プロジェクト・ファンタズマ   作:外清内ダク

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MISSION#01 再来 "Wieder zu kommen"
#01-01 ツヴァイト


 

 

 ツヴァイトは舌打ちをした。

「あんの野郎ォ……面倒な仕事おしつけやがって」

 ここは、ツヴァイトがねぐらにしているアイザック・シティから遥か離れた辺境の地。地下都市アンバー・クラウンの近くにある、薄暗い森の中だ。

 敵の哨戒網が厳重に張り巡らされていて、うかつに動けない。熱が探知されるとまずいから、エアコンも使えない。狭いコックピットにカンヅメ状態で、はや一時間と少し。

 ただでさえ暑っくるしい、アーマード・コアのコックピットにである。ツヴァイトでなくても嫌気がさしてくる。

 ボトルに残った最後の水を飲み干すと、ツヴァイトはタオルで額の汗をふき、濡れたタオルをシートの下にねじ込んだ。タオルはもうぐしょぐしょで、汗の一滴も吸い取りゃしない。ついでに、空のボトルも足元に転がしておく。

 ツヴァイトは盛大にためいきついた。

 ほんとうなら、いまごろ、アイザックのきれいなおねえちゃんをはべらして、ドンペリでもあおってる頃だというのに。

 というのも、全部あいつのせいである。あの、童顔の相棒のせいだ。

 

 

「アンバー・クラウン?」

 ツヴァイトはオウム返しに聞くと、あいつは――エーアストは、手に持っていたハードコピーをよこした。

 ソファに寝っ転がったまま、ツヴァイトはコピーをうけとる。どうやらそれはメールをプリントアウトしたものらしい。ヘッダとフッタであろう、謎のアルファベット配列に挟まれて、短い文章が変な改行位置で記されているのだった。

>君を有能なレイヴンと見込んで依頼する。ある地下組織に囚われた

>要人を救出して欲しい。

>その人物は、アンバークラウン東部にある、組織の基地に監禁され

>ている。君が基地に侵入したら、その人物自身も内応して脱出をは

>かる手筈になっている。

>報酬は40000COAM。詳細は追って連絡する。なお事情があ

>ってそちらの返事は受け取れない。絶対に、このメールに返信しな

>いこと。

 で、あとは電子署名だ。

 ツヴァイトは最後まで読み終えもせず、ハードコピーを投げ捨てた。二人が隠れ家にしているアイザック郊外のボロ倉庫は、まるで豚小屋のように薄汚れている。油をよく吸った汚い埃の上に、白い紙が舞い落ちた。

 エーアストはこれみよがしに顔をしかめて、黒く汚れたハードコピーを拾い上げる。ツヴァイトと違って、女の子みたいにきれいな彼の顔が歪むというのは、見ていて不気味な快感を呼び起こすものでもある。

「あのよォ、エーアスト」

「なに?」

「んなメール一つで、ほんとに信じてるわけじゃないよな?」

 ハードコピーの汚れは深刻だ。エーアストは顔をしかめたまま、汚れていないところを指でつまんで、そのままゴミ箱に放り込んだ。

「信じてるよ」

「どぉ考えたって怪しいだろうが!」

「ちゃんと読んでよね。ネストの署名コードつきだよ」

 ようやく、ツヴァイトはソファから起きあがった。

 ネスト――レイヴンズ・ネスト。ある種の傭兵派遣組織だ。クローム社とムラクモ・ミレニアム社の武力衝突が日に日にはげしくなってくる昨今、大にぎわいを見せているのが軍需産業である。もちろん兵器だけではなくて、兵士をあつかう商売も大盛況。その中での最大手が、レイヴンズ・ネストというわけだ。

 アーマード・コア――ACと呼ばれる大型のロボット兵器を操り、どこの会社にも所属せず、ただ報酬に応じてどんなきたない仕事でもこなす傭兵、それがレイヴンである。そのレイヴンをまとめている組織だから、レイヴンズ・ネストというわけだ。

 エーアストもツヴァイトもレイヴン。このメールを送ってきたのも、ネストの署名コードを持ってるんだからたぶんレイヴン。レイヴンとレイヴンは、お互いに匿名であっても、ネストを介して100%間違いない身分証明をかわすことができる。便利な世の中だ。

「これは、ネストを介した正式な依頼なんだ。信用できるよ」

「あ、そ……。ま、どうせひとごとだ、好きにやってくれや」

「ひとごとじゃないって。きみが行くの」

「ああ!?」

 今度はツヴァイトが顔をしかめる番だ。猿みたいに顔をくちゃくちゃにして、エーアストを見れば……向こうは涼しげに微笑んでいる。いかん、だめだ、もう押しつけた気でいやがる。こいつのペースにのまれてなるものか。

「なんでオレが! 冗談じゃねえ、こんないかにもワナはって待ってますよみたいな仕事だぁれが」

「スクラップ地区のぼったくりバーで女の子にひっかけられたんだって?」

 ぎく。

 頭のてっぺんから冷や汗がだらだら流れてくる。一体なんでばれたんだ。いやいやそうじゃなくて。エーアストは相変わらずのすまし顔。だがその後ろに見えるカゲロウのようなオーラは一体なんだ。

 いかん。だめだ。かなり怒ってる。ツヴァイトはしかめっつらをいきなり愛想笑いに切り替えて、後ろ頭なんぞかきむしりながら、エーアストの前でバッタのようにへこへことこびへつらい、

「いやっはははは! それがまたかあーわいい子でさあ! リンファっつったかなあ、親元はなれてホウシァンから出てきたばっかの、かわいそうな15歳! いやもう健気で大人しくってこう二の腕のところにぴったり寄り添ったりしてな?」

「請求書、見る?」

「ごめんなさい行ってきます……」

 ツヴァイトは迷わず土下座した。

 

 

「ちっくしょうっ! 帰ったらぜったいはたいちゃるっ!」

 悪態を吐きながら、コンソールに指を走らせる。待機モードになっていたモニタが淡い光を放ち、カメラアイが捉えた画像を映し出す。カメラは遥か森の向こう、むきだしの岩壁を映し出している。あの岩壁のどこかに、秘密基地のゲートが隠されているという。

 秘密基地! トイレの中まで誰かが監視してるかもしれないこのご時世に、秘密基地とは恐れ入る。当の本人達がどんなつもりでいるかはしらないが、情報はつつぬけである。

 そのとき、一機のヘリコプターが空から舞い降りてきた。ヘリは岩壁の前にホバリングしている。ツヴァイトはカメラアイを操作して、そのヘリの映像を拡大する。しばらくすると、岩にしかみえなかった壁が、低い駆動音を響かせながら、ぱっくりと口を開く。その中には、赤いビーコンの光。

 ヘリが穴の中に入ると、すぐさま秘密の扉は閉ざされる。

 大当たり、だ。

「開けゴマってなもんだ」

 一時間も汗をかきかき待ってたかいがあったというものだ。

 ツヴァイトの指が再びコンソールを走ると、彼を包んでいた鋼鉄のカンオケが低い唸り声を出し始める。

 土気色の地味な巨体が、ゆっくりと立ちあがる。肩や腰に何枚もの分厚い装甲板を着込んだ、全長7メートルあまりの巨人。その名は「ヴィーダー」。ツヴァイトの愛機。重量級二脚型アーマード・コア。

 巨大二足歩行ロボット兵器。冗談みたいな本気の兵器だ。

「さァて」

 ツヴァイトはぺろりと舌なめずり。操縦桿を固く握りしめる。

「任務開始といこうかね!」

 ヴィーダーのパルスライフルから、パルス曳光弾のリング型ビームがほとばしった。

 

 

(つづく)

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