プロジェクト・ファンタズマ   作:外清内ダク

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エピローグ
エピローグ


 

 

 珍しく晴れ渡った青空の下、ほとんど残骸と化したヴィーダーの積み込み作業は進んでいた。

 アンバークラウン直上のセントラル空港、その滑走路の一番隅で、小型の輸送シャトルに、コンテナが運び込まれていく。あの中に入っているのがバラバラになったヴィーダーのパーツたちだ。

 アイザックに帰ってからゆっくり組み直せば、たぶんまた動くようにはなるだろう。手間と金がかさむだろうが。

「はあ――――っ……」

 ツヴァイトはにくったらしいくらい真っ青な空を見上げて、長く細く溜息を吐いた。

 気分は憂鬱。懐はからっぽ。スモッグに覆われて滅多に晴れない空だというのに、なにもこんなときに限って、当てつけみたいに晴れなくてもいいじゃないか。空の爽やかな青色と、心のどろどろしたブルーが、同じ色のはずなのに見事なコントラストを作っている。

「ねーツヴァイト、あいつ大丈夫かなあ」

 後ろで女の子の声がする。振り向けば、見送りについてきたスミカの姿。それどころじゃないやい。ツヴァイトはぶち壊れた愛機を思って涙目になりながらも、何とか腹の奥から言葉をひねり出した。

「大丈夫だろ。エリィが責任持つって言ってたんだから」

「そっか……そうだよね」

 あいつは――スティンガーは、あのあとツヴァイトの手で、ファンタズマのコックピットから引きずり出された。

 神経接続のために、四肢を切断された、無惨な姿で。

 一足遅れて駆けつけたエリィが引き取ると言わなかったら、ツヴァイトたちには、スティンガーを助ける術はなかっただろう。

 エリィなら――ムラクモの技術なら、高性能な義肢を用意するのも大して難しい話ではあるまい。あとはあいつが、自分のかかえた面倒事に、自分で決着をつけるだけ。本当の意味で、亡霊とうまい関係を築いていけるかどうか。それだけだ。

 たぶん、うまくやるだろうと思う。そう信じたい。

 死んだ人間のためにできることはないが、死んだ人間が心から消え去ることもないのだから。

「まっ、なんだかんだで組織も潰れたし、ファンタズマ計画も阻止したし! これで良かったんだよね?」

「知らねえぞ? オレに聞くなよ、オレに」

「あんたねー。こういうときは、嘘でもめでたしめでたしって言うもんよ」

「そうかい」

 ひょいと肩をすくめて、ツヴァイトは苦笑する。こいつは大丈夫だ。この性格なら、何があったってうまくやっていける。死ぬまで楽しく生きていくだろう。

 その時、シャトルの後部ハッチから、雇われの運搬員が顔を覗かせた。ツヴァイトのほうにぶんぶん手を振りながら、

「積み込み終わりましたぁー! 発進しますよー!」

 ようやくこの街ともお別れだ。別に思い入れなんてものはこれっぽっちもひとっかけらも全然全くないのだが、いざ離れるとなると、少し感傷的な気分にもなる。

「これでやっと、あんたともおさらばか。やれやれだ」

「まったまたあ。そんなこと言って、寂しかったりするんじゃないのぉ?」

 だが面と向かってそう言われるとひねくれたくなる。

「馬鹿言え。せーせーするぜ」

「あーそうですかほーそうですか」

 ぶうたれるスミカを滑走路に残し、ツヴァイトは一人、シャトルに乗り込む。タラップに脚をかけたところで、背中にスミカが声を掛ける。

「ツヴァイトっ!」

 ふとツヴァイトは振り返った。

「いろいろありがとっ! 何かあったらまたお願いね!」

 知るかよ。と思いながらも、ツヴァイトは笑いながら手を振り返す。そしてそのまま、シャトルの中に乗り込んだ。

 ツヴァイトの寂しげな背中の後ろで、シャトルのハッチが音を立てて

「今度は、格安でね!」

 閉まる。

 ……格安?

「あっ!」

 唐突に大事なことを思い出し、ツヴァイトはヴィーダーばりに急速反転、ハッチの小窓にへばりついた。滑走路で元気良く手を振っているにこやかなスミカ。顔に貼り付いた満面の笑み。

「そういやてめえ報酬はどうしたっ!? せめて最初に助けた分くらいは払えよおいッ!!」

 にっこりにこにこ。なんにも聞こえないといった顔で、スミカはぱたぱた手を振り続ける。

 ……気付いてる!! あいつ絶対気付いて知らないふりしてやがるっ!!

「こらまてスミカッ! 金払えおい! こんなとこまできてただ働きの大損かっ!? ええいハッチ開けよおいどおうわああっ!?」

 いきなりシャトルががくんと揺れる。猛烈な加速でシャトルが飛び出す。パイロットもなしの完全自動操縦で、真っ青な彼方の空へ向かって。空の向こうのアイザックへ向かって。

「ちょいまて! 止まれ! 引き返せ――――っ!!」

 ツヴァイトの叫びが、シャトルの中に虚しくこだました。

 

 

 空の向こうに、きらりと輝き、シャトルの姿が見えなくなって――

 スミカは顔から微笑みを消すと、今度はにやりとほくそ笑んだ。

「めでたしめでたし。これにて一件落着!」

 そしてスミカは踵を返す。両の手のひらを頭の後ろで組んで、意気揚々と歩きながら、青い空に思いを馳せる。

「さーってと。これからどうしよっかな」

 スミカの心を擽るように。

「とりあえず、いい男でも見つけるかあ!」

 爽やかな風が、吹き抜けていく。

 

 

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