プロジェクト・ファンタズマ   作:外清内ダク

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#03-02 突入作戦

 

 

 作戦開始まであと10秒。

 ツヴァイトは大きく息を吸い込んだ。

 その瞬間、森の向こうで爆発が起こる。くだんの秘密基地が隠されていた岩山だ。

 ツヴァイトたちと合流した、総勢30機近くのムラクモMT部隊。そこに配備されていた長距離砲撃担当のMT「東雲」が、ツヴァイトとスミカの活路を開く。

 樽に手足が映えたようなフォルムの東雲が、肩に背負った二連カノン砲を容赦なく撃ちまくる。その弾幕を頭の上に眺めながら、ツヴァイトはぺろりと舌なめずりした。

「行くぞスミカ」

『りょーかいまかせて』

 森の中で息を潜めていたヴィーダーとコーラルスターが、その体を覆っていた黒いビニールシートを一機に剥ぎ取る。月夜に照らされる二機のAC。二人はそのまま、ブースト全開で基地に向かって突撃する。

 岩山から顔をのぞかせた固定砲台が、ヴィーダー目がけて一斉掃射。ツヴァイトはペダルを踏み込み、ヴィーダーにランダム回避運動を取らせながら、全ての攻撃を一手に引き付ける。

 装甲をかすめる徹甲弾も、ヴィーダーの複合三重スペースド装甲は貫けない。

 その隙に、ヴィーダーの後ろからとびだした蛍光ピンクのコーラルスターが、正確無比な射撃で、全ての砲台をかたっぱしから撃ち抜いていく。まさに一射一殺。強化人間の目があればこその芸当だ。

 ツヴァイトは思わず口笛を吹いた。わずか十数秒で砲撃がほとんど止んでしまった。恐るべき技量である。

「やるねえ」

『まーね、まかして!』

 陽気なもんである。昨日の夜はあれだけ落ち込んでいたというのに。まあ、元気がいいのは良いことだ。ツヴァイトは思わずにやにやしながら、ペダルを思いっきり踏み込んだ。

 ヴィーダーの巨体がブースターの推力に押し上げられて、夜の森の上を舞う。東雲の砲撃でぶちやぶられた秘密ゲートに躍り込み、そこでちょうど砲撃を始めようと準備していたナースホルンを、プラズマトーチで両断する。

 まだぎちぎち動いているナースホルンの四本足に、とどめの一撃を食らわせてから、ゲートの奥の様子をうかがう。ヴィーダーの双眼カメラアイが精密なサーチ画像を捉える。

 予想通り、もう敵の姿も動く砲台の姿も見えない。東雲部隊への迎撃で、ここの戦力は手一杯なのだ。

『中はどう?』

 通信を送りながらスミカのコーラルスターが身軽に飛び込んでくる。ゲートの中の灯りに照らされ、蛍光ピンクの装甲が目にいたいほど照り輝く。

「いけそうだ」

 ツヴァイトはゲートの外の空に向かって、パルスライフルのリング曳光弾を撃ち出した。きらきらとまぶしいプラズマ弾が、夜の空に昇っていく。

「こちらレイヴン、侵入ルートを確保した。野分隊の突入求む」

『こちら野分隊、了解した!』

 と、言ったがはやいか、一機のMTがツヴァイトの目の前に飛び込んでくる。

 赤黒く塗装された四脚型MT、「野分」である。大きなボールから四本の脚が生えた、タコみたいな形をした強襲用の機体。ボールはコックピット兼砲台。四本の足にはローラーがついていて滑るように高速移動する。おまけにコックピットボール下部のスラスターで、三次元移動もできるという優れものである。

 動きが速くて、小さくて、上下に強い。まさに要塞攻略のために作られたかのような、ムラクモご自慢のMTだ。

 しかし、勇んでゲートに飛び込んできたのは一機だけか。ツヴァイトが不思議な顔をしていると、

『よくやったレイヴン! あとはこのムラクモミレニアム極西方面軍薬師大隊所属野分隊隊長ミラージュとゆかいななかまたちに任せておきたまえ!!』

「……あ?」

 目の前の野分から、男の声で通信が入る。

『さあいくぞっ! 総員! とォつげきィ――――ッ!!』

 その瞬間。

 いきなりゲートの外から、十数機の野分が次々飛び込んできた。なんだかあっちこっちで激突しまくっているが、気にも留めない豪快さで、こんがらがりながら基地の奥へと突っ込んでいく。

『ふざけんなてめーミラージュ!』

『誰が隊長だ勝手なこと言ってんなコラァー!』

『さあまずは第一区画から制圧するのだ! 行くぞカンバービッチ君!』

『第一区画はそっちじゃありませんミラージュさん』

 なんだかがやがややりながら、野分隊の姿は見えなくなった。

 急に静かになった場の空気に、ツヴァイトはぽりぽりと頭を掻いて、

「……なんだ? あの騒々しいのは?」

『よくわかんないけど、補給部隊が追加弾倉持ってきてるし、弾切れの心配はないわね』

「は?」

『それよりツヴァイト、わたしたちも行きましょ。はやく施設を制圧しないと、連中があれを動かすかもしれないわ』

 あれ、というのは、無論ウェンズディ機関が開発を進めているという新型兵器ファンタズマのことである。それがどんな兵器なのかは誰も知らないが、もしそれが出てきたら厄介な相手になることは間違いない。

『目標は、最深部のメインコンピュータ。こいつさえ押さえてしまえば、ファンタズマの起動もできないはずよ』

 もちろん、こちらがそれを狙うことは、敵だって百も承知だろう。となれば。

 出てくる。奴が。

「了解」

 ツヴァイトは大きく深呼吸をすると、気合いを入れてペダルを踏み込んだ。

 

 

「第一区画甲乙層制圧されました! 敵野分隊丙層に侵入します!」

 オペレーターの悲鳴が作戦司令室に響き渡る。ウェンズディ機関幹部達は、つぎつぎに赤いマーカーで塗りつぶされていく館内地図を睨み付けながら、額に浮かぶ冷や汗を必死にぬぐい取っていた。

「丙層第一から第七までの隔壁を閉鎖だ」

「だめです……間に合いません! 内部からシステムに侵入、ゲートの制御を乗っ取られました」

 小さく幹部は舌を打ち、

「第一区画は捨てて第三区画に退避! 隔壁を閉じて立てこもれ」

「了解っ……」

 その命令を下したとたん、第一区画の隅でなんとか白い色を保っていた層が、一瞬にして赤に塗り込められた。白い三角印のコマが第三区画へ雪崩れ込み、その背後に隔壁の閉鎖を示すバツ印が灯る。

 ようやく、赤い光の電撃的な侵攻は止まった。

 その場の誰もがほっと息を吐いた。司令室中の空気が、一気に緩んでいく。

「……速すぎると思わないか?」

 右隣でじっと戦況を見つめていた別の幹部が、ひそひそと耳打ちする。それに左隣の幹部も反応して、

「非常に由々しき問題だ。これほど素早く第一区画の制御を乗っ取るなど、外部の人間の仕業とは思えない」

「内通者がいる……か」

 だが、どうする?

 せめて戦闘が始まる前に気付いていれば、内通者狩りもできただろう。しかしこの状態でそんなことをすれば、かえってこちら側の混乱を増すだけだ。とはいえ、放置しておけば間違いなく戦術上の癌になる。

 どうする?

 迷う幹部の耳に、再びオペレーターから悲鳴が届く。

「あ……第三区画甲層の第一隔壁に異常発生!」

「どうした?」

「これは……熱量兵器で隔壁を切り開こうとしています」

「馬鹿な。あの隔壁を破るトーチが野分に装備されているなど、聞いておらんぞ」

「映像、モニタに回します」

 次の瞬間、幹部の目の前に表示されたのは、左腕に内蔵されたプラズマトーチで、隔壁をぶちやぶりにかかっている二機のAC。一機はこのあいだスミカを連れ出したあのACで、もう一機は見慣れない蛍光ピンクのACである。

 幹部は拳を握りしめた。AC用の装備には、近距離の格闘戦などという非常識な目的の為の、通常では考えられないほど大出力のプラズマトーチが存在する。あれにかかっては、隔壁など破られるのも時間の問題である。

「くそいまいましいレイヴンどもめっ!」

「ど……どうしますか?」

「奴らの侵入経路にある隔壁を全て閉じろ! 時間稼ぎにはなるっ」

「はいっ」

「それから、ありったけの地雷を施設内部に敷設。基地の被害など気にするなと伝えろ。あとは……そうだ、奴は、スティンガーはどうしている?」

「現在、ガレージにて待機中」

「馬鹿な! なぜ待機などしているんだ肝心な時に! すぐに出撃させろ!」

「しかし、ヴィクセンはまだ修理中で……」

「かまわん、とにかくACに乗せて出せ! あれが起動するまでの足止めになればそれでいい!」

 いきり立った幹部の拳がモニタを叩いた。

 と、その時だった。幹部達の背後で、空気圧の漏れる音を響かせながら、扉が開いた。

 幹部は振り返り、流れるように扉から入ってきた白衣姿の女性達を一瞥すると、それっきり興味を失ったかのようにモニタに向き直る。 

「技術局が何の用だ? おまえたちは、黙ってあれの起動をしていればいい」

「き、貴様っ!?」

 突然左隣の幹部が腰を浮かせた。

 中央の幹部が、事態に気付くよりも先に。

 銃声。

 

 

(つづく)

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