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両面宿儺は堂々と、不機嫌を包み隠さずに断言した。
「つまらん。くだらん」
絹旗最愛と映画を見た感想は、その二つに尽きた。尽きてしまった。
そう。彼女が見る映画は等しくB級以下の映画。
超本業でハリウッド映画に挑んだにも関わらず結果的にC級になった天然ものが好みの彼女が見る映画である。
映画に関しては大して興味もないが、そこらには一般的な感性を持っている宿儺にしてみればそれはつまらない以外の何ものでもありはしないのだ。
「それが超良いんですよ。分かってないですねー、宿儺は」
「貴様の感性が終わっているのだ、莫迦が」
「超不機嫌ですね。私のチュロス食べます?」
「……貰おう」
手渡されたチュロスを受け取り、無遠慮に噛み付く。
今日は機嫌を害する事ばかりだ。宿儺はうんざりとして、そう零した。
朝っぱらからスキルアウトに絡まれ、風紀委員に絡まれ、そして全く面白みのない映画を見て。
これを不幸と言わずして何と言う。まさか上条の不幸が伝染したとでもいうのか…
不幸の避雷針の如き男が不幸を伝染させてどうするのだ。宿儺は不快であった。
「チッ…後で下ろす」
『なんでだよっ!?』
「今、誰かが理不尽に超叫んだ様な…」
「気の所為だ」
「そうですか」
後で上条当麻を下ろす。宿儺はそう決めたのであった。
チュロスを平らげ、早足で映画館から抜け出せば、既に時間は夕方に差し掛かっていた。
「夕刻か…思いの外、時間が掛かったな」
「映画は超長いものですよ。私は超楽しかったです」
「愉快な頭だ。第1位のたかが知れるというものだな」
「超どうでもいいですね。でも遠回しに馬鹿呼ばわりされるのは超ムカつきます。殴っていいですか?」
「貴様に一撃が入れられるか? 昔から、貴様が俺に一撃でも入れられた例はなかった筈だがなぁ」
「なら今からやってやりますよッ!」
隣に立つ可憐な乙女は、その小さな拳を握り締めて宿儺へと振り抜く。
此処に来るまでに散々煽られたのだ。一発くらい殴った所でバチは当たらねェだろ…!
『窒素装甲』―――オフェンスアーマー。
空気中の窒素を自在に操る事が出来るという、シンプルながら強力無比なスキル。
暗闇の五月計画において、『一方通行』の防御力の演算パターンを授かった彼女に相応しい力だ。
しかし―――それは、パシッと呆気なく止められた。
「なっ」
「呪力で覆えば簡単だ。…ん? あぁ、そうか。そういえば貴様は知らんのだったな」
「“御厨子”の事ですか?」
「違う。まぁ、教えんがな」
「えー」
「教えた所でどうにもならん。貴様に出来るものでもないしな」
「…それは、開発ですか?」
「違う。生まれついてのものだ。あの変態曰くな」
生まれついてから能力を持つ生粋の能力者を、学園都市では『原石』と呼ぶ。
宿儺の場合は分類上『原石』と呼ばれるものだが、その実態は能力と言えるか些か怪しい所ではある。
生得術式というのが正しい表現だが、残念ながらこの『世界』には魔術的な『呪術』こそあれ『呪術的』な術式は存在していないのだ。
魔力はあっても呪力はない。霊装はあっても呪具はない。この世界において、あの世界における『呪術』に関する知識を持っているのは、彼と彼を学園都市に溶け込ませた科学者だけなのだ。
「それより、宿儺。気付いてますか?」
「愚問だな。数は…六人と言った所か」
「超つけられてます。何が目的でしょうか?」
「能力者狩り、らしいぞ? なんでも能力を無効化出来る絡繰を手に入れたらしくてな」
「うわー…それでイキってる訳ですか。超くだらないですね」
「俺は経験済みだ。AIM拡散力場に干渉する、つまらん代物だった」
「それ、宿儺が超能力者じゃないから言えるだけですよ」
「さぁな。詳しい事は俺にも分からん」
「そうですか。…で、どうします?」
「相手をするのも面倒だ。行くぞ」
「了解で」
ぐっ、と。まるで猫を掴むかの様に絹旗のニットの襟を掴み、宿儺は彼女を肩へと担いだ。
当然、絹旗ははぁ!? と、非難の声を上げた。
「ちょ、何してンですか宿儺ァ!」
「鈍いからな。担いでやる」
「担いでやるじゃねェンですよっ! 担ぐにしても何でこんなやり方!? お姫様抱っことかあったでしょうが!?」
「貴様が姫…? はっ!」
「鼻で嗤いやがりましたねっ!? ほんっとに超デリカシーが無い! ていうかパンツ、パンツ丸見えです!」
「貴様がそんな珍妙な格好をしてくるからだろう。安心しろ、貴様の下着など見ても、一部例外を除いて興奮せん。貴様が痴女と見られるだけだ」
「何処にも超安心出来る要素ありませんが!?」
「喧しい奴だ。さっさと口を閉じろ、舌を噛む」
「まだ終わってあぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
女らしくない絶叫を上げながら、絹旗は宿儺によって風となったのだった。