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春夏秋冬、様々な季節によって旬となる食材は多く分けられる。
例えば春の季節は、
旬の食材とは、その時期が最も美味い物が多い。現地でのみ味わえる、収穫したての食材というのは言葉で形容するのも難しい程に絶品だ。
旬というのは厭なものだ。その旬の食べ物を味わえるのはその季節だけで、次の季節に移ればもう美味しく食べる事は出来なくなってしまう。
けれど、それがある意味、無常さを思い知ると言うのだろうか。食の大切さを実感する事が出来るという事でもあるのだから、馬鹿には出来ない。
さて。ここからが本題である。
両面宿儺は美食家だ。それはもう、学園都市の外食では片手で数える程度の店にしか行かない程であり、内部からではなく外部から食材を取り寄せるくらいには食に拘っている。
そんな彼にとって、旬という概念は気に掛けて仕方のないものである。
春夏秋冬、どの季節においても旬の食材とは美味極まる。
そういった理由もあって、彼には嫌いな季節というものがない。鬱陶しさを感じる事こそあれ、しかしそれら全てが食材という幸には劣るからだ。
だが―――というか、だからこそ、というか。
「弁明の余地はやらんぞ。上条、貴様」
「そこを何とか! どうか御慈悲を下さい宿儺様! 俺だって被害者なんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
珍しく外に出て、旬の食材を使ってのBBQを楽しんでいた彼に。よりによって、食という数少ない愉悦を味わっていた最中の彼に。
厄介事を持ってきた上条当麻は、不幸でしかないと言わざるを得なかった。
現在、7時頃。
両面宿儺は、浜辺で一人BBQを楽しんでいたのだ。
「貴様は何故そうも俺に面倒事を押し付ける。それも、俺が愉悦に浸っている最中に」
「そんなの上条さんだって知りたいよ! というかお前は平気なの!? 周りの人達が入れ替わりまくってる中でお前は普通なの!?」
「有象無象という点で見れば皆同じ体だが?」
「尖り過ぎだろ、その見方! いや、俺が言いたいのはお前は入れ替わってないんだなって事だよ!」
上条の言葉は尤もだ。論点をすり替える努力も素晴らしい。
『御使墜とし』―――そう呼ばれる現象が、各地で発生している。大雑把に言えば、俺/私、入れ替わってるー!?の状態が色んな所で起きているといった感じである。しかも、入れ替わった本人達はその自覚がないのだから困りものである。
『
上条は、そんな疑問を抱いたのだ。
宿儺は焼き終えた肉を頬張り、暫く味わった後にこう答える。
「さて、な。大方の予想はついているが憶測の域を出ない、と言ったところだ」
「つまり、お前も詳しくは分かってないんだな?」
「詳細を知る必要もなかったからな。だが…貴様が来た、台無しだ」
「そんな目に見えてうんざりするの止めてくれます!? 泣くよ!? 上条さん人目も憚らず大声で泣きますよ!?」
「その時は締めて海に捨てるだけだ」
「人の事を魚扱いしやがった!」
「コントしている暇があるならさっさと手伝えやテメェ等!」
『ねーちんの口調が崩れたぜぃ、こりゃすげぇ』
あぁ、時間を描写するのを忘れていた。
現在進行形で、神裂火織一人が―――
「くっ…! 貴方達、何者です! 何処の所属ですか!」
「どの結社に所属しているか、という意味なら―――『明け色の陽射し』だ」
「『明け色の陽射し』…!?」
『イギリス屈指の魔術結社、黄金系の中でも最大勢力とされる組織か』
魔術結社。
それは文字通り、魔術師が集まって構成される組織の通称である。
その形態、活動、目的などは千差万別。
無償で善行を行う結社からテロ行為の是非も問わぬ犯罪組織的な結社、戦力や技術において大規模なものから小規模なものまで、世界には数多の結社が存在している。
そんな数多ある魔術結社の中で、世界最大と呼ばれた結社―――あのアレイスターが所属していたとされる魔術結社『
魔術大国イギリスでも屈指の魔術結社――――――それが、『明け色の陽射し』である。
『それで、その《明け色の陽射し》所属の魔術師が何の用だ? 《御使墜とし》はアンタ等には関係ないだろ?』
「確かに、これが
『本当のボスだと…?』
「会社にも、それぞれ部門があるだろ? それと同じ、同じ結社の中にも属する部門がある。俺達はその中でも裏方担当―――学園都市風に言うなら『暗部』か。その部長からの命令だ」
「その命令上、俺たちはお前を足止めしなきゃならん。両面宿儺はわりと、いやかなりどうでも」
キンッ!
暗い空を斬撃が駆った。この季節には似合わない紺色のジャンパーを纏った男―――
バチバチバチッッッッッッ!!!!!!!!!
蒼穹の如き澄んだ稲妻が遠吠えを上げ、鎧の如く男の体に纏われ、男は音すら追い抜いて頭を下げて躱してみせた。
「っぶな!?」
「不愉快だ。貴様らの尺度で俺を語るな」
「噂に違わぬ暴君だね…ヨモギ、怪我は?」
「紙一重で避けれたが…結構危なかった。え、大丈夫だよな? 首落ちてないよな?」
「うーん…見る限りは大丈夫だと思うけど。アニメみたいにならないとは限らないけど」
「怖い事言うの止めてね? 不意打ちとは言え、俺の術式使っても紙一重とか、どういう速さしてんだよ…」
首元を抑えながら、睨む様に宿儺へと目を移せば、もう既に興味は失せていた。
真正面から、両面宿儺は空に浮かぶ天使を憎たらしく捉えていた。
「……チッ。不愉快極まりないが、奴らを消さねば食事も楽しめん。疾く失せろ、上条。貴様は邪魔だ。三秒以内に行かねば下ろす」
「それ無理だろ! 達成させるつもりないだろ!」
「口を開くより足を動かせ、阿呆が。貴様の産みの親を死なせたいのか?」
「っ!」
「分かったのならさっさとしろ」
「分かった! 気をつけろよ!」
「はっ―――誰にものを言っている」
折り畳みの椅子から立ち上がった刹那―――
キィンッ!
天使の体に斬撃が走る。塩の柱、災厄の槍を狩りする獣の如く掻い潜り、不可視の斬撃は主の御使いの体へと亀裂を刻んだ。
だが、まるで何事もなかったかの様に。天使の傷は容易く塞がれ、柱が宙より鬼人へと降り注ぐ。
『――――――』
「硬いな。なるほど、これが天使か…。クククッ、良いぞ、もっと魅せてみろ!」
ガガガガガガッッッッッッ!!!!!!!!
キンッ、キンキンキンキンッッッッッッ!!!!!!!!
斬撃の嵐と塩柱の槍が殴り合う。斬り捨て、斬り裂かれ、斬り刻まれ、しかしそれを抜き去って槍は鬼人の領域へと入れ込んでいく。
直撃こそしないが、天使の攻撃は確実に両面宿儺に届いている。防がれ、流され、躱されてこそいるけれど、そこに意味は生じている。
ドゴッッッッ!!!!!!
砂丘が崩れる。風圧が嵐を象る。
足を奪われる砂を取っ払い、宿儺は天使が浮かぶ空まで一気に攻め込んだ。
道を阻む槍を弾き、壁の様に立ちはだかる柱へと拳を叩き込めば、噛み砕かれる氷の如く脆く崩れさる。
「『解』」
キンッ!
天使の首を刎ねる様に解き放たれた斬撃は、されど首を刎ねるには能わず。
右手に握られた槍の切っ先が、鬼人の喉目掛けて薙ぐ様に振り払われる。
ボウッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
暴風が声を荒らげ、笑みを浮かべる宿儺を空高く舞い上げる。
薙ぎ払うだけでこの威力。まるで台風を思わせるそれは、やはり天使がこの世界とは異なる世界から舞い降りた―――否、
高揚が止まない。さっきまでの憂鬱はもはや何処にもない。ただ、目の前の怪物を―――地に下す。そんな想いが胸を染め上げた。
「『捌』」
解析。判別。測定。設定。―――完了。
天使。それ即ち莫大なエネルギーの塊であり、生きる核と何ら変わらない。
それを斬り捨てるには、それに傷を刻むには、単なる斬撃では事足らない。普通の包丁では捌けない。
その得物を捌く為の専用包丁。相手の力を解析し、斬るに適した斬撃を浴びせる術式が天使をズタズタに斬り刻む。
先程とは異なり、痛々しい傷を幾つも刻まれた天使は
本来、相手に触れなければ発動する事が出来ない『捌』だが、この宿儺に限ってはそうではない。
『縛り』を科す事によって得られる恩恵、即ち術式の発動条件の変更。
『捌』を発動する事で発生する斬撃が敵に届く範囲を『解』を大きく下回る距離―――自身の視界内における約10m以内に限定し、さらには解析時間の延長を付け加える。
そうする事で、宿儺は『捌』を『解』同様に放つ事が出来る上、本来の『捌』よりもその威力を向上させているのだ。
「『捌』を使っても仕留め切れんか。いい、いいぞ…! 歯応えの良い肉は好みだ!」
『――――――!』
「だが…俺は
鬼人は砂場に降り立ち―――弓の弦を引き始める。
己が手で以て、鬼人は遂に仕上げの火を焚く。
「―――よし! 逃げるぞ、ウル。さっさと逃げよう今すぐ逃げよう」
「え? なんでさ」
「俺の第六感が叫んでる、ヤベェって」
「なんかあんまりヤバそうな感じがしないね、その予感」
「いや割とマジだから! だからほら、早く行くぞ! 巻き込まれる気しかしねぇんだよ!」
「な、待ちなさい!」
「嫌だね誰が待つかよ! つかお前もさっさと逃げろ! 幾ら聖人でも
相方を抱き抱え、稲妻を轟かせながら颯爽と空を舞う
そう、彼は聖人なのだ。術式を使用している間だけ、四方木冥瞬は聖人たる彼は神の雷を操る罪人へと成り果てる。
術式名『
旧約聖書に登場するユダヤ人の祖であるヤコブと、ゼベダイの子に登場するキリストの使徒の一人である雷の子ヤコブの伝承二つを掛け合わせた魔術。
自らの体に神の雷を纏い、眼前の聖人を駆逐、或いは完全に撤退させるまで一時的に相手よりも一歩先を行く力を得る事が出来る魔術である。
敵対していた二人を追いながら、神裂は問答を続ける。
「そのアレとは何ですか!? 彼が使おうしている魔術の事ですか!?」
「あれが魔術かなんざ知らねぇよ! だが、少なくとも普通の魔術じゃねぇ! 別の世界から溢れた力、世界にありふれた汚いものを我が物顔で巧みに操る類の外法だろうよ! 神道系っぽいが、黒魔術の方がまだ好感が持てるぞ!」
「ヨモギ、長い。簡潔に」
「あれ食らったら諸共燃えカスになる!」
「■」
無音が言葉を紡ぐ。
―――砂漠が、焼けていく。
チリチリと。音を立てて、砂が一粒ずつ一粒ずつ溶けて消え失せていく。灰にもならず、無くなっていく。
まるで、暖炉に焚べられた薪の様に、あらゆるものが焼き切れ、尽きていく。
「―――
一切合切、有象無象。ありとあらゆる全てを灼き尽くす万死の炎が―――一匹の鳥に解き放たれた。