とある呪術の両面宿儺   作:全智一皆

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八月三十一日①

 

■  ■

「あれっ、師匠じゃないですか!」

「……」

 

 八月の終わり頃の事である。

 学園都市の第4学区―――食品関連の施設が並んだ学区。宿儺が気に入っている店がある場所―――で、色々な厄介事が落ち着いた宿儺は久しぶりにお気に入りの店に足を運ぼうとしていた。

 宿儺はかなりの美食家だ。そんな彼が気に入る店というのは非常に珍しく、同時にそれ程までに良い出来の料理を出す店という事だ。

 其処に向かおうとしていたのだが、そんな宿儺に声を掛ける少女が居た。

 佐天涙子。少し前に宿儺が能力について興が乗ったという理由で助言をし、能力のレベルを上げた女子中学生である。

 同時に、宿儺の面倒な悩みの種でもあった。

 

「ちょっとー、無視しないでくださいよー!」

「……」

 

 この少女、事ある毎に宿儺を師匠と呼んでは雛の如く付き纏うのである。

 宿儺としては非常に面倒この上ない。上条や土御門などのクラスメイトに見られたならば、さらに面倒な事になる事は間違いないだろう。

 このまま無視を続けて帰ってもらう―――そんな判断をしていた宿儺だが、それはあくまで過去の事。既に実証済みで、そして失敗している。

 

「……チッ」

「まさかの言葉じゃなくて舌打ち!?」

「その呼び名を止めろと一度言ったぞ…この俺に二度も言わす気か?」

「えー。良いじゃないですか、師匠!」

「……」

 

 顔を顰める。それはもう酷く顔を顰める。

 不快、限りなく不快。しかし此処は大通り、尚且つ御坂の友人だ。手を出せば御坂は勿論、それに追従する様に上条も出張ってくる。

 宿儺にとって非常に面倒な事が積み重なる。勝ち負けの問題ではない問題が降り掛かってくるのだ。

 

「……もういい。好きにしろ」

「やったー! ありがとうございまーす、師匠!」

 

 宿儺は諦めた。もう好きに呼ばせようと。

 不快極まりない所ではあるが、それ以上のリスクがある。それもある種の一興ではあるが、今すべき事ではないだろう。

 もう適当に流して、早い所、店に行くとしよう。宿儺はそう判断して再び歩み始めた。

 そして、佐天涙子は当然の如くその後ろに付いていく。

 

「それでそれで? 師匠は今から何処に行くんですか?」

「気に入った店に行く」

「師匠が気に入ったお店…! めっちゃ高そーですね」

「高値ではあるだろうな。俺にとっては端金だが」

「お、金持ち発言! というと、やっぱり師匠は超能力者(LEVEL5)…!?」

「無様な破落戸(ごろつき)から毟り取っているだけだがな」

「思っている以上にヤバかった!?」

 

 師と慕う人の金銭事情がまさかの義賊的窃盗から得られるものとは、誰が思うだろうか。

 だが、この学園都市におけるスキルアウトの扱いは大したものではない。宿儺がどれだけ彼らを瀕死に追い込もうが、死にはしないので問題ない。

 宿儺曰く、手加減はしているとの事だ。都合の良いタクシー―――風紀委員(ジャッジメント)ですの―――も居るのだ、大丈夫大丈夫。

 

「師匠! 私も師匠のお気に入り行きたいです!」

「奢らんぞ」

「そんなっ!?」

「この俺に奢らせるなど万死に値するぞ、貴様」

「そこまでですか!? うー…でも私、そこまでお金持ってないし…あ、じゃあ師匠のを半分貰うっていうのは!?」

「殺す」

「遂に殺意が!?」

 

 食事には厳しいのだ。こればかりはどうしようもない。

 ちなみに、彼女が宿儺のお気に入りの店に行くならば、五貫頼むだけで佐天涙子の財布の全額が消し飛ぶ。

 

「着いてくるのなら勝手にしろ。だが、他言はするな」

「うぅ…分かりましたよー」

 

 その日、佐天涙子の財布の半分が消し飛んだのだが、それはそれとしてとても美味しかったのだと言う。

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