が上条の家に突撃するのは三日も続きました。奢ってくれたのは最初の一日目だけだったのは、言うまでもない。

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