青空DAYS   作:Ziz555

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リーベラ・XXX・フロム・ヘル(1)

「……あれ、が。別時間軸の、私」

 

 センジョウから話を聞いて、その存在を聞いていたユウカだったが、実物を見れば────その違和感たるや、口で言い表せるものではなかった。

 

 服装、表情、武器に至るまで、そのどれもが異なっているのだから、ほとんど他人の様なものなのに。なぜかそれが『早瀬ユウカ』であると、どこか理解してしまう。

 

 そして、その存在が証明することは。

 

「……あなた達は、別の世界の、別の時間軸の『私達』なのね」

 

 ユウカの問いに、黒い服の『A.R.O.N.A』が静かに頷く。

 

「一部肯定。彼女は確かに別時間軸の『早瀬ユウカ』であり、私は『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOSの『A.R.O.N.A』です」

 

 そして、『A.R.O.N.A』はその後、こちらの世界の『先生』の姿を見た。

 

「────回答。それはここが『状態の共存』を維持している『アトラ・ハシースの箱舟』の内部であるためです。……この、『ナラム・シンの玉座』は、次元、時間、実在の有無が確定されずに混ざり合う混沌の領域」

「そして、こちらの『A.R.O.N.A』には、留まるべき『教室』がない。けれど、この空間を『Nuill-Vana』を介して『キョウカ先生』が定義することで此処に実在させられているのよ」

 

 此処に居ない誰かの問いに答えるように、二人は言葉を返す。

 

「……誰と話しているのか。という顔ね。……私たちは今、あなた達の先生の持つ『アロナ』と会話をしていたのよ」

『アロナ……。私のような存在が、先生にもいるんですね』

 

 ナルの言葉に、『早瀬ユウカ』とA.R.O.N.Aが不審そうな顔をする。

 

「────私たちからすれば。貴方こそ不可解な存在なのだけれどね」

『……私が、ですか?』

「ええ。そうよ。私達の知る限り、『Nuill-Vana』に自立型のAIなど存在しない。……シッテムの箱におけるA.R.O.N.Aの様な存在であることは、これまでのやり取りの中で推測はつくわ。…………けれど、どういう経緯で誕生したのか、どういう経緯で此処に居るのか。その理由は皆目見当もつかない」

 

 もっとも。とユウカは続ける。

 

「これから終わりを迎えるあなた達の要素の一つでしかない以上。追及する意味も、その要因を分解して解析する必要もない」

「『早瀬ユウカ』の言葉に同意します。……私はあくまで、『シッテムの箱』の所有者であるキョウカ先生を助け、サポートするだけの存在」

 

 A.R.O.N.Aの言葉に、男は、震える声で問いかける。

 

「────シッテムの箱の所有者が、『先生』が……『プレナパテス』だというなら、どうして、『キョウカ』の名前が、出るんだ……?」

 

 『早瀬ユウカ』も、『アロナ』も、この場にいるのは、『別時間軸の同一存在』のはずだ。

 なら、なぜ、その所有者が。彼女たちの『先生』は、『自分』では、ないのか。

 

「────一部肯定。確かに、彼女は連邦捜査部『シャーレ』の顧問です。しかし」

 

 

 

「貴方は……『蒼井キョウヤ』は、我々の時間軸では、『先生』が赴任するよりずっと以前に。死亡しています」

 

 

 

「……俺が、赴任前に、死亡、してる…………!?」

 

 

 A.R.O.N.Aの言葉に、男──『蒼井キョウヤ』は、大きく動揺した。

 

「ええ。私達の世界では、『蒼井キョウヤ』を失った『蒼井キョウカ』が『先生』としてキヴォトスへと赴任してきた。……そして、『プレナパテス』も、既に死んでいるわ」

 

 『早瀬ユウカ』が、追い打ちをかけるように事実を告げる。

 

「────先生を殺したのは、私だから」

「私が、先生を……?」

「ええ。先生を殺したのは、『あなた(わたし)』よ。……結果として、先生は『色彩の嚮導者』になった。……おそらく、『色彩』の影響でね」

 

「────待てよ」

 

 とうとうと言葉を語る『早瀬ユウカ』に、センジョウは真剣な表情で割り込んだ。

 

「俺は。俺はどうなったんだ」

 

────そう。彼女たちの話には、『蒼井センジョウ』だけが、出てきていない。

 もし、もし、ユウカが自分の家族を殺そうとしたなら、『蒼井センジョウ』が、それを止めない筈はない。

 

「貴方の話は、もう言ったでしょう?」

 

 そんな彼に、少女は昏い視線を向ける。

 

「私たちの知る貴方は。全部を捨てて、どこかへ消えた。……キヴォトスも、生徒も、先生も」

 

 

「────私の事も」

 

 

「……どうして、俺が……?」

「さあ。知らないし、分かりたくもない。……分かったところで、何も変わらないもの」

 

 『早瀬ユウカ』は、冷めた瞳でその場にいるすべてを見つめて。宣言する。

 

「ここで終わりにするのが。『私たちの使命』なのよ」

 

 その言葉に呼応するように、『Nuill-Vana Period』が再び蒼く輝き始める。

 

 その場にいる全員が、明かされた真実に戸惑い、混乱と動揺に、判断が鈍る。

 それは、仕方の無いことかもしれない。……信じていたものが打ち崩される否定。『死んだ筈の人』が、死体のまま、自らに敵対する衝撃。そのいずれもが、想像を遥かに越えた出来事だった。

 

 

 それでも。『彼女』は、迷わない。

 

 

『────お父さんッ!!迷うのも考えるのも、後悔するのも、後でできます!!!!』

 

 

 

 ナルの言葉に、その場にいた全員が『Naill-Vana』へ視線を向ける。

 

『まだです!まだ、お父さんの『望んだ未来』は、ここにはありません!だから!立ち止まっている場合ではありませんッ!!』

 

『私は、私は。たくさんの人たちの姿を見て、皆さんの抗い、生きる姿を見て、願いを託し、他者を思う姿を見て、その『心』を学びました!だから、これまで皆さんが言ってきた言葉を……あえて!私はここで皆さんに贈ります────』

 

 

 

 

『────諦めないで!!』

 

 

 

 ……ナルの、必死な。心からのその言葉に、センジョウは笑みを浮かべる。

 

「……子供にこういわれちゃ、親としては、格好つけないわけにはいかないよな?」

「そうね。ナルの言う通り、まだ諦めるわけには……って、ナル。もしかして……」

『あっ。はい!お父さんにお父さんって認めてもらえました!』

「ん?んん??センジョウ???お父さん今ちょっとスルーできない単語が聞こえたんだけど????」

「あー!あー!!俺は今そんな話してる場合じゃないと思うなーーーーッ!!!!」

 

 動揺と混乱に覆われていた、全員の雰囲気が変わる。

 

「……引っかかるところはあったけど」

 

 そうして、キョウヤはパシン!と自分の頬を両手でたたく。

 

「"格好つけなきゃってのは、概ね同意見だしね……!"」

「そういうことだ。……いけるな?ナル、ユウカ」

『はい!もちろんです!』

「そうね。私も一緒に戦うわ」

 

 それぞれは、それぞれの武器を手に、己の『運命』と対峙する。

 

「……私は。貴方達に同情するわ」

 

 そんな、『希望』に満ちた彼らの姿に、『早瀬ユウカ』は、哀れみの視線を向ける。

 

「希望を持つから、絶望までの絶対値は大きくなる。……何も知らずに、絶望の泥の中で眠っていれば、大切な人を失う苦しみを、知らずに済んだのに……『A.R.O.N.A』」

「はい。……多次元解釈演算、加速開始」

 

 

 

 

「『サンクトゥム』、顕現します」

 

 

 

 


 

 

 

「シュウコさん!大変です!!」

 

 地上、シャーレビルの執務室。『先生』の机に座っている『柳木シュウコ』の元に、一人の生徒が駆け込んできた。

 ……本来出撃予定のなかったセンジョウが抜けた穴を、なし崩し的に埋めることとなったシュウコは現在、空で戦う彼らの為に、キヴォトス地上を守る、『シャーレの先生代行』の席に着いていた。

 

「落ち着いて、まずは報告を」

「そ、それが……!」

 

 空が再び赤くなって、とたんに生徒達が混乱を始めた中の報告に、シュウコの頭に嫌な考えがよぎる。

 

 そして。

 

「────虚妄のサンクトゥムの、目撃情報があります……!!」

 

 それは、現実となった。

 

「──まずは現状の整理です!目撃情報を纏めてください。パターンを考えるのであれば、今回も6本の柱がある筈です!場所の特定、急いで!」

「は、はい!」

 

 一瞬の思考の後、シュウコは即座に指示を出し、そして、通信回線へと手を掛ける。

 

「──空崎さん、聞こえますか」

『聞こえているわ。何かあったのね』

「単刀直入に言います。『虚妄のサンクトゥム』が再出現しています」

『先生達は、苦戦しているみたいね』

「…………その、様です」

 

 ヒナの言葉に、最悪の展開が頭をよぎる。

 そんな彼女に、ヒナは言葉を投げ掛ける。

 

『貴方も知っているんでしょう。『センジョウ先生』の事』

「それは……」

『今回は随分時間がかかってるみたいだけれど。……前に進むと決めた彼がいて。そんな彼を後ろから支える『先生』までいるのよ。心配する必要はないわ。……私達がするべきなのは、私達のなすべき仕事を終わらせること』

 

 彼女は淡々と、けれど、冷酷からは程遠い声で続ける。

 

『帰ってきたあの人達に、仕事を増やしたこと、追求できるように纏めておきましょう?』

「…………」

 

 堂々としたその振る舞いに、シュウコは頬を緩める。……彼女の、言う通りだった。

 

「……解りました。残業時間の計上はお任せください。ティーパーティーでも似たようなことはありましたので」

『ふふ。頼りになるわね。貴方、ゲヘナの風紀委員会に興味はない?』

「ティーパーティーからの引き抜きですか?それ、政治問題になりますよ」

『『エデン再建の一歩』と言って頂戴。……こちらも『虚妄のサンクトゥム』の捜索に入るわ、後はよろしく』

「はい。……こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 その言葉を最後に、シュウコは通信を終えた。

 

 キヴォトスにいる、『みんな』が、戦っていた。

 

 

 


 

 

 

「───誰の許しを得て、こんなところにテメェの領土を主張してやがる」

 

「気に入らねぇな。ここはオレの『国獲り』の獲物だぜ」

 

「その無駄に立派な錦の御旗を建てたけりゃ────」

 

 

 

 

 ドッバゴォォォンン!!

 

 

 

 

「────オレを、『殺して』からにしな」

 

 

 


 

 

 

 キョウヤが、『シッテムの箱』を手に取った。

 

「"センジョウ、ユウカ。……あと、ナル、ちゃん?"」

『はい!ナルであってます!』

「"うん、ここは戦うよ。みんなと一緒に乗り越えよう"」

『……はい!よろしくお願いします!おじいちゃん!』

「"お、おじいちゃんかぁ……!"」

 

 ナルがセンジョウの娘だとするなら、確かにキョウヤはナルにとっての『祖父(おじいちゃん)』なのかもしれないが、まだそう言われるには若いキョウヤにとって、その言葉は心に来るものがあった。

 

 

 そんな一方で、センジョウとユウカは肩を並べ、武器を構える。

 

「ねえ。センジョウ。……すこし、あの時に似てない?」

 

 ユウカが、ふとそんなことを口走る。

 

「……ああ。そうかもな」

 

 彼女が何を言いたいのか、センジョウはすぐにわかった。

 強大な壁。肩を並べる自分とユウカと、仲間達。

 

 それは──彼が、初めてユウカと共に肩を並べて戦った、『無貌の怪物(ヒエロニムス)』との戦いと、どこか似ていた。

 

 

「なら────貴方は、この戦いの勝率、どう計算する?」

 

 そして、ユウカは。あの日自分に出された『問題』を、彼に返す。

 

 センジョウは、そんなユウカの問いに、ニヤリと笑みを浮かべて、ユウカの顔をみた。

 

「俺とユウカにナル。加えて、『先生(オヤジ)』までいるんだ。計算するまでもない」

 

 

 

 

 

「1000%だ」

 

 

 

 

───最終決戦の、幕が上がる。

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