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「つまらん芸だ」
ただ一言でソレを一蹴し、キンッ―――と、斬撃を走らせる。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァっっっっっっっっっっっっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
絶叫が路地裏に反響し、青空へと登っていく。
出力が抑えられた斬撃が空を駆け、宿儺の前に立ち塞がる有象無象の五体へと確かな傷を刻む。
斬り飛ばされる指。斬り捨てられる腕。斬り抉られる足。四肢のいずれかの欠損―――言い訳の仕様もない、絶対的な致命傷だ。
一気に倒れ伏すスキルアウト。それを、まるで道端に転がる草を踏む様にして造作もなく踏み抜いて宿儺は表へと顔を出す。
「能力を封じる…というよりは、AIM拡散力場を乱す事で能力を扱えなくしたといった所か。やはりつまらんな」
気だるそうに溜め息を吐いたその瞬間―――ヒュンッッッ!!!! と、数本の釘が眼前へと顕現する。
キンッ、バキッ―――。
即座に斬り刻み、欠片になる事無く塵となって、宿儺に放たれた数本の釘は消え失せる。チッ、と宿儺は舌を打った。
「また貴様か。いい加減に鬱陶しいぞ、女」
「それは此方の台詞ですの。もうこれで何回目ですの? 此方としてもスキルアウトを何回も何回も病院に運ぶのは面倒でしてよ」
「知るか。俺は売られた喧嘩を買ったに過ぎん、正当防衛だ」
「貴方の場合は過剰防衛ですの! 何処に正当防衛で指や手足を斬り落とす輩が居りますの!?」
「此処に居るだろう。その歳でもう老眼か? 哀れだなぁ、女。それでは貰い手も来んな」
「だまらっしゃい!」
ギロリと、鋭い眼光を放ちながら宿儺を睨む少女―――名を白井黒子と言う。風紀委員に属し、何度か宿儺と対峙している『空間移動』の能力を持つ能力者である。
風紀委員。ジャッジメント。能力者の子供達による学園都市の治安維持機関の事である。校内を管轄として活動する、ある種の特殊部隊だ。
宿儺はこの風紀委員と、風紀委員とは違い大人である教員達による治安維持機関たる『警備員』に指名手配扱いされているのだ。
その為、もう何度も顔を合わせている。
「今日こそ貴方を捕まえますわよ!」
「ケヒっ、それも聞き飽きたぞ。まぁ、良い。丁度、暇を持て余していた所だからな。遊んでやる」
悪辣な笑みを浮かべて、宿儺は颯爽と踏み込み、白井の眼前へと拳を振るう。
フッ、と白井の体が消え、宿儺の頭上へと姿を表す。太腿に巻いたホルスターから寸鉄を抜き取り、殺すつもりで脳天目掛けて投げつける。
か―――
「ハッ、殺気が漏れているぞ、風紀委員!」
キンッ―――。
寸鉄は呆気なく切断され、宿儺は凶悪に嗤いながら地面を蹴って空へと跳ね上がって距離を詰める。
ブンッッ!!!
空中に居るにも関わらず、まるで体勢を保っているかの様に綺麗な蹴りが放たれる。
冷や汗をかきながら、白井は再び姿を消し、今度はすぐ近くのビルの真上へと自らを移送する。
(これですのよ、彼の面倒な所は! 『書庫』にも乗っていない詳細不明の能力、加えて人間離れした身体能力、さらには頭の回転すら速い! 『超能力者』の位置に立っていないのが不思議なくらいに彼は強いっ!)
「考え事をする暇があるのか、女ァ!」
高さにして6メートル。かなり大きなビルへとテレポートした筈の白井の眼前に、既に鬼人は迫っていた。
ズドンッ、ゴッッ!!!!
まるで砲弾が放たれた様に、振り抜かれた拳が直撃したコンクリートが凹み、抉れる。
両足に全力を込め、大きく後退する事で何とか躱す事が出来た。だが、やはり冷や汗が止まらない。
あの一撃が自分の顔面に当たっていたならば―――もはや顔が凹むどころでは済まなかっただろう。
「あーもうっ! 本当に何なんですの、貴方は!」
「さぁな。俺も知らん」
「自分の事なのにっ!?」
「興味も無いのでな。知る必要もない―――王手だ、女」
「なっ」
キンッ―――ザシュッ。
一閃が足首を裂き、力が傷口から抜き出す様に無くなってがくりと膝をつく。
『空間移動』という能力は確かに強力なものだ。『大能力者』に分類される白井の能力は、もはや『超能力者』にも匹敵する。
しかし、『空間移動』という強力な能力であるが故に、弱点が存在する。
学園都市における超能力には、『演算能力』という能力を使う為に欠かせない必須条件が存在する。
空間移動の場合は、移動する地点への演算。自身の肉体をその空間へと移動する為の計算式。
火を出す、風を吹く等の単純なものとは異なり、質量から座標までを思考する空間移動の演算は強い集中力を必要とする。
少しでも集中力が欠けてしまえば、移動する地点が僅かにズレてしまう事もある。
宿儺は意識の隙を突いて斬撃を放ち、白井の足首を斬り裂いたのだ。
「ぐっ…! また足首を切りましたわね!? 嫁入り前ですのよ私!」
「嫁入り前なら戦わなければ良いだけの話だろう。阿呆か、貴様は」
「不良の貴方にだけは言われたくないですわ!」
「学内成績は頭だぞ。しかし…その不良に無様に敗けるとは、哀れだなぁ?」
「くっ、やはり性悪ですわ! 生粋の悪人ですわ!」
「負け犬の遠吠えだな。さて、それでは俺は帰らせてもらうぞ」
「なっ、はぁ!?」
「貴様の能力なら、俺が傷を治す必要はないだろ。自分の足で帰るんだな」
「何を勝手な…って、え? 貴方、治療まで出来ますの? もしかして『多重能力』なんですのっ!?」
「さぁな。俺はそれを知らん」
鬼人は知らない。自分が何者であるかすらも、正確には分からない。
それに興味を示す事もない。自分が何者であるかなど、知る必要すらもない。
ただ思うがままに生きる。それだけの事だ。