青空DAYS   作:Ziz555

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先生は概ね原作通りなので、原作と同じ展開のシーンは全部省きます。


趣味の落書きなので……


プリーズ・テル・ミー

「トリニティの補習授業部?」

"そう。トリニティの生徒会の子に頼まれちゃって"

 

 今日も今日とて事務作業を進めながら、そんな話を先生は切り出した。

 

"なんだか結構まとまった時間が必要みたいで、その期間はシャーレの仕事も一度止めようと思ってるんだ"

「……事務ぐらいなら俺でやるけど?」

"でも結局、私の印鑑無いとそこまでやること無いと思うよ?"

 

 事実、センジョウのこなす事務は、先生が行った/行うべき仕事に関する物ばかりなので、先生が特別な仕事に選任している限り、それらの書類が完了されることはあり得ない。

 つまり、割りと無駄なのだ。

 

"というわけで、センジョウにはしばらく、ミレニアムのセミナーのお手伝いに行って貰おうと思ってる"

「……ユウカの所に?」

 

 センジョウは、今ここにはいない、けれどめちゃめちゃ縁の有る少女の、露骨に嫌そうな顔を思い浮かべる。

 

"……そこまで嫌そうな顔しなくても良いんじゃない……?"

「え、ああ……いや……なんか、小言言われるイメージしかなくて」

 

 それはどちらが悪いのかと言うと、まあどちらも悪いのだが。

 

「……まあ、さんざん世話にはなったし、今までの当番分のお返しになるか」

"そう言うこと。……この前言ってた、ヒマリの用意したセンジョウのための物も完成してるみたいだから、ちょうど良さそうだしね"

 

 ヒマリの誇らしげな顔を思い浮かべ、センジョウは疲れたような顔をする。

 

「……なんだか、面倒事になる気しかしねぇ」

"みんな、なんだかんだ良い子達だから……"

 

 ゲヘナとはまた違う方面でトラブルメーカーだらけのミレニアムは、まあ、治安は良いのだが、真面目な性格のセンジョウにとっては、楽しくとも疲れる場所であるのは間違いは無かった。

 

「……まあ、言われたからには行くけど」

"お互い頑張ろうね"

 

 先生は、軽く握りしめた拳をぐっと差し出す。

 センジョウはそれに軽い笑みを浮かべると、拳を突き返して、軽く合わせる。

 

 言葉はなくとも、そこにはたしかな信頼があった。

 

 

 

 その後、ミレニアムの宿直室に間借りしたセンジョウは、キヴォトスに来て、初の長期的な単独行動が始まった。

 

 顔合わせ以降も、公私のどちらにおいても、しばしばミレニアムへ足を運んでいたセンジョウにとって、ミレニアムはキヴォトス第2の拠点──勿論1番はシャーレ──とも呼べる場所になっており、購買を初めとした様々な施設の場所はしっかりと把握できていた。

 

 先生も、それを知っていたからセンジョウの単身赴任(?)先をミレニアムに選んだのだろう。

 

 

 

「というわけで、今日からしばらく出向で手伝いに来たぞ」

「……で?歓迎でもしてほしいの?」

 

 セミナーの執務室を訪れたセンジョウを出迎えたのは、『ザ!不機嫌!』と言った表情のユウカだった。

 

──センジョウとユウカの仲は、特段悪いという訳ではない。むしろ、良いか悪いかの二択で言うならば、間違いなく『良い』と言えるだろう。

 

 だがそれは、友好的、という意味ではない。

 

 ……先生に淡い恋心を寄せるユウカは、あわよくばその心を射止めんと、度々、健気なアプローチや、献身的な態度を先生へと向けている。

 そんなユウカの姿を見かける度に、センジョウが呆れたように冷めた視線を送り、それに気づいたユウカが怒る。

 

 既に何度も繰り返したやり取りである。

 

 ……先生に強く憧れ、慕うセンジョウは、いち早く自分も肩を並べんと研鑽をし、自信の長所を誇示し、先生からの評価と信頼を獲得しようとしている。

 そんなセンジョウの姿を見かける度に、ユウカは呆れたように彼の未熟を指摘し、否定をしきれないセンジョウが怒る。

 

 こちらも、何度も繰り返したやり取りである。

 

 

 まあその、なんと言うべきか。彼らは互いの事をよく見ていた。

 

 だから、互いの不自然や、違和を指摘し、正しく、意見をぶつけてくる。

 それらが彼らが意識的に行っていることかと言えば、間違いなくNO、だろう。……二人は、互いの実力を確かに認めている。認めているから、認めたくないのだ。

 

 負けた気がするから。

 

「なるほどなるほど、天下のミレニアムの礼儀ってのは、ゲストを顎で使うのが常識って訳か」

「あら?自分がゲストだとでも思ってるの?せいぜい出前の奉公人位じゃない?」

「…………」

「…………」

 

 バチバチと火花を散らす二人の様子を見ていたノアは、思わず笑みを溢す。

 

「そこまでにしましょう、二人とも。私達にはまだまだ沢山のお仕事がありますから」

「……そうね」

「……邪魔をしに来た訳じゃない」

 

 冷静さを失っていた自覚があるのか、言い訳じみた言葉を漏らすセンジョウ。しかし、ユウカもそこをからかうことはしない。……自分だって、少しムキになっていた自覚があるのだから。

 

 ノアは、先生の前で舞い上がり、あわてふためくユウカを見るのと同じくらい、センジョウとなんだかんだと言い合うユウカを眺めている時間が好きだった。

 

 ユウカが怒る瞬間、と言うだけなら、ゲーム開発部のモモイ辺りを相手にしている瞬間でも事足りる。だが、ユウカのセンジョウに対する態度は、それらとは種類が違うように、ノアには見えていた。

 

 いつの間にか隣のデスクに腰掛け、センジョウはマネジメント、ユウカは計算と、手慣れた様子で互いの資料を適宜交換し、時に意見を交わし、疑問を共有化し、解決の糸口を探す。

 シャーレで培われた阿吽の連携は、ユウカをよく知る彼女から見ても素晴らしいものだった。

 ……ほんのすこし、センジョウに嫉妬してしまうぐらいには。

 

 しかし、ノア自身もセミナーの一員である。二人だけで全ての仕事をこなす事は不可能だろうし、何より彼は、ミレニアムの事情には明るくはない。

 

「ノア、力を貸して~」

 

 ほら、困った様子で私の名前を呼ぶんですから。……少し満足そうに、そんなことを考えて、ノアは返事を返す。

 

「どうかしたんですか、ユウカちゃん?」

 

 

 

 

 

 3人が黙々と仕事を進め、日が傾く頃には、その日の業務は終わりが見え始めていた。

 

「はぁ……」

 

 疲労感からか、ユウカは軽く伸びをしつつ、ため息を漏らす。

 横では、センジョウが目頭を揉んでいた。

 

「どうしてこうも数字が多い書類ばっかりなんだ……目が疲れる」

「ウチの部活って、何かしらの研究とか、モノ造りやってることが殆どだから、単なる部費の問題じゃなくて、修繕費とか、ランニングコスト、プロモーション評価の別途申請とか……とにかく、何かとお金が絡むのよ」

「なるほど……そりゃノアの書記としての能力が重宝されるわけだ……」

「私の力は、ユウカちゃんの計算ありきですから、セミナーにはユウカちゃんの頑張りがとっても大事なんです」

 

 ハードな業務をこなしていたのは変わらない筈のノアは、にこやかな笑みを崩さないまま、そんなことを返す。

 

「頼られてんな」

「適材適所は仕事の基本でしょ……とは言え、普段はアンタ程の視野を持ったサポーターがいないから、もう少し確認とかに手間取ってるのよね……」

「とかなんとか言いつつ、本当は『どうせなら先生がよかったのに』とか思ってるんだろ?」

 

 パサリ。と最後の書類をユウカに渡しつつ、疲れた笑いを見せるセンジョウ。いつものからかいのようにも見えるが。疲れのせいか、なんだかいつもと少し意味が違って聞こえていた。

 

「……ノーコメント」

 

 答える気力もないのか、ユウカも疲れた声で書類を受け取ると、『話はここでおしまい』。と言わんばかりの勢いで。

 

 ドン。

 

 と、最後の判子を押した。

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 仕事を終えた3人は、その日はそのまま解散となり、それぞれの帰るべき場所へと歩きだした。

 

 座りっぱなしで固くなった体を、柔軟で軽くほぐしつつ、夜のミレニアムを歩くセンジョウは、疲労でぼんやりとした頭のまま、道を歩く。

 

 ……ふと、目に入った自販機は、誰もいない夜道で、こうこうと光を漏らし、ぼんやりと浮かび上がるようにそこに設置されていた。

 なんとなく、気になったように吸い寄せられたセンジョウは、そのままふらふらと自販機の前に立つ。

 

「……エナドリしかねぇ」

 

 陳列されているのは、1から10まで全てがエナジードリンクで、この学園の生徒がいかにカフェイン中毒に侵されているのかがよくわかる光景だった。

 

 しかし、飲み物を考えていると、すこし、喉が乾いた気がして、センジョウはつられるままに、並べられたウチの一つを購入する。

 

 ガコン。ウィーン。

 

 無機質な音が暗がりに響き、排出されたそれを手に取る。ひんやりと冷やされた缶が、心地よかった。

 

 

「……そういや、久しぶりに飲むな」

 

 別に、健康意識が高い訳でも、エナドリの味が嫌いなわけでもない。

 センジョウだって、エナドリを浴びるように飲んでいた時期はある。

 

「……歩こ」

 

 予定を変更し、少しばかり、夜の町を歩く事にしたセンジョウは、エナドリの缶を開けて、一口それを飲む。

 

 ドロリとした甘さと、刺激的な炭酸、体に悪そうな味がした。

 

 

 

 ……センジョウがエナドリを好んで飲んでいたのは、今から3年ほど前の話だ。

 『とある事』を切っ掛けに、センジョウはそれまで漠然としていた『将来』を強く思うこととなり、その理想にたどり着くため、がむしゃらに勉学に励んでいた。

 

 ちょうどその時も、今と同じように一人で過ごしていた。

 

 

 

 道を白く照らす街灯の下を潜り、坂を上りながら、センジョウは一人感傷に浸る。

 

 

 

 別に、寂しかったと思ったことはない。別に、不幸を嘆いたこともない。別に、どうしようもないほど、憤っていた訳でもない。

 

 

 ただ、……母親代わりで、義理の母だった姉が死んだ。それだけだ。

 

 

 救えなかった。救えるわけがなかった。

 

 

 元々、姉は身体が普通より、すこしばかり弱くって、度々風邪を拗らせていた。その時は、偶然他よりひどくって、運が悪かった。

 

 子供ながらに、力無く、細く、弱々しくなっていく姉の……母の姿をみて、何ができるのか。本気で考えた。

 

 

 

 

 いくばくか急な階段を上り、辺りの中でもっとも高い場所へと向かう。

 

 

 

 

 どうすれば、自分の大事な人に笑って貰えるだろうか。

 

 ……幼い日の兄貴分だった彼は、姉と親しくなり、俺の父となった。

 

 嬉しかった。血が繋がっていなくとも、俺達3人は本当の家族に成れたんだと。心のそこから思えた。

 

 だから、誓った。

 

 

 俺を一人にしないために頑張ってくれた彼を。母が支えていた彼を。同じ血の流れる自分が支えていこうと。

 

 

 本当の父も、母も。偽りの母も、本当の姉も失った俺には、もうそれしか残っていない。

 

 

 誇りを、夢を、願いを。俺が、繋げていく。

 

 

 

 

 人は、願いを託し、託されて生きる生き物だから。

 

 

 ……次の『若者(みらい)』に、より良い世界を託すために。

 

 そんな理想を、共に掲げるために。

 

 

 

 センジョウは、眼下に広がる、暗闇のなかに煌めく、人工的な輝きのを眺めながら。エナドリをあおる。

 

 

 

 …………町の明かりのせいか、星は一つも見えなかった。





それは、誰の祈り
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