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少年の叫びが轟き、聖人と鬼人の両者の動きが停止する。
上条当麻が、起き上がっていた。神裂火織によって倒されていた筈の上条は止まぬ騒音によって目を覚まし、そしてあり得ざる光景を目にして止めに入ったのだ。
斬撃と斬撃の激突に、たった一本の腕が伸ばされる。
聖人の力と七天七刀を用いた、数多の術式によって弱点を適切に補う事で完全な破壊力を持つ斬撃―――「唯閃」。
相手の呪力や強度に応じて自動で最適な一太刀を放つ、即ち聖人を斬るに最適な切れ味を持つ斬撃―――「捌」。
互いに異能によって構成されたその斬撃は、たった一本の振り抜かれた拳によって――――――
パキィンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
呆気なく打ち消された。
それを見て、宿儺は一言。
「―――はぁ、うざ」
「またうざって言ったな、お前!?」
四日程前と同じ様に、うんざりとした顔でうざいとあしらったのだった。
「何故貴様は何時も邪魔になる時に現れるのだ。不幸を伝染させるな、痴れ者が」
「上条さんだって好きで不幸を伝染させてる訳じゃないんですけどっ!? ていうか、現れたのお前の方だからな!」
「理屈は知らん。貴様が邪魔をした、ただそれだけだ。全く…ようやく気が乗り始めたというのに」
「えっと、あの……」
「すまんな、聖人。戦いは中断だ。此奴が起きた時点で、我々は何も出来ん」
玩具を取られた子供の様に不貞腐れ、宿儺はどかりと地面に座り込む。
両面宿儺と上条当麻の付き合いは決して長いとは言えない。だが、宿儺は上条当麻という人間の事を確かに理解している。
底抜けた善人。人を助ける事がもはや本能と言っても過言ではない程の善性を有する、『繋がる者』。
例え罪人であろうとも味方へと引き込んでしまう、“誰かと繋がる力”を有する少年。
その少年の強さを、宿儺は知っている。故にこれ以上の戦いは無駄であり、続行出来ないと判断したのだ。
「って、そうだ! なぁ、宿儺。完全記憶能力を持つ人間の容量に限界なんてあるのか!?」
「ある訳ないだろう、莫迦が。たかが完全記憶を持っている程度で容量が限界を迎える程、人の脳は脆くはない」
「ほら! 頭が良い此奴と小萌先生の二人が断言するんだ、間違いない!」
「そ、そんな……では、私達が今までやってきた事の意味は……」
「あぁ、成程。小娘の記憶を消していたのだな? 数年周期で記憶を消さなければ容量が限界を越えて死ぬ…といった所か」
「現場に居たっけ?って思うくらいその通りだけど……神裂の反応だけでそこまで辿り着けるお前何なの?」
「其奴の反応とお前の問いから予測を立てたまでだ。大した事ではない」
それはそれとして、と。宿儺は再び頭を巡らせる。
これから何が起こるのかなど容易に想像出来る。絶対に暇になる。この男の事だ、必ず宿儺を巻き込まんとしない。
宿儺が面倒事を嫌う事を知っているからこそ、上条は彼を誘う事はしないだろう。何より、最悪の場合は宿儺がインデックスを斬り捨てる可能性すらあるのだ。
面倒事は嫌いだ。だが退屈なのも考え物だ。どうしたものか―――
「宿儺、力を貸してくれ!」
「……は?」
予想外の発言に、宿儺は思わず面を食らった。
「お前が面倒事嫌いなのは分かってる! インデックスとだって、お前からすればたかが数日出会っただけの存在なのも! けど、お前の力が必要なんだ! インデックスを助ける為に、力を貸してくれ!」
「―――ケヒっ。貴様は、本当に……俺の予想を越えてくるな、上条当麻!」
高笑いが夜空に消えて、鬼人はそれを承諾した。
本当か! と、上条が下げた頭を上げる。
「小娘には魔術を幾つか学ばせてもらったからな。協力してやろう」
「ありがとう! やっぱ優しいな、お前は!」
「やはり下ろすか」
「だから何でだよっ!?」
場所は変わり、戦場と化す予定のアパートへ。
少年の右手がインデックスの舌に触れ―――その首輪を破壊した瞬間。
「―――警告。結界の貫通を確認。再生準備…失敗。自動再生は不可能と断定。現状10万3000冊の書庫の保護の為、侵入者の迎撃を優先します」
其処は、戦争の地と化した。
自動書記―――ヨハネのペン。十万三千冊もの魔導書を記憶した魔導図書館たる彼女を英国側が縛り付ける為に掛けられた魔術。
被術者の生命の危機など特定の条件を満たす事で発動するそれは、魔術師曰く戦争を迎えるのと同然であるらしい。
パキィン―――と、空間に亀裂が走る。黒い罅が空間を駆け巡り、その奥底で「何か」が僅かに顔を出す。
『聖ジョージの聖域』―――『幻想殺し』という対異能特化の右手を持つ上条当麻を破壊する為に、『首輪』が発動した魔術。
ギュウンッッッッッッ――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
蛇口から勢いよく捻り出された水の様に、裂け目から光の柱が飛び出て上条へと飛んでいく。
咄嗟に振り翳された右手がそれを打ち消す―――が、完全に消え失せる事はなく、それは常に光を増し続ける。
「ぐっ、うぉぉぉ!!!!!!」
「―――聖ジョージの聖域では侵入者に対して効果が見られません。他の術式へ切り替え、侵入者の破壊を継続します」
光が強くなる。熱が強くなる。それこそ正しく―――『竜王の息吹』。
「ほぅ…中々やるな、小娘。おい聖人、この魔術は何と言う?」
「何を呑気にしてんだよ!」「…おそらく、ドラゴン・ブレス。伝説にある聖ジョージのドラゴンの一撃と同義のこれは、光の粒子一つ一つの質がバラバラです。だから彼の右手でも対処が出来ない…!!」
「ふむ…なるほどなぁ―――ケヒっ。貴様も中々に面白いな、小娘!」
キィン――――――と。斬撃が空を撫で、少年を通り越して光の柱を斬り捨てる。
「捌」による魔術の切断。
光の柱そのものへの解析ではなく、その光の柱を発生する要因を作り出しているインデックスを解析する事で、その魔力から繰り出される魔術を斬るに最適化した斬撃。
それは、竜王の息吹すらも斬り裂いたのだ。
「―――警告。章節不明の術式による『竜王の息吹』の破壊を確認。神道、或いは仏教に連なる呪術による斬撃と仮定。『日本天部』から情報を入力、新薬師寺十二薬師大将より術式対象の対抗を開始。
『大威徳明王の天輪』による斬撃への適応完了まで、十二秒」
「神将の方陣…!?」
少女の頭上に、天輪が顕現する。
大威徳明王。またの名を摩虎羅と言う。しかしそれはあくまでも表面における真名。魔術の世界においての真名を、八握剣異戒神将魔虚羅。薬師如来を守護する十二柱の仏の一柱。布留の言の象徴。
その方陣が表すは、完全な循環と調和。即ち、ありとあらゆる事象への適応。究極の後出し虫拳である。
(成程。これまた奇っ怪なものだ―――あの方陣が回転すると共に、俺の斬撃は小娘には効き目が無くなるか。それに加えて、周りには妙な魔力を宿す羽……面倒だな)
残された時間は五秒。方陣の回転が完了してしまえば、捌を放ったとしても意味が無くなってしまう。
さらにはこのまま戦闘が続けば続く程、彼女はあらゆる事象に適応し、いつしか全ての攻撃が何の意味も為さなくなる。
取れる手段は少ない。回転を終える前に捌で仕留めるか、或いは―――魔術に対して無数の斬撃を一気に撃ち込んで斬り捨てるか。
「龍鱗」
人差し指と中指を立てる。
まるで、手に包丁を持つかの様に。
「反発」
魔術を見たのは数度。だが、既に魔術が如何なるものかは当の本人から教わった。
ただの斬撃であれど、それが無数となって魔術だけに対象を絞って撃ち込まれる。
「番いの流星」
それは未だ極致に至らぬ一閃。
ただ一つに対象を絞っただけの斬撃に他ならない。
だが―――『首輪』にしてみれば、十分以上の脅威であり、断頭の刃である。
「―――『解』」
嵐の如き無数の斬撃が、たった一つの『首輪』へと降り注いだ。
無情にも、羽は誰に触れる事もなく斬り裂かれた。