蛇神様のナミダ   作:煮卵egg

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蛇神「耀閃」

──遥か昔──

 

世界各地に存在する『守護獣』、その一体で最強の守護獣と呼ばれる『蛇神』が居た。自然を愛しあらゆる生命の繁栄を見守ってきた蛇神だが、突如謎の死を遂げてしまう。

近辺に存在する守護獣たちは死の原因を探っていたが見つけることは出来なかった。

悲しみにくれる守護獣たちだったが、中には蛇神が居なくなったことに歓喜する者も居た。いつしか守護獣たちは対立し、長きに渡る戦争の末に世界の均衡は崩れ多くの生命が失われてしまった。

本来なら守るべき存在を犠牲にしてしまったことを悔やんだ守護獣たちの多くは不可侵の誓いを立て事実上の休戦状態に入った。

その後、守護獣たちは崩れてしまった均衡と世界の歪みの修正に徹するのだが、蛇神無き世界で自らの野望を果たす為に画策する守護獣も居た。

世界を手中に納め、新しい時代の王として君臨しようと企んでいた彼らだが、遠い未来で思い知ることになる。新たに生まれようとしている蛇神、その力がもたらす脅威と人間の底力を。

 

───────────────────────

 

──新暦573年『雨巳ノ国』──

 

自然豊かな島国である雨巳ノ国。人口こそ他の国と比べて少ないが、都市部では今日も賑わいを見せている。そして街から少し離れた渓流近くに小屋を建てのんびりと暮らす青年がいた。

 

「ふわぁ、あぁ……。そろそろ朝か。今日も働きますか〜」

 

青年の名は「仙花」。各地を転々とし人々の手伝いをして報酬を貰い生活をしている。和服風の普段着に着替えた仙花は愛用の刀と小道具の入った鞄を持って山を下り街へ向かった。

 

「あら仙花、おはよう。今日もお仕事?」

「おはようおばさん。前から依頼されてた仕事があったんだけど、なかなかこっちに来れなくてさ。今日は一気に片付けるつもり!」

「そうだったのね。まだ若いんだし、体には気をつけなさいよ? そうだ、これ待っていく? 今日のお昼ご飯、少し作りすぎちゃって」

「いいの?ありがとうおばさん! 困ったことがあったらウチに遠慮なく言ってね!」

 

仙花は受け取った小包を鞄に入れ目的地に向かった。最初の依頼は荷物運びと棚整理。依頼主は年老いた男性で最近は自分で荷物を運ぶことも難しくなってきたとの事だ。

 

「おじさんおはよう。あの荷物運ぶんだよね?」

「おお、仙花来てくれたのか。すまないね……忙しいのに」

「気にしないで。困った時はお互い様だよ」

 

積み上げられた荷物を数箱ずつ部屋へ運んで中身を開き、男性の指定する場所へ収納した。

 

二時間ほどして全ての荷物を運び終えた仙花は男性から報酬を受け取り次の依頼元へ向かった。

 

「よしっと。追加で請け負った分も配送終わったよ!」

「本当にありがとう仙花! 人手が足らなくて困ってたの。これ、少し多めにしといたから」

「ありがとう!またよろしく!」

 

そして更に数時間後、日が沈み始めたと同時に本日分の依頼を全て終えた仙花は近くの飲食店に立ち寄り、お気に入りの団子を頬張っていた。

 

「やっぱりここのお団子は最高だね。何本でも食べれちゃう。……ん?なんだろう」

 

街から誰かの悲鳴が聞こえた。仙花が視線を移すとそこには禍々しいオーラを纏った明らかに人では無い何かが現れ、今まさに街の人を襲おうとしていた。

 

「グルァァァァッ!!」

 

怪物の振り上げた拳が刃に変わり、逃げ遅れた女性に向かって振り下ろされる。

 

「お願い!誰か助け──」

「ガァァァッ!!」

 

凄まじい衝撃音が街に広がる。その場に伏せた女性が目を開けると、そこには怪物の攻撃を受け止めた仙花が居た。

 

「早く逃げて!」

「グルル……」

「お前、何者だ!」

 

両者共に距離を取り睨み合いになった。そして仙花は刀を構えたまま怪物に問う。

 

「言葉、分かる?」

「グルル……」

「お前、誰?どこから──」

「グルァァァ!!」

 

怪物が勢い良く仙花に向け突撃する。受け止めた仙花だがそのまま大きく後退した。

 

「ぐっ……力強い……!」

「ヘビ、ガ、ミ」

「えっ?」

「ヘビ……ガミィィィ!!!」

 

怪物は仙花の腕を掴み地面に叩きつけた後、建物に向かって投げ飛ばした。仙花は瓦礫の上で横たわり苦しみ悶えている。

 

「がはっ……うぐっ!」

「グァァッ!! 」

 

間髪入れずに追撃を繰り出す怪物だが仙花は転がり避ける。そして振り向きざまに斬り上げ、隙が生じた怪物を蹴り飛ばした。

 

「はあ……はあ……くそ、手応えがなかった」

 

怪物の胴体からは血が滴り落ちるが有効打とはならず、すぐに傷は塞がってしまった。対し仙花は頭から血を流し立っているのがやっとだった。

 

「グルル……」

 

再び睨み合いになったが怪物はそのままどこかへ姿を消してしまった。追いかけようとした仙花だが遅れてやってきた雨巳ノ国防衛隊の隊長に声をかけられる。

 

「仙花!大丈夫か!ここで何があった!」

「あ、おやっさん!やっと来て……く……」

「おい仙花!しっかりしろ!おい!」

 

意識が途絶え地面に倒れた仙花は防衛隊によって治療所に運ばれていった。防衛隊によって市民の避難が完了した後の街には崩れた建物の瓦礫と血痕のみが残っていた。

 

──────────────────────

 

──数時間後──

 

「うう……あれ、ここって……」

「起きたか仙花!良かった!」

「うっ、おやっさん声でかい」

「す、すまん」

 

防衛隊が運営する治療所で仙花は目を覚ました。部屋の外では怪我した市民の治療に奔走する救護班の姿があった。

 

「仙花、一体何があったんだ?市民からの通報では怪物が現れたらしいが」

「うん、急に悲鳴が聞こえて見てみたら怪物が居たんだ。人型だけど、明らかに人間じゃなかった。力も桁違いに強かったなぁ、ウチが力で押し負けるなんておやっさん以来だから焦ったよ」

「お前、よく生きてたな」

「……運が良かっただけ。怪物がどこかに行かなかったら殺されてた」

 

仙花は震える手を必死に抑えた。

 

「そういえば怪物が少し喋ったんだよ。確か、『ヘビガミ』って」

「なんだって?!本当にそう言ったのか?!」

「お、おやっさん……痛い……」

 

隊長は仙花の肩を掴み体を揺らすが、すぐに冷静さを取り戻し椅子に座り直した。

 

「蛇神様って、大昔に死んじゃってもうこの国に居ないんでしょ? 他の国の守護獣は生きてるのに」

「そうだ。しかしどの文献にも蛇神様が亡くなられた理由は書かれていない。一説には、既にどこかで転生されているかも、と。しかしなぜその怪物が蛇神様を……」

「ねえ、おやっさん」

 

仙花はある提案をする。

 

「蛇神様を探すだと!? 本気で言ってるのか!?」

「だ、だってどこかにいるかもしれないし。それにさっき、転生してるかもって言ってたでしょ?」

「ただの一説だ。それに一切の手掛かりも無いんだぞ。過去にどれだけの捜索隊が派遣されて失敗に終わったか……」

「その時はまだ転生してなかったんじゃない? ウチ、探してみる!」

「あのな……はあ、分かったよ。とりあえず怪我が治ってからだ。俺も情報を集めてみるが、一つだけ約束しろ。無理だけはするな。蛇神様が人間と関わりを持つことを望んでいるとは限らない。もしも蛇神様の逆鱗に触れてしまったら……」

「わ、分かったよ……」

「分かればいい。あとは任せて寝とけ」

 

絶対に抜け出すなよ、と隊長に釘を刺された仙花はベッドの上で眠りについた。防衛隊隊長は蛇神の居場所、そして他国の守護獣とその動向について整理し始めた。今の雨巳ノ国には守護獣がおらず、いつ他国に侵攻されるか分からない。

守護獣への対抗手段を有していない雨巳ノ国が侵攻された場合、一方的に蹂躙されてしまうことを隊長は知っていた。だからこそ仙花の提案を断ることが出来なかった。

隊長は仙花が目覚めるまでの二日間、ひたすら各所を巡り情報を集めたのだった。

 

─────────────────────

 

「おい仙花!まだ完治してないだろ!戻れ!」

「ごめんおやっさん!もう大丈夫だから!」

頭に包帯を巻いたまま仙花は治療所を後にした。隊長から貰った情報の中で気になることがありいても立っても居られず半ば抜け出す形になった。

 

「よし!蛇神様捜索、始めるぞー!」

 

仙花は動ける範囲で捜索を開始。立ち寄った別の街で聞き込みなどもしていたが有力な情報は得られずにいた。

そして捜索開始から一ヶ月後。

 

「あーあ、全然見つからないや。蛇神様関連の神社の近く見て回ったのに何も無かった。はあ……」

 

小屋でため息をつく仙花は周辺地域の地図にバツ印をつけ終わると床に寝転がった。

 

「やっぱり、どこにも居ないのかな。あれから怪物も姿を見せてないみたいだし、うーん……」

 

気分転換に風呂でも入ろうかと小屋の外に出たその時、遠くから怪物の雄叫びが聞こえた。

 

「グルァァァァ!!!」

「この声って……まさか!」

 

仙花は急いで声の元へ向かった。森林を駆けていき怪物の姿を捉えた仙花は勢い良く跳躍し首に目掛けて抜刀した。

 

「グァッ?! グルルルガァァ……!」

「やっぱり手応えが無い……どうして?」

 

斬ったはずの怪物の首は既に治癒されており不意打ちは失敗に終わった。

 

「久しぶりだね。また街に行くの?」

「ヘビ…ガミッ!!」

「蛇神様はどこにも居ないよ。大昔に死んじゃって」

「ガァァァッ!!!」

 

邪魔をするなと言わんばかりに払い除けてどこかへ向かおうとする怪物を仙花は全力で追いかけた。

 

「やばい、見失う!」

 

凄まじい速さで森林を駆け抜ける怪物に段々と距離を離され始めたその時だった。

 

「グァ?!グルァァァ……!」

「なっ、地震!?こんな時に!」

 

山全体が揺れ動き二人はその場で身動きが取れなくなった。怪物はそれでも大きく跳躍し離れた場所へ着地すると仙花の方へ振り向いた。

 

「待ってくれるなんて……うわっ!嘘、そんな……うわぁぁぁ!!」

 

怪物が大きく跳躍した理由、それは地割れだ。仙花の立っている場所は既に足場が大きく崩れ、そのまま大穴へと落ちていった。

 

「グルルル……」

 

怪物は奈落へ落ちていく様子を観察した後またどこかへ姿を消した。しかし怪物の雄叫びは雨巳ノ国都市部まで届いており防衛隊は既に厳戒態勢だ。そして怪物が再び都市部に現れたのは十数分後のことだった。

 

───────────────────────

 

「うっ、いたた……うわ、ここまで落ちてきちゃった。どうしよ」

 

仙花は周りを見渡すが何も見えない。辛うじて自身の体がぼんやりと見えているだけだ。仙花がどうするべきか考えていたその時、謎の声が響き渡る。

 

「怪我は無いか?人間よ」

「えっ? は、はい!大丈夫です!あの、あなたは?」

「丁度退屈していたんだ。話し相手になってくれないか?」

「あ、えっと……」

早くここから出なければならない、しかし出る手段も無い。仙花は悩んだ末に話し相手になることを承諾した。それからしばらくの間、仙花は姿の見えない相手と会話を続け、いつの間にか怪物についての話題になった。

 

「ウチの刀じゃ斬っても斬れなくて」

「その刀、少し見せてはくれないか?少し上に掲げるんだ」

仙花は言われた通りに刀を抜き上に掲げた。声の主は少し考え込んだ後口を開いた。

 

「ふむ、[[rb:邪気 > ・・]]が付着している」

「邪気って、なんですか?」

「体内に流れているエネルギーのような物だ。循環するエネルギーを断ち切らない限り無限に回復し倒すことは出来ない。しかし凄いな……人間が[[rb:妖獣 > ・・]]に少しでも対抗出来るなんて」

「妖獣……?それが怪物の名前ですか?」

 

仙花は妖獣について詳しく聞こうとしたが、声の主も詳しくは知らないことが多いらしい。知っていたのは名前と動力源、そして誕生の経緯だ。

太古の昔に起きた守護獣同士の戦争によって世界が歪んでしまい、その影響で生命が死の直前まで持っていた負のエネルギーが世界に滞留、突然変異を起こし妖獣として具現化してしまったとの事だ。

 

「どうやったら倒せるんですか?このまま放っておいたら、また街が!」

「妖獣の持つ邪気を断ち切れるのは、守護獣の持つ『神気』だけだ。その神気を扱うことが出来れば、人間でも邪気を打ち倒せる」

「そんな……守護獣って言っても、もうこの国には居ないんです。大昔に死んじゃったから」

「そうらしいな」

「どうしようもないのかな……」

 

仙花は膝を抱えてうずくまった。

 

「蛇神様を探し出すって言い出したのはウチなのに、結局何も──」

「お前は、この国が好きか?」

「えっ?」

「簡単な質問だ。どうだ?」

「好き、です。ずっとこの国で生活してきて街の人にも良くしてもらって、毎日が楽しいんです。時々無茶しておやっさんに怒られたりするけど、それでも楽しいです。だからこの日常が壊されるのは嫌なんです」

声の主はその答えを聞いて満足しているようだった。

 

「先程、この国には守護獣が居ないと言ったな?探していたが見つからなかったと」

「はい、どこを探してももう無意味──」

「私の姿をよく見るんだ。お前にはもう[[rb:見えている > ・・・・・]]はずだ」

 

仙花が顔を上げると同時に周囲が眩い光に包まれ、徐々に視界が鮮明になっていくと声の主の正体も顕になった。目の前に現れたその存在に仙花は思わず息を呑んだ。

 

とぐろを巻く純白の巨体に黄金の瞳、鋭利な牙が生えている口元から時々長い舌をチラつかせ仙花をじっと見つめている。その姿は正しく大蛇そのものだった。仙花が座っている場所さえも大蛇の体の一部である。

 

「私が、お前の探していた蛇神だ」

「嘘……本当に蛇神様?」

「ああ。雨巳ノ国守護獣、蛇神の「耀閃」。それが私の名だ。お前の名は?」

「は、はい!ウチは仙花です。蛇神様、その……」

「せっかく名を教えたんだ。耀閃と呼んでくれ。私も仙花と呼ばせてもらう」

耀閃に名前を呼ばれると仙花は白い光に包まれた。

 

「それが『神気』、その力で妖獣を倒すんだ。さあ、行ってこい」

「凄い……力が漲る! 蛇神様、いえ耀閃様! ありがとうございます!よーし、ふっ!!」

「おおっ」

 

神気を纏った仙花は早速その力を使って大きく跳躍し奈落の底から脱出、建物が崩壊し炎が上がっている都市部へ急いだ。

 

「神気の使い方を直感で理解したのか、何となく出来たのか、どちらにせよお前には素質がある。さて、お前がその力をどう扱うのか見せてもらうぞ」

 

耀閃の体が白く輝き始めたとほぼ同時、仙花は街へ到着し妖獣と防衛隊が戦闘している中央広場へと急いだ。

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